村野瀬玲奈の秘書課広報室

2008年の犯罪白書が発表されました。現在の日本の犯罪の傾向はどうなっているのか、気になりますよね。さあ、日本の犯罪は凶悪化、激増しているのでしょうか？？？

この問題に詳しい安原宏美さんの記事を紹介させていただきます。（安原さん、ありがとうございます！）

●女子リベ 　安原宏美--編集者のブログ
犯罪白書発表！
http://ameblo.jp/hiromiyasuhara/entry-10161752172.html

犯罪白書が発表されました。

　以下の4点をきちんと数字をおさえて書かれているかという視点で各紙の記事を読み比べてみました。

・高齢者の犯罪が増えていること。

・社会問題としては「凶悪犯罪増加」という文脈ではなく、窃盗などの軽犯罪を問題にしていること。

・その背景は貧困な福祉

・全体では減っていること

　読売新聞が一番よく書けてます。グラフの見せ方もきちんと考えてますね。産経と朝日がまあまあ。あとはうーんってかんじでした。若者の凶悪犯罪やらで煽りまくっていたころと比べるとおもしろいですね。「老人の心の闇が不可解だ」とか「戦前教育が悪い」とか「道徳が必要だ」とか「囲碁脳が蔓延してる」などは言われてないですわね（笑） もちろん言わなくていいんですけど。

■読売　高齢者の犯罪、過去最多の４万８６０５人…半数は万引き
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20081107-OYT1T00261.htm?from=navr

■産経　
http://sankei.jp.msn.com/affairs/trial/081107/trl0811071024000-n1.htm

■毎日
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081107dde041040073000c.html

■朝日
http://www.asahi.com/national/update/1107/TKY200811070048.html

　しかし、このブログをはじめたころは、こういった内容で白書が発表されるとは思っていませんでした。変わるとも思えなかった部分もあります。

　世間が「治安悪化」だと騒いでいたときに、浜井先生は「犯罪白書の内容に違和感あある」、「増えているのは若者の凶悪犯罪ではなく高齢者の犯罪である」、「その背景には福祉の貧困がある」とずっと言っていらっしゃいました。自らも犯罪白書の作り手だった研究者としての責任感もおありになったのかもしれません。

　ひとりでもいいから、言いだすこと、言い続けることに価値があるのだなと、とちょっと感慨ありますね。

（転載ここまで）

あれれ、日本では犯罪が凶悪化して激増していると信じていたい方にとっては、まったくの肩透かしです。

肩透かしどころか、こういう犯罪率の減少を日本は世界に向けて誇れるのです。日本は凶悪犯罪が激増している危ない社会である、なんて自虐的（笑）にならなくてもいいのです。堂々と世界に向かって「日本では犯罪率が減少している」と胸を張れるのです、右派の愛国者のみなさま！そして、これは「サヨクの捏造」（笑）ではなく、事実なのです！

しかし、貧困な福祉が高齢者層が窃盗などの軽犯罪を引き起こす原因であるとしたら、犯罪を抑制する道筋は見えたも同然です。まっとうに働けば誰もが安心して暮らせて老後の心配もない社会、お金のあるなしにかかわらず誰もが教育を受ける機会を保証されている社会、一人一人の個人が尊重されている社会をつくれば日本の犯罪はさらに減る、と考えられます。そう、政治の基本を当たり前に実行するだけで犯罪は減らせると考えられるのです。犯罪を減らすことはなにも難しいことはないのです。

福祉の貧困で高齢者の窃盗が起こっている、なんて、考えるだけで切なくなってしまいます。そんなふうに高齢者に考えさせ、行動させてしまう政治や行政の「犯罪性」こそを問わなければならないと私は思います。

さて、安原さんが言及していない、この犯罪白書について論じた日本経済新聞の社説について触れてみましょう。

■日本経済新聞　2008年11月14日　社説
「高齢犯罪急増をどう止める」

ここで言う高齢犯罪は、高齢者を狙う犯罪ではなく高齢者が起こす犯罪を指す。
昨年、一般刑法犯（刑法犯から交通事故関係を除く）として検挙された65歳以上の高齢者は約48600人と1988年のほぼ5倍に増えた。同記事の65歳以上人口の増え方は約2倍である。
社会の高齢化の勢いをはるかに超えた急増ぶりに法務省は危機感を持ち、今年の犯罪白書で「高齢犯罪者の実態と処遇」を特集した。
団塊の世代が高齢者のとば口に立つ今、手を打たなければ大変なことになると考えてだが、高齢犯罪の急増を押しとどめる奥の手・決め手があるわけでは、無論ない。
白書から引けば、「福祉制度の拡充、住まいの場の拡充、就労支援、地域社会の協力などの取り組みと、刑事司法機関の取り組みとを密に連携させながら、社会全体で対策を講じていく」しかあるまい。
警察による犯罪抑止策や治安対策、刑務所での矯正教育など「刑事司法機関の取り組み」だけで問題が片づかないのは、白書が試みた高齢犯罪の分析からも明らかだ。事件の訴訟記録を調べると「経済的不安」「疎外感・被差別感」「あきらめ・ホームレス志向」が罪を犯した背景に浮かび上がる、と白書は指摘し次のように結論づけている。
「（犯罪を重ねる）犯罪性が進んだ高齢犯罪者ほど、社会的なッ孤立や経済的不安といった深刻な問題を抱えており、このことが高齢犯罪者全般の主な増加原因である」
刑務所では、増え続ける高齢受刑者をどう扱うかの配慮に終われ、高齢受刑者の特性に合わせた矯正教育まで手が回らないのが現状といえる。食事や歩行など日常の生活に介助が要る人も多く、そこまででなくても体の動きが年齢相応に緩慢で他の受刑者と集団行動ができない例はいくらもある。いま三つの刑務所で高齢者専用のバリアフリー型収容棟を建設しているほどだ。
法務省の調査によると、満期出所した65歳以上の受刑者の約7割が5年以内に再入所する悲しい現実がある。これもまた、高齢犯罪の増加を止める対策を社会全体で高じる必要を訴えている。

（転載ここまで）

解決策として示している方向性はおおむね評価できます。ただ、たいへんに大きな不満があります。それは、解決策の方向性として示している「福祉制度の拡充、住まいの場の拡充、就労支援、地域社会の協力などの取り組み」といった政策を語るのにあたって、日経が支持・推進してきた「応益負担論」（←まだご存知ない方はリンク先をぜひどうぞ）によって福祉・社会保障の削減、非正規雇用の推進が行なわれてきたことに一切触れていないこと。そして、日経が支持・推進している新自由主義がこの犯罪白書で述べられた事態をもたらした原因の大きな部分であることへの反省が一言も語られていないことです。

想像してみましょう。高齢者に窃盗などの軽犯罪が増えている背景が貧困な福祉・社会保障であるならば、今ワーキングプアが多いとされている世代、就職氷河期にあたって正社員になれなかった者が多い世代、ロスジェネ世代が高齢者となる数十年後、福祉政策や社会保障の貧困による犯罪がさらに増える可能性は小さくないことにならないでしょうか。

もし、仮にそうなった場合、それは、日経も熱心に支持・推進した国際競争力至上主義、雇用の非正規化による労働コスト削減優先の政策に大きな原因があることになりますが、そのころに発表される犯罪白書について、日経は今回のように他人事のような社説をまた書くのでしょうか。

話を戻します。このように、犯罪の動向からも、新自由主義の自民党政治、労働コスト削減主義の財界のやり方が誤りであることが読み取れるのです。日経はそのことに気付いていないのでしょうか。

その誤りを修正しないことのつけは日本社会の中に日々たまっていくのです。それを修正するのに猶予はないはずなのです。

もうひとつ、この「高齢犯罪者」の増加についてのこの「冷静な」論調と、「少年犯罪」についてよくある「厳罰優先の」論調とを比べて指摘したいこともあるのですが、それは別の記事で改めて書きましょう。

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