文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
「かすかな希望の積み重ね」~村上隆さんが主催する"petit"GEISAI #15 を観て~
完成が迫るスカイツリーを望む浅草の都立産業貿易センター台東館で開催された"petit"GEISAI♯15。会場となる7階の、エレベーターの扉が開くと同時に聞こえてきた村上隆さんの声。マイクを通したその声に耳を傾けると、今回のGEISAIで初めて行われることになったポイントランキングについての説明がなされていた。
受付で渡された3つのGEISAIシールを使い、約200のブースの中から気に入ったアーティストにポイントを投票。そしてそのポイントは1位から最下位まで集計され、上位10名のアーティストには、中野にある村上さんのギャラリーで個展やグループ展が開催できるのだという。
何だかAKB48の総選挙を思わせるシステムに、とりあえずはブースを観ることから始めようと、人が少ない会場奥のブースから回りだした。事前情報では、今回のGEISAIは29歳以下という年齢制限や、クオリティーを保つための事前審査が課せられたというだけあって、若くとも、何かしらの魅力を持った作品を展示したブース多かった。
平面作品から立体、写真、パフォーマンスからインスタレーション的なものまで、クオリティーのばらつきを含め、約200のブースを回る行為は、明確な評価基準を定めることの難しい現代アートの中にあっても、自分が何を評価し、何を評価しないかという自身の目を問われる刺激的なものだった。それは、ポイントランキングというシステムが導入されたことで、より強められ、村上さん曰く「ほとんどは作品を買わない人々」という来場者たちが、時間間際までブースを回り、投票パネルにシールを貼ったり、投票数の多い作品を見直しに行ったりという行動にも表れていた。
そんな人々が投票したポイントが、来場したプロのギャラリストや美術誌編集長のポイントと同じ価値として扱われ、その上位発表が審査員賞の発表以上に盛り上がりを見せたことは、個々の人々が何かに積極的に関わりたいという意識が高まっている今の日本の状況を、アートイベントという場の中に取り込んだ形のように思え興味深かった。
昨年秋からのチュニジアやエジプトやで巻き起こった民主革命や、資本主義の中心地アメリカで広がりを見せるデモ。そして日本では震災ボランティアや反原発デモに象徴される、これまでの自身や社会のあり方を問い直す契機を含んだ動き。これらは行動の動機やそれぞれの方向性は違えど、何かしらの小さな力の結束が生み出す大きな流れが、これまで当たり前のように続いてきた制度や考えに変化を促す切っ掛けになっていくのかもしれない。
今回、会場入り口横に張り出された出展者リストには、GEISAIの頭文字Gのマークの入った幾つものシールが、たぶん様々な人々の思いや気持ちの表れとして貼り付けられていた。そんな何かしらのポジティブさの表れとも言えるシールの数々を見ていると、そういう小さな希望や前向きな行為の積み重ねのようなものが、結果的に人々や自分自身を次のステージへと導いていく大きな力になりえるのかもしれないと思った。
"petit"GEISAI♯15の公式サイト
ウィキペディア GEISAI
ウィキペディア 村上隆
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