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「幾つもの架け橋」~「京都芸術」トークイベント第二部「京都でアートを見せること」を聴いて~

 約1ヶ月間に渡って行われていた「京都芸術」のフィナーレを飾るトークイベント「京都でつくること、京都でみせること。」に聴衆として参加して来ました。8月1日のオープニングを飾った「SANDWICH×仔羊同好会イベント」から1ヶ月間、個人的には京都、東京、瀬戸内とあまりにたくさんのことがありすぎて、その文章化が追いつけずにいる状況ですが、この8月を締めくくるにふさわしかったこのイベントについて書いていく中で、これからの京都や関西から発信されていくであろう芸術の姿を見極めてみたいと思う。京都芸術トークイベントちらし

二部構成で行われたイベントの二部についてのみの文章を書き始めたのは、単純に言って一部よりも二部の方がパネリストとテーマの整合性や展開の仕方が上手くいき、緊張感が持続した論議が行われた点にある。後日紹介する一部は、パネリストのヤノベケンジさん、名和晃平さん、金氏徹平さんと個人でも十分に聴くべきことが多いアーティストが集ってはいたが、彼らの中で、「京都でつくること」というテーマがそれほど重要視されていないような状況で、論議がテーマの周辺から移っていかなかったことから、深い論議にならなかったように思う。

しかし二部では、美術ライターの小吹隆文さんが司会として臨機応変な対応でパネラーたちの持ち味を引き出し、話の流れを切らずに高い緊張感を持続した論議が展開していった。基本的にはアーティストではなく、7組のアーティストや作品に関わる人々がパネリストとして登場し、まずはそれぞれの自己紹介を兼ねて現在行っている仕事を紹介。日ごろ訪れるギャラリーのオーナーたちが、「今を生きるアーティストがどのように現代を捉えるかに興味がある」(VOICE GALLERY・松尾惠さん)、「古いものと新しいものとの架け橋になりたい」(イムラギャラリー・井村優三さん)などと運営理念を語る貴重な機会となった。京都芸術トーク画像3

それに続いて京都を活動拠点とし、若い世代の感覚を活かし新たな動きを生み出そうとする0000(オーフォー)と「アートダイブ」というアートイベントや「SHAKE ART!」という雑誌を発行する塩谷舞さんがこれまで関わってきたイベントを紹介。当初は世代間の溝のようなものが論議の支障になるのではと危惧していたが、これまでそれぞれの立場で「京都でアートを見せること」にこだわってきた人々なだけに、年齢や立場は違っても「京都」や「アート」に対する意識や視点には極めて共通するものが感じられ、話はスムーズに展開していった。

最初のテーマに挙げられた「京都」の優位性については、「多数の芸術系大学を含む学生の街であること」、「街の機能が分散せず情報や人の流れが適度で顔の見える交流が可能なこと」、「古い歴史と新しいものが共存しており、その融合の可能性を秘めていること」など各自のこれまでの体験を元にした意見を交換。そこから京都市に「現代美術館」がなぜないのかという話に移っていき、京都市文化芸術企画課の原智治さんが「現代アートがメジャーな状況になっていかないとできない」と行政の立場からその意見に待ったを掛けると、議論は「現代アートをいかにジャンルとして成熟させていくか」という話題に広がっていった。SHAKE ART ! 創刊号

塩谷舞さんは、序盤でgallery neutronの石橋圭吾さんが語った現代美術を日常的にしていくためのギャラリーとカフェを融合や、アートフェア京都の話を受け、「もっと衣食住と一体になって、アートの仲間内だけじゃなく、そうじゃない方々に伝えるための活動をしていきたい」と自身の活動の方向性を提示。井村優三さんは「一番のメディアは口コミだから、twitter(ツイッター)もそうだけど、結局、みなさんの声が変えていくことになる。だからこそ話したくなる企画を考えていかなきゃいけない」とこの場に集ったパネラー、そして聴衆にもアートを成熟させるための役割があるという意見を述べた。

それらの意見をまとめる形で、司会の小吹隆文さんが「パネラーの方々やこの場に参加した全ての方々が、京都で何かが起こせるのではというきざしを感じていてこの場ができている。互いがつながり庶民目線のイベントであったり、そうでないものがあったりという両方があるのが一番いい状態。幾つもの層が積み重なって動いていただきたい」と総括を行いトークは終了。その後予定の倍近い約200名が集った聴衆の中からの質問を受ける時間が設けられ、最後の質問として「このイベントを受けてのそれぞれのパネラーの方のこれからのビジョンを教えてください」という質問がなされた。アンテナ・ジャッピー

それに対し、特に印象に残った答えを挙げると、アートと日常の融合を意識したギャラリー活動を行う石橋圭吾さんの「信号待ちをしているお姉ちゃんたちの会話の中にギャラリーや作家の話が普通に出てくるような世の中にしていきたい」という意見には、具体的なイメージがしやすいビジョンなだけに本当にそんな未来がやって来ればと思わせる力があった。さらに最後を締めくくる状況で話を振られたアーティストグループantennaの市村恵介さんは、「歴史や古いものが今につながっていることを個人的に大事なことだと思っていて、みんながそういう実感を踏まえながら自分の物差しでアートだけでなく、物事をごく当たり前に自分の物差しで見れるようになっていけばいい。そして自分のできることをやっていければと思っている」と語った。

他人の価値観に頼らず、自分の価値観で物事を判断すること。それはこれまでの、経済一辺倒の価値観や単純な二極対立的な古い価値観が成立しなくなった今だからこそ、私たちの中で最も必要とされ、大切にしなければならないものになっていくのかもしれない。そして芸術、特に現代アートという分野は、評価の定まっていない未知の作家や作品に対し、自分自身の価値観や態度が問われるものだからこそ、今若い世代を中心とした新たなファン層を生み出し、地域の再生や活性化に一役買っているのかもしれない。古い歴史を持つ京都で、立場や世代を越え、アートに関心を持つ人々がアートの未来について、それぞれ立場で奮闘しながらつながっていく。そんな幾つもの瞬間が生まれたことが、この1ヶ月間の「京都芸術」の何よりの成果なのだと思う。

京都芸術ウェブサイト
京都芸術のtwitter
イムラアートギャラリーウェブサイト
MATSUO MEGUMI +VOICE GALLERY pfs/w(ボイス ギャラリー)ウェブサイト
neutron(ニュートロン)京都ウェブサイト
MORI YU GALLERY(モリ ユウ キャラリー)ウェブサイト
0000(オーフォー)Galleryウェブサイト
0000(オーフォー)artsのtwitter
SHAKE ART!ウェブサイト
塩谷舞さんtwitter
アーティストグループAntenna(アンテナ)のブログ
アーテイストグループantennaのtwitter
小吹隆文さんのサイト アートのこぶ〆

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阿部和璧

Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
連絡先はメール[email protected]
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