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2026-04-23

anond:20260423184346

 こうなってくると何をいうても、直ぐそこへ持ってくるので話がゆきつまってしまう。二人の内でどちらか一人が、すこうしほんの僅かにでも押が強ければ、こんなに話がゆきつまるのではない。お互に心持は奥底まで解っているのだから吉野紙を突破るほどにも力がありさえすれば、話の一歩を進めてお互に明放してしまうことが出来るのであるしかしながら真底からおぼこな二人は、その吉野紙を破るほどの押がないのである。またここで話の皮を切ってしまわねばならぬと云う様な、はっきりした意識も勿論ないのだ。言わば未まだ取止めのない卵的の恋であるから、少しく心の力が必要な所へくると話がゆきつまってしまうのである

 お互に自分で話し出しては自分が極りわるくなる様なことを繰返しつつ幾町かの道を歩いた。詞数こそ少なけれ、その詞の奥には二人共に無量の思いを包んで、極りがわるい感情の中には何とも云えない深き愉快を湛えて居る。それでいわゆる足も空に、いつしか田圃も通りこし、山路へ這入った。今度は民子が心を取り直したらしく鮮かな声で、

「政夫さん、もう半分道来ましてしょうか。大長柵おおながさくへは一里に遠いッて云いましたねイ」

「そうです、一里半には近いそうだが、もう半分の余来ましたろうよ。少し休みましょうか」

わたし休まなくとも、ようございますが、早速お母さんの罰があたって、薄すすきの葉でこんなに手を切りました。ちょいとこれで結わえて下さいな」

 親指の中ほどで疵きずは少しだが、血が意外に出た。僕は早速紙を裂いて結わえてやる。民子が両手を赤くしているのを見た時非常にかわいそうであった。こんな山の中で休むより、畑へ往いってから休もうというので、今度は民子を先に僕が後になって急ぐ。八時少し過ぎと思う時分に大長柵の畑へ着いた。

 十年許り前に親父おやじが未だ達者な時分、隣村の親戚からまれ余儀なく買ったのだそうで、畑が八反と山林が二町ほどここにあるのである。この辺一体に高台は皆山林でその間の柵が畑になって居る。越石こしこくを持っていると云えば、世間体はよいけど、手間ばかり掛って割に合わないといつも母が言ってる畑だ。

 三方林で囲まれ、南が開いて余所よその畑とつづいている。北が高く南が低い傾斜こうばいになっている。母の推察通り、棉は末にはなっているが、風が吹いたら溢れるかと思うほど棉はえんでいる。点々として畑中白くなっているその棉に朝日がさしていると目まぶしい様に綺麗だ。

「まアよくえんでること。今日採りにきてよい事しました」

 民子は女だけに、棉の綺麗にえんでるのを見て嬉しそうにそう云った。畑の真中ほどに桐の樹が二本繁っている。葉が落ちかけて居るけれど、十月の熱を凌しのぐには十分だ。ここへあたりの黍殻きびがらを寄せて二人が陣どる。弁当包みを枝へ釣る。天気のよいのに山路を急いだから、汗ばんで熱い。着物を一枚ずつ脱ぐ。風を懐ふところへ入れ足を展のばして休む。青ぎった空に翠みどりの松林百舌もずもどこかで鳴いている。声の響くほど山は静かなのだ天と地との間で広い畑の真ン中に二人が話をしているのである

「ほんとに民子さん、きょうというきょうは極楽の様な日ですねイ」

 顔からから汗を拭いた跡のつやつやしさ、今更に民子の横顔を見た。

「そうですねイ、わたし何だか夢の様な気がするの。今朝家うちを出る時はほんとに極りが悪くて……嫂ねえさんには変な眼つきで視られる、お増には冷かされる、私はのぼせてしまいました。政夫さんは平気でいるから憎らしかったわ」

「僕だって平気なもんですか。村の奴らに逢うのがいやだから、僕は一足先に出て銀杏の下で民さんを待っていたんでさア。それはそうと、民さん、今日はほんとに面白く遊ぼうね。僕は来月は学校へ行くんだし、今月とて十五日しかないし、二人でしみじみ話の出来る様なことはこれから先はむずかしい。あわれッぽいこと云うようだけど、二人の中も今日だけかしらと思うのよ。ねイ民さん……」

「そりゃア政夫さん、私は道々そればかり考えて来ました。私がさっきほんとに情なくなってと言ったら、政夫さんは笑っておしまいなしたけど……」

 面白く遊ぼう遊ぼう言うても、話を始めると直ぐにこうなってしまう。民子は涙を拭うた様であった。ちょうどよくそこへ馬が見えてきた。西側山路から、がさがさ笹にさわる音がして、薪たきぎをつけた馬を引いて頬冠ほおかむりの男が出て来た。よく見ると意外にも村の常吉である。この奴はいつか向うのお浜に民子を遊びに連れだしてくれと頻しきりに頼んだという奴だ。いやな野郎がきやがったなと思うていると、

「や政夫さん。コンチャどうも結構なお天気ですな。今日は御夫婦で棉採りかな。洒落しゃれてますね。アハハハハハ」

「オウ常さん、今日は駄賃かな。大変早く御精が出ますね」

「ハア吾々なんざア駄賃取りでもして適たまに一盃いっぱいやるより外に楽しみもないんですからな。民子さん、いやに見せつけますね。余あんまり罪ですぜ。アハハハハハ」

 この野郎失敬なと思ったけれど、吾々も余り威張れる身でもなし、笑いとぼけ常吉をやり過ごした。

馬鹿野郎、実に厭なやつだ。さア民さん、始めましょう。ほんとに民さん、元気をお直しよ。そんなにくよくよおしでないよ。僕は学校へ行ったて千葉もの、盆正月の外にも来ようと思えば土曜の晩かけて日曜に来られるさ……」

「ほんとに済みません。泣面なきつらなどして。あの常さんて男、何といういやな人でしょう」

 民子襷掛け僕はシャツに肩を脱いで一心に採って三時間ばかりの間に七分通り片づけてしまった。もう跡はわけがいか弁当にしようということにして桐の蔭に戻る。僕はかねて用意の水筒を持って、

「民さん、僕は水を汲くんで来ますから留守番を頼みます。帰りに『えびづる』や『あけび』をうんと土産みやげに採って来ます

「私は一人で居るのはいやだ。政夫さん、一所に連れてって下さい。さっきの様な人にでも来られたら大変ですもの

だって民さん、向うの山を一つ越して先ですよ、清水しみずのある所は。道という様な道もなくて、それこそ茨いばらや薄すすきで足が疵だらけになりますよ。水がなくちゃ弁当が食べられないから、困ったなア、民さん、待っていられるでしょう」

「政夫さん、後生から連れて行って下さい。あなたが歩ける道なら私にも歩けます。一人でここにいるのはわたしゃどうしても……」

「民さんは山へ来たら大変だだッ児になりましたネー。それじゃ一所に行きましょう」

 弁当は棉の中へ隠し、着物はてんでに着てしまって出掛ける。民子は頻りに、にこにこしている。端はたから見たならば、馬鹿馬鹿しくも見苦しくもあろうけれど、本人同志の身にとっては、そのらちもなき押問答の内にも限りなき嬉しみを感ずるのである。高くもないけど道のない所をゆくのであるから笹原を押分け樹の根につかまり、崖を攀よずる。しばしば民子の手を採って曳ひいてやる。

 近く二三日以来の二人の感情では、民子が求めるならば僕はどんなことでも拒まれない、また僕が求めるならやはりどんなことでも民子は決して拒みはしない。そういう間柄でありつつも、飽くまで臆病に飽くまで気の小さな両人ふたりは、嘗かつて一度も有意味に手などを採ったことはなかった。しかるに今日は偶然の事から屡手を採り合うに至った。這辺このへんの一種云うべからざる愉快な感情経験ある人にして初めて語ることが出来る。

「民さん、ここまでくれば、清水はあすこに見えます。これから僕が一人で行ってくるからここに待って居なさい。僕が見えて居たら居られるでしょう」

「ほんとに政夫さんの御厄介ですね……そんなにだだを言っては済まないから、ここで待ちましょう。あらア野葡萄えびづるがあった」

 僕は水を汲んでの帰りに、水筒は腰に結いつけ、あたりを少し許り探って、『あけび』四五十と野葡萄一もくさを採り、竜胆りんどうの花の美しいのを五六本見つけて帰ってきた。帰りは下りから無造作に二人で降りる。畑へ出口で僕は春蘭しゅんらんの大きいのを見つけた。

「民さん、僕は一寸『アックリ』を掘ってゆくから、この『あけび』と『えびづる』を持って行って下さい」

「『アックリ』てなにい。あらア春蘭じゃありませんか」

「民さんは町場もんですから、春蘭などと品のよいこと仰おっしゃるのです。矢切百姓なんぞは『アックリ』と申しましてね、皸あかぎれの薬に致します。ハハハハ」

「あらア口の悪いこと。政夫さんは、きょうはほんとに口が悪くなったよ」

 山の弁当と云えば、土地の者は一般に楽しみの一つとしてある。何か生理上の理由でもあるか知らんが、とにかく、山の仕事をしてやがてたべる弁当不思議うまいことは誰も云う所だ。今吾々二人は新らしき清水を汲み来り母の心を籠こめた弁当を分けつつたべるのである。興味の尋常でないは言うも愚おろかな次第だ。僕は『あけび』を好み民子は野葡萄をたべつつしばらく話をする。

 民子は笑いながら、

「政夫さんは皸の薬に『アックリ』とやらを採ってきて学校へお持ちになるの。学校で皸がきれたらおかしいでしょうね……」

 僕は真面目に、

「なアにこれはお増にやるのさ。お増はもうとうに皸を切らしているでしょう。この間も湯に這入る時にお増が火を焚たきにきて非常に皸を痛がっているから、その内に僕が山へ行ったら『アックリ』を採ってきてやると言ったのさ」

「まアあなたは親切な人ですことね……お増は蔭日向かげひなたのない憎気のない女ですから、私も仲好くしていたんですが、この頃は何となし私に突き当る様な事ばかし言って、何でもわたしを憎んでいますよ」

「アハハハ、それはお増どんが焼餅をやくのでさ。つまらんことにもすぐ焼餅を焼くのは、女の癖さ。僕がそら『アックリ』を採っていってお増にやると云えば、民さんがすぐに、まアあなたは親切な人とか何とか云うのと同じ訣わけさ」

「この人はいつのまにこんなに口がわるくなったのでしょう。何を言っても政夫さんにはかないやしない。いくらだってお増が根も底もない焼もちだ位は承知していますよ……」

「実はお増も不憫ふびんな女よ。両親があんなことになりさえせねば、奉公人とまでなるのではない。親父は戦争死ぬ、お袋はこれを嘆いたがもとでの病死、一人の兄がはずれものという訣で、とうとうあの始末。国家のために死んだ人の娘だもの、民さん、いたわってやらねばならない。あれでも民さん、あなたをば大変ほめているよ。意地曲りの嫂にこきつかわれるのだから一層かわいそうでさ」

「そりゃ政夫さん私もそう思って居ますさ。お母さんもよくそうおっしゃいました。つまらないものですけど何とかかとか分けてやってますが、また政夫さんの様に情深くされると……」

 民子は云いさしてまた話を詰らしたが、桐の葉に包んで置いた竜胆の花を手に採って、急に話を転じた。

「こんな美しい花、いつ採ってお出でなして。りんどうはほんとによい花ですね。わたしりんどうがこんなに美しいとは知らなかったわ。わたし急にりんどうが好きになった。おオえエ花……」

 花好きな民子は例の癖で、色白の顔にその紫紺の花を押しつける。やがて何を思いだしてか、ひとりでにこにこ笑いだした。

「民さん、なんです、そんなにひとりで笑って」

「政夫さんはりんどうの様な人だ」

「どうして」

「さアどうしてということはないけど、政夫さんは何がなし竜胆の様な風だからさ」

 民子は言い終って顔をかくして笑った。

「民さんもよっぽど人が悪くなった。それでさっきの仇討あだうちという訣ですか。口真似なんか恐入りますナ。しかし民さんが野菊で僕が竜胆とは面白い対ですね。僕は悦よろこんでりんどうになります。それで民さんがりんどうを好きになってくれればなお嬉しい」

 二人はこんならちもなき事いうて悦んでいた。秋の日足の短さ、日はようやく傾きそめる。さアとの掛声で棉もぎにかかる。午後の分は僅であったから一時間半ばかりでもぎ終えた。何やかやそれぞれまとめて番ニョに乗せ、二人で差しあいにかつぐ。民子を先に僕が後に、とぼとぼ畑を出掛けた時は、日は早く松の梢をかぎりかけた。

 半分道も来たと思う頃は十三夜の月が、木この間まから影をさして尾花にゆらぐ風もなく、露の置くさえ見える様な夜になった。今朝は気がつかなかったが、道の西手に一段低い畑には、蕎麦そばの花が薄絹を曳き渡したように白く見える。こおろぎが寒げに鳴いているにも心とめずにはいられない。

「民さん、くたぶれたでしょう。どうせおそくなったんですから、この景色のよい所で少し休んで行きましょう」

「こんなにおそくなるなら、今少し急げばよかったに。家の人達にきっと何とか言われる。政夫さん、私はそれが心配になるわ」

「今更心配しても追おっつかないから、まア少し休みましょう。こんなに景色のよいことは滅多めったにありません。そんなに人に申訣のない様な悪いことはしないもの、民さん、心配することはないよ」

 月あかりが斜にさしこんでいる道端の松の切株に二人は腰をかけた。目の先七八間の所は木の蔭で薄暗いがそれから向うは畑一ぱいに月がさして、蕎麦の花が際きわ立って白い。

「何というえい景色でしょう。政夫さん歌とか俳句かいものをやったら、こんなとき面白いことが云えるでしょうね。私ら様な無筆でもこんな時には心配も何も忘れますもの。政夫さん、あなた歌をおやんなさいよ」

「僕は実は少しやっているけど、むずかしくて容易に出来ないのさ。山畑の蕎麦の花に月がよくて、こおろぎが鳴くなどは実にえいですなア。民さん、これから二人で歌をやりましょうか」

 お互に一つの心配を持つ身となった二人は、内に思うことが多くてかえって話は少ない。何となく覚束おぼつかない二人の行末、ここで少しく話をしたかったのだ。民子は勿論のこと、僕よりも一層話したかったに相違ないが、年の至らぬのと浮いた心のない二人は、なかなか差向いでそんな話は出来なかった。しばらくは無言でぼんやり時間を過ごすうちに、一列の雁がんが二人を促すかの様に空近く鳴いて通る。

 ようやく田圃へ降りて銀杏の木が見えた時に、二人はまた同じ様に一種感情が胸に湧いた。それは外でもない、何となく家に這入はいりづらいと言う心持である。這入りづらい訣はないと思うても、どうしても這入りづらい。躊躇ちゅうちょする暇もない、忽たちまち門前近く来てしまった。

「政夫さん……あなた先になって下さい。私極きまりわるくてしょうがないわ」

「よしとそれじゃ僕が先になろう」

 僕は頗すこぶる勇気を鼓こし殊に平気な風を装うて門を這入った。家の人達は今夕飯最中で盛んに話が湧いているらしい。庭場の雨戸は未だ開いたなりに月が軒口までさし込んでいる。僕が咳払せきばらいを一ツやって庭場へ這入ると、台所の話はにわかに止んでしまった。民子は指の先で僕の肩を撞ついた。僕も承知しているのだ、今御膳会議で二人の噂が如何いかに盛んであったか

 宵祭ではあり十三夜ではあるので、家中表座敷へ揃そろうた時、母も奥から起きてきた。母は一通り二人の余り遅かったことを咎めて深くは言わなかったけれど、常とは全く違っていた。何か思っているらしく、少しも打解けない。これまでは口には小言を言うても、心中に疑わなかったのだが、今夜は口には余り言わないが、心では十分に二人に疑いを起したに違いない。民子はいよいよ小さくなって座敷中なかへは出ない。僕は山から採ってきた、あけびや野葡萄えびづるやを沢山座敷中じゅうへ並べ立てて、暗に僕がこんな事をして居たから遅くなったのだとの意を示し無言の弁解をやっても何のききめもない。誰一人それをそうと見るものはない。今夜は何の話にも僕等二人は除のけものにされる始末で、もはや二人は全く罪あるものと黙決されてしまったのである

「お母さんがあんまり甘過ぎる。あアして居る二人を一所に山畑へやるとは目のないにもほどがある。はたでいくら心配してもお母さんがあれでは駄目だ」

 これが台所会議の決定であったらしい。母の方でもいつまで児供と思っていたが誤りで、自分が悪かったという様な考えに今夜はなったのであろう。今更二人を叱って見ても仕方がない。なに政夫を学校へ遣やってしまいさえせば仔細しさいはないと母の心はちゃんときまって居るらしく、

「政や、お前はナ十一月へ入って直ぐ学校へやる積りであったけれど、そうしてぶらぶらして居ても為にならないから、お祭が終ったら、もう学校へゆくがよい。十七日にゆくとしろ……えいか、そのつもりで小支度して置け」

 学校へゆくは固より僕の願い、十日や二十日早くとも遅くともそれに仔細はないが、この場合しかも今夜言渡いいわたしがあって見ると、二人は既に罪を犯したものと定められての仕置であるから民子は勿論僕に取ってもすこぶる心苦しい処がある。実際二人はそれほどに堕落した訣でないから、頭からそうときめられては、聊いささか妙な心持がする。さりとて弁解の出来ることでもなし、また強いことを言える資格も実は無いのである。これが一ヶ月前であったらば、それはお母さん御無理だ、学校へ行くのは望みであるけど、科とがを着せられての仕置に学校へゆけとはあんまりでしょう……などと直ぐだだを言うのであるが、今夜はそんな我儘わがままを言えるほど無邪気ではない。全くの処、恋に陥ってしまっている。

 あれほど可愛がられた一人の母に隠立てをする、何となく隔てを作って心のありたけを言い得ぬまでになっている。おのずから人前を憚はばかり、人前では殊更に二人がうとうとしく取りなす様になっている。かくまで私心わたくしごころが長じてきてどうして立派な口がきけよう。僕はただ一言いちごん、

「はア……」

 と答えたきりなんにも言わず、母の言いつけに盲従する外はなかった。

「僕は学校へ往ってしまえばそれでよいけど、民さんは跡でどうなるだろうか」

 不図ふとそう思って、そっと民子の方を見ると、お増が枝豆をあさってる後に、民子うつむいて膝の上に襷たすきをこねくりつつ沈黙している。如何にも元気のない風で夜のせいか顔色も青白く見えた。民子の風を見て僕も俄に悲しくなって泣きたくなった。涙は瞼まぶたを伝って眼が曇った。なぜ悲しくなったか理由は判然はっきりしない。ただ民子が可哀相でならなくなったのである民子と僕との楽しい関係もこの日の夜までは続かなく、十三日の昼の光と共に全く消えうせてしまった。嬉しいにつけても思いのたけは語りつくさず、憂き悲しいことについては勿論百分の一だも語りあわないで、二人の関係は闇やみの幕に這入ってしまったのである

 十四日は祭の初日でただ物せわしく日がくれた。お互に気のない風はしていても、手にせわしい仕事のあるばかりに、とにかく思い紛らすことが出来た。

 十五日と十六日とは、食事の外用事もないままに、書室へ籠こもりとおしていた。ぼんやり机にもたれたなり何をするでもなく、また二人の関係をどうしようかという様なことすらも考えてはいない。ただ民子のことが頭に充ちているばかりで、極めて単純に民子を思うている外に考えは働いて居らぬ。この二日の間に民子と三四回は逢ったけれど、話も出来ず微笑を交換する元気もなく、うら淋しい心持を互に目に訴うるのみであった。二人の心持が今少しませて居ったならば、この二日の間にも将来の事など随分話し合うことが出来たのであろうけれど、しぶとい心持などは毛ほどもなかった二人には、その場合になかなかそんな事は出来なかった。それでも僕は十六日の午後になって、何とはなしに以下のような事を巻紙へ書いて、日暮に一寸来た民子に僕が居なくなってから見てくれと云って渡した。

 朝からここへ這入ったきり、何をする気にもならない。外へ出る気にもならず、本を読む気にもならず、ただ繰返し繰返し民さんの事ばかり思って居る。民さんと一所に居れば神様に抱かれて雲にでも乗って居る様だ。僕はどうしてこんなになったんだろう。学問をせねばならない身だから学校へは行くけれど、心では民さんと離れたくない。民さんは自分の年の多いのを気にしているらしいが、僕はそんなことは何とも思わない。僕は民さんの思うとおりになるつもりですから、民さんもそう思っていて下さい。明日は早く立ちます。冬期の休みには帰ってきて民さんに逢うのを楽しみにして居ります

  十月十六日

政夫

民子

 学校へ行くとは云え、罪があって早くやられると云う境遇であるから、人の笑声話声にも一々ひがみ心が起きる。皆二人に対する嘲笑かの様に聞かれる。いっそ早く学校へ行ってしまいたくなった。決心が定まれば元気も恢復かいふくしてくる。この夜は頭も少しくさえて夕飯も心持よくたべた。学校のこと何くれとなく母と話をする。やがて寝に就いてからも、

「何だ馬鹿馬鹿しい、十五かそこらの小僧の癖に、女のことなどばかりくよくよ考えて……そうだそうだ、明朝あしたは早速学校へ行こう。民子は可哀相だけれど……もう考えまい、考えたって仕方がない、学校学校……」

 独口ひとりぐちききつつ眠りに入った様な訣であった。

 船で河から市川へ出るつもりだから、十七日の朝、小雨の降るのに、一切の持物をカバン一個ひとつにつめ込み民子とお増に送られて矢切の渡へ降りた。村の者の荷船に便乗する訣でもう船は来て居る。僕は民さんそれじゃ……と言うつもりでも咽のどがつまって声が出ない民子は僕に包を渡してからは、自分の手のやりばに困って胸を撫なでたり襟えりを撫でたりして、下ばかり向いている。眼にもつ涙をお増に見られまいとして、体を脇へそらしている、民子があわれな姿を見ては僕も涙が抑え切れなかった。民子今日を別れと思ってか、髪はさっぱりとした銀杏いちょうがえしに薄く化粧をしている。煤色すすいろと紺の細かい弁慶縞べんけいじまで、羽織も長着も同じい米沢紬よねざわつむぎに、品のよい友禅縮緬ゆうぜんちりめんの帯をしめていた。襷を掛けた民子もよかったけれど今日民子はまた一層引立って見えた。

 僕の気のせいででもあるか、民子十三日の夜からは一日ひとひ一日とやつれてきて、この日のいたいたしさ、僕は泣かずには居られなかった。虫が知らせるとでもいうのか、これが生涯の別れになろうとは、僕は勿論民子とて、よもやそうは思わなかったろうけれど、この時のつらさ悲しさは、とても他人に話しても信じてくれるものはないと思う位であった。

 尤もっと民子の思いは僕より深かったに相違ない。僕は中学校卒業するまでにも、四五年間のある体であるのに、民子は十七で今年の内にも縁談の話があって両親からそう言われれば、無造作に拒むことの出来ない身であるから、行末のことをいろいろ考えて見ると心配の多い訣である。当時の僕はそこまでは考えなかったけれど、親しく目に染しみた民子のいたいたしい姿は幾年経っても昨日の事のように眼に浮んでいるのである

 余所から見たならば、若いうちによくあるいたずらの勝手な泣面と見苦しくもあったであろうけれど、二人の身に取っては、真にあわれに悲しき別れであった。互に手を取って後来を語ることも出来ず、小雨のしょぼしょぼ降る渡場に、泣きの涙も人目を憚はばかり、一言の詞ことばもかわし得ないで永久の別れをしてしまったのである。無情の舟は流を下って早く、十分間と経たぬ内に、五町と下らぬ内に、お互の姿は雨の曇りに隔てられてしまった。物も言い得ないで、しょんぼりと悄しおれていた不憫ふびんな民さんの俤おもかげ、どうして忘れることが出来よう。民さんを思うために神の怒りに触れて即座に打殺さるる様なことがあるとても僕には民さんを思わずに居られない。年をとっての後の考えから言えば、あアもしたらこうもしたらと思わぬこともなかったけれど、当時の若い同志どうしの思慮には何らの工夫も無かったのである八百屋お七は家を焼いたらば、再度ふたたび思う人に逢われることと工夫をしたのであるが、吾々二人は妻戸一枚を忍んで開けるほどの智慧ちえも出なかった。それほどに無邪気な可憐な恋でありながら、なお親に怖おじ兄弟に憚り、他人の前にて涙も拭き得なかったのは如何に気の弱い同志であったろう。

 僕は学校へ行ってからも、とかく民子のことばかり思われて仕方がない。学校に居ってこんなことを考えてどうするものかなどと、自分自分を叱り励まして見ても何の甲斐もない。そういう詞の尻からすぐ民子のことが湧いてくる。多くの人中に居ればどうにか紛れるので、日の中はなるたけ一人で居ない様に心掛けて居た。夜になっても寝ると仕方がないから、なるたけ人中で騒いで居て疲れて寝る工夫をし

お伽草紙

太宰治


「あ、鳴つた。」

 と言つて、父はペンを置いて立ち上る。警報くらゐでは立ち上らぬのだが、高射砲が鳴り出すと、仕事をやめて、五歳の女の子に防空頭巾かぶせ、これを抱きかかへて防空壕にはひる。既に、母は二歳の男の子を背負つて壕の奥にうずくまつてゐる。

「近いやうだね。」

「ええ。どうも、この壕は窮屈で。」

「さうかね。」と父は不満さうに、「しかし、これくらゐで、ちやうどいいのだよ。あまり深いと生埋めの危険がある。」

「でも、もすこし広くしてもいいでせう。」

「うむ、まあ、さうだが、いまは土が凍つて固くなつてゐから掘るのが困難だ。そのうちに、」などあいまいな事を言つて、母をだまらせ、ラジオの防空情報に耳を澄ます

 母の苦情が一段落すると、こんどは、五歳の女の子が、もう壕から出ませう、と主張しはじめる。これをなだめる唯一の手段絵本だ。桃太郎、カチカチ山、舌切雀、瘤取り、浦島さんなど、父は子供に読んで聞かせる。

 この父は服装もまづしく、容貌も愚なるに似てゐるが、しかし、元来ただものでないのである物語創作するといふまことに奇異なる術を体得してゐる男なのだ

 ムカシ ムカシノオ話ヨ

 などと、間まの抜けたやうな妙な声で絵本を読んでやりながらも、その胸中には、またおのづから別個の物語が※(「酉+榲のつくり」、第3水準1-92-88)醸せられてゐるのである

[#改頁]

瘤取り

ムカシ ムカシノオ話ヨ

ミギノ ホホニ ジヤマツケナ

コブヲ モツテル オヂイサン

 このお爺さんは、四国阿波剣山のふもとに住んでゐたのである。(といふやうな気がするだけの事で、別に典拠があるわけではない。もともと、この瘤取りの話は、宇治拾遺物語から発してゐものらしいが、防空壕の中で、あれこれ原典を詮議する事は不可能である。この瘤取りの話に限らず、次に展開して見ようと思ふ浦島さんの話でも、まづ日本書紀にその事実がちやんと記載せられてゐるし、また万葉にも浦島を詠じた長歌があり、そのほか、丹後風土記やら本朝神仙伝などといふものに依つても、それらしいものが伝へられてゐるやうだし、また、つい最近於いては鴎外の戯曲があるし、逍遥などもこの物語舞曲にした事は無かつたかしら、とにかく、能楽歌舞伎芸者の手踊りに到るまで、この浦島さんの登場はおびただしい。私には、読んだ本をすぐ人にやつたり、また売り払つたりする癖があるので、蔵書といふやうなものは昔から持つた事が無い。それで、こんな時に、おぼろげな記憶をたよつて、むかし読んだ筈の本を捜しに歩かなければならぬはめに立ち到るのであるが、いまは、それもむづかしいだらう。私は、いま、壕の中にしやがんでゐるのである。さうして、私の膝の上には、一冊の絵本がひろげられてゐるだけなのである。私はいまは、物語の考証はあきらめて、ただ自分ひとりの空想を繰りひろげるにとどめなければならぬだらう。いや、かへつてそのはうが、活き活きして面白いお話が出来上るかも知れぬ。などと、負け惜しみに似たやうな自問自答をして、さて、その父なる奇妙の人物は、

ムカシ ムカシノオ話ヨ

 と壕の片隅に於いて絵本を読みながら、その絵本物語と全く別個の新しい物語を胸中に描き出す。)

 このお爺さんは、お酒を、とても好きなのである。酒飲みといふものは、その家庭に於いて、たいてい孤独ものである孤独から酒を飲むのか、酒を飲むから家の者たちにきらはれて自然孤独の形になるのか、それはおそらく、両の掌をぽんと撃ち合せていづれの掌が鳴つたかを決定しようとするやうな、キザな穿鑿に終るだけの事であらう。とにかく、このお爺さんは、家庭に在つては、つねに浮かぬ顔をしてゐるのである。と言つても、このお爺さんの家庭は、別に悪い家庭では無いのである。お婆さんは健在である。もはや七十歳ちかいけれども、このお婆さんは、腰もまがらず、眼許も涼しい。昔は、なかなかの美人であつたさうである若いから無口であつて、ただ、まじめに家事にいそしんでゐる。

「もう、春だねえ。桜が咲いた。」とお爺さんがはしやいでも、

「さうですか。」と興の無いやうな返辞をして、「ちよつと、どいて下さい。ここを、お掃除しまから。」と言ふ。

 お爺さんは浮かぬ顔になる。

 また、このお爺さんには息子がひとりあつて、もうすでに四十ちかくになつてゐるが、これがまた世に珍しいくらゐの品行方正、酒も飲まず煙草も吸はず、どころか、笑はず怒らず、よろこばず、ただ黙々と野良仕事、近所近辺の人々もこれを畏敬せざるはなく、阿波聖人の名が高く、妻をめとらず鬚を剃らず、ほとんど木石ではないかと疑はれるくらゐ、結局、このお爺さんの家庭は、実に立派な家庭、と言はざるを得ない種類のものであつた。

 けれども、お爺さんは、何だか浮かぬ気持である。さうして、家族の者たちに遠慮しながらも、どうしてもお酒を飲まざるを得ないやうな気持になるのであるしかし、うちで飲んでは、いつそう浮かぬ気持になるばかりであつた。お婆さんも、また息子の阿波聖人も、お爺さんがお酒を飲んだつて、別にそれを叱りはしない。お爺さんが、ちびちび晩酌をやつてゐる傍で、黙つてごはんを食べてゐる。

「時に、なんだね、」とお爺さんは少し酔つて来ると話相手が欲しくなり、つまらぬ事を言ひ出す。「いよいよ、春になつたね。燕も来た。」

 言はなくたつていい事である

 お婆さんも息子も、黙つてゐる。

「春宵一刻、価千金、か。」と、また、言はなくてもいい事を呟いてみる。

「ごちそうさまでござりました。」と阿波聖人は、ごはんをすまして、お膳に向ひうやうやしく一礼して立つ。

「そろそろ、私もごはんにしよう。」とお爺さんは、悲しげに盃を伏せる。

 うちでお酒を飲むと、たいていそんな工合ひである

アルヒ アサカラ ヨイテンキ

ヤマヘ ユキマス シバカリ

 このお爺さんの楽しみは、お天気のよい日、腰に一瓢をさげて、剣山にのぼり、たきぎを拾ひ集める事である。いい加減、たきぎ拾ひに疲れると、岩上に大あぐらをかき、えへん! と偉さうに咳ばらひを一つして、

「よい眺めぢやなう。」

 と言ひ、それから、おもむろに腰の瓢のお酒を飲む。実に、楽しさうな顔をしてゐる。うちにゐる時とは別人の観がある。ただ変らないのは、右の頬の大きい瘤くらゐのものである。この瘤は、いまから二十年ほど前、お爺さんが五十の坂を越した年の秋、右の頬がへんに暖くなつて、むずかゆく、そのうちに頬が少しづつふくらみ、撫でさすつてゐると、いよいよ大きくなつて、お爺さんは淋しさうに笑ひ、

「こりや、いい孫が出来た。」と言つたが、息子の聖人は頗るまじめに、

「頬から子供が生れる事はござりません。」と興覚めた事を言ひ、また、お婆さんも、

いのちにかかはるものではないでせうね。」と、にこりともせず一言、尋ねただけで、それ以上、その瘤に対して何の関心も示してくれない。かへつて、近所の人が、同情して、どういふわけでそんな瘤が出来たのでせうね、痛みませんか、さぞやジヤマツケでせうね、などとお見舞ひの言葉を述べる。しかし、お爺さんは、笑つてかぶりを振る。ジヤマツケどころか、お爺さんは、いまは、この瘤を本当に、自分可愛い孫のやうに思ひ、自分孤独を慰めてくれる唯一の相手として、朝起きて顔を洗ふ時にも、特別にていねいにこの瘤に清水をかけて洗ひ清めてゐるのであるけふのやうに、山でひとりで、お酒を飲んで御機嫌の時には、この瘤は殊にも、お爺さんに無くてかなはぬ恰好の話相手である。お爺さんは岩の上に大あぐらをかき、瓢のお酒を飲みながら、頬の瘤を撫で、

「なあに、こはい事なんか無いさ。遠慮には及びませぬて。人間すべからく酔ふべしぢや。まじめにも、程度がありますよ。阿波聖人とは恐れいる。お見それ申しましたよ。偉いんだつてねえ。」など、誰やらの悪口を瘤に囁き、さうして、えへん! と高く咳ばらひをするのである

ハカニ クラク ナリマシタ

カゼガ ゴウゴウ フイテキテ

メモ ザアザア フリマシタ

 春の夕立ちは、珍しい。しかし、剣山ほどの高い山に於いては、このやうな天候の異変も、しばしばあると思はなければなるまい。山は雨のために白く煙り、雉、山鳥があちこちから、ぱつぱつと飛び立つて矢のやうに早く、雨を避けようとして林の中に逃げ込む。お爺さんは、あわてず、にこにこして、

「この瘤が、雨に打たれてヒンヤリするのも悪くないわい。」

 と言ひ、なほもしばらく岩の上にあぐらをかいたまま、雨の景色を眺めてゐたが、雨はいよいよ強くなり、いつかうに止みさうにも見えないので、

「こりや、どうも、ヒンヤリしすぎて寒くなつた。」と言つて立ち上り、大きいくしやみを一つして、それから拾ひ集めた柴を背負ひ、こそこそと林の中に這入つて行く。林の中は、雨宿りの鳥獣で大混雑である

はい、ごめんよ。ちよつと、ごめんよ。」

 とお爺さんは、猿や兎や山鳩に、いちいち上機嫌で挨拶して林の奥に進み、山桜大木の根もとが広い虚うろになつてゐるのに潜り込んで、

「やあ、これはいい座敷だ。どうです、みなさんも、」と兎たちに呼びかけ、「この座敷には偉いお婆さんも聖人もゐませんから、どうか、遠慮なく、どうぞ。」などと、ひどくはしやいで、そのうちに、すうすう小さい鼾をかいて寝てしまつた。酒飲みといふものは酔つてつまらぬ事も言ふけれど、しかし、たいていは、このやうに罪の無いものである

ユフダチ ヤムノヲ マツウチニ

ツカレガ デタカ オヂイサン

イツカ グツスリ ネムリマ

オヤマハ ハレテ クモモナ

アカルイ ツキヨニ ナリマシタ

 この月は、春の下弦の月である。浅みどり、とでもいふのか、水のやうな空に、その月が浮び、林の中にも月影が、松葉のやうに一ぱいこぼれ落ちてゐる。しかし、お爺さんは、まだすやすや眠つてゐる。蝙蝠が、はたはたと木の虚うろから飛んで出た。お爺さんは、ふと眼をさまし、もう夜になつてゐるので驚き、

「これは、いけない。」

 と言ひ、すぐ眼の前に浮ぶのは、あのまじめなお婆さんの顔と、おごそかな聖人の顔で、ああ、これは、とんだ事になつた、あの人たちは未だ私を叱つた事は無いけれども、しかし、どうも、こんなにおそく帰つたのでは、どうも気まづい事になりさうだ、えい、お酒はもう無いか、と瓢を振れば、底に幽かにピチヤピチヤといふ音がする。

「あるわい。」と、にはかに勢ひづいて、一滴のこさず飲みほして、ほろりと酔ひ、「や、月が出てゐる。春宵一刻、――」などと、つまらぬ事を呟きながら木の虚うろから這ひ出ると、

オヤ ナンデセウ サワグコヱ

ミレバ フシギダ ユメデシヨカ

 といふ事になるのである

 見よ。林の奥の草原に、この世のものとも思へぬ不可思議光景が展開されてゐるのである。鬼、といふものは、どんなものだか、私は知らない。見た事が無いかである。幼少の頃から、その絵姿には、うんざりするくらゐたくさんお目にかかつて来たが、その実物に面接するの光栄には未だ浴してゐないのである。鬼にも、いろいろの種類があるらしい。××××鬼、××××鬼、などと憎むべきものを鬼と呼ぶところから見ても、これはとにかく醜悪性格を有する生き物らしいと思つてゐると、また一方に於いては、文壇鬼才何某先生の傑作、などといふ文句新聞新刊書案内欄に出てゐたりするので、まごついてしまふ。まさか、その何某先生が鬼のやうな醜悪の才能を持つてゐるといふ事実暴露し、以て世人に警告を発するつもりで、その案内欄に鬼才などといふ怪しむべき奇妙な言葉使用したのでもあるまい。甚だしきに到つては、文学の鬼、などといふ、ぶしつけな、ひどい言葉を何某先生に捧げたりしてゐて、これではいくら何でも、その何某先生も御立腹なさるだらうと思ふと、また、さうでもないらしく、その何某先生は、そんな失礼千万醜悪綽名をつけられても、まんざらでないらしく、御自身ひそかにその奇怪の称号を許容してゐるらしいといふ噂などを聞いて、迂愚の私は、いよいよ戸惑ふばかりである。あの、虎の皮のふんどしをした赤つらの、さうしてぶざいくな鉄の棒みたいなものを持つた鬼が、もろもろの芸術の神であるとは、どうしても私には考へられないのである鬼才だの、文学の鬼だのといふ難解な言葉は、あまり使用しないはうがいいのではあるまいか、とかねてから愚案してゐた次第であるが、しかし、それは私の見聞の狭い故であつて、鬼にも、いろいろの種類があるのかも知れない。このへんで、日本百科辞典でも、ちよつと覗いてみると、私もたちまち老幼婦女子の尊敬の的たる博学の士に一変して、(世の物識りといふものは、たいていそんなものである)しさいらしい顔をして、鬼に就いて縷々千万言を開陳できるのでもあらうが、生憎と私は壕の中にしやがんで、さうして膝の上には、子供絵本が一冊ひろげられてあるきりなのである。私は、ただこの絵本の絵に依つて、論断せざるを得ないのである

 見よ。林の奥の、やや広い草原に、異形の物が十数人、と言ふのか、十数匹と言ふのか、とにかく、まぎれもない虎の皮のふんどしをした、あの、赤い巨大の生き物が、円陣を作つて坐り、月下の宴のさいちゆうである

 お爺さん、はじめは、ぎよつとしたが、しかし、お酒飲みといふものは、お酒を飲んでゐない時には意気地が無くてからきし駄目でも、酔つてゐる時には、かへつて衆にすぐれて度胸のいいところなど、見せてくれるものである。お爺さんは、いまは、ほろ酔ひである。かの厳粛なるお婆さんをも、また品行方正の聖人をも、なに恐れんやといふやうなかなりの勇者になつてゐるのである。眼前の異様の風景に接して、腰を抜かすなどといふ醜態を示す事は無かつた。虚うろから出た四つ這ひの形のままで、前方の怪しい酒宴のさまを熟視し、

「気持よささうに、酔つてゐる。」とつぶやき、さうして何だか、胸の奥底から、妙なよろこばしさが湧いて出て来た。お酒飲みといふものは、よそのものたちが酔つてゐるのを見ても、一種のよろこばしさを覚えるものらしい。所謂利己主義者ではないのであらう。つまり隣家の仕合せに対して乾盃を挙げるといふやうな博愛心に似たものを持つてゐるのかも知れない。自分も酔ひたいが、隣人もまた、共に楽しく酔つてくれたら、そのよろこびは倍加するもののやうである。お爺さんだつて、知つてゐる。眼前の、その、人とも動物もつかぬ赤い巨大の生き物が、鬼といふおそろしい種族のものであるといふ事は、直覚してゐる。虎の皮のふんどし一つに依つても、それは間違ひの無い事だ。しかし、その鬼どもは、いま機嫌よく酔つてゐる。お爺さんも酔つてゐる。これは、どうしても、親和の感の起らざるを得ないところだ。お爺さんは、四つ這ひの形のままで、なほもよく月下の異様の酒宴を眺める。鬼、と言つても、この眼前の鬼どもは、××××鬼、××××鬼などの如く、佞悪の性質を有してゐ種族のものでは無く、顔こそ赤くおそろしげではあるが、ひどく陽気で無邪気な鬼のやうだ、とお爺さんは見てとつた。お爺さんのこの判定は、だいたいに於いて的中してゐた。つまり、この鬼どもは、剣山隠者とでも称すべき頗る温和な性格の鬼なのである地獄の鬼などとは、まるつきり種族が違つてゐるのである。だいいち、鉄棒などといふ物騒なものを持つてゐない。これすなはち、害心を有してゐない証拠と言つてよい。しかし、隠者とは言つても、かの竹林賢者たちのやうに、ありあまる知識をもてあまして、竹林に逃げ込んだといふやうなものでは無くて、この剣山隠者の心は甚だ愚である。仙といふ字は山の人と書かれてゐから、何でもかまはぬ、山の奥に住んでゐる人を仙人と称してよろしいといふ、ひどく簡明の学説を聞いた事があるけれども、かりにその学説に従ふなら、この剣山隠者たちも、その心いかに愚なりと雖も、仙の尊称を奏呈して然るべきものかも知れない。とにかく、いま月下の宴に打興じてゐるこの一群の赤く巨大の生き物は、鬼と呼ぶよりは、隠者または仙人呼称するはうが妥当のやうなしろものなのである。その心の愚なる事は既に言つたが、その酒宴の有様を見るに、ただ意味も無く奇声を発し、膝をたたいて大笑ひ、または立ち上つて矢鱈にはねまはり、または巨大のからだを丸くして円陣の端から端まで、ごろごろところがつて行き、それが踊りのつもりらしいのだから、その智能の程度は察するにあまりあり、芸の無い事おびただしい。この一事を以てしても、鬼才とか、文学の鬼とかい言葉は、まるで無意味ものだといふことを証明できるやうに思はれる。こんな愚かな芸無しどもが、もろもろの芸術の神であるとは、どうしても私には考へられないのである。お爺さんも、この低能の踊りには呆れた。ひとりでくすくす笑ひ、

「なんてまあ、下手な踊りだ。ひとつ、私の手踊りでも見せてあげませうかい。」とつぶやく

ヲドリノ スキナ オヂイサン

スグニ トビダシ ヲドツタラ

コブガ フラフラ ユレルノデ

トテモ ヲカシイ オモシロ

 お爺さんには、ほろ酔ひの勇気がある。なほその上、鬼どもに対し、親和の情を抱いてゐるのであるから、何の恐れるところもなく、円陣のまんなかに飛び込んで、お爺さんご自慢の阿波踊りを踊つて、

むすめ島田年寄りやかつらぢや

赤い襷に迷ふも無理やない

嫁も笠きて行かぬか来い来い

 とかい阿波俗謡をいい声で歌ふ。鬼ども、喜んだのなんの、キヤツキヤツケタケタと奇妙な声を発し、よだれやら涙やらを流して笑ひころげる。お爺さんは調子に乗つて、

大谷通れば石ばかり

笹山通れば笹ばかり

 とさらに一段と声をはり上げて歌ひつづけ、いよいよ軽妙に踊り抜く。

オニドモ タイソウ ヨロコン

ツキヨニヤ カナラズ ヤツテキテ

ヲドリ ヲドツテ ミセトクレ

ソノ ヤクソクノ オシルシ

ダイジナ モノヲ アヅカラウ

 と言ひ出し、鬼たち互ひにひそひそ小声で相談し合ひ、どうもあの頬ぺたの瘤はてかてか光つて、なみなみならぬ宝物のやうに見えるではないか、あれをあづかつて置いたら、きつとまたやつて来るに違ひない、と愚昧なる推量をして、矢庭に瘤をむしり取る。無智ではあるが、やはり永く山奥に住んでゐるおかげで、何か仙術みたいなものを覚え込んでゐたのかも知れない。何の造作も無く綺麗に瘤をむしり取つた。

 お爺さんは驚き、

「や、それは困ります。私の孫ですよ。」と言へば、鬼たち、得意さうにわつと歓声を挙げる。

アサデス ツユノ ヒカルミチ

コブヲ トラレタ オヂイサン

ツマラナサウニ ホホヲ ナデ

オヤマヲ オリテ ユキマシタ

 瘤は孤独のお爺さんにとつて、唯一の話相手だつたのだから、その瘤を取られて、お爺さんは少し淋しい。しかしまた、軽くなつた頬が朝風に撫でられるのも、悪い気持のものではない。結局まあ、損も得も無く、一長一短といふやうなところか、久しぶりで思ふぞんぶん歌つたり踊つたりしただけが得とく、といふ事になるかな? など、のんきな事を考へながら山を降りて来たら、途中で、野良へ出かける息子の聖人とばつたり出逢ふ。

「おはやうござります。」と聖人は、頬被りをとつて荘重に朝の挨拶をする。

「いやあ。」とお爺さんは、ただまごついてゐる。それだけで左右に別れる。お爺さんの瘤が一夜のうちに消失てゐるのを見てとつて、さすがの聖人も、内心すこしく驚いたのであるが、しかし、父母の容貌に就いてとやかくの批評がましい事を言ふのは、聖人の道にそむくと思ひ、気附かぬ振りして黙つて別れたのである

 家に帰るとお婆さんは、

「お帰りなさいまし。」と落ちついて言ひ、昨夜はどうしましたとか何とかいふ事はいつさい問はず、「おみおつけが冷たくなりまして、」と低くつぶやいて、お爺さんの朝食の支度をする。

「いや、冷たくてもいいさ。あたためるには及びませんよ。」とお爺さんは、やたらに遠慮して小さくかしこまり、朝食のお膳につく。お婆さんにお給仕されてごはんを食べながら、お爺さんは、昨夜の不思議出来事を知らせてやりたくて仕様が無い。しかし、お婆さんの儼然たる態度に圧倒されて、言葉が喉のあたりにひつからまつて何も言へない。うつむいて、わびしくごはんを食べてゐる。

「瘤が、しなびたやうですね。」お婆さんは、ぽつんと言つた。

「うむ。」もう何も言ひたくなかつた。

「破れて、水が出たのでせう。」とお婆さんは事も無げに言つて、澄ましてゐる。

「うむ。」

「また、水がたまつて腫れるんでせうね。」

「さうだらう。」

 結局、このお爺さんの一家於いて、瘤の事などは何の問題にもならなかつたわけである。ところが、このお爺さんの近所に、もうひとり、左の頬にジヤマツケな瘤を持つてるお爺さんがゐたのである。さうして、このお爺さんこそ、その左の頬の瘤を、本当に、ジヤマツケなものとして憎み、とかくこの瘤が私の出世のさまたげ、この瘤のため、私はどんなに人からあなどられ嘲笑せられて来た事か、と日に幾度か鏡を覗いて溜息を吐き、頬髯を長く伸ばしてその瘤を髯の中に埋没させて見えなくしてしまはうとたくらんだが、悲しい哉、瘤の頂きが白髯の四海波の間から初日出のやうにあざやかにあらはれ、かへつて天下の奇観を呈するやうになつたのである。もともとこのお爺さんの人品骨柄は、いやしく無い。体躯は堂々、鼻も大きく眼光も鋭い。言語動作は重々しく、思慮分別も十分の如くに見える。服装だつて、どうしてなかなか立派で、それに何やら学問もあるさうで、また、財産も、あのお酒飲みのお爺さんなどとは較べものにならぬくらゐどつさりあるかいふ話で、近所の人たちも皆このお爺さんに一目いちもく置いて、「旦那」あるいは「先生」などといふ尊称を奉り、何もかも結構、立派なお方ではあつたが、どうもその左の頬のジヤマツケな瘤のために、旦那は日夜、鬱々として楽しまない。このお爺さんのおかみさんは、ひどく若い。三十六歳である。そんなに Permalink | 記事への反応(0) | 18:24

2026-04-19

sora2はSNSとして盛り上がりませんでしたね。ユーザYouTubeTikTokに生成物を持ってっちゃいました。

YouTubeを崩すのにはTikTokレベルの巨大資本ドーパミン中毒性を持たねばならなかった。TikTokが台頭した今、新規アプリがつけいる隙はありません。

YouTubeTikTok(と、独自SNS)が閲覧できるアプリを作るべきです。実はTikTokリンクでとんでるだけ。でも、新規投稿したと思ったら独自SNS投稿されている、という罠を仕掛ける。

それしかない。みんなはYouTubeTikTokが見たい。そこを動かすことはできぬので、最もフロントの部分を誤魔化す。

2026-04-07

anond:20260407181936

はてな匿名ダイアリー増田)の独特な文化や、そこで吐露される「やり場のない感情」「ネット特有哀愁」を詰め込んだ校歌作成しました。

増田市立増田小学校 校歌

一、

朝日ににじむ 液晶

青い光を 目に受けて

ログインきぬ もどかしさ

言いたいけれど 言えないな

ああ 匿名(なまえ)なき 我ら

増田 増田 増田小学校

二、

誰かの愚痴に ブクマして

赤い通知に 怯えてる

釣りネタかと 疑われ

それでも誰かと 繋がりたい

ああ 低体温な 連帯

増田 増田 増田小学校

三、

いかがでしたか」と 締めくくり

ポエムを書いて 消えていく

バズった後の 虚無感と

明日(あした)を生きる 泥臭さ

ああ はてなき ダイアリー

増田 増田 増田小学校

校歌ポイント

    • 第3番: 増田文学の終わり方や、投稿した後の何とも言えない読後感を「校風」として取り入れました。

    2026-03-16

    anond:20260316165339

    高市さんを兵器化しようぜ!

    人型総理大臣兵器サナノミクス」導入に関する基本計画

    1. はじめに

    我が国今日地政学的緊張の激化という外的脅威と、国内における社会秩序の根幹を揺るがしかねない諸課題という内的脅威が複合的に絡み合う、未曾有の国難に直面している。これら複合的危機に対し、従来の延長線上にある対策では国家の存立と国民安全を確保することが困難であるとの認識が広がりつつあり、抜本的かつ断固たる解決策を求める国民要請は日増しに高まっている。

    このような状況認識に基づき、政府国家安全保障体制を飛躍的に強化し、揺るぎない行政機能継続性を担保するための革新的手段として、''人型総理大臣兵器サナノミクス」''の導入を決定した。本計画書は、当該兵器システムの導入に関する基本方針概要、及び運用計画を定めるものであり、国家百年の大計の礎石として位置づけられるものである

    2. 計画の背景と目的
    2.1. 計画策定の背景

    計画策定は、我が国が直面する内外の脅威が相互に連関し、深刻な複合危機として顕在化している現状に対する強い危機感に根差している。

    2.2. 本計画目的

    計画は、人型総理大臣兵器サナノミクス」の導入を通じて、以下の三つの国家目標を達成することを目的とする。

    3. 人型総理大臣兵器サナノミクス」の概要

    サナノミクス」は、最新鋭の兵装と革新的統治システムを融合させた、我が国独自の決戦兵器である

    3.1. 基本仕様
    項目仕様
    全高30m
    動力原子力エンジン及び太陽光発電によるハイブリッド方式
    主兵装小型戦術核ミサイルレールガン
    近接戦闘兵装パイルバンカー
    3.2. 中核システム高市総理大臣意識インストール

    兵器システムの最大の特徴は、その制御中枢に現職総理大臣である''高市総理の全意識インストール''する点にある。これにより、外部から遠隔操作AIによる判断を介さず、国家最高指導者意思が直接、兵器システムの行動に反映される。

    3.3. 公務遂行システム:「T.Sanae」3Dアバター

    本体前線での国防任務従事している間、国政が停滞することのないよう、3Dアバター「T.Sanae」が並行して稼働する。この革新的デュアルオペレーションシステムにより、政治的空白を生じさせることな国家運営継続性を完全に担保する。

    4. 導入・運用計画
    4.1. 開発・建造スケジュール
    4.2. 所要予算

    計画遂行必要となる一切の予算は、''防衛費より充当''する。

    4.3. 運用体制

    内閣危機管理監直轄の統合任務部隊として運用し、その指揮は総理大臣が直接執る。

    4.4. 公式テーマ曲の制定

    国民士気を高揚させるための広報戦略として、公式テーマ曲を制定する。

    5. 期待される効果
    5.1. 国防面における効果

    小型戦術核ミサイルを含む圧倒的な攻撃能力は、軍事的挑発を未然に抑止する絶対的な力となる。

    5.2. 内政・社会秩序面における効果

    無政府主義的思潮の蔓延に対し、「サナノミクス」の存在は強力な秩序維持機能として作用する。総理大臣の揺るぎない意思が直接具現化された本兵器存在は、社会の安定を損なういかなる企図をも抑え込む。

    6. 結語

    人型総理大臣兵器サナノミクス」の導入は、単なる防衛装備更新ではない。これは、我が国が直面する複合的危機を乗り越え、新たな時代の荒波の中で国家の自立と尊厳を堅持するための、歴史的決断である

    政府は、国家の総力を挙げて本計画を断行することを、ここに厳粛に宣言する。

    2026-03-14

    怪談行方の足裏眼(なめがたのあしうらまなこ)

    怪談行方の足裏眼

    Kwaidan: The Sole-Eyes of Namegata

    外題

    怪談行方の足裏眼

    見返し

    常陸行方怪異小篇

    附・編者註

    目次

    一 題字

    二 序

    三 本文

      (一)黑泥の地

      (二)ばばさま

      (三)若き男の來訪

      (四)見えねえ泥

      (五)夢

      (六)跡

    四 結語

    五 編者註

    六 刊記

    題字

    怪談行方の足裏眼

    常陸行方の低濕地に、足の裏をもつて泥の底のものを見る老婆ありしといふ。

    人これを笑ひて農の熟練なす者あり、また半ば恐れて妖異となす者あり。

    されど土地の人々は、ただ「ばばさま」と呼んで、久しくそのことを語りつたへた。

    この小篇は、神田神保町古書肆にて、偶然手に入れたる無署名の豆冊子をもとに、讀み下しの便を加へたるものである

    原本は和綴じ、表紙薄鼠、題簽すでに半ば剝がれ、奧付なく、印刷の年を詳らかにせぬ。

    文體は舊き譯文めき、しか土地の語りをそのまま活かしたる箇所少なからず、いづれの人の筆になるかを知り得ない。

    されど、その粗朴なる筆の運びのうちに、常陸の濕地と黑泥との氣配、また農の技と怪異との境目の曖昧さが、いかにも得も言はれぬ迫力をもつて記されゐることに、私はひそかに心を惹かれた。

    世には、水に關する怪談多し。

    河童あり、沼の主あり、また足を引くもの、名を呼ぶもの、影のみ通るもの等、數へあぐれば際限なし。

    されど泥に關する怪談は、存外少い。

    泥は水のやうに光を返さず、火のやうに姿を變へず、ただ默して重く、人の足もとを知るのみである

    ゆゑにこそ、その底に棲むものは、想像のうちにすら形を結びにくい。

    本篇に現はるる老婆も、さだめてその類であらう。

    妖怪といふべきか、熟練者といふべきか。

    あるひはその兩つは、もとより別なるものではないのかもしれぬ。

    以下に載するところ、多少の字句は改めたれど、趣意はおほむね原本のままに從つた。

    本文

    (一)黑泥の地

    人の恐怖よりもなほ深き黑泥の中に蓮の育つ常陸の低濕地には、かつて足の裏をもつものを見る老婆が住んでゐたといはれる。

    その地は、夏にあつては水いまだ温まず、冬にあつては風ことに骨を透す。

    見渡すかぎり蓮田つゞき、ところどころに細き水路ありて、葦の葉はひそかに鳴る。

    旅人の眼には、ただ平らにして寂しき一帶と映るのみなれど、土地の人々は、その泥の下に、見ゆるより多くのもの潛むことを知つてゐる。

    (二)ばばさま

    この老婆の名を、今これを記す者は知ることができぬ

    村の者もただ「ばばさま」とのみ呼びて、そのほかの名を口にせぬゆゑである

    あるひは久しく人に忘れられたるか、あるひは初めより、そのやうなもの必要なかりしやもしれぬ。

    いづれにしても、彼女はただ、蓮田の中に立つ一つの古き姿として記憶されてゐる。

    その背は小さく、顏の皺は深く、眼は濁りて、遠きものを見る力はすでに衰へてゐたといふ。

    されど、こと蓮根を掘る折にかぎり、彼女は誰よりも確かに、誰よりも速く、泥の底にある實りのありかを知つた。

    彼女は長き胴長を履き、朝まだきより泥の中に入り、しばしば身じろぎもせず立ちつくしたのち、

    「ここだ」

    と低く言つて、そこへ手を差し入れるのであつた。

    すると必ず、太く、折れの少い、見事な蓮根が引き上げられたといふ。

    若き者らは、はじめ、その技をただ年季のしわざと思うた。

    老いたる者らは、年季のみではあるまいと考へた。

    彼らは笑ひつゝも、彼女の足もとを見た。

    なぜなら、老婆は泥の中を歩むにあたり、眼で見る者のやうには進まず、むしろ足の裏にて地の氣配を探るごとく、きはめて靜かに、かつためらひなく足を運んだからである

    (三)若き男の來訪

    ある年の秋、稻の刈り取りもほゞ終り、空の色の急に薄くなりはじめた頃、他所より一人の若き男がその村へ來た。

    郡の役所に勤める書記であつたとも、測量の手傳ひをする者であつたともいふ。

    いづれにせよ、その男土地の理に暗く、しかも珍しき話を好む性質であつた。

    宿の主人より老婆のことを聞き、

    「足の裏でものを見るとは、いかにも田舍びたる迷信にすぎぬ」

    と言つて笑つたが、翌朝にはもう、その蓮田へ出かけて行つた。

    朝靄はまだ水の上に低く殘り、蓮の枯葉はところどころ黑ずみて、風もなく、鳥の聲もなかつた。

    男は畦に立ち、しばらく老婆の仕事ぶりを眺めた。

    老婆は彼の來たるを知りながら、振り向きもせず、ただ泥の中に佇んでゐた。

    やがて彼女は、片足をわづかに沈め、次にもう一方の足を靜かに移した。

    その樣は、歩むといふよりも、泥の下にある何ものかと相談てゐるやうであつた。

    (四)見えねえ泥

    しばらくしてから、老婆はふいに言つた。

    「そこから先へ來るでねえ。」

    男は驚き、

    「なぜだ」

    と問うた。

    老婆はなほ振り返らず、

    「見えねえ泥がある」

    と言つた。

    男にはその言葉意味が知れなかつた。

    彼の眼には、前なる泥も後ろなる泥も、同じやうに黑く、同じやうに靜かに見えたかである

    されど村の若い衆の一人が、すぐに畦の端より叫んで、

    旦那、そこは踏まねえほうがいい」

    と言つた。

    その聲には、單なる親切以上のもの、すなはち古くから傳へ聞く禁忌に觸れることを恐れる響きがあつた。

    男はなほも半信半疑であつたが、いくぶん氣味惡くなり、足を止めた。

    すると老婆は、やうやく少しだけ顏を向けた。

    その濁つた眼は、男を見たやうにも見えず、また見透したやうにも思はれた。

    そして彼女は、まるで獨り言のやうに、かう言つた。

    「泥にもよ、口を開く日つてもんがある。」

    その日の晝すぎ、村のはづれの別の蓮田で、一人の若者が膝まで泥に沈み、危ふく身を取られかけた。

    幸ひ近くにゐた者らに引き上げられて命は助かつたが、彼はあとで、

    「下からかに足首を掴まれたやうだつた」

    と、眞青な顏で語つたといふ。

    その晩、宿に戻つた男は、主人に向つて、晝間のことを語つた。

    すると主人は酒を注ぎつゝ、しばらく默つてゐたが、やがて小聲にて言つた。

    「ばばさまは、足の裏で蓮根のありかを知るだけぢやねえ。

     泥の機嫌も、人の氣配も、ときには不幸の來る道筋までも知るつて話だ。」

    男は笑はうとしたが、うまく笑ふことができなかつた。

    彼の腦裡には、朝靄の中に立つ老婆の小さき背と、泥の中へわづかに沈んでゆくその足とが、いつまでも離れなかつたかである

    (五)夢

    その夜、男は奇妙なる夢を見た。

    黑き水の上に蓮の葉の影のみ浮かび、その下に無數の白きもの蠢いてゐた。

    よく見れば、それは人の眼であつた。

    しかも、その眼はみな上を向かず、泥の底を見てゐた。

    そして、夢の中のどこかで、老婆の聲がした。

    「上ばかり見てる者ぁ、泥に喰はれつど。」

    男は叫んで目を覺ましたが、宿の部屋には月の光もなく、ただ床板の下を水の流れるやうな音だけが、しばらくやまなかつたといふ。

    (六)跡

    翌朝、男は再び蓮田へ赴いたが、老婆の姿はなかつた。

    ただ、昨夜の雨もなきに、畦の端に一つの濕りありて、その上に殘されたる足跡のみ、子供のものにも似て小さかつた。

    村の者は、ばばさまはもう奧の田へ行つたのだらうと言つた。

    されど、その年のうちに彼女を見た者は、つひに誰もなかつた。

    その後、幾年かののちにその村を過ぎたる旅人の話によれば、蓮根は例年にも增してよく太り、泥は前年より深くなつたといふ。

    また、朝霧の濃き日には、畦の向かうに小さき影の立つを見たる者ありとも傳へられる。

    しかし近づけば、そこには何もなく、ただ黑泥の面に細き波紋のみ廣がつてゐたといふ。

    されば今に至るも、行方の古き農家には、子供不用意に蓮田へ入らぬやう戒めるとき、かう言ふ者がある。

    「上ばかり見て歩ぐな。泥は足の裏で見ろ。」

    結語

    本篇の老婆は、まことに妖なりしや、または永年泥に親しみたる農婦の技が、人々の想像のうちにかく變じたるものなりしや、今となつては知るよしもない。

    思ふに、土地に深く住む者は、しだいに土地の理を身につけ、その理のいくぶんかは、外より來たる者には怪異しか見えぬ。

    水の深さを眼で測る者あれば、風の變りを肌で知る者あり。

    また泥の機嫌を足の裏で知る者のありしとて、あながち荒唐ともいふべからず。

    しかれども、人は理解し得ぬ技を見れば、やがてそれに名を與へる。

    名を與へられたる技は、つひに傳説となり、傳説はいしか怪談となる。

    かくして「足の裏をもつものを見る老婆」は、常陸の一農婦であると同時に、行方の黑泥そのもの記憶ともなつたのであらう。

    もし讀者が、秋の曇れる朝、蓮田の畦を一人歩むことあらば、みだりに足を進むることなかれ。

    泥は靜かに見えて、つねに無口なるものではない。

    ときとしてそれは口を開き、またごくまれには、人よりも先に人の行く先を知る。

    その時、もし畦の向かうに小さき影を見ても、これを呼んではならぬ。

    ただ足もとを見、心して歩むがよい。

    さもなくば、行方の黑泥は、讀者にもまた、ひそかに眼をひらくかもしれぬ。

    編者註

    一、本篇に見ゆる「行方」は、常陸南部の低濕地一帶を指すものと思はれるが、原本には郡村名の明記なし。蓮田水路・黑泥の描寫より推して、霞ヶ浦沿岸いづれかの村落を想定せしものか。

    二、「足の裏をもつものを見る」とは、文字通りの妖異を意味するよりも、泥中における農作業熟練が、口碑のうちに誇張されたるものと解することもできる。しかれども、原文の調子はこれを單なる比喩に留めず、怪異技能との中間に置かんとする意を有する。

    三、本文中の「見えねえ泥」「泥にもよ、口を開く日つてもんがある」等の語は、編者の補作にあらず、原本にほぼそのまま見ゆる。地方語の色合ひ濃きも、全體の譯文體を損はぬゆゑ、そのまま殘した。

    四、「上ばかり見て歩ぐな。泥は足の裏で見ろ。」の句は、本篇の終末に添へられたる戒めの詞なり。いかにも教訓めきてゐるが、同時に本篇の怪異日常へ引き戻す效果を有し、頗る味はふべき一句と思はれる。

    五、原本には欄外に鉛筆にて「足裏眼」と記したる書入れあり。後人の附記なるべし。題簽の缺落を補ふため、編者は便宜上これを採り、「行方の足裏眼」の題を立てた。

    六、本文の夢の場面に見ゆる「無數の白き眼」のイメージは、八雲怪談の譯文を聯想せしむるも、これを直ちに模倣と斷ずるは早計なり。むしろ大正末乃至昭和初期の地方出版に見らるゝ、怪談飜案物の一種と見るべきか。

    七、原本の紙質はきはめて粗く、活字もまた不揃ひなり。豆本として配布せられたる私家版、あるひは地方新聞附録の拔刷等の可能性を考ふれど、確證なし。

    刊記

    本書 怪談行方の足裏眼

    編者 不詳

    著者 不詳

    印所 不詳

    刊年 不詳

    令和某年仲秋

    神田神保町舊書肆藏本に據り

    假に之を寫す

    2026-03-13

    anond:20260312150956

    渋谷ハンズ(JR渋谷ハチ公口550m 徒歩7分,田園都市線A3a出口350m 徒歩4.5分)は延べ床面積6837㎡(1717m×3step×8floor).

    駒澤大学(渋谷駅南西5.5km, 各停のみ)徒歩4分地点からだと,

    家to駅4分, 構内移動3分, 電車待ち3分, 駅to駅7分, 構内移動3分, 駅出口to店4.5分…の計24.5分.

    (最初から "家to店" の1stepになってれば良いものの, 電車ユーザーはこう6stepもかかる事に疑問を抱かぬのだろうか.)

     

    1方, 西村ジョイ屋島(売場面積20300㎡, 250m×80m)は, 高松中心部から10分.

    売り場面積4100㎡の新宿店より広いとはいえ, 渋谷店でも高松西村ジョイ屋島店の「到達時間2倍でありながら売り場面積は1/3」に留まる.

    これでは, 適密と過密の双方の経験を持つ聡明高松の友人に「東京は不便」と言われても仕方なかろう.

    ホームセンターの面積あたり収益性

    日本DIYホームセンター協会2024年調査では、ホームセンターの平均 1坪当たり売上高は58.3万円/年、粗利益率は33.0%. ㎡換算で、売上は 約17.7万円/㎡/年、粗利は 約5.83万円/㎡/年、営業利益は 約0.79万円/㎡/年 .

    1方で, ㎡地価路線価ハンズ渋谷は593万円, ハンズ新宿は565万円, 西村ジョイ屋島店は4.4万円.

    実勢価格では, 741万円, 706万円, 5.5万円相当か.

    土地収益率を年5%, 渋谷新宿容積率1000%あるとしても, ㎡あたり年に 3.7万円, 3.5万円, 2750円地代の為に稼ぐ必要有.

    然し, ホムセンは平均㎡辺り年営業利益は, 0.79万円故, 標準的地代0.21万円が入ってるとしても 1.0万円/㎡・年.

    渋谷新宿で, 通常のホムセンと同等の利益を出すには, 通常のホムセンの4.5倍の売上が必要.

    なお, 渋谷ハンズ建物は,2013年賃貸借契約が終了する約10年後(2023年)に、跡地を再開発することを想定して取得されている。

    https://nfm.nikkeibp.co.jp/atcl/fb/news/20130919/632929/

    書店の面積あたり収益性

    日販の公開コラムでは、書店の売上は, 駅ビル 30.1万円/坪/月(109.5万円/㎡/年)、駅前 21.1万円/坪/月、郊外 9.0万円/坪/月。

    日販書店経営指標2024年版』では、書店店舗売上総利益率28.4%、営業利益率は0.6%.つまり駅ビル級の高効率立地でも、粗利は 約31.1万円/㎡/年、営業利益は平均 約0.66万円/㎡/年.

    ハンズ渋谷, ハンズ新宿位置では年に3.7万円, 3.5万円が地代として必要.

    1方, 宮脇書店本店, 総本店は㎡路線価が35万円,1.8万円.

    容積率600%, 200%として3650円, 560円が年に地代として必要.

    やはり, 駅ビル級平均営業利益6600円/年・㎡ に標準的地代5000円が含まれてるとしても, ハンズ渋谷, ハンズ新宿位置では, 平均的駅ビル書店の3倍売り上げる必要有.

    最大書店面積

    なお, 渋谷の最大の書店は215坪. 他の街は,東京(本物)は,池袋ジュンク堂2001坪, 丸善丸の内1750坪,紀伊国屋新宿1500坪がtop3. 4位Bookfirst新宿1090坪…▼故に,1500坪超は池袋,丸の内,新宿に出る必要があるが,そもそもから最寄りの街に出るのに片道30~67分要す.(閉店した八重洲ブックセンターは約2500坪)

    1方, 新潟駅前1600坪,鹿児島天文館1300坪(郊外車13分1500坪),高松中央商店街800坪(郊外車5分1900坪).

    総括

    地価が高まり過ぎる程に, 緑地は勿論, ホムセン書店といった陳列業種, 年19回しか試合を開催できぬ天然芝専用スタジアム, 夕焼け段々は不成立. オフィス, 対人サービス業, ホテル, マンションのみとなっていく.

    また, 旗艦店というのは人々の認知に登る為に赤字でも運営されるもの.人々の「東京旗艦店があるあのチェーン店」なる意識が弱まれば, 単独黒字必要とされよう.

    2026-03-09

    anond:20260309093112

    それはそれ

    石川五右衛門辞世の句みたいなもん

    世にくれえまぁシードは尽きぬ

    2026-03-01

    みんなーー!棋王戦第3局は藤井棋王が終盤でズッコケ増田八段が見事勝利タイトル奪取に王手をかけたよ!

    すごい!!!めでたい!!!

    さて、王将戦に続いて棋王戦までもカド番を迎えてしまった藤井聡太七冠六冠!

    七冠六冠を維持できるのか!?

    両方むしり取られて五冠四冠となってしまうのか!?

    王将戦は第5局が3月8、9日(日、月)に栃木県大田原市ホテル花月にて

    棋王戦は第4局が3月15日(日)に栃木県日光市日光きぬスパホテル三日月にておこなわれる!

    がんばれ永瀬・増田

    2026-02-28

    毎日絵の投稿するぞ

    https://jugon999.hatenablog.com/entry/2026/02/28/151048

    やめては繰り返し

    はや2年。

    うーーん。トレスぐらいしかきぬ

    模写かトレス

    同じ絵をあたりだけとって描いて

    手本と見比べて修正

    絵が上手くなるらしい。

    2026-02-25

    1 行列戦線釜玉方面

    「……これが、釜玉うどんを一つ頼めば、もう一つ釜玉うどん無料でもらえるという店か」

    ラインハルト・フォン・ローエングラム皇帝は、店先にまで伸びた行列を眺め上げた。

    ガラス越しに見える湯気と、卵と醤油香りが、皇帝黄金色の髪をわずかに揺らす。

    陛下情報に偽りはないようです」

    キルヒアイスが、貼り紙確認して報告する。

    「期間は三日間、対象釜玉うどん、または明太釜玉牛すき釜玉を一杯購入すると、並サイズ釜玉うどんが一杯無料だそうです」

    「一杯買えば一杯タダか……実質、兵力二倍というわけだな」

    ラインハルトは、ゆっくりと口角を上げた。

    宇宙統一した後に待っていたのが、うどん屋の前での行列とは、近来の名喜劇だ」

    陛下喜劇かどうかの判断は、冷めきったうどんを召し上がってからでも遅くはありません」

    オーベルシュタインが横から冷ややかに言う。

    行列の長さから推測するに、麺のコンディションが最適な状態で維持されているかどうか、疑問が残ります

    「オーベルシュタイン

    ラインハルトは振り向きもせず言った。

    「卿の能弁は認める。しかし、ここで撤退するわけにはいかぬ。吾々がこの列の後方に位置するのは、すでに不利な態勢にあるからだ。今さら退くのは、敗北を認めるに等しい」


    「……うどん行列すら戦場になるのですね、陛下は」

    ヒルガルド・フォン・マリーンドルフが、半ば呆れ、半ば微笑を隠しながらつぶやく

    ヒルダ、これは戦いというほどのものではない」

    ラインハルトは肩をすくめた。

    「ただ、弱さに甘んじる者をおれは軽蔑するだけだ。空腹に負けて諦める者も、例外ではない」


    2 戦略オペレーション

    作戦確認しよう、キルヒアイス

    ラインハルトは列の進行を一瞥しながら言う。

    はい陛下

    キルヒアイスは、まるで艦隊配置図でも広げるような声音で応じた。

    「まず、陛下が『焼きたて牛すき釜玉うどん』大を一杯ご注文になり、それに付随する形で『釜玉うどん 並』一杯を無料で獲得します」

    「私が『明太釜玉うどん』並を注文し、同様に『釜玉うどん 並』を一杯。合計四杯となります

    「……四杯、か」

    ラインハルトは軽く考え込むふりをした。

    「卿と二人で分ければ、一人二杯。宇宙統一を成し遂げた男が、うどん二杯程度で満足して良いものか?」

    陛下、さすがに麺の物理収容能力にも限界はあります

    ヒルダがたしなめる

    「無理をなさって体調を崩されては、宰相府としても困ります

    フロイライン、私は戦いたいのだ、胃袋の限界と」

    ラインハルトはわざとらしく言って、キルヒアイスを横目で見る。

    「どうせ宇宙をこの手につかむなら、手袋ごしにではなく、素手によってでありたい。うどんの熱さも、直接味わってこそだ」

    「……それは、ただ猫舌ではないと主張したいだけではありませんか、陛下

    キルヒアイスは苦笑しつつも、どこか楽しげだった。

    合理性観点から申し上げれば」

    オーベルシュタインが割り込む。

    「全員が最大サイズを頼んだのち、無料分を含めて定量的シェアするのが最も効率的です。味の好みは二の次で構いません」

    「オーベルシュタイン

    ラインハルトは振り向き、やや意地悪く笑った。

    「卿は、うどんをも“古道具”と同列に処理するつもりか?」

    不要感傷排除すれば、そうなります

    他人に何がわかる……」

    ラインハルトは小さくもらした。

    「この湯気の立ちのぼり方、麺の表面にまとわりつく卵の照り、それを見て心が動かぬ者に、宇宙覇者たる資格があるとは思えぬ」

    「……陛下

    キルヒアイスは、その言い方にどこか懐かしいものを感じていた。

    幼年学校食堂で、安いうどんを前に、同じような熱のこもったことを口にした少年を思い出しながら。

    3 庶民皇帝と番号札

    列がじわりと進み、店員行列の人数を数えながら声を張り上げる。

    本日釜玉うどん一杯購入で、釜玉うどん並が一杯無料でーす! お一人様につき、無料分は一杯まででーす!」

    「お一人様一杯、か」

    ラインハルトは眉をひそめた。

    キルヒアイス、これは一種戦術制限だな」

    はい陛下

    キルヒアイスは真面目に相づちを打つ。

    「無制限適用すれば無秩序な乱用を招きます制限を設けることで、店側は損害を抑えつつ“太っ腹”であるという印象を与えられる」


    「つまり、“追いつめる必要はない”というわけだ」

    ラインハルトは愉快そうに笑う。

    「奴ら――この店の経営陣にとって重要なのは、客に得をしていると信じこませることだ。実際にどちらが得をしているかは別問題として、な」

    経営戦略としては悪くありません」

    ヒルダが冷静に評価する。

    「値上げが続く中で、“実質半額”という印象を与えれば、顧客好感度を高めることができます

    「……ヒルダ」

    ラインハルトは、少しだけ真顔になる。

    「卿は、このうどん屋の経営も引き受けられそうだな。いずれ帝国経済の舵取りを任せる時が来たら、丸亀製麺の一店ぐらい、付録として与えてやろう」

    「そのような栄誉は遠慮いたします、陛下

    その前で、番号札を配っていた店員が、ラインハルトたちに不思議そうな視線を向けた。

    制服髪型も、銀河帝国基準ではむしろ質素な方だが、この一団から発せられる「場違いオーラ」を、庶民感覚は逃さない。

    お客様、何名様ですか?」

    宇宙……いや、四名だ」

    ラインハルトは咳払いして言い換えた。

    「では、こちらの番号札をお持ちくださーい。釜玉無料分は、お会計の際にお付けしますので」

    「……会計の時点で付ける、か」

    オーベルシュタインが小声でつぶやく

    「先に無料分を渡さないことで、途中離脱を防ぎ、かつ客単価を維持する。なかなかしたたか設計です」


    「オーベルシュタイン、卿がこの店のコンサルを買って出たら、客は皆逃げ出すだろう」

    ラインハルトは笑った。

    「“無料キャンペーンは、効率よく古道具――いや、古顧客を処理する仕組みです”などと言い放つのが目に見える」

    4 釜玉宇宙覇者

    ようやくカウンターが近づき、大鍋の湯気が顔に当たる距離になった。

    から上がったばかりの麺が、ざざっと丼に落とされる音がする。

    「次のお客様釜玉一丁あがりまーす!」

    陛下

    キルヒアイスが、少しだけ真剣な声で呼んだ。

    「本当に、大盛りになさいますか?」

    「当然だ、キルヒアイス

    ラインハルトは迷いのない声で答える。

    宇宙覇者が、並で妥協してどうする。おれは常に最大を選ぶ」

    しかし、無料分の並がもう一杯……」

    「吾に余剰胃袋なし。そこで完食せよ」

    ラインハルトは、かつて戦場で言い放った言葉を、悪びれもせずに改変した。

    「言いたいことがあれば、いずれヴァルハラ――いや、医務局で聞く」

    「……了解しました」

    キルヒアイスは苦笑を隠さなかった。

    「では、私も陛下に付き合って、明太釜玉の大を」

    ヒルダは、慎重に「釜玉うどん 並」を選んだ。

    「誰かが冷静なサイズを頼まなければ、無料分の配分が破綻しまから

    オーベルシュタインは、ほとんど無表情のまま、釜玉の「並」を短く告げる。

    「味より、データとしてのサンプル数を優先します」

    データにするな、うどんを」

    ラインハルトは受け取った丼の重さを確かめ、満足そうにうなずいた。

    湯気の向こうで、卵が麺に絡み、醤油の色がうっすらと金色を帯びる。

    「……美しいな」

    「そうですね、陛下

    キルヒアイスも、自分の丼を見下ろした。

    「たとえ、これは銀河覇権ではなく、一時の食事にすぎないとしても」

    「違う、キルヒアイス

    ラインハルトは、箸を取る手を止めた。

    宇宙を手に入れるとは、こういうことの積み重ねなのだ。誰もが腹を満たし、小さな幸福享受できる世界。それなくして、覇道に何の意味がある?」

    「……はい陛下


    ヒルダは、その言葉を聞いて少しだけ目を細めた。

    この人は、こんな行列の中でさえ、自分の覇業を語らずにはいられないのだ――それを、愛おしくも、少し危うくも思いながら。

    5 やがて冷める麺、冷めない夢

    一行がテーブルに陣取ると、周囲の客たちは、「コスプレか何かだろう」と勝手に納得し、距離を取った。

    そのおかげで、皇帝たちは思いのほか静かな“戦場”を確保できた。

    いただきます

    キルヒアイスが、箸を割った。

    その仕草は、旗艦ブリュンヒルトのブリッジで命令を発する時と同じくらい、丁寧で静かだった。

    ラインハルトも、それにならって麺をすすった。

    熱と塩気と、卵のまろやかさが一気に口内を満たす。

    「……悪くない」

    彼は短く評価した。

    庶民の味というやつだろうが、侮れぬ。これを列に並んでまで求める民草の気持ちも、理解きぬではない」

    「そうやって、民の感覚理解していかれるのは、陛下にとっても良い経験かと」

    ヒルダが言う。

    宇宙統一者が、釜玉うどん一杯の価値を知らぬようでは、“幸福時代”など訪れませんから

    平和というのはな、ヒルダ――」

    ラインハルトはふと、どこかで言った言葉を思い出し、続けようとして、やめた。

    「いや、いい。今は平和定義より、この麺の伸び具合を気にすべき時だ」

    陛下

    キルヒアイスが、少しだけ真剣な目を向ける。

    「もし、いつか本当に、誰もが行列を気にせず、好きなだけうどんを食べられるような世界を築けたなら……」

    「その時は、どうする?」

    「三人で、またどこかの店に来ましょう」

    キルヒアイスは、静かに微笑んだ。

    「姉上もご一緒に」

    ラインハルトは、箸先を止めた。

    熱いはずの釜玉が、急に、少しだけ遠く感じられる。

    「……そうだな」

    彼は、あえて軽く言った。

    「そのためにも、おれはまだ覇道を退くわけにはいかぬ。釜玉二杯で満足して、宇宙を諦めるなど、笑止千万だ」

    陛下宇宙を手に入れるまで、私は、陛下の隣で一杯目を支え続けます

    キルヒアイス言葉は、うどん屋のざわめきの中に溶けていった。

    外では、まだ新たな客が行列最後尾に加わっている。

    期間限定キャンペーンが終われば、列は消え、貼り紙撤去されるだろう。

    だが、銀河帝国皇帝ラインハルト一行が、丸亀製麺行列に並んで釜玉うどんを二杯ずつ平らげたという事実だけは、誰も知らぬまま、宇宙のどこかにひっそりと刻まれるのだった。

    宇宙を手に入れた男が、つかんだものは、

    湯気たつ一杯の釜玉うどんであった。

    歴史は、しばしば壮大な悲劇とともに語られる。

    だが、この日丸亀製麺の片隅ですすられた麺の記録は、

    年代記作者のペンをすり抜け、誰の脚注にも残らない。

    それでも、人々が静かに列に並び、

    一杯のうどんささやか幸せを見いだしていたという事実は、

    銀河のどこかで、確かに平和”と呼ばれていた。

    そして歴史家は――

    このキャンペーンが三日間で終わったことだけを、

    淡々と記すのである

    2026-02-24

    あのやられたら徹底的にやるイスラエルがわしの幸せ結婚を許すと思うか!

    一族ごと呪われるのだ!

    もう結婚などできぬ!!!

    イスラエルじゃないかもしれないけど!!

    2026-02-22

    ポケモンカードの歌 僕はポケモンカード毎日する♪毎日する♪毎日する♪ 僕はポケモンカード毎日する♪ 僕はポケモンカード毎日する(かもしれない)! ぼくはカードを引きぬいて戦って勝ち取った。さあどうだ!で生まれ変わった気持ちだ。君が今まで持っていたカードの中で最強だろう?それはつまり自身が、戦うポケモン達とそれについて愛するようになったことだ。そうだね、まあ、擲弾兵みたいなもんだ。心に感じるのは、強いな、ということだ。力強いな、って思うんだ。でも強くなろう、という力が、

    Anond AI作成

    2026-02-19

    バーミヤン来やがりましたんですよ🍑

    人生初のバーミヤンに来やがりましたんですよこの俺が😤⛲️

    この話し方は昨日マテリアルパズルを読んでアダラパタが原因なんですよ🧩

    バーミヤンに行こうと思ったきっかはえーっとほらなんとなくだ

    いや理由もなくやりたくなることなんていっぱいあるだろ?

    もう本能だよ

    本能従順忠実翻弄も重々承知って奴

    俺はさっそく近所にあるバーミヤンに行くのだった吉幾三おにぎりわっしょい🍙

    バーミヤンバーミヤンレッツゴーバーミヤン

    お店にいざ入店!🚪

    オープン・ザ・ウインドウ!🪟

    ダニ!?お好きな席にすわりくださいだって!?

    おいおいおいおいおいだまさえねえぞ

    お前それ書いたらだめじゃないのか

    お好きな席ぃ!?

    あ、あのかわいい女の子がいる席とかに座っちゃえるの!?

    なわけねーだろ!(田中aa

    わかってるわかってる俺はわかってるんだ

    でもこのご時世さぁわかるだろ!?

    そうだろ!松ッ!たかこ!

    こうして俺は普通に一般的な席に座るんだった

    座る前に気づいたが未来世界の猫型ロボットがいっぱい動いてて驚いた🐈‍⬛🤖

    こんなにおるんか!?🐈‍⬛🤖🐈‍⬛🤖

    注文はタブレット

    えーじゃあ何頼んじゃおっかなー!?

    やっぱ桃かな!?!?

    あっ桃ないのか!?

    あれ!?

    バーミヤンってフルーツの店じゃないんか!?

    だって看板ももじゃんもも!🍑

    ピーチだよぴちぴちぴっちマーメイドじゃねー!🧜‍♀️

    なんちゅうことだ!

    中華系だったのか!!!

    まじかよ!100万円って書いてる貯金箱売ってくる!

    えーじゃあどうするかなーたぬかなーはしもとかんなー

    すっかり桃を食う気分だったが俺は3秒で切り替えせるんだ⚽️🪽🌏

    よし!レタスチャーハン!君に決めた!🍚🥬🥚

    あとドリンクバーもつけた!🥤

    !?スープバーつきなのか!スープ🍲

    いいじゃんいいじゃんすげーじゃん!

    おーーーーし!ドリンクバーいくぞ!

    あっ桃ドリンクってあるじゃーーん!

    なんだよなんだよ!

    これだっつーの俺が期待してたのは!🍑

    よーしガッツリ飲むぞ!🥤

    ん?

    なんだこの小さい文?

    ん?

    果汁3%

    ・・・・・・!?

    なんだよもおおおおおおおおお!

    そこは果汁100パーセント中の100パーセント

    勇気100パーセントいちご100パーセント

    桃100ぱーせんじゃないのかあああああああ!

    俺は北大路さつき派だっつーの!!

    バッキャロー!!

    ふぅもう席に戻るぞ

    未来世界の猫型ロボットが運んできた

    レタスチャーハン

    うむありがとう

    俺はロボットにも感謝する男

    あ、スープ取り忘れたいっけねー⭐️

    うしこれで完璧

    レタスチャーハン実食ウーウウーウウーちょこらーんたん!

    もぐっこれは美味ィ!

    米の食感と甘みと油っこさと卵がビューティフルにくっついている濃厚さがある!

    美味ぃ!炒飯スプーンでがっつきたくなる!

    でも俺は大人なので下品なことはできぬ風立ちぬ

    ゆっくりスプーンチャーハンをかっさらって正確無比に食すううぬううん!美味ぃ!

    やはりちゃんとした米はうまあい

    米がたかあい

    値下がらなああい

    バーミヤンきてよかったよー!!

    え?桃ドリンク

    甘い!甘い!微妙に桃っぽさがある!

    でも一杯でいいよもう!

    レタスチャーハンがうまかった満足!!

    あーーきてよかったあ

    客層?

    なんかじいさんばあさんばっかりいたぞ?

    なんでだろうな?

    わからん

    いやーよかった

    会計は1098円

    むーん

    今時はこんくらいだよな外食って

    おしまい

    2026-02-17

    anond:20260217185951

    遠く見れば、朝日の如き古きメディア、
集英社東洋経済末裔ども、
高市政権の風に抗いて、
中道の旗を掲げしを、
「現実路線の試み」「新しい政治のかたち」と、
高らかに擁護せしこと、
いと驕慢なりき。
社会学者の士ら、
「中道は偏りなく、健全なる対抗軸なり」と、
民衆選択蔑ろにし、
自民投票者を「軽薄」「愚民」「ポピュリズムに流されし者」と、
嘲笑言葉を吐き散らしぬ。

    されど、有権者の心、
高市人気の波に乗り、
自民三百十六議席の大勝を選びしを、
メディアの士ども、「ふわっとした個人的人気だけ」と、
現実を覆い隠さんとするも、
ネットの世に於いて、
「国民馬鹿にしていませんか?」と、
嘲笑の嵐を呼び起こし、
人心の離反を招きぬ。
知識人擁護、
リベラル層の苛立ちを装へども、
選挙果実、
中道惨敗如実に現れ、
己の遊離を晒しぬ。

    嗚呼、
オールドメディアの栄華、知識人の驕り、
民衆選択愚民と蔑む末路、
因果応報の輪に囚われ、
静かにみゆくのみなりけり。

    2026-02-15

    孤独って自律の完成形だから

    anond:20260215215420

    「人は支え合う生き物」という言葉を聞いたことがあるはず。

    しかし、恋人いたこともなく友達もいない、たった一人で生きている、となると

    あいつスゴ」

    となる。

    自律を極めた形が孤独なのよ。

    最後まで一人で生きぬくってなかなか出来ない。

    2026-02-03

    anond:20260203143514

    羅生門のおうた

    以下は、芥川龍之介の「羅生門」のお話を基に、もっと長くした幼児向けのおうたバージョンだよ! 暗いところはみんなががんばる楽しいお話に変えて、歌いやすリズムにしていますメロディーは「むすんでひらいて」のようなシンプルものイメージしてね。みんなでうたおう

    らしょうもんの ながいおうた(1番)
    あめふりふり よるのなか
    らしょうもんの下で かくれんぼ
    おにいさんが あめをよけて
    おうちがないよ さむいよー (2番)
    はしごみつけた あかいはしご
    のぼってみよう 上へいこう
    ねこみたいに しずかにのぼる
    上には なにが いるかな? (3番)
    おばあさんが ひかりもって

    おともだちの かみぬきぬ

    かずらつくって あそぼうよ

    みんな げんきに いきるため (4番)

    おにいさん びっくりした

    おばあさんを つかまえて

    「なにやってるの? おしえてよ」

    おばあさん こわがったよ (5番)

    おばあさん いってくれた

    「かみぬいて かずらにするの

    みんな たべものが ないとき

    がんばって いきるんだよ」 (6番)

    むかしのへびの おはなしも

    さかなみたいに うってたよ

    みんな いきるために

    がんばるんだ えらいねー (7番)

    おにいさん わかったよ

    でもきものを もらっちゃった

    おばあさん ころんとした

    おにいさん はしごくだる (8番)

    おばあさん 下をのぞく

    よるのなか くろくろよる

    おにいさん どこへいった?

    みんな あしたは げんきだよ! (リフレイン

    らしょうもん らしょうもん

    あめふりふり よるのなか

    みんながんばる おともだち

    えがおでうたおう わーいわーい! このおうたは、みんなががんばるお話だよ。長いバージョンから、おうちの人といっしょにうたってみてね!

    2026-01-26

    「房総の太巻き祭りずし」

    房総の太巻き祭りずし:その「戦力」の全貌

    フン、たか寿司だと侮るな。これは千葉県……いや、かつての安房上総下総の民が、冠婚葬祭という「戦場」を生き抜くために編み出した、究極の糧食なのだ

    1. 圧倒的な「ビジュアル」の威力

    見ろ、この切り口を! ただの海苔巻きではない。金太郎飴のように、どこを切っても「花」や「文字」、あるいは「動物」の図柄が現れる。これはもはや、精密誘導ミサイル回路図にも匹敵する設計図がなければ成し得ん技だ。 山茶花牡丹、あるいは祝賀の文字……。これらを一巻のなかに収めるその構成力。連邦モビルスーツ逆立ちしたって、これほど美しい断面は作れまい!

    2. 「地の利」を活かした物資調達

    房総は豊かな土地だ。米は当然、千葉の広大な大地が育んだ一級品。そして彩りを添えるのは、地元の山海の幸だ。

    牛蒡やかんぴょう: これらは「芯」としての強度を保つ。

    厚焼き玉子海苔の代わりに外側を包むこともある。この黄金の装甲はどうだ!まるで百式のようではないか(あちらはまだ先の話だがな!)。

    桜でんぶ野沢菜: 桃色と緑。このコントラストが、見る者の戦意……いや、食欲を削ぐどころか、極限まで高めるのだ!

    戦術考察:なぜ「祭り」なのか?

    貴様、なぜこれが「祭りずし」と呼ばれているか考えたことはあるか? かつて、房総の農村部では、冠婚葬祭地域の集まりこそが最大の「会戦」だった。限られた物資の中で、いかに客人を驚かせ、もてなすか。その精神が、この複雑怪奇文様を生み出したのだ。

    「一巻で戦局を変える」

    これだ。これこそが指揮官視点だ。大皿に盛られた太巻きが、卓上という戦場の中心に鎮座する。その存在感だけで、宴の勝利約束されたも同然。 いいか、ただ腹を満たすだけなら、握り飯で十分だ。だが、この太巻き「心」を揺さぶる。敵(客人)の度肝を抜き、味方の士気鼓舞する。これぞ、究極の心理戦だとは思わんか!

    製作工程:それはまさに「モビルスーツの組立」だ

    この太巻きを作る工程を私は見たが……驚愕した。 まず、パーツを作る。小さな細巻きをいくつも作り、それを大きな海苔の上に配置していく。 「そこだ! 桜でんぶのパーツを右に3ミリ!」 「かんぴょうの軸をセンターに合わせろ!」 まさに、ドム12機、正確にフォーメーションに配置するような精密作業だ。

    もし配置を1ミリでも誤れば、切り出した時に形が崩れる。それはすなわち、実戦における機体バランス崩壊意味する。房総の母たちは、計算尺コンピュータも使わずに、その指先の感覚だけでこの完璧フォーメーションを完成させるのだ。 「私を誰だと思っている! 12機のドムを……いや、12切れの太巻きを、たった3分で並べてみせろ!」

    結論:食してみろ、この「誇り」を!

    味はどうかって? 聞くまでもない。 甘めの酢飯と、でんぶの甘み、そして香ばしい海苔の風味が口の中で爆発する。まさに「サイド6」の平穏と「ソロモン」の激動が共存するような、奥深い味わいだ。

    現代若造どもは、手軽なファストフードばかりに現(うつつ)を抜かしおって。この太巻き祭りずしには、房総の歴史伝統、そして「もてなし」という名の重圧を跳ね除けてきた意地が詰まっているのだ。

    いか、この太巻きは、千葉県民が次世代に引き継ぐべき「最終兵器」だ。この美しさを理解きぬ者に、戦場を語る資格はない!

    ……フン、喋りすぎた。喉が渇いたな。 おい、誰か! この私に、その「山茶花」の柄の太巻きを持ってこい! それと、醤油だ。醤油野田千葉のものに限るぞ。

    「見ろ! 断面が花のようだ! 素晴らしい……、全機、突撃(実食)せよ!」

    いかがだ。

    2026-01-17

    やっぱりどう森の背景は京都

    ケイトが修業を終えて地元に帰って三姉妹店舗を立ち上げたという話からしたら きぬえと姉さんはごりごりの京都弁だし

    2026-01-16

    歯医者インプラント看板黄色ベースが多い中で元祖きぬ歯科が既に黄色ベースじゃなくなってる件

    dorawiiより

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    2026-01-06

    腹が減っているとはケダモノであるということ

    衣食が足りてない

    脳内神経伝達物質が不足、バランス悪い

    これはもう人間らしいとは言えない

    腹が減ってはクリエイティブはできぬ

    2025-12-22

    なぜロケット打ち上げに失敗したのか?

    現場が怠けてるからだろ

    休日返上で働いて働いて働きぬ

    次失敗したら給料一年返還しろ穀潰し

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