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阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
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凄すぎる!村上隆さんの本気in台湾
昨年のGEISAI台湾のダイジェスト映像に続いて始まった登場直後、村上さんは「この数ヶ月で日本ではアートに大きな変化がありました」と話し始めた。「アーティストの意識がネットワークの進化によって随分変化してきている。ネットワーク上の新しいメディアの中で表現したい、何か伝えたいという人々が出てきていて、アートの概念も拡散。アートが形のあるものだけでなく、情報そのものとして存在していく時代に入りました」と一連のカオスラウンジの動きを踏まえてあいさつ。
続いて行われた昨年のGEISAI台湾の受賞者たちのプレゼン。それに対する村上さんの日本と台湾のGEISAIの比較から何かが動きだしたようだった。「日本のGEISAIは、私と私が出資している会社が全額お金を出している。色々な所にスポンサーを頼んでもサポートしてくれません。日本の社会では、アートは物好きがやる行為なんです。台湾はその点、文化事業として芸術を押し上げようと協力してくれるから、クオリティーとしては台湾の方が上なんです」。
さらに「僕はずっとヨーロッパや北米を基盤として活動してきた中で、これだけはプレゼンとして言えることを発見しました。それはアートが最もコストパフォーマンスが良い文化的行為だということです。アートって距離感とかスケールとか関係ないんで、みなさんのどなたかがドカンとブレイクして、アートシーンを牽引していく可能性も十分にあるんです」と力説。
そこから始まったQ&Aでは、事前アンケートにあった「芸術家の定義とは何か?そして芸術とデザインとの間に境界はあるのか?」といういきなりの本質的質問に、村上さんは「じゃあ僕、エンジンをカチャっと入れて話しますんで」と話し出した。「芸術とは何か?この大きな問いは僕が大学時代から48になる今まで、毎日、毎日この瞬間も、うんこの時も、シャワーの時も考え続けています」。
「分かりやすい喩えで言えば、アップルのスティーブ・ジョブズが僕にとってのスターアーティスト。つまりアーティストとは何かと言うと、自分の発想したビジョンで、世の中が変わる。もっと良く変わるという信念を持って社会と交流していける人、それが芸術家だと思う。そして芸術家の仕事は、世の中に自分がいて、自分と社会を結びつけることで世の中をより良く変えることであり、変わった瞬間が芸術であるということですね」と回答。
2つ目の質問については「僕はアップルのヘビーユーザーなんですけど、彼らの製品に投資しているのは彼らの哲学と製品の美しさ、さらにその2つを合わせた可能性が我々に夢を与えてくれるから。その3つがあるからなんです。ジョブズは自分が目指しているのはビートルズだと言っています。ビートルズの音楽で世界は変わった。そして彼らの元にはお金が入ってきた」。
「人がもし大きな夢を持ち、それが現在の世の中にないものであれば、多くの協力者を得なければならない。そして多くの人間たちとコミュニケートするための一番の方法は、ビートルズと同じく芸術なんです。もしその芸術が素晴らしくて人々に支持されるのならば、必然的にお金も集まってくるそれが現代の世の中なんです」。
「しかし時代が求める芸術とお金のサーキュレーション(循環)が永続的に回るのは凄く難しい。だからそれを可能にするためには面白く、楽しい、未来に夢を持てるような循環をデザインし直さなければならない。これからは芸術、ビジネス、デザインの一つだけをやっていればいいとか、それぞれが分断した考え方はなくなると思っています」。
「芸術はウォーホールの時代から随分進化しているんです。ウォーホールが言ったのは『誰でも5分だけ有名になれる』。それはあの時代には出来ないことだから彼はそう言った。しかし今やフェイスブックやブログなどで話題をしっかり作れば、その人間は有名になれる。ですから今、芸術とは何か僕らから言えることは、世界が全て本当に芸術的になるということです」。
また場内からの「ニューヨークという環境がその後の作品づくりに与えた影響は?」という質問に対しては、「94年から3年間滞在して、現在もスタジオを運営していて、資本主義経済を牽引してきた国で芸術をやってきたことは非常に意味があることでした。つまり資本主義が限界まで膨れてきた中で、芸術がある役目を遂げなければならないという予感があったからです」。
「しかしその後のクラッシュから、人類をもっと豊かにしようという資本主義という発明が随分疲れてきたし、もっと大きなパラダイムを発明しなければならない時期に来ている。なので当時は資本主義経済とアートシーンの合体が重要でしたけれど、今はそれほどでもない気がしています。依然、アートのキャピタルはニューヨークですけれども、今はそれだけではない気がしています」。
さらに「中国のアートシーンについて、そして資本主義の中での芸術活動の限界について」という質問には、「2年程前まであった大きい中国のアートシーンのムーブメントが一段落ついたのはみなさんも知っての通りです。しかしこの中国の活動には2つの意味を感じます。一つはよくぞアジアからマイナーチェンジにしても独自のルールを作り出したという賞賛。しかしオリジナルでないコピーであるなら、それは朽ちてなくなってしまうという事実」。
「恥ずかしながら、僕自身はアジアのアートのルールをまだ作っている訳ではないのです。西洋の作り出したルールの中で起動しているアーティストの一人なので、ゆえにGEISAIを作って何かアジアから、日本から新しいルールを作れないかというのが狙いでした。そして膨れきった資本主義の中での芸術とは何かを考えると、僕ら絵を描く芸術家は絵を描いてそれが認められ、お金に変わったり、変わんなかったりを芸術と捉えてますんで。つまり大きい画面に絵の具を塗るだけが芸術でなく、芸術とはもっと広い意味で可能性があるのではないかとアジアから問いかけなければならないのではと思います」。
最後の質問は「作品を作りながら、どうやって自分らしさを見つけていくか」と言うものだった。それに対して村上さんは「僕もまさに今言った疑問を毎日自分自身に投げかけています。その中でプロのアーティストとして言えるのは、それを優れた漁師の勘に喩えることができるかもしれません。同じ条件であってもなぜか毎回大漁の漁師がいて、その人は他の漁師よりも何か違う努力やものを見て判断しているのかもしれない。その何か違うものが芸術家の価値であったりレベルなのだと思います」と真摯な言葉で語り掛けた。
正直、これほどオープンに心を開いて、一人の芸術家の芸術観やビジョンが語られたるだろうとは思ってもいなかった。350人ほどしかいなかったユーストの視聴者も同意見だったらしく、「このUst凄い」という驚嘆の言葉以外、約35分間、コメントを書き込むものはほぼいなかった。密度の濃い質疑応答を終えた後は、なぜかぐったりと疲れ、その後の黒瀬陽平さんによるカオスラウンジの説明も頭に入らなかった。
きっと村上さんをこれほど本気にさせたのは、会場に集った台湾の若者たちの熱気であり、アートに対する情熱なのだと思う。そしてそれは、芸術という何か不思議な存在を共通の基盤として燃え上がり、人々や世界をより良く変え、未来に希望を抱かせる大きな可能性を秘めたものだと思う。
GEISAI大学ユーストin台湾 Q&A以降
ウィキペディア 村上隆
ウィキペディア スティーブ・ジョブズ
ウィキペディア アンディ・ウォーホル
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