村野瀬玲奈の秘書課広報室

　　

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前の記事、『自民党政府はすでにナチスの手口をこっそりと、しかし大々的に使っている』で、自民党政府による「政策による改憲」、「解釈変更による改憲」、「明文改憲」を簡潔に批判しました。私がそこで言いたかったのは、日本ではあまりにも卑劣なやり方で「憲法無視政治」や「基本的人権無視の政治」や「改憲手続き」が、「できるだけ目立たないように画策された暴力」として自民党によって実行されつつあることへの怒りです。

では、逆に、「まともな」改憲の例とはどういうものでしょうか。その実例をあげて説明をしようと思います。うちの秘書課広報室では今まで折に触れて何度か語ってきた例ですので、すでにご存じの方もいますが、2007年、ジャック・シラク大統領の保守政権のもとで行われたフランスの「改憲」がわかりやすい例だと思います。これこそ、「まともな」、といいますか、「民主主義国でのグローバルスタンダード」の改憲の例に当たります。うちのブログにも最近新しい読者の方が増えてきたようですので、改めて紹介させていただきます。

2007年、フランスは何の条項を改憲したかというと、「すでに法律で1981年に決められていた『死刑廃止』を改めて『フランス共和国憲法』に書き込む」というものでした。

1981年の死刑廃止の法制化それ自体がフランスの政治史の大きな進歩のステップでしたが、その道のりや手順にこそ日本は学ぶものがあります。「ナチスの手口」に学ぶのではなくて。それを説明した記事の一つが次のものです。死刑廃止についての議論が深まっておらず、死刑制度を「当たり前のこと」と思い込んでいる人の多い日本では、まず、なぜ世界の約3分の2の国で死刑が現実に廃止されているのか、そして、死刑存置国でさえも死刑執行をしている国は毎年20に満たないのか、そのことをまず知っていただきたいと思います。

死刑廃止の理由、そして、フランスが1981年に社会党・共産党連立の左派政権のもとで、当時の法務大臣ロベール・バダンテール氏の指導力で法律から死刑を廃止したプロセスを次の記事で説明しました。

■死刑廃止を振り返ってバダンテール・元フランス法務大臣が語っていたこと
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-898.html
2008-09-30

（前略）

インタビュアー：　フランスでの死刑廃止は、フランス革命以来、死刑廃止のためのたくさんの試みに彩られた200年にわたる闘いの終着点でした。世論は死刑廃止にはむしろ慎重だったのに、国会で死刑廃止が可決されたことをどのように説明しますか？

バダンテール：　政治的勇気によってです。

1981年の大統領選の選挙運動期間中、フランソワ・ミッテランは公開の場で死刑廃止に賛成であると表明していました。全左派政党も、1981年の（大統領選の後の）総選挙で死刑廃止を政策プログラムに盛り込んでいました。フランソワ・ミッテランを大統領として選び、国会議員に左派を多数派として選ぶことによって、フランス人は死刑廃止を選んだのです。したがって、死刑廃止は可能な限り民主的な条件の下で可決されたことになります。

（中略）

インタビュアー：　1981年の死刑廃止をめぐる議論はどのような精神の中で、どのような雰囲気の中で行なわれましたか？

バダンテール：　議論は激しいものでした。死刑廃止賛成派の中には雄弁な論者がいました。レーモン・フォルニ（社会党）、ギィ・デュコロネ（共産党）、フィリップ・セガン（RPR、共和国連合、右派）らです。死刑廃止には左派の下院議員全員、フランス民主連合（UDF、右派）の下院議員の三分の一、共和国連合（RPR、右派）の四分の一から賛成票が投じられました。賛成者の中にはジャック・シラクもいます。

本当の驚き、議会での本当の勝利は、私の意見では、（右派が多数派であった）上院での可決でした。上院は国民議会（下院）と同じく、左派の政府に非常に敵対的でしたから。

（中略）

死刑廃止に賛成しない人でも、フランスのこの190年の死刑廃止史の流れ、そして、1981年のこの選挙と議会審議プロセスが、完全に民主主義的な手続きによって、すべての点を提示して論じつくし、議員一人一人が自らの良心にもとづいて自由に投票し、瑕疵のない合意を下院と上院で形成したことを認めずにはいられないと思います。
（後略）

（引用ここまで）

死刑制度への容認の世論が強い日本で特に理解をお願いしたいのは、フランスで死刑制度賛成の世論が60%超、死刑制度反対の世論が30%と少しであった1981年でさえも、「死刑廃止」とは世論を無視して強引に行われた暴政では全くなかったということです。なぜなら、死刑とは、国家が個人に行なう「暴力」制度を減らすことであって、死刑を廃止することは国家運営をより民主的にすることであるからです。

そして、その1981年から26年たった2007年、今度は保守政権のもとでその「死刑廃止」を憲法に書き込むための手続きは次のようなものでした。

■2007年フランス、「改憲」の瞬間　（死刑廃止）
http://muranoserena.blog91.fc2.com/blog-entry-93.html
2007-02-21

（前略）
死刑廃止を憲法に記載する条文は苦労なく承認された。UMPの20名の下院議員と3名の上院議員、そしてその他の3名の議員が反対票を投じ、賛成828票、反対26票で承認された。

拍手を受けたバダンテール氏

フランスにおいて死刑は1981年に廃止されていた。

当時法務大臣として極刑の廃止を1981年に議会にはかった社会党の上院議員ロベール・バダンテールは、演説の最後に、すべての下院議員と上院議員に総立ちの拍手を受けた。
（後略）

（転載ここまで）

法律としての死刑制度が廃止された1981年から26年たった2007年の時点でのフランスの世論は、死刑制度反対が50%を超えています。つまり、2007年のこの議員たちの死刑廃止への圧倒的な賛成表明は世論と一致した結論であるということも重要です。ここでも、「死刑廃止」とは世論を無視して強引に行われた暴政では全くないということをご理解いただきたいのです。自民党の行なおうとしている「改憲」との決定的な違いです。

このように、1981年にも2007年にも、この政治的決定のプロセスには、ごまかしや強引さはないことが理解できると思います。1981年には賛否の議論はありましたが、2007年には国会議員レベルでは「死刑廃止」に議論は収れんしており、「死刑廃止は1981年当時のサヨク政権によって押し付けられた法律であり、これを見直して国家主権をトリモロス」なんて主張する主流派の右派はもはやフランスにはいないのです。その結果、2007年のこの「改憲」ではごたごたや対立も議論も喧噪もありません。1981年に死刑廃止を主導した左派の立役者に対して2006年には右派左派一致して敬意を表し、死刑廃止を憲法に書き込む「改憲」が行われたというわけです。

こういう「改憲」こそが民主国の憲法改正でなければなりません。「ナチスの手口」を引き合いに出す「改憲」は民主政治ではありません。クーデター、あるいは独裁的圧政です。いくら表面をとりつくろっても、その内容そのものがクーデター、あるいは独裁的圧政なのです。

麻生太郎副首相が「ナチス発言」を取り下げようとも、安倍晋三首相がいくら「ナチスへの崇拝はない」と述べようと、自民党の改憲草案と自民党によって現実に行われている政策が、現在の自民党政治とナチスドイツの政治との類似性、親和性を問わず語りに明らかにしているのです。

これが、自民党による「カイケン」を許すことができない理由です。

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