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浮気
創作小話:浮気
オラは、申すわけねえ事すてすまったんだ。
だから、こうしてよ毎日仏壇に手を合わせてるんだじゃ。
許してけろってな。
戦争が終わったのによ、兄貴は帰ってこなかった。
しばらくして、戦死したって知らせが来てな。
「すまないけども、兄嫁と一緒になって、この家を守ってけねか」
って、親父が頭を下げてな。
オラも、そうするのが、一番いいんだべと思ってな、
兄嫁のキク姉さんと一緒になったのよ。
キク姉さんも、最初は遠慮がちだったけども、
尽くしてくれてな。有り難かったな。
オラも兄貴に負けねえようにって、働いたのさ。
子供は、兄貴の子と、オラの子がいたけども、
学校を卒業すると二人とも出て行った。
親も亡くなってな、夫婦だけの生活になってな。
そんな時に、会社の女ごと仲良くなってよ。
オラは夢中になってすまった。
その女ごと遠くへ逃げて行ってな、一緒に暮らす始めたのよ。
最初は、良かったんだけども、金がなくなると
愛想つかれて、途方に暮れてすまったもんだよ。
「カイショ無す、役立たず、どうしてくれんのよ」
って、毎日罵られてな。
「どうして、こんな女に手を出したんべな」
って、悔んだのさ。
キク姉さんが、捜してきてけだ。
「あんた、家に帰ろう・・・」
って、声をかけてけだ。
オラは、身を小さくして謝ったよ。
手切れ金を、キク姉さん出してけで家さ帰ったよ。
「アタシと、一緒なったからなのかい、ごめんね」
って、姉さんに泣かれたよ。
オラが悪いのに。
そりゃ、オラの気持ちの中には、違う人生もあったかも知んねえ
と思ってたかもな。
仏壇の兄貴がよ、オラを見てるのよ。
「お前、何やってんだよ」
って、怒ってるような気がしてな。
キク姉さんは、それからすっかり弱くなってな。
黙ってる事が多くなって、間もなく倒れて亡くなってすまった。
きっと、兄貴の所へ行ったんだよな。
仏壇には、兄貴とキク姉さんが並んでるんだ。
二人でオラを見てるんだ。やっぱり似合ってるんだ。
オラも年取ってな、そろそろ行かなくては思ってるんだ。
けどもよ、オラも一緒にしてくれるべか。
キク姉さんは、兄貴の嫁だけどもオラの嫁だよ。
兄貴よ~、キクよ~許してけろ。