Entries
創作小話:円形脱毛症
創作小話:円形脱毛症
オラも若い時は、ハンサムボーイでな。
頭の髪の毛をばっちり決めてたもんだよ。
まあ、床屋に綺麗な姉ちゃんが居るもんで
行ったってのが本当だけどもな。
「ありゃ、オメエ、もう床屋さ云ったてか、まだ早かったべに」
「いや~、耳さ髪の毛が被さると気になって」
何てごまかしてたのよ。
床屋の姉ちゃんが近づいての顔そり、たまんねかった。
ほんのりと甘い香り、柔らかい手で石鹸の泡をなでる。
アハーッ~、たまんねよ・・・・。
ある日の事だった。
「ありゃ、ヒロ太、オメの頭さハゲでき出るじゃ」
て、言われた。
鏡を見ると、髪が抜けてる所があった。
そのうちに大きくなって、目立つようになってきた。
オラは、医者に行った。
「これは円形脱毛症だな、3か所に出来てる」
「えっ、3か所もですか」
「ふだ、早く治さねばわかねな」
医者は注射器を持ち、看護婦は頭と肩を抑えつけたのだった。
オラは、もう、恐怖で真っ青になった。
「じゃ、少し痛いけども我慢すんだよ」
注射の針が、頭に突き刺さる。
「ふぐーっ、痛え・・痛え・・・」
オラは、動けない。注射は結構打たれる。
目から涙が落ちた。
放心状態のオラにしばらく通うように言う。
毛根に刺激を与えると良いよと云うので、
家に帰るとはげた部分を揉んだり、ブラシで叩いたりした。
しばらく医者に通い、恐怖を味わったのだった。
毛が少し生えてきた時は、もう飛び上がるほど嬉しかった。
注射は女性ホルモンの注入だと言ってたな。
そう云えば少し胸が膨らんできたような、
気のせいか。
まあ良かった良かった。
「あれ、ユキオ。オメの頭に五円ハゲできてるじゃ」
オラは友人のユキオの頭を見て言った。
「早く直した方がいいぜ」
しかし、今でも時折夢に出て来るんだ。
頭に注射器が刺さった状態で逃げ回ってるのを。