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先入観を捨てて読め!高城剛『ヤバいぜっ!デジタル日本』

 世間ではクリエーターというよりも、沢尻エリカさんの旦那さんとして知られている高城剛さん。しかしたとえば、今日の記事となったGEISAI大学を主催した村上隆さんや、『サマーウォーズ』の細田守監督が制作したルイ・ヴィトンのアニメ『SUPERFLAT MONOGRAM』のプロデューサーが高城さんだったことはあまり知られてない。

そんな高城さんが2006年に出版した『ヤバいぜっ!デジタル日本』は、同年に出版されベストセラーにもなった梅田望夫さんの『ウェブ進化論』以上に、ソフトの分野の次世代を見据えた本となっている。5月にはユーストリームの日本語化が実現し、誰もが気軽に動画を配信できる時代が到来する。その前に個人がメディアとなる時代のビジョンを学んでみてはいかがだろうか。高城本

文字から音声、そして映像へと進んできたメディアの表現は、インターネットという手段を得たことで個人が映像を配信する時代へと突入する。そんな時代に最も必要なことは、知恵やアイデアであり、さらにはスピード感と本質を見極める力であるという。

柔軟性や多様性を失わず、これまで結びつきのなかったもの同士を融合させ、創造力や革新性を武器に新た未来を切り開く。そしてそういったものを持ち続けるためにも、様々な人やものと出会いや、豊かな体験を重ねることの重要性を強調する。

創造的な物事を吸収し、そこで受け取ったパワーを、今度は自分が何かを作り出すことで周囲に伝えていく。そういったコミュニケーション積み重ねが双方向のコミュニケーションの基本であり、これからの時代の流れになっていくという。

全ての創造が個人の小さな愛から始まるという考えを持つ高城さん。無理やり作られた大きな平和でなく、クリエイションやコミュニケーションがもたらす本物の小さな愛の集合が大きな平和になると考え、一人でも多くの人に創造する楽しさを知って欲しいと願っている。

ウィキペデア 高城剛
アマゾン 高城剛『ヤバいぜっ!デジタル日本―ハイブリッド・スタイルのススメ 』

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凄い本19 黒田 恭史『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日』

 映画『ブタがいた教室』の原作となったこの本。実際の授業として行われた際にはドキュメンタリーとして放映され、賛否両論を巻き起こした過去を持つ。しかし、軽率だったとしても、自分の問題として命の重さを考える機会となったことは紛れもない事実。
Pちゃん
今から15年前、大阪の小学校に赴任して来た新人教師が、食と命の問題を子供たちと考えるために、クラスで一匹の豚を飼ったことから話は始まる。当初の目的は育てた豚を分たちで食べることだったが、子供たちがその豚を「Pちゃん」と名づけたことから話は大きく変わっていく。

日頃、私たちが何気なく食べている食べ物の中に含まれた命。たとえば一匹の魚にも、一つの野菜にも含まれる命。そんな当たり前のことでありながら、その命の犠牲を感じることもなく毎日の食事に馴れてしまった私たち。当初はそんな現実に対する疑問から始まった授業は3年後、卒業間近の子供たちにより大きな問題を突きつける。

300キロにまで巨大化した「Pちゃん」をこれからどうするのか。可愛がってきた動物を自分たちの都合で殺してしまうのか。クラスの意見は2つに分かれ、正しい答えを見出せないまま子供たちは卒業の日を迎える。そして迎えた結末は決して誰もが納得のいくものではなかった。

そこには新人教師の軽率な思いつきから至った、子供たちの心を混乱させる出来事だったという批判を受けなけらばならない過ちがある。しかし同時に、授業という枠を超え他者の命や運命を勝手に握ることがいかに不遜なことなのかを肌身で知ったという事実もある。人が犯した過ちを責めるよりも、その過ちから多くを学ぶことがこの本が残した最も大きな教訓だろう。

アマゾン 『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日』
当時の映像を紹介したYouTubeの動画(1)

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テーマ : 書評 - ジャンル : 本・雑誌

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Tag : 映画原作ドキュメンタリーYouTube大阪ノンフィクション

凄い本18 櫻井孝昌『アニメ文化外交』

 旅先でイタリア人と『うる星やつら』の話で盛り上がったり、飯田橋のユースホステルに滞在しているアメリカ人に秋葉原の凄さを教えてもらったりといった個人的な体験からは見えてこない、日本のアニメの海外での受容度を世界的視野で理解できる良書。日本で作られたアニメに対する国境を越えた愛情に製作者でもないのに喜びを感じてしまう。
アニメ文化外交
以前、日本語を勉強し始めたばかりの外国人の子供に日本語を教えていたことがあった。一人っ子のその子は随分我がままな子供だったけれど、教材として使った『カリオストロの城』や『天空の城ラピュタ』を見ている時は、必死になって日本語を聞き取ろうとしていた。その時感じたことは良質なソフトというものは言語や年齢を越えて伝わるものだということだった。

少し前から秋葉原を訪れる外国人のニュースや、動画サイトにあるアニメの外国語の字幕などで世界的に日本のアニメファンが増えていることは理解していた。しかしこの本で語られている東南アジアや中東といった国、さらに欧米の各国で日本のアニメがこれほど受け入れられているとは思ってもいなかった。

外務省などの支援で海外でアニメ関連の講演を行ってきた著者が、世界における日本のアニメの現状を各国のアニメファンとの交流をもとにして書き上げた本書。世界中にいるアニメファンたちの熱狂的な思いが伝わってくる。しかし同時に有益なコンテンツと認めるられた今でさえも、一段低い存在としてしか扱わない国内の感覚とのギャップにも思い至る。

『アニメ文化外交』という難しそうなタイトルはついているが、中身は日本のアニメを愛する人々がいかに世界に溢れているかという声を集めたもの。そしてそのアニメを糸口に日本と海外との文化交流を積極的に行うべきだと提案する本書。それは外から見た自身の姿に気づかないことが多い日本人にとって何よりも重要なことであり、世界の動きに取り残されないためにもアニメという視点と通して日本や世界の今を認識する有効な書物となっている。

アマゾン 『アニメ文化外交』 (ちくま新書)

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テーマ : 感想 - ジャンル : 本・雑誌

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Tag : アニメ世界日本

凄い本17 トリイ・ヘイデン『シーラという子』

 幼くして傷つけられた魂の回復と再生の物語。人と人が出会う不思議と信頼や愛情が作り出す喜びや哀しみが描かれた作品。
シーラという子
人と人とが出会うことがこれほど素晴らしいものだということを再認識させてくれた本。もう立ち直れないほど傷ついたとしても、救いの手が差し伸べられるのだということを思わせてくれる。

ひどく傷つけられた魂と、まだ未熟なカウンセラーとの出会いの物語。二人は出会うことで幼い少女の魂は少しづつ癒されてゆく。声なき声を発し続ける少女と彼女に辛抱強く向かい合う作者の深い信頼関係が美しい。

出会うことは、必ず別れをもたらすものだ。そして大切な時間を共に過ごせば過ごすほど、その別れがもたらす哀しみも大きくなる。けれど、金色の麦畑を見て誰かのことを思い出すように、大切な時間は二人の胸の中でいつまでも生き続ける。

ウィキペディア トリイ・ヘイデン
アマゾン 『シーラという子―虐待されたある少女の物語』

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テーマ : 読書 - ジャンル : 小説・文学

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Tag : 海外文学出会いノンフィクション

凄い本16 谷川流著『涼宮ハルヒの陰謀』

 中高生向けのジャンルだと思い見向きもしなかったライトノベルズ。しかし偏見を取り除いて本を手にすると、さすがに話題になるだけあって面白い。SFやミステリー経験の少ない人はコロリとやられてしまうほど展開も上手い。
ハルヒどこにでもありそうな設定なのに、実は絶対にあり得ないトンデモ設定を含み物語は進んでいく。トンデモな登場人物たちが繰り広げるトンデモな出来事と普通な高校生活。そんな現実と非現実が織り成す物語は、刺激的でありながら心地良い。

以前、アニメ版を紹介する前に1冊目だけでもと思い手にしたこのシリーズ。しかし気づけば出ている9冊をしっかり読んでいた。キャラ立ちの明確な人物たちはそれぞれに魅力的で、毎回巻き起こる不思議な出来事は読み手を虜にする。

個人的には時間遡行(移動)モノが持つ過去と未来の因果から生じる不思議な感覚が好きなので、その感覚が味わえる『涼宮ハルヒの陰謀』(シリーズ8作目)を紹介するが、やはり1作目から読んでいくのが正統な楽しみ方だろう。

それにしてもありそうでなかったトンデモ日常な設定を生み出した作者の独創性。さらにはSFやミステリーとしての構成力や文章力もあるのだから、このシリーズがアニメやゲームでも支持される理由は納得できる。

ウィキペディア 涼宮ハルヒシリーズ
アマゾン 『涼宮ハルヒの陰謀』 (角川スニーカー文庫)

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テーマ : ライトノベル - ジャンル : 小説・文学

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Tag : 涼宮ハルヒくせになる

凄い本15 桑原武夫『論語』

 今から約2500年前の中国を生きた孔子の言葉を現代の私たちにも分かりやすく、かつ過去の注釈も生かして生き生きと読み解いた名著。桑原武夫という人の巧みな文章力と人柄がうかがえるのも楽しい。
論語・桑原読み応えのある本が欲しい時、時々手にするのが中国古典関係の書物。中でも『論語』は、わずかな言葉にもかかわらず、読み込むほどに深い味わいを持つ書物として特別な地位を占めている。

しかし、はじめからそうだった訳でない。中島敦の『弟子』を読んで興味を持った『論語』や『史記』の世界だが、難しい注釈や堅苦しい文章に全く歯が立たなかった。そしてそんな時出会ったのがこの『論語』。

戦後、京都学派の中心的役割を担ったフランス文学者の桑原武夫が、友人で中国文学の権威として知られる吉川孝次郎の依頼で書いたこの書物。そこには東洋史の教授であった父親の書物に幼くから接してきた素養が活かされている。

荻生徂徠や伊藤仁斎の注釈も交えながら、しかしそれに囚われることなく独自の解釈を施していく語り口はあくまで親密かつ柔軟。読者にも独自の解釈を許していくような風通しの良い文章が心地良い。

様々な書物が出版され、様々な情報が行き交う現代。ともすると新しいものだけを追い求めることで精一杯になりがちな日々、時には「温故知新」という言葉を生んだ『論語』の世界をひも解いてみるのもよいのではないだろうか。

ウィキペディア 論語
ウィキペディア 桑原武夫
アマゾン 桑原武夫『論語』 (ちくま文庫)

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Tag : 歴史中国思想京都探求京大

凄い本14 窪美澄著『ミクマリ』

 女性による「性」描写のある作品を募集したR-18文学賞の今年度大賞受賞作。性という不可解な問題を入り口にして、今という時代の背後にある割り切れない存在を物語化した秀作。
ミクマリ
たまたま手にした小説新潮の6月号。いきなり始まる性描写に、つい読み始めてしまったこの物語。しかし読み進めていくうちに、普通の官能小説とは違う文学的肌触りを感じることになる。

主人公はどこか覚めた感覚を持つ今どきの男子高校生。彼が相手をしているのは10歳以上も年上で、しかも結婚しているアニメ好きの女性。彼と彼女の関係は偏っていて歪んで見える。

そんな彼が直面する女性という性にまつわる様々な出来事。表面的に流れていく物語の中に、時折垣間見える理性や常識では割り切れない存在が作品に深みを与えている。

タイトルの『ミクマリ』とい言葉には、流れる水を配るという意味があるという。乾いた心に不思議な読後感を与えてくれるこの物語にも、そのような効用があると思う。

ウィキペディア R-18文学賞
R-18文学賞ウェブサイト
電子書店パピレス 『ミクマリ』

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凄い本13 恒川光太郎著『夜市』

 文章という極めて観念的な手段を用いて、現実からズレた異界を鮮やかに描き出した作品。思わず引き込まれる物語と奇抜な発想で独自の世界が作り出されている。
夜市
日ごろ当たり前と思っている世界の一つ角を曲がったところに、現実とは別の世界がうごめいている。そんなことは子供の頃、病気で寝込んだ時などに誰もが思うことだろう。しかし実際、その世界がどんなものかを、現実的肌触りを持って表現することは難しい。

そんな困難を易々とやってのけ、娯楽としても読者を楽しませることに成功しているのが表題作『夜市』。さらに同書に収められたもう一つの小説『風の古道』も、デビュー作であり、日本ホラー小説大賞を受賞した『夜市』と肩を並べるほどの完成度を持っている。

これら二つの物語は、奇妙に現実離れした物語でありながら、読者の胸に迫る緊迫感を持っている。古くから日本に伝承されてきた異界の設定を生かしながら、我々の精神の奥底に深く根ざした土着的なものに届く力を持った作品となっている。

明治維新、太平洋戦争後と2度にわたる西洋文化の流入によって現代日本人の精神構造は大きな変容を余儀なくされた。しかし表面から一歩深い部分に降りてゆけば、我々は何の精神変化を受けてはいないのではという思いをこの物語を読むと強く感じる。
ウィキペディア 『夜市』
ウィキペディア 恒川光太郎
アマゾン 『夜市』 (角川ホラー文庫)

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凄い本12 清少納言著、萩谷朴訳『枕草子』

 「春は曙」など日本人の美意識についての随筆として知られる『枕草子』。しかし本当に凄いのは清少納言と中宮定子の間に生まれた当意即妙な二人の信頼関係の物語にこそある。
枕草子
古典の面白さなどまだ知らなかった学生時代、何かの紹介文で取り上げられていた『枕草子』が気になって、様々な訳者の本を読み比べ、辿り着いたのが萩谷朴訳の『枕草子』。原文に朱色の現代語訳が加えられた一見難しそうな本だが、初心者でもバリバリ噛み砕いて読める気配りと解説が細部まで加えられている。

洋書や古典を含め、訳者がいかにその本に愛情を持っているかが訳本の命だと知ったのもこの本のお陰。紫式部に比べれば、軽薄なエッセーの書き手と思われることもある清少納言。そんな彼女が定子に仕えた年月を、深い愛情と探究心を持って上下巻・約800ページの本にまとめたのがこの本。

断片的に描かれた清少納言と定子とのやり取りは、今から1000年以上も昔の人々が行ったとは思えないほど切れ味が鋭く、また楽しい。華やかだった定子の周辺を、さらに輝かせた清少納言の才気を愛した定子。そんな素晴らしいし主従関係が、まるで風の前の塵のように、失われてしまった背景を知れば、その輝きはより一層まばゆく見える。

窮地に陥った定子の周囲からは次々と人が離れていく。そんな中でも気丈に振舞う定子に、明るい話題を提供しようとする清少納言の姿はあまりのも健気で胸を打つ。136段、周囲の誤解によって定子と離れて暮らしていた清少納言の元に定子からの伝言が届く。早く返り咲けというメッセージを込めた山吹の花びらに書かれていたのは、「言いわで思うぞ」(私の気持ちなら言わずともわかるだろうに)という一言だった。

ウィキペディア 枕草子
ウィキペディア 清少納言
アマゾン 『枕草子』(上) 新潮日本古典集成 第11回

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Tag : 古典京都枕草子

凄い本11 村上春樹著『アフターダーク』

 幾つもの明確でない出来事が深夜から明け方にかけて進展していく物語。決して大きな物語で読ませる小説ではないが、何かが始まる予感のような微熱を感じさせる作品。 
アフターダーク
正直、『アンダーグラウンド』以降の村上春樹さんの中、長編小説(『スプートニックの恋人』と『海辺のカフカ』)を読んでも、それまでの小説に感じた中毒性をほとんど感じなかった。だからこの作品も今年の春に読むまでは全く手をつけていなかったし、期待もしていなかった。

しかし、この作品を読んでみると、『スプートニク』や『カフカ』に対して感じた、現代の複雑さを表現していく中で残ってしまった未消化な部分が全く感じられなかった。ちょうど優れたナイフが刃と柄の絶妙なバランスの上に成り立つように、この作品によって作り出された世界は、登場人物たちの言動や物語の流れによってこれ以上ないほどの絶妙なバランスを生み出している。

それは得体の知れない暴力的挿話や主要人物たちの抱えた問題といったものが暗示に満ちた終わり方をすることとは全く関係なく。むしろ、そういう終わり方がこの作品には相応しいのだと思わせるほどである。夜の街を覆っていた闇が薄れ、朝の光が世界を照らし出すラストシーン。そこはこれから何かが始まりそうな微熱を帯びた予感が強く感じられる。

ウィキペディア 『アフターダーク』
ウィキペディア 村上春樹
アマゾン 『アフターダーク』 (講談社文庫)

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プロフィール

阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメール[email protected]
またはお問合せtwitterまで。

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