村野瀬玲奈の秘書課広報室

小平義雄(1905～1949　おだいら・よしお)死刑囚は戦後食糧難で苦しむ人々が多い中，「いい買い出し先がある，案内しよう」と言って若い女性を誘い，強姦・殺害しました。被害者は15歳から20歳までで，分かっているだけで10人にのぼりました。19歳のときに海軍に志願し横須賀海兵団に入りました。横須賀の売春婦をはじめ，寄港地で娼婦を買い続けました。1929年の山東出兵，済南事件で海軍陸戦隊員として参加し，日常的に中国人女性を強姦し，強盗を行いました。
　逮捕後はこのように言ったそうです。「強盗，強姦は日本軍の十八番，女たちは安い米があると聞けばついてきた」「女は殺さなければ言うことをきかない，殺してからゆっくり楽しんでやろう」「中国では俺より悪いことをした人間はたくさんいた。だが今現在俺より悪いやつはいない」。

　日本の刑法では占領地での強盗・強姦は禁じられていましたが，これを遵守して処罰された例はほとんどありませんでした。小平死刑囚は戦場で知った強姦の味を忘れられず，そのまま敗戦後も若い日本人女性を加害の対象としました。罰せられたことがないので，このような犯罪は逮捕されるまで続きます。小平死刑囚はまれに見る絶倫者だったようですが，被害にあわれた女性たちは気の毒でしかありません。命をつなぐために食料を求めて騙され，殺害され，性的被害を受けたのですから。

2022年11月18日，新潟地方裁判所は2014年1月に発生した新発田市女性連れ去り殺害事件について，喜納尚吾被告に無期懲役の判決を下しました。そもそも喜納被告は2件の強姦事件，1件の強姦致死事件，1件のわいせつ略取未遂事件で2018年に無期懲役が確定していて岐阜刑務所に収容されている中，あらためて殺人事件の被告として呼び出されました。被害者が遺体で発見されたときの状況からして自殺はありえません。喜納被告については被害者の車のハンドルに付着していた混合DNAと地元住民から目撃されたことが証拠となっています。喜納被告は事件にはまったく関与していないとしていますが，罪を免れたいとする有責者としてはありがちなことだと思います。しかしながら裁判で挙げられた証拠が合理的な疑いを超える程度まで明確に殺人の事実を立証できたかどうか私は疑問に思っています。検察は第一審を不服（死刑を求刑していました）として控訴しました。喜納被告も異常に性欲が強く，また釈放される機会があれば強姦を繰り返すでしょう。すでに沖縄では執行猶予中に強姦をした事実がありますから。

2022年11月29日，東京都立大学の八王子キャンパスにおいて同大学教授の宮台真司さんが何者かに首を刺され重傷を負いました。宮台さんが言っていたのですが，自分が習ったのは刑事裁判とは被告を裁くのではなく検察を裁くものである，ということだったそうです。つまり裁判官を真底納得できる犯罪事実を立証できなければ検察が負けるということです。これは大事なことだと思います。森雅子が法務大臣にときにゴーン被告に対して無罪を証明しろ，と言いました。司法試験に合格し弁護士資格のある法務大臣が刑事事件の鉄則をなぜ知らなかったのでしょうか。

　コロンビアのシエラ・ネバダ・デ・サンタ・マリアのコギ族では，2，3人の既婚婦人が畑や街道の脇で待ち伏せし，通りがかった男を強姦する事件がよく起こるそうです。台湾山岳地帯のセデク族の女も以前は時折，中でも格別淫らな者が数人徒党を組み，郊外の荒れ野で男に襲いかかったと言われています。
　カスカ族では，ひときわ力強い女が男を襲い，後ろから地面に投げつけて彼の上に馬乗りになると情報提供者は報告しました。ネパール北西部のタカリ族の男たちは，チベット女性の集団暴行の被害者になる話をするのが好きなのだそうです。チベットの女性は攻撃的な性を好むとの評判が高く，そのような振る舞いはタカリ族では普通の女性はせず，魔女だけがするとされています。
　18世紀の初め，オランダの旅行者は黄金海岸の内陸部に住む女性たちは，とても情熱的で若者を一人で手に入れられれば，その陰部をむき出しにして彼の上にわが身を投げかける，と報告しました。ズニ族では女性に強姦されるのではないかと男たちが心配する話がたくさんあるそうです。古代神話でもセイレンやスフィンクスのように力ずくで男に馬乗りになり，精液を絞り出す女性はいっぱい出てきます。
　1408年に成立したジャン・ド・ペリーの時祷書で隠者パウロは，悪魔のような女が縛られて抵抗できない男の男根を刺激しているのを見てショックを受けたそうです。
　裁判記録の中にも，1703年バンベルグ領内でちんぴらに感情を害された若い乙女が彼を地面に投げつけ強制猥褻に及んだこと，17世紀初頭の英国で女たちによる男の強姦事件が残されているそうです。1635年には酒場の女中による男への強姦未遂事件も起きています。
　1970年代後半の北米ではテキサス州とニューハンプシャー州を筆頭に女性が強姦の廉で判決が下される可能性がありました。ワイオミングでは一人の若者が6人の女性集団から強姦され，恥ずかしさのあまりほどなくして自殺しました。33歳のホモセクシュアルの男は，ある女性に強姦された後で言いました。「私は暴行されたと感じた。恐怖で言葉も出ず，頭がほとんど働かなくなった」と。大柄で腕力もあるトラックの運転手が女性集団に強姦されました。彼は決して届け出ませんでした。＜女に強姦された男のくずだ＞と世間から言われるのを確信していたからです。他の大勢の被害者同様に彼も長い間性的不能になりました。

　以上は「性と暴力の文化史」（ハンス・ペーター・デュル/法政大学出版局）から一部引用しました。

　日本では，強姦罪は2017年の刑法の一部改正により，強制性交等罪に変わりました。このことによって肛門性交，口腔性交も同罪の処罰対象になったので，被害者が男性の場合であっても同罪は成立します。逆に言えば，刑法改正前は意に反した肛門性交は強制猥褻でしか処罰できませんでした。強姦罪は親告罪でしたが，強制性交等罪は親告罪ではなくなりました。