文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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ムーブメントを生み出すために~メディア芸術フォーラム大阪・シンポジウムに参加して~
席に座ると同時に始まりだしたCGカップ日仏親善大会(短編CGアニメの日仏対抗戦)の映像は昨年9月、京都で開催された大会のリバイバル放映。そのくせ妙に臨場感を出そうとする演出は、はっきり言ってどうかと思った。(台本どうりの予定調和とライブ的演出が入り混じった奇妙な感じ)しかしそこで上映された短編CGの幾つかには、かなりの良作が含まれていた。(後日紹介)
その上映が終わり、一応メインイベントとして始まった今回のシンポジウム。ヤノベケンジさん、村上知彦さん、原久子さんというパネリストの方々は、名前は知っていても、この人がパネリストだからどうしても行かなきゃという人々ではなかった。特に芸術関連の講演で訪れることの多い京都造形大学で指導教授をなさっているヤノベケンジさんは、大学に展示されていた巨大な金属製の赤ちゃん風ロボット(ジャイアント・トらやん)に何の良さも感じていなかっただけに全く期待していなかった。
しかし、今回のシンポジウムで最も感銘を受けたのはヤノベさんのレクチャーであり、その発言だった。それは偏見や先入観にとらわれることが、いかに自分の視野を狭めるものなのかを再確認させてくれるほどのもので、そのような気持ちにさせてくれたヤノベケンジさんというアーティストの活動は、今後しっかり注目していきたいと思う。このように自分の中の先入観を完全に打ち砕く力を持ったヤノベさんのレクチャーを中心に、このイベントについて報告したい。
レクチャー前の先入観を大まかに言ってみれば、子供っぽい現代美術作家が「ウルトラファクトリー」という名称の制作現場で学生たちをこき使い、自分の制作を行っているのだろうというものだった。それだけにレクチャー開始当初は斜(はす)に構えて聞いていた。しかし、自らが少年時代に見た廃墟となった大阪万博の会場跡地の原風景。その記憶があり続けるからこそ、「だから新しい未来を自分の手で創るんだ」という制作動機への言及。さらにはある意味、黒歴史のはずの高校時代の仮面ライダーやバルタン星人のコスプレ写真を晒しながら進めていくレクチャーは、とても真摯で好感が持てた。
そして去年、当初は90億の予算がついていた「水都大阪」というイベントは、財政再建を公約に掲げる橋本知事就任により当初の10分の1の9億円に減額。多くのアート関係者が混乱と失望によりプロジェクトから離脱していく中、「アートというものを凄く信頼してて、もしこれで『水都大阪』が失敗したら、結局アートはそういうものだと思われる。だから命懸けで関わらなければならない」と誰よりも深くこのイベントに関わる決意をした。
全国に散らばる自身の作品を大阪に集め、公共スペースをはじめとした様々な場所に展示。「都市をアートで埋め尽くす」という大プロジェクトを展開した。中でも大阪の道頓堀はじめとした水辺を回遊し、「アートに興味のない人々をも巻き込んだ」《ラッキードラゴン》プロジェクトは、制作から運行まで多くの人々の思いを一つにする大きな流れを生み出した。その流れは「水都大阪」にそれほど期待していなかったであろう橋本知事をも動かし、アートの力で大阪を活気づけた功績に対し、「大阪文化賞」が送られることになった。
「そのような多くの人々を巻き込んだムーブメントをいかにして生み出せたのか?」。個人的には聞きたいことはその一点に絞られていた。しかし、レクチャー後のパネラーたちの論議では、司会者の進行下手が大きな足かせとなり、話は一向に核心へと向かわなかった。40分ほどの不完全燃焼な論議が行われた後、設けられた会場への質問の時間、誰も質問しないことを確認してから手を挙げた。「自分は正直な人間だから本当のことを言わせてもらいますけど」と前置きして始めた質問はある意味感情的過ぎたのかもしれない。
しかし、「ゼロ年代」という閉塞感や不毛さで溢れた10年を作り出したものは結局、「つまらないものはつまらないと言い、そんなものたちには速やかに退場してもらう」ということをして来なかったこの国にありようにあると思っているので、正直に「司会者が論議の芽を摘み取っていたこと」、「もっと聞かなきゃいけないことがあったのでは」という批判を口にしてから質問に入った。
「『ゼロ年代』という不毛さばかりを感じたような10年が終わった『ポストゼロ年代』にいかにしてムーブメントを作っていけばよいでしょうか」という質問に対し、ヤノベさんは、こちらの職業を確認した後に、「フォースを身につけることです」と手短に回答した。そして笑顔で「冗談ではなく、フォースを身につけ、天真爛漫にやっていくことが重要。あと多くの人たちがこの世にあって欲しいというものを創っていくことも重要。『水都大阪』にはそれがあったし、この世の中に創らされているというような感じがあった」と付け加えた。
その意見に関し、パネラーの一人でありアートプロデューサーの原久子さんは、「論議が起こることはいい事。私自身、常にその状況の中で楽しいことを見つけて、面白がって追っかけまわしていました。面白いと思うことをしていくことが大事で、ブログとかtwitterとか最近の美術雑誌でも表層を切り取るだけでなく、議論が起こってみんなが語り合える状況を自分たちで作ることが大事かなと思っています」と「ゼロ年代」の閉塞感を突破するためのヒントを提示した。
個人的には、そこからさらに突っ込んで「ではどのようにすればフォースは身につくのか?」とか、「論議を生み出す場を作ることがこれまで上手くできて来なかった理由は何か?」といった点を聞いてみたかったが、限られた時間ではそれはできななった。しかしヤノベさんや原さんのように若い人々の可能性を育てながら、アートで何かを変えていこうとする人々が、関西にも確実にいることを実感できただけでも、何よりも貴重なシンポジウムだった。
(この文章は7月24日の夜に書いた文章に加筆したものです)
ウィキペディア ヤノベケンジ
ウィキペディア 原久子
メディア芸術フォーラム大阪-関西の創造力の詳細紹介ページ
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