文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
「世界標準とガラパゴス、なぜ今、韓国アートが強いのか?」~アート大阪2011を観て~
5月のアートフェア京都やartDive(アートダイブ)では、正直、震災という未曾有の危機を後にして観る絵画作品のもろさばかりが目立って、印象に残る作品が少なかった。しかし、今回のアート大阪では、それら2つのフェアーよりも、何か一歩前に進んだような印象がフェア全体にあったような気がする。
中でも強く印象に残ったのが韓国系のギャラリーや作家たち。片言の英語で会話していく中でも、現在言われている韓国の現代アートの熱量のようなものが、その話しぶりや態度からも伝わってきた。
GALLERY SHILLAの空間に展示されていたLee Lee Namさんの作品は、デジタル技術を使った東洋や西洋の歴史的な絵画を映像化した作品で、その中に現代的なモチーフを取り込んで、古さと新しさの融合を試みていた。
作品紹介をしてくれた韓国人ギャラリストの話では、海外のオークションで100万ドルの落札価格がついたと豪語するだけあって、そのクオリティーは非常に高く、デジタル技術をいち早く取り入れた先進性と、森村泰昌さんの作品を更に進化させたような発想が面白かった。
大阪のギャラリーで、優れた韓国人作家を日本に紹介しているギャラリー風の空間にあったNAUL(ナオル)さんという作家の作品も良かった。どこにでもありそうな紙くずのコラージュや落書きのようなラインから生み出される独特の平面は、極めてシンプルなはずなのに、見ていて飽きない面白みがあった。
韓国ではバンドのヴォーカリストとしても活躍しているという作家の作品には、一般的に言われている綺麗さや美しさに囚われることのない、自分独自の美意識のようなものがさりげなく表現されていて好感が持てた。
今回のアート大阪だけでなく、国内で観る韓国人作家の作品に優れたものが多い理由を考えてみると、最近、韓国の文化や産業全般について言われている「政府や企業が戦略性を持ってお金を出しているから」とか、「人口が日本に比べ約4800万と少なく、世界のマーケットに出ていかなければ生き残れないから」といった理由だけではないものを感じるように思う。
それを一言でいえば、過去の因習や、「常識」として固定化されてしまった先入観に囚われることなく、積極的に新たなものに取り組み、そこから生み出される独自のものを、程よい客観性を兼ね備えながら提示している立ち位置の軽やかさにあるのかもしれない。
そういう意味では、海外に目を向けることを積極的にしなくなり、日本独自の発展を善しとしてきたガラパゴス的なあり方や、カワイイをはじめとしたクールジャパン的傾向ばかりに偏り過ぎた日本のアートには、より広い外の視点を欠いた些細な違いばかりに目がいってしまい、現代アートならではの先進性を試みた作品が少なかったのかもしれない。
日本で生まれ、世界的にも知られる芸術グループとしてその名を残す具体美術協会のリーダー・吉原治良は、その会のメンバーたちに「人の真似はするな、今までにないものを作れ」とことあるごとに告げていたのだという。震災という揺れが、社会だけでなく人々の精神や考え方までも揺らした今だからこそ、果敢に新たなものに挑戦し、新しい価値観を提示していくようなアートが求められているのだと思う。
アート大阪2011のウェブサイト
Hyon Gyon(ヒョンギョン)さんの展示を紹介した京都芸術センターのページ
ウィキペディア 具体美術協会
ウィキペディア 吉原治良
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