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阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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超解釈!『ネットワーク時代のクリエイティヴィティ「神話が考える」をめぐって福嶋亮大×浅田彰』
まずこの講義では、「大きな物語の喪失」ということが大前提となっている。ここで言う「大きな物語」とは、社会主義や資本主義といったイデオロギー(信条体系)や国家といった枠組みが作り出す集合的価値観。さらに言えばマスメディアが作り出すようなある種のくくり的価値観となる。(浅田彰先生の解説を含む)
要するに人々は誰か他人が作り出したある一定の集団に通用するプログラムでは前に進めなくなっており、何か自分独自の、又はもっと小さな単位で通用するプログラムを生み出さなければならない時期に来ている。福嶋さんは文芸批評家として、これからの時代における文芸の可能性を語りながら、それは極めて私たち一人ひとりの小さな物語の強度ををいかに高めていくかという問題を浮き彫りにしてくれる。
福嶋さんは現在の複雑化し、情報のネットワーク化が進んだ社会では、現実は半現実(ハーフリアル)としてしか認識できないと言う。それは個人が分断され、大きな価値観が通用しない世界では、人々が自分の目の前の世界しか認識できないこと。さらにネット世界と現実の世界といった2重の自己を持たざるおえない現実を反映した結果なのだという。
また今ある私たちの現実さえも、たとえばコンビニのように一度数値化され、リサーチされた存在が、商品として店頭に並ぶという極めて作りモノ的な現実の中を私たちは生きているのだという。それを極限まで突き詰めた状態をイメージするなら、映画・マトリックスの中で描かれた、全てがシステムに支配された世界を思い浮かべると良い。
そんなハーフリアルな現実の中の個人は極めて小さく、また不完全で、そこでは「耐久性のある『向こう側』」につながる物語を生み出すことは極めて困難になる。「耐久性のある『向こう側』」を独解すると、細部を取り除いた先にある、「ゆるやかなつながり」を可能にする土台や基盤がある場所となるだろうか。
そんな中でいかにして我々の小さな物語に強度を与え、「耐久性のある『向こう側』」につながる回路をつくることができるか?その問いに福嶋さんは3つのヒントを提示する。1つ目は「時間的尺度と固有性の導入」。2つ目は「具体的事実性や近接性から出発し、いつしか別の領域に誘導すること」。そして3つ目が「ゲーム的一回性のデザイン」。
文芸評論ではなく、あくまで人々の小さな物語の強度を高める方法と考えれば、1つ目は講義の終盤、浅田先生が発言した「歴史の重要性」にいきつくだろう。世界は個人の人生という時間性や、そこで生み出された価値観だけで生き抜くにはあまりにも強大だ。しかしそこに、歴史観や歴史的蓄積を導入すれば、海底にいかりを降ろすように荒波の翻弄を軽減できるかもしれない。
そして2つ目の「具体的事実や近接性から出発する」というヒントは、ゼロ年代中盤以降登場した日常系アニメや宮藤官九郎さんのドラマに共通した「好きでつながる」というものや、宇野常寛さんが提唱している「郊外でつながる」という具体性や手触りを基盤として出発する方法だろう。
我々はたとえ一人では弱くとも、心情的、感覚的にふれあえる「緩やかつながり」を確保できれば、厳しい現実に直面しても互いに励まし合って生きていける。それはもし、ゼロ年代にtwitterのようなツールが普及していたら、秋葉原や池袋で起きた連続通り魔だって防げたかもしれないと思えてくるのだが…。
また3つ目の「ゲーム的一回性のデザイン」というものは、「退屈な日常の中で『死』という終わりを意識していくことで、そんな日常でさえも、輝かしいものに変えることができる(宇野常寛『ゼロ年代の想像力』)」という考え方を言い換えたものになるだろう。
講義の終盤、浅田先生が何度も取り上げた「悪い場所」問題。今だに多く人々が前に進めない現状をこの問題の責任にしている事への不満からか「すでに世界にはいい場所も悪い場所もない」と力を込めて述べられたことが印象的だった。村上春樹さんが書かれた『1Q84』的に言えば、私たちのリアルはすでに二つの月がある世界にしかなく、一つの月しかない世界には決して戻ることはできないのだ。ならば二つの月のある世界を全力で生き抜く以外にないのだと思う。
ユチューブ 福嶋亮大さんデビューのきっかけインタビュー
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