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阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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エヴァ的に解釈するGEISAI大学放課後討論会
全てはセカンドインパクトから始まった。1917年のニューヨーク、5ドルの出品料さえ払えば誰もが出品できる無審査の美術展・アンデパンダンタン展に、一つの作品が出品された。男性用小便器に「リチャード・マット (R. Mutt)」という署名をしただけの『泉』という作品は、アートの概念に大きな変革をもたらした。
既製品に若干手を加えただけという意味から『レデイメイド』と呼ばれる一連の作品を制作し、20世紀のアートに多大な影響を与えたマルセル・デュシャン。彼が『泉』という作品で問い掛けたものは『ではなぜこれがアートであっていけないのか』というアートの本質に迫るものだった。
以後、真摯にアートに向き合う者ならば、デュシャンの問いから決して逃れることはできなかった。写真、映像、パフォーマンス、デザインやサブカルチャーにまで広がったアートの領域。それらの変革の根底には必ずデュシャンの問いがあった。
そして今回、アートの領域をウェブ上の創造力にまで押し広げようと目論む村上ゲンドウは、アート補完計画という壮大なプランの一環としてカオスラウンジIN高橋コレクションを開催。さらにそれと連動して行われたGEISAI大学を通じ、自らの計画のビジョンをつかもうとした。
2つの講義が終了し、締め括りとなった最終日の講義を担当したのはカオスラウンジの理論的な中心を担ってきた黒瀬シンジ。多くの美術関係者が詰め掛け、そのビジョンや実情を掴もうとしたはずなのに、そこにはカオスラウンジが持つ新しさや可能性についての説明はなかった。
なぜ説明がなかったのか。それを極論するならカオスラウンジのメンバー(チルドレンたち)にとって、自分が好きな絵を描いて、それが認められるだけで十分であり、その先にある計画など知らないし、なぜ自分が「つかさ的エヴァンゲリオン」に乗って戦わなければならないのか分からなかったのだ。
論理化できていない内面を言葉にするだけで、すでに動き出した計画から逃れようとするシンジたち。一方、アート補完計画という世界的な視点に立って戦うために、アートの文脈に則った論理武装の必要性を説くゲンドウ。互いに意見が平行線を辿る中、登場したのはシンジの保護者的役割を担ってきた東ミサトだった。
シンジの立場もゲンドウの立場も理解できるミサトにとって、どちらかの立場に立つのは難しかった。しかし、「ゼロアカ」という一つのムーブメントを経験してきたミサトにとって、シンジの成長のためにもこのチャンスを無駄にする訳にはいかなかった。
2人の激しい追及に、「逃げちゃだめだ」と分かっていながら、立ち向かうことができないシンジ。危機的な状況に追い込まれ、思わず発した「単語をください」の言葉。ユースト視聴者2200というプレッシャー。精神汚染に近い状況の中、シンジが頼ったのは共通の時間を共有してきた仲間(チルドレン)たちだった。
そして長い話し合いの末、チルドレンたちは現状のカオス状態でなく、何か言語化できる核を持った存在として再出発すると語った。つまりそれは、ただ好きで描くという状態から離れ、アート補完計画の前線に立ってアートの世界で生き残るために戦い続けるという選択に他ならなかった。
その結果、「破滅ラウンジ」と名前を変えるカオスラウンジは、共にいた仲間や、言葉にできない感情を失い、「破滅」への道を進むのかもしれない。彼らがカオス足りえていたゆるやかな連帯が、自己規定により失われていく責任は、新たな可能性を「祭り」として消費した我々にあるのかもしれない。
しかしできることなら、エヴァンゲリオンが現在のアニメ、サブカルチャーに与えた多大な影響のように、カオスラウンジが生んだ新しさや、周囲をワクワクさせる高揚感が、次に生まれる新しい流れに受け継がれていくことを強く望む。
アーカイブ化されたGEISAI大学の討論会
途中から切れていたGEISAI大学討論会のユースト続き
破滅ラウンジ ホームページ
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ウィキペディア 黒瀬陽平
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