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最終電車
最終電車
オラは、二十歳になって、酒も煙草も飲めるようになった。
夜の誘いも多くなり、味を覚えてきた。
酒を注いでくれる女にも、関心を持つようになった。
もっと、きれいな女子を相手に飲みてえなと思った。
盛岡には、若くて良い女子が一杯いると聞いて、
オラは、出かけたのだった。
八幡町に行き、開店と同時にスナックに入った。
時間が早いせいか、ホステスがオラを囲んで、
相手をしてくれた。
極楽、極楽、実に楽しい。気分も最高。
オラは、モテにモテた。
沼宮内行きの最終電車は、9時だったので、
オラは、間に合うように店を出た。
最後まで相手をしてくれた可愛いホステスが
玄関で手を握って
「又、来てね。約束よ」
「うん、絶対来る」
八幡町から盛岡駅までだと結構遠い。
急ぎ足になり、やがて小走りになり、
何とか最終電車に間に合った。
電車は走り出した。汗が噴き出てきた。
電車は、沼宮内が終点なのでのんびりできる。
ほっと安心をして、先ほどまでの
スナックでの楽しい語らいを思い出して、
一人ニヤニヤしていた。
厨川を過ぎたあたりで、催してきた。
トイレは何処かと、立ち上がるとふらふらする。
酔いも回っている。
トイレがない。電車に揺られて隣の客車に行くがない。
椅子に座り、じっと我慢をする。
厨川を過ぎた。オラは、前をギュと抑えて脂汗をかき始めた。
もう、限界だ。どうしよう。
車内を見ると、数人がまばらに座っている。
目をつむってるか、窓の方を見ている。
誰もオラを気にしている人などいない。
オラは、客の一番少ない、目立たない所へ移動した。
そして、意を決して、窓を開けて、
勢い良く放出したのだった。
誰も気づいていないようだ。
こっちを向く人はいない。良かった。
ああ気持ちいい。
「一寸、お客さん何やってんですか、止めてくださいよ」
と、言って車掌が走ってきた。
オラは驚いて振り向く、客も車掌の声で一斉に見る。
車掌は、すぐ後ろに来て、
「危ないじゃないですか、止めてください」
と、言って睨みつける。
「と、とまらないんだよ。ま、まってけろ」
オラは必至の形相で哀願する。
車用はあきれ返ったのか、オラが終わるまで待ってくれた。
そして、
「二度と、やらないで下さいよ」
と念を押し、離れて行った。
オラは、客から見えないようにと、身を縮めて小さくなった。
終点沼宮内に着くと、最後にこっそりと降り改札に向かった。
あれいらい、最終電車に乗っていない。約束をした店も
何処だったか思いだせない。