文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
凄い戯曲2 松本大洋著『メザスヒカリノサキニアルモノ若しくはパラダイス』
漫画家としての松本大洋さんのことは、一通り作品を読んでいることもあって、一応はどんな作者なのかは知っていた。しかし、プロの劇団のために戯曲を書いていることや、その作品がこれほど凄いとは知らなかった。
物語は深夜のドライブインに集まった4人のトラック運転手たちの会話を中心として進んでいく。断片的な会話と、それぞれの人物の過去や未来の出来事を切り取ったエピソードの挿入。意味が分かる話もあれば、何を意味するのか分からない話もある。それらが交じり合いながら独特の作品世界が作られていく。
都会的で乾いていて、それでいて心の交わりのようなものもある。松本大洋の作品なら、どのマンガにでも見られる肌触りはこの作品にも色濃く出ている。しかしそれだけでなく、何か深いものがこの物語の中に読み取れるように思える。たとえばそれは、フーちゃんまたはフッくんとして登場してく人物が持つ奔放さの中にあるのかもしれない。
深夜のドライブインでわずかな時間を共有した運転手たちは、またそれぞれのトラックに乗り込み、それぞれの道へと走り去ってゆく。夜の高速道路を走るトラックは、まるで宇宙の闇を駆け抜ける彗星のようにどこか寂しげで、深い孤独に包まれている。そんな孤独の中で生じる他者との交わり。そしてそこで生じるかすかなぬくもり。そのぬくもりの心地よさが私たちの心に静かに響く。
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ウィキペディア 松本大洋
凄い戯曲1 史上最強の悲劇・ソポクレス著『オイディプス王』
今から二千年以上昔の古代ギリシャで作られたこの作品は、人間という存在が、圧倒的な運命を前にしては全く非力な存在であることを時代を越え教えてくれる。
しかしそれはあまりにも過酷すぎる運命で、死を選ぶほうが、どれだけ主人公の救いになるかと思えるほどのものなのだ。この作品が当時の演劇祭で優勝を逃した理由もそこにあるのではとも思える。
一編の戯曲によって読者の心をそこまで揺さぶる作者の力量は、天才という言葉を通り越した神懸りといえるほどのものだ。そんな作品を前にして読者はただその圧倒的な物語の凄さを称える以外にない。
ウィキペディア ソポクレス『オイディプス王』
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