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仲人の務め
仲人の務め
オラのな、爺様の頃まであった話だどさ。
結婚式を挙げるときの仲人ってのはよ、
式の時に、二人を紹介するんだけどもな、
それだけでは無かったとよ。
その日の夜にな、見届けって云うのがあっったもんだってよ。
式が終わって、夜になると、
そこさ、仲人の旦那がいるわけよ。
カカ様は、いなかったてな。
いそいそと、若妻が床に入ってきてな。
布団さ入るべ、
すばらくすると、ムコ殿が酔っぱらって
ふらふらしながら床さ入るわけよ。
それで、そのまま寝ていたらな、
頭っこコツンと叩かれてな。
「早く始めろ」
って、へわれて
目こすって、若妻をまさぐって始めたとさ。
「ほぉ、上手なもんだじゃ」
って、出て行ったもんだってよ。
定吉爺さんの時はよ、
初めてだったのでな、
なんじょしたらいかんべとモジモジすてたんどと。
そしたら、仲人がよ、
「ほれ、何すてる。腰巻まくれ、そこでね、
も少し下だってば・・・」
ってな、
手取り足とり教えてケタんだってさ。
八平爺さんなんぞは、
すっかり酔っぱらってしまってな、
そのまんま寝てしまってなや。
朝起きたら、新妻から
「昨日は、良かったよ~」
って、言われたとよ。
「ありゃ、そうだったかな」
首っこを、かしげていたんだってよ。
おいらは山の子
おいらは山の子
オラは小さい頃、人里離れた山の中に住んでいた。
開墾の畑があって、小屋みたいな家だった。
電気などなくて、ランプの生活だった。
ストーブの傍に丸いテーブルがあるだけで、
鍋も茶碗も、そこに載せていた。
壁はなく、板に新聞紙を貼っていただけだった。
冬の風の強い日には、隙間から雪が吹き込んで、
布団を被った上に雪が乗っかっていた。
周りに他の家などないから、誰もいない。
誰も来ない。いつも一人ぼっちだった。
小屋に赤ベコ飼っていたので、遊びに飽きると
そこに行って草をやったりした。
遊びは、ノコギリで木を切り、ナタで薪を割る事だ。
カマで草刈ってたら指を切って、血がだらだらと流れてきて
大声で泣き叫んだ。
畑の向こうに、里に通じる道がある。
誰か来ないかと、良く眺めていた。
ある時、誰かがゆっくりと歩いてくる。
「誰か来たーっ」
オラは、喜んで走って行く。
「ジ、ジーだ、ジーちゃーん」
爺さんに、まとわりついて手を取る。
「たっしゃでいたか、よしよし」
爺さんは、やさしく頭をなでてくれる。
米を持ってきてくれた。
その日は、久しぶりに米の飯を焚いた。
「うまい、うまい」
と、言ってお椀を舐めて父母も笑った。
婆さんがやってきた。
同じようにオラは走って迎えに行った。
大きなリンゴを取り出し、爪で傷を付けてパカッと割った。
「ほーれ、食え」
オラは、汁を口から垂らしながら食った。
婆ちゃんは、アメ玉もくれた。
口に入れたら、ほっぺが膨れた。
あれから数十年、爺さんも婆ちゃんもとっくにあの世に逝った。
親父も3年前に逝った。
暮らした家は、今はない。
オラは、この地を歩く。
何もない、誰も来ない。
荒れた畑の周りを山の木々が囲んでいる。
あの当時と変わらない空の青さ。
山に向かって、大きな声で叫ぶ。
「おーい、おーい」
吸い込まれていく。
この地には思い出が詰まっている。
優しさに包まれる地なのだ。
オラは山の子なのだ。
木のバットとツギ布のボールで野球
木のバットとツギ布のボールで野球
昭和30年代は、この村にも大勢の子どもがいた。
子供らは、学校から帰ると色んな遊びをした。
「タケ、何してるんだ」
「バットや、削ってるんだ」
「すぐぇな、振らして」
「ああ、いいよ」
「重いな・・これ」
「生の木だからな」
当時は、親から、物を買って貰えなかったし
子供達も、物をねだる事は少なかった。
大概は自分たちで、見よう見まねで作ったのである。
「おーい、野球するべ」
と、声をかけると、誘いあって子供らが集まってくる。
周りが木々とヤブに囲まれた、小さな広場である。
人数によって、ベースは三角になったりする。
チームは、集まった中で同学年同士とか、
近い年令の者同士がじゃんけんをして決める。
ボールは布切れを重ねて縫い合わせた物だから
グローブなどはいらない、素手で大丈夫である。
アンパイヤは、打つ方がやるが、いない時も
あるから、お互いしゃべりながらやる。
「タケ、良い球投げろじゃ」
「よーし、今度はストライクだ」
こうして、打ったり走ったりする。
小さい子も遊びながらルールを覚えていくのだ。
そして、次の年になると、同じような口をきくようになるのである。
木のバットは、重くて振るのが大変だった。
布切れのボールは、キヌマルと呼んでいた。
打っても、そんなに飛ばない。
途中から、速度が落ちたりするのだっだ。
フライが上がると、取られる率が高くなるから
「転がせー」
とか
「当てていけー」
と、叫んでいた。
それでも、力のある子が遠くに飛ばしたり
フャウルで、ササ藪に打ったりすると、
ボール拾いとなった。
2個くらいは、持ってきていたが、
連続して藪に入ると、みんなでボール探しをした。
前に無くしたボールをみつけると
大喜びをしたものだ。
野球の上手な子は少なくエラーが多かったが、
その分ワーワー行って楽しく盛り上がって、暗くなるまで熱中した。
日曜などは、9回での終了はなく、スコアの回は延々と続いた。
点数も、35対24とかなったりしたが、
「よし、この回に点数入れて逆転だ」
などと、言ってバットを握ったものである。
小さい子、大きい子の学年のへだたりはなく、
みんなが、名前を呼び捨てにして、叫んでいた。
50年前の広場は、木々が生えて森になった。
あの広場で叫んだ声が、聞こえてくるようだ。
もう一度、聞きたいと木々が言ってるようだが、
子供たちがいないのである。
ああ結婚
ああ結婚
村の正男は、隣の花子と結婚することになっていたのでがんす。
式もあと、わずかになってきて、正男の親父は、
準備をしてらったのさ。
用を足した帰りに、花子の家に立ち寄って
挨拶をしたのでがんんすよ。
「いい天気でがんすなや、どうでがんすべな
花子の支度の方は」
花子の親父が出てきて、
「どうも、はあ・・そんでがんすな・・」
と、気のねえ返事をするのでがんした。
「何だよ、目出度い話に浮かねツラすて」
花子の親父のトモ蔵は、
「定吉よ、実はな・・花子がな、嫁に行きたくねって言うのよ」
「えーっ、花子が、な、何すてだ」
「いや、何だかよ、他に男がいるようでよ」
「じゃじゃじゃ、何、語ってるのよ・・いまさら」
「何べんも、言って聞かせたのさ。ふでもな、泣いて
どうにもならねのさ」
「男が居たってか、バカ話すばさねでけろ、もう皆さ案内だしてるじゃ」
「申し訳ねえ・・それでな、花子はあきらめてけろ」
「うーん、困ったなや」
「その代り、フズコをけるから」
「富士子・・下の妹か・・ありゃ、まだオボコだべ」
「ふでも、学校は終わってるから、大丈夫だ
フズコならオラの言うことも聞くから・・・な、頼むこの通りだ」
そう云うわけで、正男の嫁っこは、
花子から富士子になったのでがんすよ。
結婚式の祝いが始まりますた。
「えーっそれでは、仲人のタツ吉さん、挨拶をお願いします」
「ああ、本日は、誠にめでたい事で当家の正男と
隣の花子が結婚式を挙げることとなりまし・・・なんだよ」
「タツ吉さん、花子でねくて富士子だよ」
「富士子・・」
「さっき、言ったべな、もう」
「ふんだってよ、花子って書いて覚えてきたんだものさ、
急に言われても、分からねべよ、ツラだって、角隠しで見えねえし」
「そのう、何だな、花子ではなくて富士子が嫁になる事に
えーっ、なったそうで、まあ目出度いことで・・・」
挨拶もしどろもどろになって、集まった人も驚いたとよ。
「ありゃ、花子でねくて、富士子だってか」
「何すて又なや」
てなことで正男と富士子は、夫婦になったのでござんすよ。
富士子はオボコだったけども、すぐに成長してな、
「マサーっ、何やってる。早くこれ片付けろ」
「ほれ、ネマってねで、燃やす薪、持ってきてけろ」
てな、立派なカカ様になったどよ。
童話:手あます小僧(ワラス)
手あます小僧(ワラス)
オラの息子のタケは、シワスねワラスでな。
さっぱり言う事は聞かね、
いっつも、お父さんに怒られていたな。
「こりゃ、タケ。ツラ洗え、目腐れつけてコノ」
「タケ、汚え足すて、こっちさくるなってば」
タケは、遊び歩いて真っ黒になって帰ってくる。
頭の髪はボサボサで硬くて尖ってたな。
たまに風呂沸かしても、
「オラ、入らね」
って、コブたけてな。
タケが小学校に入るときだったよ。
「その頭なんじょにかすねば、わかんねな」
って、床屋さ連れて行ったのさ。
床屋の小父さんが、
「さあ、ここの椅子さ、ねまれ」
て、言っても座るの嫌がってな。
「やんた、いい。オラ、髪切らなくても、いい」
って、こんつけてな。
「男ぶり良くすてけるから、ほれ」
と、小父さんが言うと
「ベロベロバー・・」
と、舌だして、やっ叫ぶのさ。
「このワラスは、手に負えね・・」
床屋の小父さんに追い出されてしまってな。
オラは困ったよ。
「鉛筆と帳面買ってやるから、床屋すて行くべ」
って、
なだめてな、小母さんがやってる別な床屋に行ったのよ。
嫌がるタケをようやく座らしたけども、
ジッとしてなくて、終わった時は、小母さん達も
ぐったりしてたよ。
入学式には、さっぱりした頭のタケを連れていったさ。
先生が名前を呼んでも返事しねのさ。
なんぼ呼んでも返事しね。
オラ、後ろにいて、ヤセなかった。
帰りに、
「何して、返事しね、皆して大きな声で返事してたべ」
って、聞いたのさ。
「だってさ、タケ造君で云うんだもの、オラ、君て言われことねえべ、だからさ・・」
それから、タケは、元気に学校さ行った。
帰りは何時も汚れてきてな。
川さ行ったり山さ行ったりで忙すもんだった。
タケは、中学校を卒業すると、就職列車に乗って行った。
「母ちゃん、ありがとう」
って、手を握ってな。
手あますのベロベロバーのタケがよ、
涙を流してな。
オラは、畑で思い出しては泣いてたよ。