村野瀬玲奈の秘書課広報室

　1952年，破壊活動防止法の成立とともに公安調査庁が法務省の外局として成立しました。
　ムスリム（イスラム教徒）に改宗したためにパワハラを受け，精神を病んで辞職した公安調査庁の職員がいました。もともとはクリスチャンであったものの，調査のために勉強を続けるうちにイスラム教に惹かれるようになりました。イスラム法の著名な研究者である中田考さんの知遇を得るようになりました。中田考さんは国際テロ問題の専門家として講師に招くなど，公安調査庁は優遇していましたが，そののち最高レベルの監視対象者になりました。
　東日本大震災で公安調査庁は復興予算で自動車を何台も購入しました。東北で過激派を調査するという名目で購入したものでしたが，車の中が見えないように窓ガラスにスモークを貼った，いかにも怪しいものだったのでほとんど使われなかったそうです。
　関東のある県の公安調査事務所で若手調査官が使う協力者からの情報が異様に高く評価されたことがあったそうです。事務所にいる首席調査官を出世させるために，本庁の幹部が仕組んだものでした。調査官の協力者情報の値段を月20万円にまで上げてしまいました。情報収集と称して，監視・尾行・張り込み・協力者との飲み食いなどに際限なく経費が使われました。自宅・職業・勤務先・家族構成を調べ上げ，交友関係・立ち入り先・収入・借金・酒癖・性癖・異性関係まで調べ上げ，金銭的報酬もちらつかせて協力者に仕立てていくのだそうです。
　ある工作活動では，共産党のある部門に所属する有望そうな女性秘書が英会話スクールに通っていることをつきとめ，金銭負担をすべて行い女性調査官を同じスクールに通わせました。ところが女性調査官はもともと精神的に病んでいた部分もあり，体調を完全に崩してしまい，接近し情報を収集することはできませんでした。
　公安調査庁は東京代々木の共産党本部の前のマンションを借りて共産党を監視していましたが，共産党に摘発され問題になったことがあります。公安調査庁ではメンタルを病んでしまう人が多く，毎年1人ぐらいは自殺しているそうです。辞職に追い込まれた元公安調査庁職員によると，初任者研修の同期40人のうち3分の1は辞職したり死亡したそうです。

　「反共」「防共」の治安機関として活動してきた公安調査庁。当然，協力者として統一教会が関係していたとしてもおかしくありません。辞職した職員の上司だった首席調査官はもともと部下を大声で面罵する人だったものの，モスクでの言動を監視し，人格を否定するような発言を繰り返したそうです。「人権」を守る「法務省」の外局の公安調査庁が先頭に立って「人権蹂躙」を行うなんて存在意義がありません。その点では入国管理局もまったく同じですが。

　公安調査庁はイスラム教をテロの温床と考えて監視しているように思います。イスラム教のよいところは，アラーの前では人間は平等であるとして貴族も賤民もいないことです。
　麻生太郎は，野中広務氏（当時は幹事長）について，「あれは総理にはなれない。部落の人間だから」と言いました。

　「イスラム」としてひとくくりにされ，焦点が当てられたのは1979年のイラン革命以降です。なかんずく9.11テロ以降にそうした現象が顕著になりました。インドネシア，マレーシア，バングラデシュ，アフガニスタン，トルコ，エジプト，アルジェリア，モロッコ，サウジアラビア，ナイジェリア，ソマリア，イエメン，など多くのイスラム教徒がいる国があるのに，まとめて「イスラム問題」があるかのように単純化することは危険でしょう。
　現在アメリカのマスコミはイスラム情報に熟知している人間をどれくらいかかえているのでしょうか。1979年12月15日付け「ニューヨーク・タイムズのジョン・キフナー記者の記事によるとテヘランには300人を下らない西側記者がいて大半が通訳を必要としたそうです。同年12月16日付け「オーストラリアン」紙のコール・アレン記者の記事によると，アメリカ三大テレビは１日あたりテヘランで100万ドル（当時は1ドル239円だったので，日本円にすると2億3900万円）ずつ使っているそうです。CBSの場合，支局長のほか取材記者，カメラマン，音響担当，技術専門スタッフ23人，それをイラン人の通訳，運転手，ガイド12人が手助けしている。1ヶ月6000ドルのホテルのスイートルームが取材本部となり，1日70ドルの部屋を35室借りて，取材記者，運転手，通訳を住まわせた。そのほか専用飛行機，テレックス，車，電話，1分間100ドルの通信衛星のラインを1日4時間使い，そのコストがかかるのだそうです。アメリカのマスコミの豪勢なお金使いに口をはさむ必要はないのですが，あまりにコストがかかりすぎていました。
　イラン革命時，日本大使館近くのイスラム・センターにアメリカ人記者が殺到し，ムハンマド・ラウーフ所長に「シーアとは何か。スンに―とどう違うのか」と質問が殺到し，所長は「何をいっても，どちらかの派を傷つけそうだ」と頭をかかえて悩み，一時国外に避難したそうです。質問する側はきちんと勉強しておくべきでしょう。
　日本は「イスラム」に関する情報を西側，もっぱらアメリカから提供を受けています。十分正確な情報を持たないアメリカに頼って「イスラム」を危険視したり，公安調査庁がイスラム教徒を監視するのは間違っています。

　一方で，イスラム世界は西洋の資源の依存せざるをえない面もあります。イスラム世界の学者，学生は中東研究のため欧米の図書館や研究所になお依存しています（アラブ関係資料を真に完備する重要な図書館はイスラム世界にはない）。英語が世界言語になっています。石油を基盤とするイスラム世界の多くの地域には支配階層・エリート集団がいるが経済・防衛体制・政治的問題に関して西洋がコントロールする世界的な消費市場システムの恩恵を受けているとされています。

　くりかえしになりますが，あふがにすｔ「イスラム」とひとくくりにしてイスラム教徒やイスラム国家を見るのは単純化しすぎて危険です。