文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
「90年代、日本の写真界を席捲したガーリーフォトブームとは何だったのか」~木村伊兵衛写真賞35周年記念展を観て考えたこと~
東日本大震災と阪神・淡路大震災、福島原発と地下鉄サリン事件。これらの持つ共通性と違いを確認するために、95年頃の社会風俗や文化について考え始めた時、村上龍さんと宮台真司さんという2人の人物のことが妙に気になりだした。特に宮台真司さんは、漫画家の山本直樹さんとの対談の中で、「想定外を楽しめるか」という考えを知って以来、過去の著作の中から、それまでのイメージとは異なる、時代の流れに敏感に反応してきた人として認識が改められた。
女子高生ブームが起こっていた95年当時、宮台真司さんがリサーチしていたブルセラ、テレクラといったものを、一言でまとめると、これまで受け皿とされてきた学校や家庭という枠組みに違和感を感じた女子高生を中心とした若い女性たちが、新たな居場所やコミュニケーションを求めて街(ストリート)に出て行ったという風に説明されていた。「終わりなき日常」と言われるような現実を生きる彼女たちにとって、その現実は、戦後社会が作り出してきたある種の「本音」と「建前」が成立するような古い社会の欺瞞をあざ笑うかのようにして広がっていった。
「援助交際」という言葉が象徴するような、古い価値観を支える「おやじ」たちの欲望を「援助」交際という「建前」的オブラートにつつんで剥き出しにした行動。それらはポケベルや家庭電話の子機機能といった通信ツールの個別化や、生活環境の個室化といったハードの環境が整ったこと。そして、「戦後」という社会の中で続いてきた経済発展や、誰もが信じれてこれた家庭、学校、会社、国家などの共同体に帰属することで抱ける共通幻想(大きな物語)が終焉を迎えた中で、よりリアルな状況に適応していこうというソフト面での対応が合さった結果だと説明されていた。(個人的曲解含む)
そのような時代背景の中で、出現したガーリーフォトブームというものは、当然、これまでの大きな物語を信じた人々が撮影した写真と全く異なる、極めて私的で、まだ確固として定まってはいない揺れのようなものをその写真の中に抱えているように思える。社会に対する「援助交際」的な強さを持ちながら、同時に感覚的で直感的鋭さを持つがゆえの危うさや不安のようなものを感じずにいられない。彼女たちが、今の自分の日常や、セルフポートレイトやセルフヌードを撮った意味というのは、そんな危うさや不安を抱えた「自分自身」を写真に写し撮ることで、自分という存在の確かさを確認する意味合いがあったのだと思う。それはこの時期、プリクラが登場し、多くの少女たちが自らのポートレートを撮影して自分が存在する今を確認したように。
90年代、写真界にガーリーフォトブームというムーブメントが生まれ、それが今に続く流れとなったのは、若い女性たちという日本社会において高い価値を置かれながら、それでいて社会から疎外され、居場所を模索するしかなかった人々が、自分たちの価値観(小さな物語)を切り取って提示していくための手法であり、それは、今の社会全体にまで波及した価値観の模索の前触れ的意味合いを持っていたのだと思う。そしてそのような新たな価値観の提示は、写真界のみで起きた現象でなく、マンガの世界での岡崎京子さん作品や、アートの世界のタカノ綾さんの作品など同時代的な女性作品の中に表れていた現象なのだと思う。
ウィキペディア ガーリーフォト
ウィキペディア 木村伊兵衛写真賞
川崎市市民ミュージアムの木村伊兵衛写真賞35年周年記念展紹介ページ
ウィキペディア 岡崎京子
ウィキペディア タカノ綾
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