2015-05-08
【英国】総選挙で労働党が予想外の差で敗退
7日、英国で庶民院(下院、定数650・小選挙区制)の総選挙が行われた。開票作業はまだ終了していないが、保守党と労働党(社会主義インター加盟・進歩同盟中核政党)が激しい競り合いを演じており選挙後の連立政権の組み合わせも不透明とされてきた事前の予測に反して保守党が明瞭に勝利、キャメロン首相の続投を確実にした。労働党のミリバンド党首は開票が全終了していない段階で敗北を認めた。
キャメロン首相(中央)と保守党の選挙運動
保守党と労働党はこれまで支持率で拮抗しており、小選挙区制のため各選挙区での結果に直接は反映されないものの、各選挙区に落とした事前予測でも数議席差の接戦が予測されていた。しかし今回は全国政党ではない地域政党のスコットランド国民党が昨年のスコットランド独立を問う住民投票で善戦したことの勢いをかって大躍進を遂げ、伝統的にスコットランドを地盤にしてきた労働党の議席を次々と奪取、議席を10倍近くに増やしてスコットランド割り当ての59議席の9割以上を獲得する小選挙区制らしい勢いをみせた。スコットランド国民党も経済政策では労働党と同様に民主社会主義を掲げており、その点でも労働党と競合し、さらにスコットランドにおいて各小選挙区で競り勝ち総体として圧勝することとなった。なおスコットランド国民党のスタージョン党首は(独立後は国会となる見通しの)スコットランド議会の議員であり、庶民院議員ではなく今回も自身は立候補していない。
スタージョン党首を前面に押し出すスコットランド国民党のネット選挙運動
いっぽう保守党は労働党とスコットランド国民党の経済政策が似ていることから選挙後にスコットランド国民党がキャスティング・ボートを握って労働党と連立を組み、結果としてスコットランド独立に結びつき、連合王国としての英国が分裂する可能性を突いてイングランドの保守派有権者の危機感に訴える作戦に出た。さらにスコットランドの労働者票を労働党とスコットランド国民党が奪い合うのを横目に、保守党こそ労働者の生活を向上させるとばかりにマニフェストで100万戸以上の住宅購入補助、最低賃金状態の労働者の所得税免除などの貧困対策を掲げ、経済成長・景気回復の恩恵を富裕層だけでなく中間・勤労者・低所得者にもたらすとして、キャメロン政権の緊縮財政・福祉削減イメージを変えようと懸命になった。こうした選挙戦終盤の追い込みが、イングランドの激戦区において次々と労働党から議席を奪う要因になったとみられる。労働党は財政赤字解消策として富裕層増税や最低賃金そのものの引き上げを掲げ、ブレア・ブラウン元前政権時代の中間層・中産階級寄り、中道寄りのイメージから経済左派・労働者保護・労働組合寄りの路線を鮮明にしたが、財界からの投資が逃げるとの批判を招いた。選挙結果をみる限り、ミリバンド路線はイングランドを中心に支持拡大・新規支持者獲得にはつながりにくかった。
他の地域ではウェールズは労働党の地盤であり今回も都市部を中心に次々と選挙区を制したが、保守党も過去あまりみられなかった好成績をあげた。ウェールズの地域政党プライド・カムリはスコットランド国民党の支援もあったが横ばいに終わった。北アイルランドは従来どおり地域政党が分け合ったが、穏健保守のアルスター統一党が議席を回復させた。
労働党の多彩な選挙運動
欧州連合(EU)との距離の取り方も争点となった。親EUの姿勢は労働党および与党第2党だった中道リベラルの自由民主党においては明らかなうえ、スコットランド国民党も独立したうえでのEU加盟を求めているなか、保守党はEU加盟継続の是非についてEUと基本条約について交渉するタフな姿勢をみせ、交渉結果次第では国民投票も辞さない、いわば「ソフトな欧州(EU)懐疑主義」の路線をとった。これにより近年、EU脱退などハードな欧州懐疑主義を掲げて支持を急伸させてきた右派ポピュリストの英国独立党に向かっていた保守派の国家主権やスターリング・ポンドにこだわる意見を一定程度とり戻すことに成功した模様だ。ただ、この取り戻しは小選挙区の特性によるところも大きく、主に抗議票的に死票となることが確実な独立党票の一部を保守党が奪い返すことで激戦区の票を上積みし、労働党との接戦を制するためのゲーム理論的な方策にたった戦術とみることもできる。
いずれにせよ保守党中軸の政権となりキャメロン首相が留任することは確実だが、これまで英国下院に欠席戦術を採ってきたシン・フェインの議席を差し引いても324議席が事実上の過半数になるとみられるなか、保守党が単独でこの議席に到達するかは微妙で、届いた場合にもわずかな議員の造反や補欠選挙での敗退で過半数を失う可能性が高い。この状況のなか、連立政権か閣外協力かは未確定ながら、自由民主党との協力を続けるか、北アイルランドの保守強硬派・民主統一党との協力に切り替えるか、その都度の政策・法案によって提携相手を切り替える「部分連合」を模索するか、キャメロン首相には綱渡りの政策運営が強いられることになる。また100議席近い予想外の差をつけられ敗退した労働党のミリバンド党首、およびぎりぎりで接戦を制し議席を保持した自由民主党のクレッグ党首の今後の去就も注目される。
投票率は66%弱だった。この数字が高いか低いかは議論が分かれるところである。
敗退した労働党のミリバンド党首と夫人(投票日当日のツイートより)
労働党 公式サイト(英語)
http://www.labour.org.uk/
#各党の獲得議席は確定後にお知らせします。BBCによれば記事執筆時点で保守党321、労働党228、スコットランド国民党56、自由民主党および民主統一党各8、などです。
キャメロン首相(中央)と保守党の選挙運動
保守党と労働党はこれまで支持率で拮抗しており、小選挙区制のため各選挙区での結果に直接は反映されないものの、各選挙区に落とした事前予測でも数議席差の接戦が予測されていた。しかし今回は全国政党ではない地域政党のスコットランド国民党が昨年のスコットランド独立を問う住民投票で善戦したことの勢いをかって大躍進を遂げ、伝統的にスコットランドを地盤にしてきた労働党の議席を次々と奪取、議席を10倍近くに増やしてスコットランド割り当ての59議席の9割以上を獲得する小選挙区制らしい勢いをみせた。スコットランド国民党も経済政策では労働党と同様に民主社会主義を掲げており、その点でも労働党と競合し、さらにスコットランドにおいて各小選挙区で競り勝ち総体として圧勝することとなった。なおスコットランド国民党のスタージョン党首は(独立後は国会となる見通しの)スコットランド議会の議員であり、庶民院議員ではなく今回も自身は立候補していない。
スタージョン党首を前面に押し出すスコットランド国民党のネット選挙運動
いっぽう保守党は労働党とスコットランド国民党の経済政策が似ていることから選挙後にスコットランド国民党がキャスティング・ボートを握って労働党と連立を組み、結果としてスコットランド独立に結びつき、連合王国としての英国が分裂する可能性を突いてイングランドの保守派有権者の危機感に訴える作戦に出た。さらにスコットランドの労働者票を労働党とスコットランド国民党が奪い合うのを横目に、保守党こそ労働者の生活を向上させるとばかりにマニフェストで100万戸以上の住宅購入補助、最低賃金状態の労働者の所得税免除などの貧困対策を掲げ、経済成長・景気回復の恩恵を富裕層だけでなく中間・勤労者・低所得者にもたらすとして、キャメロン政権の緊縮財政・福祉削減イメージを変えようと懸命になった。こうした選挙戦終盤の追い込みが、イングランドの激戦区において次々と労働党から議席を奪う要因になったとみられる。労働党は財政赤字解消策として富裕層増税や最低賃金そのものの引き上げを掲げ、ブレア・ブラウン元前政権時代の中間層・中産階級寄り、中道寄りのイメージから経済左派・労働者保護・労働組合寄りの路線を鮮明にしたが、財界からの投資が逃げるとの批判を招いた。選挙結果をみる限り、ミリバンド路線はイングランドを中心に支持拡大・新規支持者獲得にはつながりにくかった。
他の地域ではウェールズは労働党の地盤であり今回も都市部を中心に次々と選挙区を制したが、保守党も過去あまりみられなかった好成績をあげた。ウェールズの地域政党プライド・カムリはスコットランド国民党の支援もあったが横ばいに終わった。北アイルランドは従来どおり地域政党が分け合ったが、穏健保守のアルスター統一党が議席を回復させた。
労働党の多彩な選挙運動
欧州連合(EU)との距離の取り方も争点となった。親EUの姿勢は労働党および与党第2党だった中道リベラルの自由民主党においては明らかなうえ、スコットランド国民党も独立したうえでのEU加盟を求めているなか、保守党はEU加盟継続の是非についてEUと基本条約について交渉するタフな姿勢をみせ、交渉結果次第では国民投票も辞さない、いわば「ソフトな欧州(EU)懐疑主義」の路線をとった。これにより近年、EU脱退などハードな欧州懐疑主義を掲げて支持を急伸させてきた右派ポピュリストの英国独立党に向かっていた保守派の国家主権やスターリング・ポンドにこだわる意見を一定程度とり戻すことに成功した模様だ。ただ、この取り戻しは小選挙区の特性によるところも大きく、主に抗議票的に死票となることが確実な独立党票の一部を保守党が奪い返すことで激戦区の票を上積みし、労働党との接戦を制するためのゲーム理論的な方策にたった戦術とみることもできる。
いずれにせよ保守党中軸の政権となりキャメロン首相が留任することは確実だが、これまで英国下院に欠席戦術を採ってきたシン・フェインの議席を差し引いても324議席が事実上の過半数になるとみられるなか、保守党が単独でこの議席に到達するかは微妙で、届いた場合にもわずかな議員の造反や補欠選挙での敗退で過半数を失う可能性が高い。この状況のなか、連立政権か閣外協力かは未確定ながら、自由民主党との協力を続けるか、北アイルランドの保守強硬派・民主統一党との協力に切り替えるか、その都度の政策・法案によって提携相手を切り替える「部分連合」を模索するか、キャメロン首相には綱渡りの政策運営が強いられることになる。また100議席近い予想外の差をつけられ敗退した労働党のミリバンド党首、およびぎりぎりで接戦を制し議席を保持した自由民主党のクレッグ党首の今後の去就も注目される。
投票率は66%弱だった。この数字が高いか低いかは議論が分かれるところである。
敗退した労働党のミリバンド党首と夫人(投票日当日のツイートより)
労働党 公式サイト(英語)
http://www.labour.org.uk/
#各党の獲得議席は確定後にお知らせします。BBCによれば記事執筆時点で保守党321、労働党228、スコットランド国民党56、自由民主党および民主統一党各8、などです。
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