fc2ブログ

「かなり残念なイベント」~文化庁メディア芸術祭京都展・宮本茂さんと養老孟司さん講演を聴いて~

 今月の2日から12日まで京都市内の2つの会場で開催されている文化庁メディア芸術祭京都展の一環として京都国際マンガミュージアムで開催された、『スーパーマリオ』や『ゼルダの伝説』などで知られるゲームクリエイターの宮本茂さんと、解剖学者でマンガミュージアムの館長でもある養老孟司さんの講演を聴いてきました。ネット上のスピード感についていけてないこのブログで紹介するまでもなく、すでにほぼ全文が「game.watch」というサイトや「orz blog」という所で紹介されているので、二人の話が知りたい方はそちらを訪ねれば良いと思うのですが、このブログではこれまで100以上の講演を聴きに行った人間から見たこの講演の問題点について語ってみたいと思う。メディア芸術祭ちらし

「良いものを多くの人に伝えたい」ということを基本理念としているこのブログで、どうして「あまり良くなかったもの」について書くのかというと、今回のイベントがあまりにも聴衆の視点というものが抜け落ちたものに感じられたからだと思う。そしてもう一点は少なく見積もっても10社以上は来ていた報道関係者や、来場した約250名の聴衆の方を含めた誰一人、この講演が「かなり残念なものだった」という話を書かないだろうし、すでに3日が過ぎた時点でどこにも書いてない状態はやっぱり異常ではないかと思ったからだ。

実際、講演後に来場者の数人に話を聞いてみたところ、「正直、期待していただけにもっと宮本さんの話が聞きたかった」という意見や、「二人の話が噛み合ってなかった」という感想を聞いたのに、予想通りというか、やはり形に残る文章などで本音を語っている人はいなかったように思う。そもそも講演の最中、ほぼ9割の人が現在、何らかのゲームをやっていると挙手した状況や、宮本茂さんを講師に選んだ時点で、通常めったに聴くことのできない宮本茂さんのこれまでの話やゲームに関する話を引き出せるホストを選択するべきではなかったのか?スーパーマリオギャラクシー

確かに養老孟司さんという方は、最後の質疑応答の回答のように、自身の専門分野や得意分野に関しては鋭く的確な意見をお持ちだけれど、イベントの紹介欄に書かれていたほど「マンガのみならずゲームやアニメにも造詣が深い」方なのだろうか?講演の中盤に二人でプレーされた「スーパーマリオギャラクシー」の腕前を見ると、あの年齢にしてはゲームに親しんでられるようだけれど、正直、今のゲームソフト制作の流れを大きく決定づけたトップクリエイターからゲームの話を引き出せるほどにはゲームに造詣が深い方ではないし、相手の話を引き出すホストとしてはゲストに寄り添って話を聴く姿勢が足りなかったのではないか?

もしかすると、この「シンポジウム」と題された企画は、宮本茂さんと養老孟司さんが専門分野の垣根を越えたトークによって新しい何かを生み出そうという意図があったのかもしれない。しかしそれなら、紹介欄に書かれたいた「ゲームという共通基盤を基に対談します」という一文は意味をなさないのではないか?それらの状況から、なぜ養老孟司さんという人選がなされたかを推測すると、やはり会場でもあるマンガミュージアムの館長だから「収まりが良い」、という理由になっていくのではないだろうか。養老孟司『バカの壁』

しかし、いくら「収まりが良い」からといって、このようなイベントの本来の趣旨である、「その講演を聴くことによって聴衆からも何らかの新たな発想が生まれること」や「専門分野で活躍する方の経験に根ざした意見を聞くことで知識の共有化を図ること」といったことをおろそかにして良いのだろうか?本来、このような指摘をすることは、様々な人のメンツや体裁を傷つける「大人げない」行為なのかもしれない。しかし、そのような問題を指摘しない「事なかれ主義」的な体質がこの国の閉塞感を生み出してきたと考えている人間には、もういい加減本音を語る時期のように思うのだ。

この際、勢いついでに言わせてもらうけれど、講演の終盤に養老孟司さんが仰った、「最近の若者は酷い状況を経験してないからかわいそう。色んなことを経験できることは圧倒的に有利だから、そういう現場を体験できるよう最低限から出発させてやる方が良いのではないか」という意見は、あまりに年寄りの説教じみてて言葉を失った。今、現代アートの界隈で一部の若いアーティストの感覚の鋭さや表現の巧みさに直に触れている人間にとっては、そういう現実も知らずにこれまで言い尽くされてきたような「若者批判」を繰り返すことが、いかに時代のリアリティーから遠ざかった言説なのかと思わずにいられなかった。スーパーマリオ画像2

長所の裏には必ず短所があるように、若い世代の持つ短所の裏にも必ず長所が潜んでいる。これまでの「高度経済成長」的システムが立ち行かなくなり、新たな価値観を模索する時代にこそ、過去の様々な問題を洗い出し、未来を創る若い世代の挑戦や努力を「若者の○○離れ」とかいった批判的、粘着的視点でなく、新たな価値観や可能性の表れとして見守る必要があるのではないか。そしてそういった姿勢にこそ、多くの問題を抱えたこの国の未来を明るくしていく積極的力があるのだと思う。

ウィキペディア 宮本茂
ウィキペディア 養老孟司
ウィキペディア スーパーマリオブラザーズ
ウィキペディア ゼルダの伝説
アマゾン 『スーパーマリオブラザーズ』
アマゾン 養老孟司著『バカの壁』 (新潮新書)
アマゾン 『スーパーマリオギャラクシー』


【関連記事】
「萌え+ドーパミン=最強」BOME×村上隆トークショーを聴いて
「光の中の少女たち」~京都国際マンガミュージアム『村田蓮爾展』とライブペインティングイベントを観て~
凄すぎる!村上隆さんの本気in台湾
超解釈!『ネットワーク時代のクリエイティヴィティ「神話が考える」をめぐって福嶋亮大×浅田彰』
今なぜ日本画Ustなのか
『海洋堂前史』~京都国際マンガミュージアム・フィギュアの系譜展を観て前編~
「忍び寄る悪夢」~兵庫県立美術館コレクション展・束芋『dolefullhouse』(ドールフルハウス)を観て~
「幾つもの架け橋」~「京都芸術」トークイベント第二部「京都でアートを見せること」を聴いて~
「遭遇、梅佳代さん」~梅佳代写真展「ウメップ」シャッターチャンス祭りinうめかよひるずを観て ~
『アートが創る熱い夏』~瀬戸内国際芸術祭2010「直島」を巡って~その1
京都ボスキャラの集い~京都藝術オープニング「SANDWICH(名和晃平さんのスタジオ)×仔羊同好会イベント」に参加して~
「スーパーリアルな革命」~「京都芸術」に関連したKyoto家Galleryを巡って~
0000(オーフォー)の現在(いま)~0000が関連した3つの「京都芸術」イベントを観て~
「ありふれたものの凄さ」~建築家・藤森照信さんの「土と建築」講演を聴いて~
「確かに面白くはあったのだけれど…」メイドラウンジin台湾~「カオスラウンジ・オープニングイベント」ニコニコ生放送を観て~
超個人的「ワンダーフェスティバル(ワンフェス、WF)」2010夏、体験レポートその1「開戦前場内」
「孫正義にみる言葉の力」~ソフトバンクアカデミア開校式『孫の2乗の兵法』Ust(ユースト)を聴いて~
ムーブメントを生み出すために~メディア芸術フォーラム大阪・シンポジウムに参加して~
カオス(ラウンジ)世代のリアリティー~くまおり純の場合~
カオスラウンジの意味
GEISAI大学討論会での黒瀬陽平さんのヘタレ受けの見事さ
極めて葬送的な『ハートキャッチ!かおすら!』ユーストを見て
『死なないための葬送』としての『はめつら!』
カオスラウンジの何が凄いのか~関西初上陸、『かおすら!』展を見て~
凄かった!京都造形大『FRESH MEETING!(フレッシュ ミーテング)』
会田誠さんのジレンマ、そして可能性
カオスラウンジで注目の黒瀬陽平さんが投げ掛けた問い
エヴァ的に解釈するGEISAI大学放課後討論会
超簡略!私的見解込み「孫正義 vs 佐々木俊尚 徹底討論 『光の道は必要か?』」 
ユーストリーム(Ustream)配信失敗の教訓
先入観を捨てて読め!高城剛『ヤバいぜっ!デジタル日本』
デジタル技術の進化における模倣や複製の可能性
関連エントリー
この記事をクリップ!Yahoo!ブックマークに登録
BuzzurlにブックマークBuzzurlにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマークはてなブックマーク - 「かなり残念なイベント」~文化庁メディア芸術祭京都展・宮本茂さんと養老孟司さん講演を聴いて~
関連エントリー
関連エントリー

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメール[email protected]
またはお問合せtwitterまで。

全記事表示リンク
全ての記事へのリンク(ジャンル別)

全ての記事を表示する

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
ユーザータグ

京都 歴史 アニメ 映画 秀作 動画 日本 美術 古典 洋画 YouTube ギャラリー 現代美術 講演  傑作 イベント マンガ 庭園 京大 大阪 舞台 探求 寺社 建築 江戸時代 監督 国宝 奈良 寺院 ラブストーリー 紅葉 美術展 アート ノンフィクション 物理 宇宙 時代劇 押井守 フランス 攻殻機動隊 歌舞伎 アクション 仏像 グルメ 音楽   タイトル 世界 ドキュメンタリー Youtube 東京 博物館 解説  くせになる 悲劇 涼宮ハルヒ I.G 神山健治 鎌倉時代 見学 Production  祭り 狩野探幽 荒唐無稽 日本画 旅行 長谷川等伯 滋賀 シェイクスピア ヨーロッパ IG 洋楽 出会い 海外文学 菩薩 皇室 闘病 デザイン 離宮  香港 テレビ 原作 宮崎駿 ジャンル 報告 化物語 講演会  ゲーム  邦画 絵画  リアル 詩情 魔術 お寺 漢詩 個展 トークショー 西洋美術 医療 茶室 仙人 戯曲 戦争 和歌 肖像画 手塚治虫 印象派 思想 探求京大 ニコニコ 二次制作 前衛 芸術 広島 枕草子 笑い 中国 

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
フリーエリア
FC2 Blog Ranking 人気ブログランキングへブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村