文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
凄い方程式1 『E=mc²(E=mc^2)』
広島や長崎に落とされた原子爆弾を生み出す契機ともなったこの方程式。E(エネルギー)はM(質量)とC(光速)の2乗を掛け合わせた数値に等しいと言われただけではもう一つピンと来ない。
特に光速の2乗(1秒間に約30万キロメートルの2乗)という巨大な数値がなぜ登場してくるのかが分からない。しかし原爆を生み出したエネルギーが何かと考えると、そこからこの方程式の凄さの一端が見えてくる。
不安定なウランやプルトニュームの核分裂反応のエネルギー(原子核の陽子と中性子の結合エネルギー)を利用した原爆。しかし実際に反応を起こしたのは広島型原爆でたった1キログラムほどだという。
そしてその時失われた質量(約7グラム)に光速の2乗を掛け合わせた数値が原爆のエネルギー。わずか7グラムの原子核の分裂エネルギーがもたらしたものが、あれほどの力をもっていた。
そこから考えられるのは、現在の科学では実際のエネルギーを取り出すことはできないが、E=mc²の方程式の質量に人体の重さを代入してみると、そこ存在するエネルギーは、70キロの人間の場合、原爆の約1万倍のエネルギーに相当する。
そして現在、そんな人類が68億。さらに動物や植物、鉱物や無生物といった地球上の全ての重量。その上、宇宙全体の持つ重量という莫大なエネルギー。自らの内にも外にもエネルギーが満ちている。その事実を、たった一つの数式で示してくれることがこの方程式の凄いところだ。
今回、このE=mc²の凄さを歴史的に教えてくれた動画がYouTubeにあったので、その動画を紹介しておきます。
Youtube E=mc²動画(1)
ウィキペディア E=mc²
ウィキペディア アルベルト・アインシュタイン
凄い講演3 飽くなき探求・直木孝次郎氏『伊勢神宮と壬申の乱』
松本清張の生誕100年を記念して行われた古代史講演会。以前に行った伊勢神宮という存在の不明瞭さを明らかにするため参加した講演会で、これほど充実した話が聴けるとは思わなかった。
古代史に関しては、「梅原日本学」や中央公論社の『日本の歴史』を趣味として読んだ知識しかなく、この講演の演者が『日本の歴史』の著者の一人であることには全く気づかなかった。演者として教壇に立ったその姿には年相応の心もとなさを感じたが、始まった講演の質の高さは圧巻。
少しでも価値のあることを聴衆に伝えようという気概に満ちた語り口調。表裏5ページのレジメを縦横無尽に駆使しておこなわれる刺激的な推論。文献や資料を積み重ね多層的な解釈から事実に迫っていく話の面白さには緊迫感すら感じられた。
ヤマト王権の二重性により、一度は伊勢に追いやられた天照大神が、壬申の乱で大海皇子側に味方した伊勢、東国勢力の貢献により国家の最高神として祭られてゆく。限られた時間にその結論に辿り着いた演者の表情は、その場にいる誰のものよりも生気が満ちていた。
(写真右が直木孝次郎氏)
ウィキペディア 直木孝次郎
凄い落語1 笑福亭鶴志『試し酒』
落語についても、ましてや上方落語の四天王と言われた松鶴さん(6代目)についても全く知らなかった。だから鶴志さんがそんな師匠の酒にまつわる失敗談を枕にしだした時には、一体誰のことかも分からなかった。しかしそんなのは一瞬、あとは一気に笑いの世界に引き込まれた。
『試し酒』は枕に続く酒にまつわる噺(はなし)。田舎出の下男が5升の酒を飲み干せるかという賭けの顛末がその内容。飲めなければ主人の負けとなってしまう下男のどこかとぼけた姿と、その様子を見守る主人たちの対比が面白い。
そしてそんな3人の人物を、巧みに演じ分ける鶴志さんの噺の上手いこと。特に酒に目の無い下男の間の抜けた姿や、酒を飲む時の表情、動き、音といった一つひとつが笑いを誘う。笑えば笑うほど、次の笑いが止まらなくなる笑いのフィーバー状態が生まれる。
最近ではCDやDVD、さらには動画サイトでも落語が楽しめる時代。しかし実演でしか伝わらない細かな動きのニュアンスや、場内に充満した笑いの空気が確かにある。そんな空気を噺一つで作り出せる噺家いることを、ぜひ知ってほしい。
(写真は笑福亭鶴志の『長短』『天王寺参り』を収録したDVD)
ウィキペディア 笑福亭鶴志
ウィキペディア 『試し酒』
アマゾン 『繁昌亭らいぶシリーズ10 笑福亭鶴志』 [DVD]
凄い講演2 スティーブ・ジョブズ『伝説のスピーチ』
ネットの歴史について学んでいく中、画期的な1ページを開いたことで知られる人物として登場してくるスティーブ・ジョブズ。彼が2005年にかって在籍していたスタンフォード大学の卒業式で行った祝賀スピーチの動画がYou Tubeにあった。
彼やアップルという企業をを評価する人から「伝説」とまで言われてきたスピーチを、まさか字幕付きの動画で見れるとは思わなかった。前後半合わせて約15分ほどの短いスピーチだが、自らの半生を率直に語り、そこから得た教訓を力のある言葉で伝えている。
「今日を懸命に生きること」、「自分の内なる声を信じること」。スピーチで語られる幾つかの教訓は、決して特別なものではない。ただそれを実際にやり続けていくことが難しいだけなのだ。スピーチ最後の彼か繰り返す言葉がその難しさを教えてくれる。「Stay hungry stay foolish」(ハングリーであれ。バカであれ)。
(写真はWWDC07でのスティーブ・ジョブズ)
ウィキペディア スティーブ・ジョブズ
You Tube スティーブ・ジョブズ 伝説のスピーチ1
同 伝説のスピーチ2
凄い講演2 『梨木香歩さんの読み語り』
初めて読んだ『西の魔女が死んだ』以来、熱心な読者ではないけれど、機会があれば手にとって読む、お気に入りの作家の一人であった梨木香歩さん。そんな彼女が、図書館のイベントに来るということで行った「読み語り」の会。
司会者の紹介の後、姿を見せた彼女は、彼女が描く作中人物にも共通する不思議な雰囲気を持っていた。それはまるでその日彼女が朗読した「家守綺譚」の登場人物のように、少しだけ現実から浮遊したような独特の雰囲気だった。
そして落ち着いた声で朗読されていく不思議な物語の世界が、一層彼女をこの世から浮き立ったような独特の雰囲気を作り出すのだった。その感覚は、これまで会って来たどんな人物の印象とも違う独自のものだった。
「読み語り」やインタビューの後、多くの人々が彼女にサインをもらうために行列を作って並んでいた。そんなざわめきが残る会場を後にしながら、まるで何か不思議な霊力を持った存在に上手くかつがれたような気がしたことを覚えている。
(画像は彼女が「読み語り」で朗読された『家守綺譚』)
ウィキペディア 梨木香歩
アマゾン 『家守綺譚』 (新潮文庫)
凄い講演1 実績が持つ説得力『井村雅代さん講演』
NHKの『知るを楽しむ』という番組のテキストに書かれた井村さんの半生を読んで以来、一度この方の話を実際に聞いてみたいと思っていた。そしてそれが実現できたのが今回の講演。
はっきり言って久しぶりにこれほど凄い講演を聞いた気がする。話の中心は中国シンクロチームの指導者を始めてからオリンピックでメダルを取るまでの話。すでにテキストで知っている話なのに、実際、本人の口から聞かされる言葉の数々は凄い力を持っていた。
中国選手たちとの心の交流、ピンチの中でいかにそれを乗り越えていくか。体験談を交えながら語られる言葉の数々には、指導者として世界の舞台で戦い続けてきた人ならでは、高い意識と周囲をも巻き込む静かな熱意が込められていた。
そして講演の終盤には、自らが指導してきた中国選手たちのオリンピックでの演技が映し出された。それを見ながらつくづく、自分が誇れるものを作り上げ、周囲の人々に自信を持って紹介できる人の強さを感じた。
指導者として7度オリンピックに出場し、その全てでメダルを獲得する選手を育て上げてきた実績。しかし井村さんの本当の凄さは、様々な困難を乗り越え、新たなことに挑戦し続けていく生き方自体にあり、そこで生み出されてゆく人間的豊かさにある。
(写真は井村さんの半生を紹介した『知るを楽しむ』のテキスト』)
ウィキペディア 井村雅代
アマゾン 『人生の歩き方 』2009年2-3月 (NHK知るを楽しむ/水)
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