村野瀬玲奈の秘書課広報室

岐阜県議選の多治見選挙区では、2021年衆院選で立憲民主党から立候補し、小選挙区全国最年少候補として注目されたが落選し、2023年1月に自民党入りした今井瑠々（当時27）が初当選しました。落選後も立憲の同区総支部長を務めていたものの、1月に突如離党。党籍を自民に変えて出馬したことで、「裏切り者」などと批判されましたが、SMSなどを使って知名度を生かした選挙戦で勝利しました。今井瑠々にとって政治家は就職先。変節することなど、たいしたことではない。

　少し話題はそれますが、力に媚びるということで「山椒大夫」を紹介します。
　1954年の溝口健二監督の映画「山椒大夫」はベネチア国際映画祭で銀獅子賞を受賞しました。逗子王は山椒大夫の荘園で奴隷として暮らすうちに弱者をいたぶり、力に媚びる者へと変節していきます。このどうしようもない男を聖少女、忍従と献身の安寿が命がけで改心させます。安寿が湖に身を投げる光景は美しい。奴隷根性から正気に返り、亡き父の教え「人間はみな平等である」を実現させるために封建社会と一人闘うことになる逗子王は、「奴隷解放など無謀、右大臣の荘園の管理者である山椒大夫にどうして手を出せようか」と諌める地方官僚たちの声に耳を貸さず、「おまえに何ができるか」と嘲笑する山椒大夫を捕らえて丹後から追放し、荘園の奴隷たちを解放しました（説経「さんせう太夫」では、安寿は逗子王を逃がしたために、さんせう太夫の三男の三郎に火責め水責めで殺されてしまう。逃げのびた逗子王は地蔵菩薩の加護により都にたどり着き、立身出世しつ国の守となって丹後に舞い戻ると、さんせう太夫と三郎の首をのこぎり引きの刑で引き落とす。首が落ちるまで竹ののこぎりで引くこと106回）となっています。
　そこまでやれば、丹後の国守にとどまることはできず、逗子王は無位無官の人間になります。母を探して彷徨い歩く佐渡は津波で多くの人が亡くなっていました。母を探す逗子王とはすっぱなやりとりをする佐渡の遊女たちは焼け跡の娼婦たちのようでした。やっと探しあてた母は、何もかも奪われ、虐げられ、老いさらばえて、汚れきって、海辺の小屋でひとり生きていました。二人は荒涼とした浜辺で抱きあう。つぶれた母の目はあかない（森鴎外の「山椒大夫」では、丹後の経済システムを近代的に改革した逗子王は、佐渡で母を探しあて、地蔵菩薩のおかげで母の目があく。「そのとき干した貝が水にほとびるように、両方の目に潤いが出た。女は目があいた」となっています。

　自民党は過去の選挙でも過半数割れを起こした際に保守系の無所属議員を追加公認して過半数を回復したことが幾度かあります。その意味ではこれはお家芸としか言えませんが、選挙後にこういうことをすると選挙の意味がなくなってしまいます。

　今回ひっぱりこんだ二人の議員はいずれも自民党候補を破って当選した人物であり、それが選挙後さほど間が立たないうちに自民党会派に入り、さらには自民党に入党したら、選挙は何だったのかという事になります。

　性質が悪いのはこの種のペテンを即時に阻止する方法がないという事です。「当選後すぐに露骨に選挙民の意思と真逆の行動を採った議員は、選挙民をだましていたとして当選無効にする」制度とかあればよかったのですが。