村野瀬玲奈の秘書課広報室

札束ブーメラン？（そんな言葉はありませんが）
なんだか、札束でブーメラン作って、懐か袖の下で受けるような・・。

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　自民党が高等教育への国家支援を減少し続けるのは新自由主義の実践のため，大エジプト博物館への財政上の優遇は政治的パフォーマンスと言えるでしょう。日本国民の多くが塗炭の苦しみにあえいでいるのは自民党政治のせいですが，その自民党の背後にそびえ立つ新自由主義こそが最大の敵なのではないでしょうか。
　カリフォルニア大学バークレー校の政治学教授のウェンディ・ブラウンは「いかにして民主主義は失われていくのか」（みすず書房）の中で，次のように述べています。


　民主主義的自治はそれを実践しようとする人民によって意識的に尊重され，耕され，育てられなくてはならないということ，民主主義を変形あるいは侵略しようと脅かす無数の経済的，社会的，政治的圧力に抵抗しなくてはならないということである。・・・民主主義はけっして唯一の健全な政治的価値ではなく，暗黒の軌跡に陥らないための保険ですらない。しかしそれでも，グローバル・ガバナンス，専門家による支配，人権，アナーキズム，共産主義的バージョンなどといった問題に集中している左翼的計画の内部で一般に認知されている以上に，民主主義は居住可能な未来にとって欠くべからざるものかも知れないのである。

　新自由主義は，アウグスト・ピノチェトと「シカゴ・ボーイズ」として知られたチリの経済学者が，1973年にサルバドール・アジェンデ政権を倒した後にチリに押し付けた「実験」であったが，その後の20年簡にわたってグローバルサウスに「構造調整」を押し付けたのはIMFだった。マーガレット・サッチャーとロナルド・レーガンは政権初期に大胆な市場の自由化改革をしようとしたが，新自由主義はまた，ヨーロッパ大西洋地域の国々では，経済用語とともに民主主義的な用語および社会意識を簒奪したガバナンスの手法を用いることによって巧妙に展開したのである。

　人も国家も現代の企業をモデルとして解釈され，人も国家も自分たちの現在の資本的価値を最大化し，未来の価値を増大させるようにふるまう。

　学費の値上げ，国家支援の減少，利益目的でオンライン化された教育の勃興，企業的な「ベスト・プラクティス」による大学のつくりなおし，そして「資格」に代わって「能力」を重視するビジネス・カルチャーの成長によって，わずか30年前には象牙の塔とみなされてきた大学は，時代錯誤で贅沢な道楽とみなされるようになってきた。英国ではほとんどの公的教育機関を民営化し，残された国家の財政支援は，知識を「インパクト」によって計測されることになった。合衆国では，教育の室の計測法は，完全に投資収益率に向けられ，どのような就職先とどの程度の収入増を学生投資家が特定の教育機関から期待しうるかということに焦点をあてた評価基準に置き換えられた。こうした新しい測定基準にたいして1500億ドルの国家助成を振り分け，格付けの高い学校にたいして底辺の学校よりも多くの学生支援を与えることを許可するという政府の計画が進行中だということである。・・・学位取得のための一般教育の必修要件と時間は急速に圧縮され，わずかに残っていたリベラル・アーツも，歴史的に不利な立場に置かれてきた人びとの大学入学もいつのまにか浸食されている。・・・高等教育は，かつては知的で思考力のあるエリートを養成し文化を再生産するため，より近年には平等な機会と広く教育を受けた市民層の育成という原理を実行するためのものであったが，現在の高等教育は人的資本を生産し，そのことによって古典的な人文学の諸価値を転倒させている。

ウェンディ・ブラウンは，新自由主義をラディカルに批判する女性政治学者であり，左翼批評家です。ミシェル・フーコーがマルクス主義的視点をまったく放棄し批判するのは，新自由主義にともなう独特の支配を評価する際には損失になるとしています。フーコーの議論からウェンディ・ブラウンは新自由主義の特徴をいくつかまとめました。

　・　非自然としての競争
　・　国家と社会政策の経済化
　　　　競争の長所は，経済成長を生むことにあり，その促進は「ただ一つ
の根本的な社会政策」である。国家は経済を保障し，発展させ，支援
する。国家の目的は経済を促進させることであり，国家の正当性は経
済成長に結びつけられている―国家はまた，経済の公然たる代理人と
して，経済に責任を負っている。国家の行動，国家の目的，国家の正
当性。このそれぞれが，新自由主義によって経済化される。
　・　競争が交換にとってかわり，不平等が平等にとってかわる。
　　　　新自由主義においては，競争は自由主義経済が強調する市場の基本
原則と力学としての交換にとってかわる。競争は勝者と敗者を生む。
資本は他の資本を破壊したり解体することで成功する。
　・　人的資本が労働にとってかわる。
　　　　競争が市場の根本原理になるとき，あらゆる市場の行為主体は，生
産者，売り手，労働者，顧客，あるいは消費者ではなく，資本とみな
される。資本として，あらゆる主体は，いかに小規模で貧困化し，資
源に乏しかろうとも企業家とみなされ，人間存在のあらゆる側面が企
業家として生産される。労働を人的資本に変容させること，労働者を
互いに競争しあう企業家に変容させることは，古典的な自由主義より
もいっそう，階級の可視性と反復可能性を曖昧にする。
　・　企業家精神が生産にとってかわる。
　　　　企業家精神と生産性の強調が，消費財と消費の強調にとってかわ
る。生産性は生産物より優先される。企業は消費ないし消費者満足よ
りも優先される。
　・　法の経済化と戦術化
　　　　市場のために統治することは，主権と法が権利ではなく競争の支援
になることを意味している。法の支配は新自由主義によって脇に置か
れるのではなく，一方ではその目的のための道具にされ，他方ではよ
り複雑でより細かくなる。
　・　国家の責任化
　　　　経済的な評価基準は国家の制度と実践を統治しており，国家そのも
のが経済成長によって正当化されている。経済は,その保証人である
国家の正当性を生む。国家は経済を支援せねばならず，その諸条件を
整備し，その成長を促進し，それによって経済に対して責任を負うこ
　　　とになるが，経済の効果を予測したり，管理したり，相殺することは
できない。ゆえに，「要は経済なんだよ，バカ！」はたんなる選挙戦
のスローガンである以上にずっと重要で，新自由主義の政治生命を規
定している。

　また，新自由主義下における責任化についてウェンディ・ブラウンは，次のように言っています。

　個人は，自分自身の身を守ることを期待される（繁栄していないと非難される）が，それとともに，良好な経済のために行動することが期待される（繁栄していないと非難される）。そして，ギリシャの労働者（アンゲル・メルケルは「怠け者のギリシャ人」と演説した），フランスの年金生活者，カリフォルニア州とミシガン州の公務員，アメリカの社会保障受給者，英国の大学生，ヨーロッパの新移民，公共財のすべては，自分の面倒を自分で見るかわりに旧世界の社会保障を稼働させる泥棒のような依存者であるばかりか，借金で国家を沈没させ，成長を妨げ，フローバル経済を破産の危機に陥れるとして非難されるのである。おそらくより重要なことだが，こうした人たちが非難されなくても，責任化の規範にちゃんと適合していて
も，健全なマクロ経済のためにとられる緊縮財政政策は，彼女ら，彼らの暮らしや生命を合法的に破壊するかしれないのだ。

　以上，「いかにして民主主義は失われていくのか」（ウェンディ・ブラウン/みすず書房）から一部抜粋して引用しました。
　思えば，過去にマル生，つまり生産性向上運動が声高々に叫ばれたときがありました。このときからすでに新自由主義的な考えがはびこっていたのでしょう。労働者が人的資本としてしか規定されないのであれば，他の労働者と連帯することはありえません。同僚は仲間ではなく競争相手になってしまいます。労働組合の組織率の低下はここらへんに原因があるのかも知れません。なにしろ非正規労働者と正規労働者は連帯できないのですから。
　文科省による大学設置基準の大綱化(1991年)により，多くの大学から教養課程がなくなりました。法人化した国立大学では教養教育の中核をなす語学教育の担い手が専任の教授から時間給で雇われる非常勤講師へかわり，さらには英語教育をまるごと民間の英会話学校に委託する大学が増えてきています。専任教員の多くは，こうした大学「改革」の行方に無関心であり，より条件のよい大学への転職を可能にするために，研究業績を増やすことに没頭しています。
オウム真理教が事件を起こしたのは高度専門教育を受けた理系の人間ばかりだったことから，専門バカを増やし過ぎた，教養教育を充実させるべきだとの声もあがったものでした。ところが2015年6月文部科学大臣名で国立大学に「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて」という通知を発出し，「組織の廃止や社会的要請の高い分野への転換に積極的に取り組むよう努める」ことを要請しました。そして社会的要請に応えない国立大学の人文社会系学部の縮小が明文化されていました。
　共産主義国家の崩壊により，世界では対立の構造がなくなり，人びとは幸福になれると期待しましたが，その後に来て多くの人々を苦しめているのは新自由主義です。