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村上隆さんの監督作品『めめめのくらげ』が伝えたいもの

「アーティストの村上隆さんが映画を撮っているらしい?」。1年半前、Twitterでつぶやかれていた「映画エキストラ募集」のつぶやきを見て以来、ずっと気になり続けていた村上さんと映画というジャンルの組み合わせ。先月末、その初監督作品『めめめのくらげ』が公開になったということで、初日から1週間遅れではあったけれど、六本木ヒルズにある映画館まで足を運んだ。実写とCGを融合させた独自の映像作品は、従来の映画評価軸であるストーリーや、映像美といったものよりはむしろ、「思いを伝える」という「表現」の核心部分において、優れた作品だったように思う。(以下ネタバレなし)

85386[1]ネット上に上がっている幾つかのレビューや感想にもある通り、『めめめのくらげ』という作品には、その物語や映像的に、突っ込みを入れたくなるようなシーンが、ない訳ではない。特に終盤の主人公とくらげ坊が協力して戦うシーンは、すでに作品世界を受け入れていたことや、ストーリー展開の早さのお陰で、そこまでアラ探しをせずに済んだけれど、もし冷めた視線で、作品を批判するような見方をすれば、そこには小さいながらも、おかしいと思える部分を見つけることは難しくない。

大枠のストーリー、映像、出演者たちの演技などは、しっかりと観客を引き込んでいくだけの力があるだけに、その点はちょっとと思わなくもない。しかし、そういった映画的な枠組みを離れ、作品鑑賞中、何かの感情が揺さぶられたか、また鑑賞後、心に不思議な余韻を残すことができたかという点を重視すれば、この作品は、他の映画では体験することのできない感情の揺れを、ある人々に与えることができるものと言えるだろう。

002[1]実際、作品上映中には、周囲からすすり泣く声が聞こえたり、Twitter上でも、「泣きました」という感想がつぶやかれたりと、この作品には、ある人々の琴線に触れる何かがあるように思う。自分自身、映画館を出て以降、あの作品の何が自分の腹の底に、淡いけれど、確かな存在感を持ち続ける何かを残していったのかを考えていた。そしてその答えが、監督である村上さんの「僕の全部を思いきり詰め込みました」という言葉と、この作品の最大の特徴である実写とCGが融合した映像表現にあるのだと思った。

この作品には、村上さんの幾つかのインタビューでも語られているように、「ウルトラマン」のような「特撮的」要素や、「ゲゲゲの鬼太郎」から「初音ミク」までに至る様々な「マンガ、アニメ的」要素、そして「団地」、「学園祭」といった村上さんの過去にまつわる要素、さらには『Miss Ko2』をはじめとした村上作品に登場してくる「キャラクター」やモチーフが散りばめられている。
001[1]それら村上さんにとって思い入れのある様々な要素で構成された映像は、作者個人の心象風景を色濃く反映しているというだけでなく、そこに自分が生み出したキャラクターのGCを加え、その修正や編集に2年弱もかけた結果、撮影した時点では、個人的要素の集積を撮影した限りなく「現実」に近い実写映像であったものが、CGや編集という個人的意識を上書きし、それらを融合することで、「夢見た世界がやっとかたちになりました」と村上さんが言う、作者独自の空想世界が立ちあがってきているように思えた。

ある種、シュールリアリズム的というか、シャガールの浮揚した動物たちのような存在が、実写映像と融合し、「現実」が拡張された映像は、観る側の意識の幅までも拡張し、「現実」だけの映像では感じることのできない風通しの良さや、広がりのようなものを作品に与えてくれる。その広がりのようなものを可能にしているのは、この映画の監督である村上さんが、実写という平面上に上書きし融合させた、平面を超越化(「スーパーフラット化」)するための「特撮的」かつ、「マンガ、アニメ的」なCG表現なのだろう。

02_px240[1]「現実」であって、決して「現実」ではない、その中間を漂うようなシーンが集積した映像内では、主人公の少年が、くらげ坊という「特撮的」、かつ「マンガ、アニメ的」な存在によって、震災や現実によって受けた哀しみから救われている。それはたぶん、少年時代、「特撮的」作品に強い愛着を持ち、青年期には「マンガ、アニメ的」な世界に深く傾倒していった村上さん自身の姿が投影されているのだろう。

そして、そのような少年の出会いや別れを下地にした物語の実写映像と、そこにこれまでの村上さんの絵画的作法と、「特撮的」、かつ「マンガ、アニメ的」思い入れにより生み出されたCGキャラクター、さらには二次元的なところから生まれ、あたかも実在のアイドルのように限りなく3次元的に存在する初音ミクの音楽などの要素を集約した映像は、存在の不確かさゆえの純度を獲得し、その純度に共振することができた人々は、子供時代への懐かしさをともなった映像空間内において、一時なやすらぎや憩いを見出すことができるのかもしれない。

震災以降、一見、穏やかさを取り戻したように見える私たちの「日常」は、しかし突然襲い掛かる様々な「災厄」に見舞われてしまえば、一瞬にしてその平穏さを失い、何もかもが崩壊してしまう儚いものでしかないと気づかされた。そんな「日常」の中で、いかに「災厄」を含めた過酷な「現実」に向き合い、そこに何かしらの救いを見出していくかを象徴的に描いたこの映画は、決して多くの人に理解されるものではないかもしれないけれど、ある一部の人々にとっては心の深い部分に確かな余韻を残し続ける作品となるだろう。

映画『めめめのくらげ』公式サイト
ウィキペディア 村上隆
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阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
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