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『海洋堂前史』~京都国際マンガミュージアム・フィギュアの系譜展を観て前編~

 日本という国における人形(フィギュア)の歴史を土偶から海洋堂まで一つのラインを通して見てみようと企画されたこの展覧会。3部構成の1部は「海洋堂前史」に当てられ、土偶からキン消し(『キン肉マン』消しゴム)まで約1万年をわずか10畳ほどの空間の中に展示したかなり強引な展示のように思われたが、そこに現れてくる時代背景や歴史的つながりを見ている分には面白かった。フィギュアの系譜

土偶、埴輪といった現在ではその制作理由が明確でない存在から始まり、奈良・平安時代の呪術や祓えの際に使用された人形(ひとかた)などは、土や木で作られた存在に対して何かしらの思いを込めるという、現在の我々が人形やフィギュアに対する時の態度と基本的には同じ構造が、1万年前から続いているという事実を確認できた点では興味深かった。

さらにそこからいきなり江戸時代の雛人形や伏見人形へと時代がワープした点にはもう一つ納得いかないものがあったが、すでに庶民の娯楽となりながら、そこには同時に自然や死や闇といった得体の知れない存在に対する恐れのようなものがはっきりと刻印されており、当時の人々の内面が投射されていて面白かった。医学や科学が未発達な時代、人々が頼りにできたものは信仰しかなく、それが人形という存在にまで及んでいること。そんなことを考えながら展示を見て回った。フランス人形

大正時代に新たな気風風俗を取り入れ復活した博多人形や、西洋から輸入されてきてビスクドールなどを起源とするフランス人形といった第二次大戦以前の人形たちにも、ハレ的な存在でありながらも、どこかしらに残る穢れ的な恐ろしさを感じさせるものが残り続けていた。それらはたとえば最近再びブームとなりつつある妖怪といったものに対する、本来人間が持つ自分より大きな存在や得体の知れないものへの恐れの表れなのだと思う。

しかし、そんな恐れも第二次世界大戦を経た戦後日本では急速に忘れ去られていく。アメリカ的大量消費を背景とした社会では、日本の土着的闇や自然を恐れるといった概念は消し去られ、表面的で空洞化した人形たちが大量生産されていく。ブリキのオモチャから始まって、セルロイド人形から昭和40年代のリカちゃん人形。男の子用で言えばGIジョーを始めとした軍隊関連の玩具や、『ウルトラQ』から始まる特撮ものや怪獣ブーム。そしてその直前の50年代、消えかけたともし火が最後の輝きを放つようにして起きた「こけしブーム」や「河童ブーム」を見ていると文化の組み換えが確実に進展していったのだと理解できる。わんちゃんとおさんぽリカちゃん

それはリカちゃん人形のパッケージに記された文字にも見て取れる。昭和40年代の和洋折衷のちぐはぐな家付の「リカちゃんドリームハウス」や、平成2年(1990)の「リカちゃん朝シャンドレッサーさわやかさん」。リカちゃんのライバル的存在、ジェニーは昭和61年(1986)と62年(1987)にピエール・カルダンやハナエ・モリの着せ替え衣装付きのセットが販売されるなど、いかにも時代を感じさせる人形たちが世に送り出されていった。グリコ

また海洋堂前史を語る上で忘れてはならない存在として大正11年(1922)に大阪三越で販売を開始した『グリコ』がある。「ひとつぶ300メートル」のキャッチコピーで知られるこのキャラメルは、おまけに造幣局で制作されたメダルが付くなど、その後のおまけ文化に大きな影響を与えた。また1950年代以降のグリコのおまけを見て思ったことは、この世代から野球選手カードや仮面ライダーカード、ビックリマンシールや現在のトレーディングカード、さらにはキン消しやポケットモンスター内のモンスターなど、確実に収集に対する喜びを植えつけられた世代が育っていったことだろう。

そんな世代が着実に育っていき、いわばいわば豊かに耕された土壌の上に、大きな社会現象を巻き起こすことになる食玩という収集癖をくすぐる高品質、低価格のおまけをひっさげて海洋堂が登場してくる。そしてその圧倒的勝利はこれまでフィギュア(人形)というものに興味のなかった人々にまで興味を持たせ、広くフィギュアに対する認識を新たにすることに成功したのだった。(後編に続く

京都国際マンガミュージアム 夏の特別展 フィギュアの系譜展--土偶から海洋堂まで
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アマゾン リカちゃん わんちゃんとおさんぽリカちゃん

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現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
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