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猿の洞穴

猿の洞窟
猿の洞穴

昭和50年頃の夏、オラは会社から夏休みを
貰って実家の岩手に帰っていた。
盆が過ぎると、皆それぞれの地に帰り
仕事を始めて誰も、相手をするものがいなくなった。

オラは、地図を広げて、何処かいいとこは
ないだろかと捜した。
本州最北端の地、下北半島が目に止まった。
よし、この半島を一周しようと、決めて
早速準備をした。

寝袋をリックに入れて、電車に乗った。
野辺地で乗り換え、大湊で降りた。
乗合バスで行く所まで行って、
その先を地図を見ながら歩いていた。

軽トラが近づき、
「ナぁー、何処さ行くてぁ、こんただとこ歩いてよ」
「いやーっ、半島をぐるっと回るべと思ってな」
「そうか、ふだら後ろの荷台さ乗はれ」

オラは、軽トラの荷台で風を受けながら
陸奥湾を見て、未知の世界に吸い込まれるような気分になった。

しばらくすると、脇の沢という所で
軽トラが止まり、
「ワーっは、此処で終わりだ」
って、降ろされた。

もう夕方になって、少し暗くなっていた。
数件の家があったが、すぐに途切れたしまった。
海岸線に沿い歩くと岩場が多くなってきた。

湾を左手に見ながらさらに先へと進むと、道は細くなり
やがて大きな岩場に出て行き止まりになった。
「今日は此処で休むとするか」

辺りを見たら、岩場に穴があった。
入るとちょうどいい感じで、そこに寝袋を広げた。
疲れを取ろうとウイスキーを出して
飲んでいると、何とも云い知れぬ
喜びが湧いてきた。

これが青春だ。
オラは、自分に酔い、酒に酔い、
横になりながら瓶を空にして、寝てしまった。

朝、洞穴の中に光が差し込んで明るくなってきた。
頭の付近に何かがいるような気配がした。
何かが動いている。

オラは、目を開け首をもたげて見た。
何かの顔がある、目がある。
「何だ、何だ、え、・・・サ、猿、猿だ」
それも一匹ではない、これは大変だ。

オラはパニクった。
急いで、荷物を纏めて洞穴の外へ這い出た。

猿は、追いかけてくる様子はなかった。
洞窟の方を覗きながら
身支度をし、元の道を引き返した。

集落まで出ると、看板が立っていた。
北限の猿がいて、餌付けをしてると書いてあった。
それで、襲わなかったのだと安心をした。

オラは、舟の出ている所まで戻り、仏ケ浦、大間へと行き、半島の旅を
続け、思い出のある一夏を過ごしたのだった。


Appendix

プロフィール

大坊峠のツッチー

Author:大坊峠のツッチー
岩手県は北緯40°に位置する岩手町から地域の情報を発信します。山里で農業を営み、昭和26年生まれの人生と、方言による創作小話・童話を綴ります。尚、作品は著作権とし、無断使用はお断りします。

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