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五月国立大劇場公演だより

          完全上演 

 療養中だった真山青果は、当時
長十郎・翫右衛門や国太郎が何度も見舞いに来ては
何か言い出せずにいる素振りで帰って行ったと
回想している。

前進座による『元禄忠臣蔵』系統的上演は、
三年前からの悲願だった。
 左團次没後にも新たに一篇が発表され、
更なる執筆予定もあったが結局この時
前進座が上演した十篇が決定稿となった。          
   
 『元禄忠臣蔵』をはじめ真山青果の作品は、饒舌で有名。
作者本人も自分は調べたことをいろいろ盛り込んで
読み物として発表しているのだから、
舞台上演の際には適宜カットしてもらって構わない
と公言していた。

 最高傑作といわれる『御浜御殿綱豊卿』も
左團次上演では、一幕も新井白石登場の場も
原作の半分にカットしている。

 その『元禄忠臣蔵』を
前進座は、一字一句抜かずに完全上演すると
打ち出したのだった。

 左團次上演から引き続き演出に当たる巌谷慎一
―明治の児童文学者・巌谷小波の長男―が
前進座小稽古場に入ると、
机の上に原本を載せた面々が
“もう燦燦たる朝日の流れを浴びて”
ずらり勢ぞろいしていた。

 三年越しの“系統的上演”の始まりだった。


        喜八郎☆記 
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