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『アートが創る熱い夏』~瀬戸内国際芸術祭2010「直島」を巡って~その1

 「美術手帳」、「PEN」、「旅」といった大手誌が増刊号や特集を組んで紹介している瀬戸内国際芸術祭。しかしそれらの記事は、「広告料」や「プレス待遇」といった「特別な関係」の中で書かれた記事であるだけに、本当の意味での読者にとって行く価値のあるイベントかどうかが見えてこないものが多い。そこで今回の「文化ブログ」では、「広告料」や「プレス待遇」といった「特別な関係」のないフラットな視点からこの芸術祭が行く価値のあるものかをこの目で確かめてみた。瀬戸内国際芸術祭

はっきり言ってこの瀬戸内国際芸術祭は、高い交通費や宿泊費を払っても行く価値があります。それは今回、日程の都合上、2日間で「直島」、「犬島」しか見れなかった中でも十分理解できるものだった。特に一部で「世界の直島」と言われている直島の凄さは、新たな芸術やアートの可能性はこんな風なものかもと思わせる程のものだった。

実際、直島を巡る前は、よくある「世界の○○」といった存在と同じように、現実とは大きなギャップがあるキャッチフレーズ的な意味合いではないかと疑っていたが、島に来ていた外国人の数や、島内のアートスペースで出会ったベルギー人カップル、韓国人の家族連れと話していても、「直島はアートの島として有名だよ」ということだった。赤かぼちゃ

美術手帳の増刊号として出版された公式ガイドブックを事前に読んではいたが、たぶんこの本を読んだ人のほとんどがそうであるように、一体どの島や施設を回れば良いのかは全く見えてこない。だから「果たしてこの芸術祭は見に行くべきなのか?」と芸術やアートに興味のある自分ですらそう思ったのだから、一般の人はなおさらだったのではないだろうか。特に関東など会場から離れた場所に住む人々にとっては。

その結果、事前の資料読みは直島へ向かう移動中に行われることになった。「全ては最も有名な直島を見てから判断しよう」という気持ちで向かった電車内、読み始めた『直島 瀬戸内アートの楽園』という本は、最初の10数ページには全く引き込まれなかったが、安藤忠雄さんの文章から家プロジェクト、ベネッセハウスの解説に入ると非常に読ませる本となっていった。直島アートの楽園

美術館の外へ出て、島民との交流や試行錯誤の中から築かれていった「家プロジェクト」。美術作品があることで当たり前の自然が新鮮に見えてくる野外作品。自然と芸術作品が交わった空間を創出したベネッセハウスミュージアム。それらの一つひとつについて、キュレーターとして関わった人物が小さなエピソードを織り込みながら書く文章には、芸術に対する静かな愛情が感じられた。

移動時間短縮のため、岡山の宇野港側から小型船舶に乗り、約20分で到着した直島。島独特ののんびりした雰囲気と青い空、そして輝く海。夏の気配が満ち溢れた直島はそれだけでも十分に楽しめる空間なのに、そこには外国人を含む多くのアート好きがいて、瀬戸内国際芸術祭という祭りに対する期待感や、アートによる「熱い夏」がやって来そうな予感に満ちていた。直島銭湯

早速向かった案内所で島内の地図や宿泊情報をはじめとした島内情報を収集し、500円で借りたレンタサイクルにまたがり、とりあえず宮ノ浦地区で見れる草間彌生さんの『赤かぼちゃ』と、まだ営業時間外の直島銭湯『I湯』の外観を見学。ある意味「だから何なんだ」的な印象だけで、もしかするとこれは徒労に終わるかもという微かな不安がよぎったが、宮ノ浦から自転車で10分程の本村エリアで「家プロジェクト」見始めると、そんな不安は一気に解消された。
その2に続く犬島の記事へ進む

瀬戸内国際芸術祭2010ウェブサイト
瀬戸内国際芸術祭twitter
ウィキペディア 瀬戸内国際芸術祭
アマゾン 『美術手帖6月号増刊 瀬戸内国際芸術祭2010公式ガイドブック』
アマゾン 『直島 瀬戸内アートの楽園 (とんぼの本)』

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阿部和璧

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現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
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