fc2ブログ

デジタル技術の進化における模倣や複製の可能性

 先週土曜日、京都精華大学で行われた第1回ポピュラー・カルチャー シンポジウム「パクリ」に聴衆として参加して来ました。その中で驚いた事、面白かった事を紹介します。まず第一に驚いたことは、200人ほどの参加者の中、わざわわざ関東から来た学生が、最近このブログでも紹介しているカオスラウンジという言葉を使って質問をしたことです。パクリシンポ

その質問は「なぜ規制側の論理に則ったパクリという言葉をタイトルにしたのか?シミュレーショニズムや、今話題のカオスラウンジなどから議論した方が論点が明確になったのでは?」というも。正直、驚きました。関連している話とはいえ、あんな京都市の山奥でカオスラウンジという言葉を聞くとは。

それだけでなく、壇上のパネリストたちの幾人かは、ちゃんとカオスラウンジについての認識があった様子。自分が思っている以上に芸術や社会学系の研究者の方々が、デジタル技術の発達と複製やパクリが生み出す問題に関心を持っているということを実感。

他にも驚いたのは、幾人かの質問者の意識が非常に高かったこと。「なぜアナログ写真のコラージュは良くて、デジタルデータのコラージュが駄目なのか」とか、「身体的な感覚と機械的な感覚のせめぎ合いはどのような場所で落ち着くのか」といった興味をそそられる質問が立て続けになされた。韓国トトロ

ちなみにそれぞれの答えは、「パクリというインパクトを重視したかったから」。「手仕事に対する敬意のようなものの結果ではないか。しかしこれから法的分野でよりも、芸術や文化の新たな共通認識がそれを変えることなるのでは」。「確実に変化は訪れているが、それがどこに落ち着くかはまだ見えない」といったものだった。

シンポジウムで面白かったのは、まず京都大学で行動文化学を専門とされている伊藤公雄教授の基調講演。60、70年代に起きた自前の集団的文化創造が、なぜ80年代の消費文化の中で消えていったのか。またベンヤミンの「アウラの消失」を否定的でなく、肯定的に捉え、デジタル技術の発達により再び起きようとしている複製文化の創造を、大きな可能性と見る点も面白かった。

また「オタク」を個人化した生活審美主義者と捉え、「与えられた商品」を媒介に、主観的な創造によって自前の文化再創造をしているという指摘は、まさにコミケやニコニコ動画、カオスラウンジの状況を言語化したもの。そこで連携して社会を動かす力となるのかという問いは、最近の村上隆さんのユースト(Ust)での発言と共通していた。ロミオとジュリエット

講演は、シェイクスピアなどの例を出し、前近代までは「あたりまえ」だった模倣や流用が、「商品としての文化」という近代社会の価値観によって変容した経緯も紹介。これから再び起きる大規模な複製技術時代に「個性」や「オリジナリティ」、「模倣」と「文化創造」のゆらぎが生じていくと問題を提議して終わった。

その後のパネリストの発表、パネルディスカッションでは、音楽、権利、身体など具体例を交えた「パクリ」というものが持つ社会的枠組みや現状を紹介。一部に間延びした発表もあったが、全体的には非常に価値のあるシンポジウムだった。

今回聞いた話には、刺激的な点が多く、自分なりに色々考えたので、それが上手くまとまったら、記事にしたいと思います。それにしても、シンポジウムで聞いた「模倣を続けていくことが、結果的に自己の発見につながる」という言葉や、「素晴らしい作品を作ることで模倣や複製の認識は変わっていく」という説明には、これからの未来に対ずる強い可能性を感じた。
(ちなみにここにあるトトロをパクった韓国アニメの写真は「がつんと!」というしらとりじゅんさんのブロクから無断でパクってみました)

ウィキペディア  シミュレーショニズム
ウィキペディア 伊藤公雄
アマゾン 『ロミオとジュリエット』 (新潮文庫)

【関連記事】
超解釈!『ネットワーク時代のクリエイティヴィティ「神話が考える」をめぐって福嶋亮大×浅田彰』
凄すぎる!村上隆さんの本気in台湾
「かなり残念なイベント」~文化庁メディア芸術祭京都展・宮本茂さんと養老孟司さん講演を聴いて~
「忍び寄る悪夢」~兵庫県立美術館コレクション展・束芋『dolefullhouse』(ドールフルハウス)を観て~
「幾つもの架け橋」~「京都芸術」トークイベント第二部「京都でアートを見せること」を聴いて~
「スーパーリアルな革命」~「京都芸術」に関連したKyoto家Galleryを巡って~
「遭遇、梅佳代さん」~梅佳代写真展「ウメップ」シャッターチャンス祭りinうめかよひるずを観て ~
0000(オーフォー)の現在(いま)~0000が関連した3つの「京都芸術」イベントを観て~
『アートが創る熱い夏』~瀬戸内国際芸術祭2010「直島」を巡って~その1
「ありふれたものの凄さ」~建築家・藤森照信さんの「土と建築」講演を聴いて~
「光の中の少女たち」~京都国際マンガミュージアム『村田蓮爾展』とライブペインティングイベントを観て~
京都ボスキャラの集い~京都藝術オープニング「SANDWICH(名和晃平さんのスタジオ)×仔羊同好会イベント」に参加して~
「確かに面白くはあったのだけれど…」メイドラウンジin台湾~「カオスラウンジ・オープニングイベント」ニコニコ生放送を観て~
超個人的「ワンダーフェスティバル(ワンフェス、WF)」2010夏、体験レポートその1「開戦前場内」
「孫正義にみる言葉の力」~ソフトバンクアカデミア開校式『孫の2乗の兵法』Ust(ユースト)を聴いて~
ムーブメントを生み出すために~メディア芸術フォーラム大阪・シンポジウムに参加して~
『海洋堂前史』~京都国際マンガミュージアム・フィギュアの系譜展を観て前編~
カオス(ラウンジ)世代のリアリティー~くまおり純の場合~
「萌え+ドーパミン=最強」BOME×村上隆トークショーを聴いて
極めて葬送的な『ハートキャッチ!かおすら!』ユーストを見て
『死なないための葬送』としての『はめつら!』
カオスラウンジの何が凄いのか~関西初上陸、『かおすら!』展を見て~
ささやかだけど心に届くもの「植田正治写真展『写真とボク』」
会田誠さんのジレンマ、そして可能性
カオスラウンジの意味
エヴァ的に解釈するGEISAI大学放課後討論会
あずまん(東浩紀)が見た破滅ラウンジのリアリティ
GEISAI大学討論会での黒瀬陽平さんのヘタレ受けの見事さ
カオスラウンジで注目の黒瀬陽平さんが投げ掛けた問い
凄かった!京都造形大『FRESH MEETING!(フレッシュ ミーテング)』
超簡略!私的見解込み「孫正義 vs 佐々木俊尚 徹底討論 『光の道は必要か?』」
彼らは一体何なんだ?そして未来の可能性
アートフェアーフリーを成功させた0000(オーフォー)ギャラリーが狙う次のターゲット
ユーストリーム(Ustream)配信失敗の教訓
先入観を捨てて読め!高城剛『ヤバいぜっ!デジタル日本』
関連エントリー
この記事をクリップ!Yahoo!ブックマークに登録
BuzzurlにブックマークBuzzurlにブックマークこのエントリーを含むはてなブックマークはてなブックマーク - デジタル技術の進化における模倣や複製の可能性
関連エントリー
関連エントリー

コメント

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

トラックバック


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー) URL

プロフィール

阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメール[email protected]
またはお問合せtwitterまで。

全記事表示リンク
全ての記事へのリンク(ジャンル別)

全ての記事を表示する

最新記事
最新コメント
最新トラックバック
月別アーカイブ
ユーザータグ

京都 歴史 アニメ 映画 秀作 動画 日本 美術 古典 洋画 YouTube ギャラリー 現代美術 講演  傑作 イベント マンガ 庭園 京大 大阪 舞台 探求 寺社 建築 江戸時代 監督 国宝 奈良 寺院 ラブストーリー 紅葉 美術展 アート ノンフィクション 物理 宇宙 時代劇 押井守 フランス 攻殻機動隊 歌舞伎 アクション 仏像 グルメ 音楽   タイトル 世界 ドキュメンタリー Youtube 東京 博物館 解説  くせになる 悲劇 涼宮ハルヒ I.G 神山健治 鎌倉時代 見学 Production  祭り 狩野探幽 荒唐無稽 日本画 旅行 長谷川等伯 滋賀 シェイクスピア ヨーロッパ IG 洋楽 出会い 海外文学 菩薩 皇室 闘病 デザイン 離宮  香港 テレビ 原作 宮崎駿 ジャンル 報告 化物語 講演会  ゲーム  邦画 絵画  リアル 詩情 魔術 お寺 漢詩 個展 トークショー 西洋美術 医療 茶室 仙人 戯曲 戦争 和歌 肖像画 手塚治虫 印象派 思想 探求京大 ニコニコ 二次制作 前衛 芸術 広島 枕草子 笑い 中国 

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QRコード
フリーエリア
FC2 Blog Ranking 人気ブログランキングへブログランキング・にほんブログ村へ
にほんブログ村