村野瀬玲奈の秘書課広報室

＞日本によるアジア諸国、アジア諸国民への加害を忘れることは、日本人による反戦の意思が表面的なニセモノであることの証明になると思っています。

　仰る通りです。この時期に「反戦平和」を訴える声は高まるのですが、加害責任に対する自覚や反省の声はほとんど聞かれなくなってしまいました。保守反動メディアはもちろん、リベラルと言われるメディアも多くは似たり寄ったりです(例えば朝日新聞の15日の社説には日本が傷つけた地域や人々に対する謝罪や加害行為への反省の弁は皆無だった)。まさに「日本人の反戦の意思が表面的なニセモノ」であることを露呈しています。ニセモノの反戦では簡単に体のいい主戦の意思に流されてしまうでしょう。

　慰安婦問題に関してももはや被害者に寄り添う向きは主流メディアではほぼ皆無であり、「国家間の外交問題」に矮小化され、しかも日本が被害者みたいな描き方です。昨日の「慰安婦」メモリアルデーに関しても、韓国の大統領がメッセージを送らなかったことを好意的に見るメディアが多く、本当に見下げ果てた状態です。

最近の報道を見ると、自分たちが空襲や原爆で痛い目に遭ったから戦争はいけないことだ、平和が大切だということを言って、なぜ、そのような状況に至ったのが、アジア諸国に対して日本は何を行ったのかという視点がすっぽりと欠落しています。
それどころか、日本は植民地に対して良いことをしたとか、欧米など他の国に比べてやったことがましで悪くないとまで言う人もいますので、あきれてしまいます。
韓国や中国に対して誤り続ける必要はないというのはまだしも、従軍慰安婦や強制労働など、あったことを無かったというのは許すことができません。
数年前に韓国の日本文学者、朴裕河が「帝国の慰安婦」を出版したとき、日本の知識人（リベラルと目される者も含めて）が、こぞって賛同しました。内容は、従軍慰安婦については日本軍に責任はなく、あったとしても小さく、それよりも韓国にあった家父長的な社会状況に要因があったとするものでした。内容は自分の主張に合うよう都合よく数々の歴史書から引用して、矛盾だらけのものです。
これにより、「ほら見ろ。韓国人でさえ従軍慰安婦というものはなかった、日本に責任はなかった。と言っているではないか。」と引用する者が出てきました。
しかし、100歩譲ってそのような状況があったとしても、日本軍はそのような状況を利用したのです。組織的に関与したという証拠となる文書もあります。
元日本軍人の証言や従軍慰安婦をさせられていた女性の証言もあります。
だいぶ前に見たTBSの報道特集で見た日本軍人の証言で今でも印象に残っているのは、「戦争が終わって引き上げるときに慰安婦たちもいっしょに船に乗っていた。しかし、生きて帰らせたら彼女たちが実際にひどい目に遭ったり経験したことを語られたら日本にとって都合が悪いから」と、慰安婦だった女性を一人残らず船から海に突き落として溺れさせて殺した。」と言っていたことです。このような残酷なことが実際にあったのです。
本当に、事実が忘れられ歪められたり無かったことにされるのは納得がいかないです。

　家父長制意識が残っている韓国で，金学順さんが名乗り出るのは簡単なことではなく，長い時間がかかりました。それを可能にしたのは，「今まで生きていてくださってありがとうございます。とてもつらいことでしょうが，お話を聞かせてください」という韓国の女性たちの働きがあったからでした。

　従軍慰安婦を否定する日本の右派は，「あれは売春婦だ」「金をもらった合法的なことだ」と言い張りました。それが世界で通用しなくなると，朴裕河（パク・ユハ）が「帝国の慰安婦」を著し，「慰安婦たちは愛国だった」「日本軍兵士を慰めた貴重な存在だった」としたことで，日本のリベラル派を含めて大きな賞賛を得ました。朴裕河は挺対協を徹底的に攻撃しました。

　8月15日は終戦記念日とされています（私はミズーリ号で調印した9月2日こそが終戦の日だと理解しています。8月15日はただ玉音放送があった日と理解）が，マスコミではほとんど取り上げられないものの，千鳥ヶ淵戦没者墓苑でも集会が行われています。
　
　戦後77年の2022年8月15日早朝，今年も東京都千代田区の千鳥ヶ淵戦没者墓苑で「8・15平和祈祷会」（同実行員会主催）が開催されました。長尾有起さん（日基教団・千代田教会牧師）がルカによる福音書10章25～37節の善いサマリア人のたとえ話（新共同訳）から「わたしの隣人」と題して説教しました。
　長尾さんは2015年から７年間，韓国のミッションフォーワーカー（宣教師）として活動。韓国のこども賛美歌「ウリエイウッソン（私たちの隣人）」を紹介しつつ，「追いはぎに襲われた人の隣人とは誰か，どうしたら隣人になれるか」と問いました。「日本はアジアの国々を侵略し、あまりに多くのものを奪ってきました。朝鮮半島の人々からは大地，言葉，名前を奪い，性を蹂躙（じゅうりん）し，命を奪い，あらゆる方法で人間の尊厳を奪ってきました。77年前に戦争は終わりましたが，私たち日本人は，奪ってきたものをいまだに返せずにいます」「私たちはサマリア人どころか，見て見ぬふりをする祭司，レビ人ですらなく，追いはぎと言わなければなりません。追いはぎが他者の痛みに共感するのは滑稽（こっけい）ですが，せめて自分がしたことは自分の事として反省すべきです。追いはぎが信じてもらえるためには，血の滲（にじ）む努力が必要だです」と。
　説教後，参加者全員で「ウリエイウッソン」を日本語，韓国語で賛美したとのことです。

　敗戦時に，多くの日本人女性が北朝鮮や満洲でソ連兵から性暴力を受けたことを忘れてはいけないと思います。そうであるからと言って,従軍慰安婦問題を相対化したり，秤にかけるつもりはありません。

　1946年春，北朝鮮や満州からの引き揚げ者を乗せて福岡県博多港に向かう船の中では「不幸なる御婦人方へ至急御注意！」という呼びかけで始まるビラが乗船者に配られました。その内容は，

　「皆さんここまで御引き揚げになれば，この船は懐かしき母国の船でありますから先ず御安心ください。さて，今日まで数々の嫌な思い出もおありでしょうが，ここで一度顧みられて，万一これまでに『生きんが為に』又『故国へ還らんが為に』心ならずも不法な暴力と脅迫により身を傷つけられたり，又はその為身体に異常を感じつつある方には再生の祖国日本上陸の後，速やかにその憂悶に終止符を打ち，希望の出発点を立てられる為に乗船の船医へこれまでも経過を内密に忌憚なく打ち明けられて相談して下さい」

　というものでした。
　ビラを配ったのは南朝鮮にあった京城帝国大学医学部の医師たちでした。ある医学部講師に博多港の埠頭で船から降りてきた若い女性が「先生！」と駆け寄ってきました。彼女は京城女子師範学校で講師から教えを受けた一人だと名乗りました。間もなく彼女の両親が訪ねてきて，小学校教師として赴任していた北朝鮮で，ソ連兵の度重なる乱暴を受け妊娠したとのことでした。これとは別に引き揚げ船が日本に近くなると，思いあまって海に飛び込んだ女性もいたことを聞いていました。彼女たちをどうやって救おうか，考え詰めた医師たちは，ひそかに中絶手術を施して故郷に帰そうと考えました。当時は重大疾患のないかぎり，人工妊娠中絶は堕胎罪に問われ懲役6月以上7年以下で，医師免許が剥奪される危険もありました。
　医師からの提案を受けた博多引揚援護局は福岡県と交渉して筑紫野市の二日市温泉にあった旧愛国婦人会の保養所を借り上げ，「二日市保養所」として開設しました。二日市保養所の医師だった人は堕胎手術が専門の病院であると聞いて愕然としたそうです。「私もずいぶん考えました。これは堕胎罪になるわけですから。それで大学の先生や病院長などの人たちにも相談しまして，こに際は非常事態なのだから勇気を持ってやろう，ということになりました。それは人工中絶というよりは，もう流産しかかっているものを手助けしてやるんだ、という態度でやるんだと，まあ苦しい理由づけですが，看護婦さんにもそう説明して，元気を出してやったんです」。

　1946年4月16日，「恩賜財団同胞援護会」総裁の高松宮が保養所を訪問し，居並ぶ医師や看護婦に「ご苦労さん，頼みますよ」と声をかけました。1998年に出版された高松宮日記では，4月17日の記載の中に「二日市の保養所にては二週間位の間に不法妊娠の手術をした由」との記述がありました。このことは国が暗黙の了解をしていたこと，高松宮は違法にもかかわらず人工妊娠中絶の業務に従事した医師や看護婦をねぎらったことを示しています。

　また，1945年10月初め満州に近い北朝鮮の咸興駅の大通りでは，ソ連兵が白昼に避難民女性のモンペをナイフで切り裂き暴行しているのが目撃されました。朝鮮人が輪になって見ている一方で，４，５人の日本人の男がいたものの，ただオロオロするばかりで，大人たちが「真っ昼間にやるなんて，ロスケはけだものだ。敗戦国民はつらいよなあ」と嘆いているのを当時会寧商業学校三年生だった人が聞いたそうです。

　以上の内容は「朝鮮半島で迎えた終戦」（城内康伸・藤川大樹/大月書店）から一部引用しました。