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方言小話:おっ父の夜間高校
おっ父の夜間高校
昭和40年、オラは高校生になった。
この辺では女子を高校さ入れてくれるのは少なかったので、
オラは得意だった。
毎日毎日楽しかった。学校でも友達が一杯できた。
そんなオラを見て、おっ父が
「高校はそんなに良いか・・・」
って、オラを眺めてた。
ある日、おっ父が
「俺も高校さ行って勉強してぇなや・・・」
と、言いだした。
おっ父は、爺さんが早くに亡くなったので、
高校さ行きたかったけどもいけなかった。
毎日毎日働いて、ようやく余裕が出てきたのだ。
夜ならば学校さ行けるべなって、
翌年に、おっ父は夜間高校に入学した。
オラの方が、一年上級生だったのだ。
おっ父は、教科書を並べて眺めている。
「おーい、此処は何じょだ、教えてけろ」
って、寄って来る。
「何よ、これはこうよ。こんな事も分からないの」
「じゃ、これは」
次々と聞いて来る。
「うーん、面倒くさい」
オラは、おっ父を避けるようになった。
それに、35(歳)を過ぎた高校生だなんて恥ずかすくてな。
おっ父は、やがて高校さ行かなくなった。
黙って、ため息をついていた。
やっぱり無理か。
20年も前に習った事なんかさっぱりでな、
なんぼ頑張ってもしょうがねぇかって・・・。
【この続きは次回に】
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方言小話:おっ父の夜間高校 後編
おっ父の夜間高校 【後編】
おっ母とおっ父が、ぼそぼそ話をしている。
「何よ、あんなに勉強したい、したいって言ってたじゃない」
「うん・・・・」
「オラだってね、学校さ行きたかったよ、子守りさせられたり
畑が忙しいからってさ・・・休まさせられた。
だから、お父さんが勉強したいと言った時は、オラも面しぇかったよ」
オラは、おっ父と、おっ母の話を聞いて涙がこぼれた。
御免ね・・・、オラば高校さ入れてくれて。
オラには、どんなに忙しくても学校休めとは言わなかった。
ワラス(子供)には勉強させようとしたんだね。
そんな事もわからねで、御免ねお父さん。
「お父さん勉強して、学校さ行って、オラも勉強も畑も手伝うから」
おっ父はもう一度学校へ行き出した。
おっ父が教科書を広げていると、皆が寄ってきた。
弟も婆っちゃんもだ。
おっ父は頭が良かったな。最初は苦労したけども、すぎ覚えたもん。
オラが卒業して2年後に無地卒業した。
皆でお祝いしたんだ。
卒業証書を壁に貼ってな。嬉しかったな。
おっ父とおっ母のこの時の顔を忘れないよ。
おっ父の部屋にあるダンボール箱、40年前の夜間高校の
教科書がしまってある。
おっ父は、時折出しては見ていた。
捨てられなかったんだな。
沢山の教えが詰まってるんだもの。
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