2015-05-26
【スペイン】統一地方選で社会労働者党、国民党とも苦戦
24日、スペインで統一地方選が行われ、17自治州中の13自治州、および8000以上の自治体で投票が行われた。その結果、ラホイ首相率いる中道保守の民衆党(PP、日本のメディアの多くは「国民党」と訳しているが、外務省は民衆党としている)および社会主義インター・進歩同盟加盟政党の社会労働者党(PSOE)の二大政党とも後退。反緊縮政策の左派新党ポデモス(PODEMOS)および中道右派市場寄り新党のシウダダノスが躍進する結果となった。スペインでは年内に上下両院の総選挙が予定されており、ラホイ政権には今回の結果は打撃となる。
シウダダノスは中道右派だが、政府寄り政党として既成勢力視されることを嫌い、野党路線を強めてPSOEおよびポデモスと組むとの観測もある。ただ今回は地方選挙であるため、自治州や自治体によってさまざまな提携が考えられ、一律にはかることは困難。しかしPPは6自治州で州政権の座から下野する見通しとの報道もある。
サンチェス社会労働者党書記長(右から2番目の白シャツの人物)。今回の地方選におけるバルセロナでの集会にて
社会労働者党 公式サイト(スペイン語)
http://www.psoe.es/
シウダダノスは中道右派だが、政府寄り政党として既成勢力視されることを嫌い、野党路線を強めてPSOEおよびポデモスと組むとの観測もある。ただ今回は地方選挙であるため、自治州や自治体によってさまざまな提携が考えられ、一律にはかることは困難。しかしPPは6自治州で州政権の座から下野する見通しとの報道もある。
サンチェス社会労働者党書記長(右から2番目の白シャツの人物)。今回の地方選におけるバルセロナでの集会にて
社会労働者党 公式サイト(スペイン語)
http://www.psoe.es/
2015-05-13
【ドイツ】ブレーメン州議選で社民党が第1党維持も後退
10日、ドイツ北部ブレーメン特別市(都市州で州と同格)で市議会議員選挙(定数83、比例代表制)が行われ、ベールンゼン第一市長(州首相と同格)の率いる社会民主党(SPD、社会主義インター加盟・進歩同盟中核政党)が第1党を維持したものの得票・議席とも減らした。また、これまで連立を組んできた緑の党(Grüne)も大きく後退、前回選挙でキリスト教民主同盟(CDU)を上回って獲得し注目された第2党の座を失った。加えて貧困問題を政策テーマの中心に掲げた左翼党(Linke)が伸ばしたほか、中道右派リベラルで親ビジネスの自由民主党(FDP、前回全議席を失っていた)が得票を大きく回復させ市議会復帰を果たし、さらに反ユーロ・欧州懐疑主義で注目されてきた新勢力「ドイツのための選択肢」(AfD、最近は厳しい移民政策など保守傾向を強めつつある)が初の市議会入り。ブレーマーハーフェンを基盤とする右派ポピュリストの「怒りの市民」(BIW)も議席をかろうじて維持した。結果としては左右を問わず各野党が伸ばすこととなった。
SPD、緑の党の両与党で過半数は維持したものの両党とも大きく後退したことを踏まえ、連立を組みかえるという観測もある。
ベールンゼン第一市長(州首相と同格)
ブレーメン特別市はドイツで一般的な小選挙区併用型比例代表制ではなく、非拘束名簿式比例代表制を採用している。しかもブレーメン特別市を構成する2自治体、ブレーメン市とブレーマーハーフェン市で別個に5%阻止条項を適用したうえ、有権者(連邦レベルと異なり16歳以上)が5票を有しその5票を1政党・候補者に集中させても、各党各候補者に分散させてもよい自由な制度となっている(なおブレーマーハーフェンには独自の議会があるが、ブレーメン市議会はブレーメン特別市(州)議会が兼ねている。このあたりは日本で昨今話題になっている自治体制度改革、統治制度改革と比較すると興味深い)。
バンドを動員した社会民主党の選挙運動
各党の獲得議席は次のとおり(カッコ内は前回比)。
社会民主党(SPD)30(-5)
キリスト教民主同盟(CDU)20(±0)
緑の党(Grüne)14(-7)
左翼党(Linke)8(+3)
自由民主党(FDP)6(+6)
ドイツのための選択肢(AfD)4(新党)
怒りの市民(BIW)1(-1)
社会民主党ブレーメン 公式サイト(ドイツ語)
http://www.spd-land-bremen.de/
SPD、緑の党の両与党で過半数は維持したものの両党とも大きく後退したことを踏まえ、連立を組みかえるという観測もある。
ベールンゼン第一市長(州首相と同格)
ブレーメン特別市はドイツで一般的な小選挙区併用型比例代表制ではなく、非拘束名簿式比例代表制を採用している。しかもブレーメン特別市を構成する2自治体、ブレーメン市とブレーマーハーフェン市で別個に5%阻止条項を適用したうえ、有権者(連邦レベルと異なり16歳以上)が5票を有しその5票を1政党・候補者に集中させても、各党各候補者に分散させてもよい自由な制度となっている(なおブレーマーハーフェンには独自の議会があるが、ブレーメン市議会はブレーメン特別市(州)議会が兼ねている。このあたりは日本で昨今話題になっている自治体制度改革、統治制度改革と比較すると興味深い)。
バンドを動員した社会民主党の選挙運動
各党の獲得議席は次のとおり(カッコ内は前回比)。
社会民主党(SPD)30(-5)
キリスト教民主同盟(CDU)20(±0)
緑の党(Grüne)14(-7)
左翼党(Linke)8(+3)
自由民主党(FDP)6(+6)
ドイツのための選択肢(AfD)4(新党)
怒りの市民(BIW)1(-1)
社会民主党ブレーメン 公式サイト(ドイツ語)
http://www.spd-land-bremen.de/
2015-05-12
【ポーランド】大統領選で現職苦戦、社民系候補及ばず
10日、ポーランドで大統領選挙の第1回投票が行われ、現職で保守リベラル・市民プラットフォーム(PO)が推すコモロフスキ大統領が2位にとどまった。1位となったのは野党で欧州懐疑色がある保守強硬派の「法と正義」(PiS)が推すドゥダ候補で、英国に続いて欧州連合(EU)に懐疑的な民意が浮き彫りになった。なお「法と正義」は欧州議会では保守の主流である欧州人民党に所属せず、英国保守党と会派を組んでいる。
コモロフスキ大統領(「市民プラットフォーム」が推す)
3位にはロック歌手で低シレジア地域議会議員のクキス候補が善戦し入った。民主左翼同盟(SLD、社会主義インター・進歩同盟加盟政党)が推薦するオゴレク候補は5位にとどまった。
コモロフスキ大統領(「市民プラットフォーム」が推す)
3位にはロック歌手で低シレジア地域議会議員のクキス候補が善戦し入った。民主左翼同盟(SLD、社会主義インター・進歩同盟加盟政党)が推薦するオゴレク候補は5位にとどまった。
2015-05-09
【英国】総選挙続報・保守党が過半数獲得、ミリバンド労働党首辞任
7日に行われた英国庶民院(下院)総選挙は現地時間の翌昼までに結果が確定、キャメロン首相率いる保守党が出口調査・開票開始時にもほとんど予測がなかった過半数を獲得、連立の解消と単独政権の樹立を確実にした。英国では総選挙後に1度首相を辞任する日本のような憲法法規は存在しないため、キャメロン首相がそのまま留任・続投する形になる。
100議席近い予想外の大差をつけられた労働党(社会主義インター加盟・進歩同盟中核政党)のミリバンド党首は党首辞任を表明、議席を激減させひとケタ議席に終わった、これまでの与党第2党で中道リベラル・自由民主党のクレッグ党首(自身はぎりぎり当選)、欧州議会選で躍進しながら今回わずか1議席に終わった右派ポピュリスト・英国独立党のファラージ党首(自身も落選)もそれぞれ辞任。有力党首の辞任ドミノが相次いだ。
当てにならなかった世論調査の推移
今回の総選挙では既報のように、保守党はスコットランド国民党の躍進によって労働党政権が誕生した場合、結局はスコットランドの分離独立に追い込まれ、連合王国としての英国は分裂すると危機感をイングランドを中心に煽る作戦にでた。ミリバンド党首と労働党もスコットランド国民党とは組まないとしていたが、逆にスコットランド国民党は「反緊縮・福祉重視」「大きな政府」など経済政策が似かよる労働党に一方的に秋波を送り、保守・労働いずれの政党も過半数を取れない「ハング・パーラメント」(宙吊り議会)となった場合の労働党への支援を公然と唱えるなど、英国分裂に危機感をおぼえる主権派・保守派の有権者の警戒感を解くにはまったく至らなかった。ミリバンド党首もそうした保守党のネガティヴ・キャンペーンに説得力ある対策を打ち出すことができず、『ガーディアン』紙によれば学者のような、中途半端なメッセージに終始した。繰り返すが、皮肉にもスコットランド国民党の予想通りの躍進とスタージョン党首の率直なメッセージがイングランド有権者の危機感を煽ってしまい、英国に分裂の溝をもたらしてしまったことになる。
いずれにせよ英国の有権者は中途半端ではなく、力強く説得力のある選挙運動を展開したキャメロン保守党党首(首相)、スタージョン・スコットランド国民党党首(スコットランド首相)の両者に支持を寄せたことになる。逆にメッセージが弱々しいと有権者が評価したミリバンド労働党党首、クレッグ自由民主党党首(副首相)は沈み、ファラージ独立党党首に至っては自身の当選すらおぼつかなかった。今後、労働党が支持を回復させるには仇敵というべきスコットランド国民党やスタージョン党首から学ぶものが大きいといえよう。また英国独立党票を一定ていど取り込んだキャメロン首相と保守党の勝利によって欧州連合(EU)との距離感も微妙に広がることが予想される。すでに英国の経済・金融はアジア・アフリカに軸足を移しつつあるとする観測もある。
なお小選挙区制の特性により、スコットランドのみで候補者を擁立し域内で圧勝したスコットランド国民党は得票率では4.7%、全国に候補者を擁立した英国独立党は12.6%を獲得しながら1議席に終わり、議席あたりの票差は約150倍に達した。この点から小選挙区制を問題視する意見も一部にみられるが、二大政党に慣れ「ハング・パーラメント」を嫌う英国では大勢にはなっていない。また同時にイングランド(大ロンドン以外)で地方選挙も行われたが、国政レベルと同様に保守党が伸ばした。
投票所の一例。教会やコミュニティセンターがよく利用される。
最終的な選挙結果は次のとおり(カッコ内は前回比)。
保守党 331(+24)
労働党 233(-26)
スコットランド国民党 56(+50)
自由民主党 8(-49)
民主統一党 8(±0)#北アイルランド保守強硬派
シン・フェイン 4(-1)#北アイルランド左翼強硬派
プライド・カムリ 3(±0)
社会民主労働党 3(±0)#北アイルランド穏健左派
アルスター統一党 2(+2)#北アイルランド保守穏健派
英国独立党 1(+1)
緑の党 1(±0)
100議席近い予想外の大差をつけられた労働党(社会主義インター加盟・進歩同盟中核政党)のミリバンド党首は党首辞任を表明、議席を激減させひとケタ議席に終わった、これまでの与党第2党で中道リベラル・自由民主党のクレッグ党首(自身はぎりぎり当選)、欧州議会選で躍進しながら今回わずか1議席に終わった右派ポピュリスト・英国独立党のファラージ党首(自身も落選)もそれぞれ辞任。有力党首の辞任ドミノが相次いだ。
当てにならなかった世論調査の推移
今回の総選挙では既報のように、保守党はスコットランド国民党の躍進によって労働党政権が誕生した場合、結局はスコットランドの分離独立に追い込まれ、連合王国としての英国は分裂すると危機感をイングランドを中心に煽る作戦にでた。ミリバンド党首と労働党もスコットランド国民党とは組まないとしていたが、逆にスコットランド国民党は「反緊縮・福祉重視」「大きな政府」など経済政策が似かよる労働党に一方的に秋波を送り、保守・労働いずれの政党も過半数を取れない「ハング・パーラメント」(宙吊り議会)となった場合の労働党への支援を公然と唱えるなど、英国分裂に危機感をおぼえる主権派・保守派の有権者の警戒感を解くにはまったく至らなかった。ミリバンド党首もそうした保守党のネガティヴ・キャンペーンに説得力ある対策を打ち出すことができず、『ガーディアン』紙によれば学者のような、中途半端なメッセージに終始した。繰り返すが、皮肉にもスコットランド国民党の予想通りの躍進とスタージョン党首の率直なメッセージがイングランド有権者の危機感を煽ってしまい、英国に分裂の溝をもたらしてしまったことになる。
いずれにせよ英国の有権者は中途半端ではなく、力強く説得力のある選挙運動を展開したキャメロン保守党党首(首相)、スタージョン・スコットランド国民党党首(スコットランド首相)の両者に支持を寄せたことになる。逆にメッセージが弱々しいと有権者が評価したミリバンド労働党党首、クレッグ自由民主党党首(副首相)は沈み、ファラージ独立党党首に至っては自身の当選すらおぼつかなかった。今後、労働党が支持を回復させるには仇敵というべきスコットランド国民党やスタージョン党首から学ぶものが大きいといえよう。また英国独立党票を一定ていど取り込んだキャメロン首相と保守党の勝利によって欧州連合(EU)との距離感も微妙に広がることが予想される。すでに英国の経済・金融はアジア・アフリカに軸足を移しつつあるとする観測もある。
なお小選挙区制の特性により、スコットランドのみで候補者を擁立し域内で圧勝したスコットランド国民党は得票率では4.7%、全国に候補者を擁立した英国独立党は12.6%を獲得しながら1議席に終わり、議席あたりの票差は約150倍に達した。この点から小選挙区制を問題視する意見も一部にみられるが、二大政党に慣れ「ハング・パーラメント」を嫌う英国では大勢にはなっていない。また同時にイングランド(大ロンドン以外)で地方選挙も行われたが、国政レベルと同様に保守党が伸ばした。
投票所の一例。教会やコミュニティセンターがよく利用される。
最終的な選挙結果は次のとおり(カッコ内は前回比)。
保守党 331(+24)
労働党 233(-26)
スコットランド国民党 56(+50)
自由民主党 8(-49)
民主統一党 8(±0)#北アイルランド保守強硬派
シン・フェイン 4(-1)#北アイルランド左翼強硬派
プライド・カムリ 3(±0)
社会民主労働党 3(±0)#北アイルランド穏健左派
アルスター統一党 2(+2)#北アイルランド保守穏健派
英国独立党 1(+1)
緑の党 1(±0)
2015-05-08
【英国】総選挙で労働党が予想外の差で敗退
7日、英国で庶民院(下院、定数650・小選挙区制)の総選挙が行われた。開票作業はまだ終了していないが、保守党と労働党(社会主義インター加盟・進歩同盟中核政党)が激しい競り合いを演じており選挙後の連立政権の組み合わせも不透明とされてきた事前の予測に反して保守党が明瞭に勝利、キャメロン首相の続投を確実にした。労働党のミリバンド党首は開票が全終了していない段階で敗北を認めた。
キャメロン首相(中央)と保守党の選挙運動
保守党と労働党はこれまで支持率で拮抗しており、小選挙区制のため各選挙区での結果に直接は反映されないものの、各選挙区に落とした事前予測でも数議席差の接戦が予測されていた。しかし今回は全国政党ではない地域政党のスコットランド国民党が昨年のスコットランド独立を問う住民投票で善戦したことの勢いをかって大躍進を遂げ、伝統的にスコットランドを地盤にしてきた労働党の議席を次々と奪取、議席を10倍近くに増やしてスコットランド割り当ての59議席の9割以上を獲得する小選挙区制らしい勢いをみせた。スコットランド国民党も経済政策では労働党と同様に民主社会主義を掲げており、その点でも労働党と競合し、さらにスコットランドにおいて各小選挙区で競り勝ち総体として圧勝することとなった。なおスコットランド国民党のスタージョン党首は(独立後は国会となる見通しの)スコットランド議会の議員であり、庶民院議員ではなく今回も自身は立候補していない。
スタージョン党首を前面に押し出すスコットランド国民党のネット選挙運動
いっぽう保守党は労働党とスコットランド国民党の経済政策が似ていることから選挙後にスコットランド国民党がキャスティング・ボートを握って労働党と連立を組み、結果としてスコットランド独立に結びつき、連合王国としての英国が分裂する可能性を突いてイングランドの保守派有権者の危機感に訴える作戦に出た。さらにスコットランドの労働者票を労働党とスコットランド国民党が奪い合うのを横目に、保守党こそ労働者の生活を向上させるとばかりにマニフェストで100万戸以上の住宅購入補助、最低賃金状態の労働者の所得税免除などの貧困対策を掲げ、経済成長・景気回復の恩恵を富裕層だけでなく中間・勤労者・低所得者にもたらすとして、キャメロン政権の緊縮財政・福祉削減イメージを変えようと懸命になった。こうした選挙戦終盤の追い込みが、イングランドの激戦区において次々と労働党から議席を奪う要因になったとみられる。労働党は財政赤字解消策として富裕層増税や最低賃金そのものの引き上げを掲げ、ブレア・ブラウン元前政権時代の中間層・中産階級寄り、中道寄りのイメージから経済左派・労働者保護・労働組合寄りの路線を鮮明にしたが、財界からの投資が逃げるとの批判を招いた。選挙結果をみる限り、ミリバンド路線はイングランドを中心に支持拡大・新規支持者獲得にはつながりにくかった。
他の地域ではウェールズは労働党の地盤であり今回も都市部を中心に次々と選挙区を制したが、保守党も過去あまりみられなかった好成績をあげた。ウェールズの地域政党プライド・カムリはスコットランド国民党の支援もあったが横ばいに終わった。北アイルランドは従来どおり地域政党が分け合ったが、穏健保守のアルスター統一党が議席を回復させた。
労働党の多彩な選挙運動
欧州連合(EU)との距離の取り方も争点となった。親EUの姿勢は労働党および与党第2党だった中道リベラルの自由民主党においては明らかなうえ、スコットランド国民党も独立したうえでのEU加盟を求めているなか、保守党はEU加盟継続の是非についてEUと基本条約について交渉するタフな姿勢をみせ、交渉結果次第では国民投票も辞さない、いわば「ソフトな欧州(EU)懐疑主義」の路線をとった。これにより近年、EU脱退などハードな欧州懐疑主義を掲げて支持を急伸させてきた右派ポピュリストの英国独立党に向かっていた保守派の国家主権やスターリング・ポンドにこだわる意見を一定程度とり戻すことに成功した模様だ。ただ、この取り戻しは小選挙区の特性によるところも大きく、主に抗議票的に死票となることが確実な独立党票の一部を保守党が奪い返すことで激戦区の票を上積みし、労働党との接戦を制するためのゲーム理論的な方策にたった戦術とみることもできる。
いずれにせよ保守党中軸の政権となりキャメロン首相が留任することは確実だが、これまで英国下院に欠席戦術を採ってきたシン・フェインの議席を差し引いても324議席が事実上の過半数になるとみられるなか、保守党が単独でこの議席に到達するかは微妙で、届いた場合にもわずかな議員の造反や補欠選挙での敗退で過半数を失う可能性が高い。この状況のなか、連立政権か閣外協力かは未確定ながら、自由民主党との協力を続けるか、北アイルランドの保守強硬派・民主統一党との協力に切り替えるか、その都度の政策・法案によって提携相手を切り替える「部分連合」を模索するか、キャメロン首相には綱渡りの政策運営が強いられることになる。また100議席近い予想外の差をつけられ敗退した労働党のミリバンド党首、およびぎりぎりで接戦を制し議席を保持した自由民主党のクレッグ党首の今後の去就も注目される。
投票率は66%弱だった。この数字が高いか低いかは議論が分かれるところである。
敗退した労働党のミリバンド党首と夫人(投票日当日のツイートより)
労働党 公式サイト(英語)
http://www.labour.org.uk/
#各党の獲得議席は確定後にお知らせします。BBCによれば記事執筆時点で保守党321、労働党228、スコットランド国民党56、自由民主党および民主統一党各8、などです。
キャメロン首相(中央)と保守党の選挙運動
保守党と労働党はこれまで支持率で拮抗しており、小選挙区制のため各選挙区での結果に直接は反映されないものの、各選挙区に落とした事前予測でも数議席差の接戦が予測されていた。しかし今回は全国政党ではない地域政党のスコットランド国民党が昨年のスコットランド独立を問う住民投票で善戦したことの勢いをかって大躍進を遂げ、伝統的にスコットランドを地盤にしてきた労働党の議席を次々と奪取、議席を10倍近くに増やしてスコットランド割り当ての59議席の9割以上を獲得する小選挙区制らしい勢いをみせた。スコットランド国民党も経済政策では労働党と同様に民主社会主義を掲げており、その点でも労働党と競合し、さらにスコットランドにおいて各小選挙区で競り勝ち総体として圧勝することとなった。なおスコットランド国民党のスタージョン党首は(独立後は国会となる見通しの)スコットランド議会の議員であり、庶民院議員ではなく今回も自身は立候補していない。
スタージョン党首を前面に押し出すスコットランド国民党のネット選挙運動
いっぽう保守党は労働党とスコットランド国民党の経済政策が似ていることから選挙後にスコットランド国民党がキャスティング・ボートを握って労働党と連立を組み、結果としてスコットランド独立に結びつき、連合王国としての英国が分裂する可能性を突いてイングランドの保守派有権者の危機感に訴える作戦に出た。さらにスコットランドの労働者票を労働党とスコットランド国民党が奪い合うのを横目に、保守党こそ労働者の生活を向上させるとばかりにマニフェストで100万戸以上の住宅購入補助、最低賃金状態の労働者の所得税免除などの貧困対策を掲げ、経済成長・景気回復の恩恵を富裕層だけでなく中間・勤労者・低所得者にもたらすとして、キャメロン政権の緊縮財政・福祉削減イメージを変えようと懸命になった。こうした選挙戦終盤の追い込みが、イングランドの激戦区において次々と労働党から議席を奪う要因になったとみられる。労働党は財政赤字解消策として富裕層増税や最低賃金そのものの引き上げを掲げ、ブレア・ブラウン元前政権時代の中間層・中産階級寄り、中道寄りのイメージから経済左派・労働者保護・労働組合寄りの路線を鮮明にしたが、財界からの投資が逃げるとの批判を招いた。選挙結果をみる限り、ミリバンド路線はイングランドを中心に支持拡大・新規支持者獲得にはつながりにくかった。
他の地域ではウェールズは労働党の地盤であり今回も都市部を中心に次々と選挙区を制したが、保守党も過去あまりみられなかった好成績をあげた。ウェールズの地域政党プライド・カムリはスコットランド国民党の支援もあったが横ばいに終わった。北アイルランドは従来どおり地域政党が分け合ったが、穏健保守のアルスター統一党が議席を回復させた。
労働党の多彩な選挙運動
欧州連合(EU)との距離の取り方も争点となった。親EUの姿勢は労働党および与党第2党だった中道リベラルの自由民主党においては明らかなうえ、スコットランド国民党も独立したうえでのEU加盟を求めているなか、保守党はEU加盟継続の是非についてEUと基本条約について交渉するタフな姿勢をみせ、交渉結果次第では国民投票も辞さない、いわば「ソフトな欧州(EU)懐疑主義」の路線をとった。これにより近年、EU脱退などハードな欧州懐疑主義を掲げて支持を急伸させてきた右派ポピュリストの英国独立党に向かっていた保守派の国家主権やスターリング・ポンドにこだわる意見を一定程度とり戻すことに成功した模様だ。ただ、この取り戻しは小選挙区の特性によるところも大きく、主に抗議票的に死票となることが確実な独立党票の一部を保守党が奪い返すことで激戦区の票を上積みし、労働党との接戦を制するためのゲーム理論的な方策にたった戦術とみることもできる。
いずれにせよ保守党中軸の政権となりキャメロン首相が留任することは確実だが、これまで英国下院に欠席戦術を採ってきたシン・フェインの議席を差し引いても324議席が事実上の過半数になるとみられるなか、保守党が単独でこの議席に到達するかは微妙で、届いた場合にもわずかな議員の造反や補欠選挙での敗退で過半数を失う可能性が高い。この状況のなか、連立政権か閣外協力かは未確定ながら、自由民主党との協力を続けるか、北アイルランドの保守強硬派・民主統一党との協力に切り替えるか、その都度の政策・法案によって提携相手を切り替える「部分連合」を模索するか、キャメロン首相には綱渡りの政策運営が強いられることになる。また100議席近い予想外の差をつけられ敗退した労働党のミリバンド党首、およびぎりぎりで接戦を制し議席を保持した自由民主党のクレッグ党首の今後の去就も注目される。
投票率は66%弱だった。この数字が高いか低いかは議論が分かれるところである。
敗退した労働党のミリバンド党首と夫人(投票日当日のツイートより)
労働党 公式サイト(英語)
http://www.labour.org.uk/
#各党の獲得議席は確定後にお知らせします。BBCによれば記事執筆時点で保守党321、労働党228、スコットランド国民党56、自由民主党および民主統一党各8、などです。
2015-05-06
【カナダ】アルバータ州議選で新民主党が予想外の圧勝で過半数獲得
5日、カナダのアルバータ州で州議会議員選挙(定数87、小選挙区制)が行われた。その結果、与党・進歩保守党が大敗、新民主党(社会主義インター・進歩同盟加盟政党)が2ヶ月前まではどの世論調査も予測していなかった圧勝を飾り、過半数の議席を獲得した。アルバータ州で新民主党の州政権は初めて。
進歩保守党のプレンティス州首相は元州首相のスキャンダルで同党が支持を失うなか、保守野党・ワイルドローズ党(新自由主義的な政策を掲げる)の内紛につけこんで解散総選挙に訴え、いわば「大きくは負けない」ことで政権の維持を図ろうとした。しかし露骨な党利党略が州民の批判を浴び、州内では中小野党にすぎなかった新民主党に支持が集まって約1ヶ月前から支持を急伸させ、同党が圧勝することになった。これにより進歩保守党は12期44年続いた州政権を失った。新民主党は州政ではこれまで万年野党だったが、州内では州最大都市カルガリーで左派系かつムスリムの市長が誕生しているなど、変化の兆しもあった。またノトリー党首の精力的な選挙運動も好感をもたれ、進歩保守党の「新民主党には経済運営ができない」との批判をはね返した。
ノトリー・アルバータ州新州首相(アルバータ新民主党党首)
しかし長期政権を続けてきた進歩保守党前政権のネットワークは州内に張り巡らされており、州政においては経験不足の新民主党がどこまで有権者州民の期待を裏切らない州政権運営をできるかが注目される。
詳しい選挙結果は次のとおり(カッコ内は前回比)。
新民主党 53(+49)
ワイルドローズ党 21(+16)
進歩保守党 10(-60)
自由党 1(-4)
アルバータ党 1 (+1)
アルバータ州新民主党 公式サイト(英語)
http://www.albertandp.ca/
進歩保守党のプレンティス州首相は元州首相のスキャンダルで同党が支持を失うなか、保守野党・ワイルドローズ党(新自由主義的な政策を掲げる)の内紛につけこんで解散総選挙に訴え、いわば「大きくは負けない」ことで政権の維持を図ろうとした。しかし露骨な党利党略が州民の批判を浴び、州内では中小野党にすぎなかった新民主党に支持が集まって約1ヶ月前から支持を急伸させ、同党が圧勝することになった。これにより進歩保守党は12期44年続いた州政権を失った。新民主党は州政ではこれまで万年野党だったが、州内では州最大都市カルガリーで左派系かつムスリムの市長が誕生しているなど、変化の兆しもあった。またノトリー党首の精力的な選挙運動も好感をもたれ、進歩保守党の「新民主党には経済運営ができない」との批判をはね返した。
ノトリー・アルバータ州新州首相(アルバータ新民主党党首)
しかし長期政権を続けてきた進歩保守党前政権のネットワークは州内に張り巡らされており、州政においては経験不足の新民主党がどこまで有権者州民の期待を裏切らない州政権運営をできるかが注目される。
詳しい選挙結果は次のとおり(カッコ内は前回比)。
新民主党 53(+49)
ワイルドローズ党 21(+16)
進歩保守党 10(-60)
自由党 1(-4)
アルバータ党 1 (+1)
アルバータ州新民主党 公式サイト(英語)
http://www.albertandp.ca/
2015-05-01
【アメリカ】民主社会主義者のサンダース上院議員が大統領選に立候補へ
4月30日、きたる来年のアメリカ大統領選挙に向けて、無所属のサンダース上院議員が民主党予備選挙への立候補を表明した。サンダース議員はバーモント州選出で、かねてから進歩的な「民主社会主義者」を自称しており、オバマケアが実現する前から国民健康保険を強力に主張してきた、アメリカ政界においては異端児的な存在。かつて下院議員時代にはは北米自由貿易協定(NAFTA)を強く批判し、TPPにも慎重な姿勢をみせている。首都ワシントンでの出馬記者会見でも「所得の99%が1%の富裕層にいくような(米国の)経済は、モラルに反し間違いどころか、持続不可能」と、民主社会主義者らしい進歩的姿勢を改めて明らかにした。
サンダース上院議員(バーモント州選出、無所属…民主党と統一会派)
しかしこれまで民主党から唯一、立候補を表明していたヒラリー・クリントン前国務長官が共和党穏健派と似ている中道寄りの姿勢をみせるなか、またヒラリー候補にさまざまな毀誉褒貶や巨額を投じた選挙運動への違和感があるなかで、サンダース候補は草の根レベルを重視する選挙戦を展開する意向とみられ、ヒラリー候補は中道寄り路線の修正を迫られるとする観測も出ている。
サンダース上院議員の立候補表明を受けて、ヒラリー候補は「焦点を中間層援助に当てるべきというサンダース氏に同意。(立候補を)歓迎する」とツイートでコメントした。格差社会への批判が急速に拡大しつつも、いっぽうで「社会主義」への違和感がぬぐえないアメリカにおいて、民主社会主義者の大統領選挙への立候補はアメリカ社会そのものの変化をみるバロメーターになりそうだ。
バーニー・サンダース候補(上院議員)大統領選挙運動サイト(英語)
https://berniesanders.com/
#サンダース候補をめぐっては日米の報道では「リベラル」とするものが多いのですが、当ブログでは「ネオリベラル」(新自由主義)といった用語への違和感などから、また「保守」の対義語は「進歩」(もしくは日本限定の用語では「革新」)であって、「リベラル」(自由主義)は「中道リベラル」など中道自由主義のニュアンスを持つという立場から(このブログは「穏健・進歩・ソーシャル」ということです)「リベラル」「リベラル派」の用語は避けることとします。アメリカの慣習および日本の政治改革以降の慣習とは異なりますが、ご了承ください。
サンダース上院議員(バーモント州選出、無所属…民主党と統一会派)
しかしこれまで民主党から唯一、立候補を表明していたヒラリー・クリントン前国務長官が共和党穏健派と似ている中道寄りの姿勢をみせるなか、またヒラリー候補にさまざまな毀誉褒貶や巨額を投じた選挙運動への違和感があるなかで、サンダース候補は草の根レベルを重視する選挙戦を展開する意向とみられ、ヒラリー候補は中道寄り路線の修正を迫られるとする観測も出ている。
サンダース上院議員の立候補表明を受けて、ヒラリー候補は「焦点を中間層援助に当てるべきというサンダース氏に同意。(立候補を)歓迎する」とツイートでコメントした。格差社会への批判が急速に拡大しつつも、いっぽうで「社会主義」への違和感がぬぐえないアメリカにおいて、民主社会主義者の大統領選挙への立候補はアメリカ社会そのものの変化をみるバロメーターになりそうだ。
バーニー・サンダース候補(上院議員)大統領選挙運動サイト(英語)
https://berniesanders.com/
#サンダース候補をめぐっては日米の報道では「リベラル」とするものが多いのですが、当ブログでは「ネオリベラル」(新自由主義)といった用語への違和感などから、また「保守」の対義語は「進歩」(もしくは日本限定の用語では「革新」)であって、「リベラル」(自由主義)は「中道リベラル」など中道自由主義のニュアンスを持つという立場から(このブログは「穏健・進歩・ソーシャル」ということです)「リベラル」「リベラル派」の用語は避けることとします。アメリカの慣習および日本の政治改革以降の慣習とは異なりますが、ご了承ください。
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