文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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「かなり残念なイベント」~文化庁メディア芸術祭京都展・宮本茂さんと養老孟司さん講演を聴いて~
「良いものを多くの人に伝えたい」ということを基本理念としているこのブログで、どうして「あまり良くなかったもの」について書くのかというと、今回のイベントがあまりにも聴衆の視点というものが抜け落ちたものに感じられたからだと思う。そしてもう一点は少なく見積もっても10社以上は来ていた報道関係者や、来場した約250名の聴衆の方を含めた誰一人、この講演が「かなり残念なものだった」という話を書かないだろうし、すでに3日が過ぎた時点でどこにも書いてない状態はやっぱり異常ではないかと思ったからだ。
実際、講演後に来場者の数人に話を聞いてみたところ、「正直、期待していただけにもっと宮本さんの話が聞きたかった」という意見や、「二人の話が噛み合ってなかった」という感想を聞いたのに、予想通りというか、やはり形に残る文章などで本音を語っている人はいなかったように思う。そもそも講演の最中、ほぼ9割の人が現在、何らかのゲームをやっていると挙手した状況や、宮本茂さんを講師に選んだ時点で、通常めったに聴くことのできない宮本茂さんのこれまでの話やゲームに関する話を引き出せるホストを選択するべきではなかったのか?
確かに養老孟司さんという方は、最後の質疑応答の回答のように、自身の専門分野や得意分野に関しては鋭く的確な意見をお持ちだけれど、イベントの紹介欄に書かれていたほど「マンガのみならずゲームやアニメにも造詣が深い」方なのだろうか?講演の中盤に二人でプレーされた「スーパーマリオギャラクシー」の腕前を見ると、あの年齢にしてはゲームに親しんでられるようだけれど、正直、今のゲームソフト制作の流れを大きく決定づけたトップクリエイターからゲームの話を引き出せるほどにはゲームに造詣が深い方ではないし、相手の話を引き出すホストとしてはゲストに寄り添って話を聴く姿勢が足りなかったのではないか?
もしかすると、この「シンポジウム」と題された企画は、宮本茂さんと養老孟司さんが専門分野の垣根を越えたトークによって新しい何かを生み出そうという意図があったのかもしれない。しかしそれなら、紹介欄に書かれたいた「ゲームという共通基盤を基に対談します」という一文は意味をなさないのではないか?それらの状況から、なぜ養老孟司さんという人選がなされたかを推測すると、やはり会場でもあるマンガミュージアムの館長だから「収まりが良い」、という理由になっていくのではないだろうか。
しかし、いくら「収まりが良い」からといって、このようなイベントの本来の趣旨である、「その講演を聴くことによって聴衆からも何らかの新たな発想が生まれること」や「専門分野で活躍する方の経験に根ざした意見を聞くことで知識の共有化を図ること」といったことをおろそかにして良いのだろうか?本来、このような指摘をすることは、様々な人のメンツや体裁を傷つける「大人げない」行為なのかもしれない。しかし、そのような問題を指摘しない「事なかれ主義」的な体質がこの国の閉塞感を生み出してきたと考えている人間には、もういい加減本音を語る時期のように思うのだ。
この際、勢いついでに言わせてもらうけれど、講演の終盤に養老孟司さんが仰った、「最近の若者は酷い状況を経験してないからかわいそう。色んなことを経験できることは圧倒的に有利だから、そういう現場を体験できるよう最低限から出発させてやる方が良いのではないか」という意見は、あまりに年寄りの説教じみてて言葉を失った。今、現代アートの界隈で一部の若いアーティストの感覚の鋭さや表現の巧みさに直に触れている人間にとっては、そういう現実も知らずにこれまで言い尽くされてきたような「若者批判」を繰り返すことが、いかに時代のリアリティーから遠ざかった言説なのかと思わずにいられなかった。
長所の裏には必ず短所があるように、若い世代の持つ短所の裏にも必ず長所が潜んでいる。これまでの「高度経済成長」的システムが立ち行かなくなり、新たな価値観を模索する時代にこそ、過去の様々な問題を洗い出し、未来を創る若い世代の挑戦や努力を「若者の○○離れ」とかいった批判的、粘着的視点でなく、新たな価値観や可能性の表れとして見守る必要があるのではないか。そしてそういった姿勢にこそ、多くの問題を抱えたこの国の未来を明るくしていく積極的力があるのだと思う。
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