村野瀬玲奈の秘書課広報室

　　

フランスの政治ウォッチをうちのコンテンツの一つの柱にする、と言っておいて、日本の政治のあれやこれやに追われてフランスのニュース紹介ができない期間が続きました。積み残しているネタもあるのですが、今回は、フランソワ・オランド仏大統領の、フランス恒例の、国民に向けた年末12月31日の短い演説を見ていただきましょう。

約8分の動画を紹介し、全訳を付けます。日本の政治指導者のそれと比べながら読んでみてください。「言っていることは立派だが、実際の政策決定ではひよっているではないか」と思う人もいるでしょう。実際、オランド大統領への支持率もエロー首相への支持率も下がっています。私基準では彼の政策と言動が完璧であるとは言いませんが、この演説は日本と比べたらこれは十分に尊敬に値すると考えています。あとは、この演説で優先的に言われている政策の柱を、産業界や教育界などを巻き込んでどう実現していくかを引き続きウォッチしていきます。

いずれにしても、日本でもこのような意思表示がこのようなトーンで国会指導者からされる日がくることを心から願う、とここでは言いたいと思います。

●Dailymotion
Les voeux de François Hollande pour 2013
2013年に向けたフランソワ・オランドのあいさつ
http://www.dailymotion.com/video/xwcym6_les-voeux-de-francois-hollande-pour-2013_news
31-12-2012

親愛なるフランス国民のみなさん。私たちの麗しい伝統にのっとって、みなさん一人一人に新年に向けた暖かいご挨拶を申し上げます。

2012年5月、みなさんは私に、この特別に重篤な状況の中でこの国を治めるという重大な任務を与えてくださいました。歴史的な危機。2年前から無情にも上昇を続ける失業率。そして、記録的な財政赤字。みなさんの心配をよく知っています。みなさんの心配には正当な理由があります。みなさんの心配を見て見ぬふりをするつもりもありません。その心配は真剣なものだからです。

しかし、今晩、私はフランスの未来についての私の信頼感について申し上げたいと思います。なぜなら、まず、ユーロ圏は救済されたからです。そして、欧州はやっと、今までなかった成長のための安定化装置を設けたからです。この結果は6か月前までは手の届かない実現不可能なもののように見えていました。しかし、この結果は達成されたのです。

私の信頼は特にフランスに向いています。私はフランスの企業家の才能と、労働者の才能を知っています。したがって、私の務め、私の最初の務め、私の唯一の務めは、私たちの国フランスが前進し、若者世代が希望を再び見い出せるようにすることです。だから、私が大統領に選出されて以来、ジャン=マルク・エロー内閣とともに、三つの重要な決定をくだしてきました。

第一の決定は、国家財政の立て直しです。なぜなら、私はフランスの財政赤字を解消したいからです。私は一つの努力を求めました。これほどすでに長年にもわたる犠牲の末に、この努力ということが何を意味するか私にはわかっております。みなさんからいただいている税金は一ユーロに至るまで不要な公共支出をなくすための根本的な闘いのために使われることを保証いたします。フランス国民のお金は貴重なものです。フランス国民は必死になって稼いでいます。ですから、そのお金は模範的に、倹約的に国家サービスのために使われなければなりません。

私がなした二つ目の決定は、競争力の協約です。なぜなら、私は2013年からすぐに、200億ユーロの税の払い戻し（Crédit d’impôt）を企業に付与し、投資、雇用、輸出ができるように、経営の余裕を企業に与え直したいからです。

最後に、三つ目の決定は、財政をコントロールすることです。私が創設するとお約束した公的投資銀行は設立されました。銀行に関する次なる法制は投機（の悪影響）から私たち自身を守ることになります。そして、金融取引税はとうとう、来年（2013年）からヨーロッパレベルで導入されます。

これらの政策の前進は急激な動揺や不都合無しには行われませんでした。私はそれを認めます。

しかし、私が定めた政策日程はシンプルです。改革を今すぐ行い、危機からより早く、より力強く脱するということです。これらの決定は必要不可欠でした。これらの決定はあまりにも長い間先送りされてきており、簡単ではありませんでした。しかし、私がその決定をするにあたって重視したのは公正の精神です。

まず、税の公正。（今まで低かった）キャピタルゲインに対する課税は（上げられて）、労働に対する課税と同様になりました。それは、より多く持つ者に常により多くの負担を求めるということです。それが、最高所得者に対する（2年間の）特別増税の意味です。（75%の最高税率の導入を違憲と判断した）憲法評議会の決定を受けて、この最高所得者への特別課税は修正をいたします。しかし、その目的を変更するわけではありません。

社会保障政策の公正を私は目指してきました。最低給与（SMIC）、就業連帯所得保障（RSA）、学校入学手当（allocation de la rentrée scolaire）の値上げがそれです。そして、私は、早くから（10代から）働き始めた人々が60歳で退職して年金生活に入る権利を再び導入し直しました。

公正の精神は、異なる世代間にも適用いたします。十分な訓練を受けてきた教員を増員して教育を優先します。

2012年は、ともに立て直しを約束した年でした。2013年は、成功のためにフランス国民みんなを動員する年になります。すべての力をただ一つの目的のために向けられます。これから1年のうちに、（上昇している）失業率のカーブを反転させることです。私たちは、どんな犠牲を払ってもそれを達成しなければなりません。雇用から最も遠ざけられている若者向けの15万の「未来の雇用」ポストは実施しました。世代間雇用契約制度の導入によって、高齢者の経験と若年者の希望を結びつけることができます。それは明日から実施されます。職業研修制度も改革して、優先的に失業者が職業生活に入れるように援助します。

しかし、国家が唯一の当事者ではありません。政府は労使間（社会パートナー間）の交渉を開き、雇用の安定化を目指します。その目的は、労働者には雇用の安定を与え、企業には柔軟性を与えるものです。簡単に言えば、二重の恐怖をなくすことです。つまり、労働者にとっての解雇の恐怖をなくすことと、企業側にとっての雇用の恐怖をなくすことです。この交渉はもし可能なら1月に行われます。それはフランスにとってチャンスとなるでしょう。私はその交渉に臨む労使が責任を果たすことを信じています。しかし、問題があれば私が責任を持ちます。

このように、方向は定まっています。すべてを競争力と雇用と成長のために。困難があってもこの方向を守ります。方向転換することはありません。強情だからではなく、（その方向性が正しいと）確信しているからです。それがフランスの国益です。

同様に、フランスの未来を準備するために、私たちの国は投資することを必要としています。あらゆる分野での投資です。農業分野の産業、住宅整備の分野、環境、健康、研究、新技術開発。したがって、私はジャン=マルク・エロー内閣に、今から2020年までにフランスの現代化をさらに推し進めるための公共投資と企業投資の戦略を提案するように求めました。

本土、海外県・海外領土、外国にいる親愛なるフランス人のみなさん。少なくとも、私たちが基本を守る限りにおいて、成功するためのあらゆるリソース（人的・金銭的資源）が私たちにはあるのです。もちろん、私たちの間に議論はあります。2013年にも社会の大きな問題に関する議論はあるでしょう。私の確信はすでにあります。それは、フランスは前進するかぎりにおいてフランス自身であるということです。権利の平等についての前進。そこには同性婚も含みます。民主主義についての前進。そこには（地方自治体首長と国会議員の）兼職の禁止も含みます。人間の尊厳の尊重についての前進。そこには、命の尊厳ある終末も含みます。

フランスがフランス自身であるのは、フランスの価値を国際社会で擁護する時です。フランスはアフガニスタンでそれを果たしました。しかし、その役割も終わりました。私が約束した通り、フランスのすべての戦闘部隊はこのクリスマスにフランスに帰還しました。私はその兵士たちとその勇気に感謝を表明いたします。私はまた、アフガニスタンでフランスのために亡くなった兵士たちの記憶に敬意を表します。亡くなったのは88名。私は負傷者のことも忘れません。700名以上の負傷者がいました。

これらの価値観の名のもとにフランスは（中東の）シリアの独裁への反対を支持しています。また、（アフリカの）マリではアフリカの諸人民がテロの威嚇と闘っていますが、それは私たちフランスにも関係があるのです。私は今この瞬間、人質に取られた人々とその家族のことを思います。たいへんな心配の中にいるそれらの人々には、人質解放を獲得するためにあらゆる手段をとっているということをお伝えしたい。しかし、私たちの原則を妥協によって下げることもありません。

親愛なるフランス人のみなさん。私たちの持つ力の一つは連帯です。私たちは連帯を、抑圧された人々に与える務めがあります。同時に、私たちの身近な最も弱い人々、病気の人々、孤立した人々、ハンディキャップを負った人々、不安定な雇用や孤独を味わっている人々にも連帯を示す務めがあります。それらの人々はただ援助されるだけの人ではありません。一時的に生活に押しつぶされ、打撃を受けた市民たちです。この年末の祝祭のひととき、私はそれらの人々のことも思います。フランスのような大きな国には、必要な競争力と求められるならば連帯を、そして、成果と保護を、そして、成功と分配を結び合わせることができるという名誉があります。

和解し自らを信頼するこのフランスの意思を、これから迎える新年に向かって私はかかげます。この意思がすべての人の努力に意味を与えるのです。

共和国万歳。

フランス万歳。

（翻訳引用ここまで）

書き起こしはフランス大統領府のサイトにもあります。こちら。

●Présidence de la République
Vœux aux Français
http://www.elysee.fr/declarations/article/v-ux-aux-francais/
Publié le 31 Décembre 2012

大統領府のサイトの書き起こしにない言葉が実際の演説ではあちこちに入っていますので、私の訳は実際の演説をもとにしました。

この演説でのポイントを解説した記事はこちら。演説そのものを全文読めば明らかだと思うので、特に訳しません。

●La-Croix.com
Vœux de François Hollande pour 2013, ce qu’il faudra retenir
http://www.la-croix.com/Actualite/S-informer/France/Vaeux-de-Francois-Hollande-pour-2013-ce-qu-il-faudra-retenir-_NG_-2013-01-01-893987
1/1/13 - 11 H 15 MIS À JOUR LE 1/1/13 - 11 H 16

日本の政治に比べたら、このオランド演説は国家指導者の見識と国民に威厳をもって語りかける姿勢と政策方針において十分合格だと思うのですが、もちろん、きびしい批評もあります。次のルモンドの記事では、保守野党からの批判はもちろんですが、与党ではない左派野党から、「もっと先に行かなければならない」と、左派的な目から見たオランド政治のぬるさを批判する声も出ています。

●Le Monde.fr
Vœux de François Hollande : "Il faut aller plus loin"
http://www.lemonde.fr/politique/article/2013/01/01/v-ux-de-francois-hollande-il-faut-aller-plus-loin_1811830_823448.html
Le Monde.fr avec AFP | 01.01.2013 à 13h09 • Mis à jour le 01.01.2013 à 13h28

批判はあるでしょう。しかし、私はこのオランド演説を、国民に向けた演説の一つの見本として評価します。評価が甘いと言う批判は甘んじて受けますが、それもこれも、日本の政治家の言説や演説があまりにもひどすぎるからであると言わせていただきます。笑

最後にもう一度、この演説の中で私の好きな部分をかかげます。一般市民だけではなく、政治家が率先して弱者への品位のない攻撃を繰り返す日本においては、特に何度でも読みたい一節です。

親愛なるフランス人のみなさん。私たちの持つ力の一つは連帯です。私たちは連帯を、抑圧された人々に与える務めがあります。同時に、私たちの身近な最も弱い人々、病気の人々、孤立した人々、ハンディキャップを負った人々、不安定な雇用や孤独を味わっている人々にも連帯を示す務めがあります。それらの人々はただ援助されるだけの人ではありません。一時的に生活に押しつぶされ、打撃を受けた市民たちです。この年末の祝祭のひととき、私はそれらの人々のことも思います。フランスのような大きな国には、必要な競争力と求められるならば連帯を、そして、成果と保護を、そして、成功と分配を結び合わせることができるという名誉があります。

（引用ここまで）


そうそう、もう一つ、今回の記事の趣旨とは関係がないですが、一言。このオランド演説の前と後にフランス国歌が流されます。このような演説と合わせて流される国歌には、起立だの斉唱だのが強制されないかぎり納得がいきますが、日本においては、君が代はこのような尊厳と高貴さを感じさせる政治的意思表明とペアになることは全くといっていいほどに無く、逆に、極右の暴力や右派政権の暴政とペアになることがあまりにも多すぎることも改めて思いました。...秋原葉月さんが「これが日の丸君が代の本質」という記事で言うように、日の丸も君が代も、日本の歴史の中では侵略と暴政と支配の象徴以外のものにはなれなかったから、そうなるのは必然的なんですよね...。

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●マスメディアへの投書のための「News for the people in Japan」マスメディア問い合わせ用リンク集→http://www.news-pj.net/link/media.html
●他の社会系ブログに行くにはうちの「私的リンク集　（適宜更新）」経由で→http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-136.html

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