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息子や
息子や
オラには、息子が一人いるでがんす。
お父は、早くに亡くなってすまってな。
女て一つで育てたでがんす。
オラは、体が弱くて、よく貧血で倒れてたもんだ
この手、見てくれ。節くれてすまった。
着るものも、この通るツギハギだらけだ。
顔さも深い皺が寄って、
恥ずかすくて人の前さば出たくねのさ。
生きてる張り合いは、息子だす。
毎日毎日、息子の顔色伺って、稼いだのす。
日雇いの土かた、行商、農家の手伝い。
暗くなって帰ると、
「母ちゃん」
て、抱きつかれると、一遍に疲れが取れたもんだ。
その息子が、東京の大学に入ったのでがんすよ。
金ば送らねばならねって、稼いだ稼いだ。
息子は、オラの宝だもの、
「立派な息子さん、持ったなっす」
て、言われるだけで、
腹が一杯になったでもんでがんす。
その息子がよ、会社に就職してから、
さっぱりと、家さ帰って来なくなってすまった。
恥かすってさ、この家も、このオラの格好もさ。
何、語ってるのさ。この馬鹿息子よ。
オメ、何習ったのよ。
立派な仕事すてるって、聞かせてけろや。
「親とは何だべな」
「子とは何だべな」
「学問とは何だべな」
この無学な、母さ教えてけろ。
オラの育て方が間違っていたか。
教えてけろ。
この母が、醜いか。
そりゃ、仕方ねえべよ。
この家はボロいか、そりゃ仕方ねえべよ。
なんじょにも、ならねえ。
そうかい、そうかい。もう、いい。
母ちゃんは、一人で生きていく。
お前も、自分一人で生きていきな。
思えばな、沢山良い夢みさして貰ったよ。
ありがとう。
運動会で一等取ったり、テストで100点取ったりしてな。
母ちゃんを喜ばしてくれた。
手伝いも随分してくれたな。
ありがとう。
いいんだ、いいんだ。
ありがとう。