文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
凄い動画10 山元隼一さんの『memory』と『熱血宇宙人』
会場でノミネート作品を見るまでは、下手な素人作品を見せられるのだと思っていたコンテスト。しかし、実際に映像を見始めると、そのクオリティの高さに驚かされた。ノミネートされた5作品はどれもプロ顔負けの力作ばかり。考えてみれば『秒速5センチメートル』の新海誠監督だって彼らと同じ立場から現在に至ったのだ。
中でも最優秀賞を受賞した山元隼一さんの『memory』は、各地の大会でも高い評価を受けた知る人ぞ知る作品。原因不明の爆発により廃墟となった都市を訪れた調査員。その調査員が見つけたメモリーにあった1体のロボットの喜びと哀しみ。20代前半の作者とは思えない叙情性と構成力で見る者に訴える。
2つ目の『熱血宇宙人』という作品は、1年の歳月をかけて作った『memory』とは対照的に3ヵ月弱で作られたギャク作品。軽快なテンポといい、思わず「くだらねぇー」と突っ込みたくなるようなオチがあったりと笑いを十分に効かせたユーモラスな作品。しかしどちらも、見る者を引き付けてやまない映像の面白さがある。
テレビアニメ、『おじゃる丸』や『十兵衛ちゃんシリーズ』の監督で、審査委員長を務められた大地丙太郎監督は、「『memory』は最初見た時も審査席でも泣きました。2つの作品はジャンルも手法も正反対ですが、それだけに作者の実力を感じました」と絶賛。
受賞のコメントでまだ大学院生という山元さんは「日常にある儚さ、美しさをCGで表現できないかと思って作った作品が評価されて嬉しく思います。これからもみなさんに喜んでもらえる作品を作っていきたい」と語っていたが、個人的感想はそんなレベルではなく、もしかして新たな才能が評価された瞬間に立ち会えたのではと思えるほど衝撃を受けた。
YouTube 『memory』動画
【ニコニコ動画】熱血宇宙人
『memory』が見れる山元隼一さんの個人サイトFALCON-ONE
【関連記事】
凄いアニメ7 『秒速5センチメートル』
凄いアニメ2 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
凄いアニメ3 『GHOST IN THE SHELL 攻殻機動隊』
凄い音楽2 ナターシャ・グジーが歌う『いつも何度でも』
凄い映画8 『バベル』
凄いアニメ4 『東のエデン』
凄いアニメ5 『人狼 JIN-ROH』
凄い動画4 『謎の動画』その1、2
報告1 『押井守監督参加セミナー』
考察3 『今なぜアニメなのか』
凄いMADムービー1 迷走ポタージュ『オプティカルセロファン』
凄い動画9 『アリゾナのアニメ仙人が語る「秒速5センチメートル」』
08年6月26日のITメディアニュースの記事によると、グランピーじいさんは現在、米国アリゾナに住む60代のアニメファン。アニメファン歴は20年以上というつわもので、その知識は「2ちゃんねる」や「ニコニコ動画」のユーザーも唸らせるほど。『あしたのジョー』を監督した出崎統監督のマイナー作品に関する話題や、マニア向けアニメに登場した声優の話まで時折繰り出す専門知識は生半可なファンにはついていけない。
しかしそんな知識を持ちながら、決してそれをひけらかすことはない。動画の中で語られるアニメ批評は、そのアニメを見たことがない人も思わず興味を持つような作りになっており、その批評態度も冷静でありながら愛情に満ちたもの。一人でも多くの人にアニメの素晴らしさを伝えたいという気持ちが伝わってくる。
2年前、最初にアップした動画以来、一つの動画で一つの作品を取り上げ続け、すでにその動画は150を超える。さらにそこで取り上げられた作品にも「アニメ仙人」ならではの基準があるようで、評価の定まった「宮崎アニメ」や有名作品はあえて選ばず、良作だが日本でも評価されてないような作品を紹介するなど独自の渋さを見せる。
そんな「アニメ仙人」が批評した『秒速5センチメートル』。この物語自体が内面的な物語で、その内容の説明に多くを費やすことなっているが、その概略はあくまで的確。さらに風景描写や音が作り出す細やかなニュアンスと心情描写の関連を細かく指摘するなど鋭い批評となっている。こういう動画を見ていると、国や地域や年齢を超え、豊かな知識を持った人がオープンにその情報を発信し、世界中の人々と繋がることができる。そんな時代が到来したということをつくづく感じることができる。
【ニコニコ動画】アリゾナの老人、『秒速5センチメートル』に惚れる(邦訳版)v1.0
【ニコニコ動画】アリゾナ砂漠在住の老人、『涼宮ハルヒの憂鬱』を語る
YouTube グランピーじいさんのチャンネル
【関連記事】
凄いアニメ7 『秒速5センチメートル』
凄いアニメ1 『涼宮ハルヒの憂鬱』
凄いアニメ6 『化物語第12話ラスト5分』
凄いアニメ4 『東のエデン』
凄い本18 櫻井孝昌『アニメ文化外交』
凄いアニメ2 『攻殻機動隊 STAND ALONE COMPLEX』
凄い動画8 『YOKOSO!JAPAN動画』
学生時代から住む京都の街。そして日本各地の美しい風景が映されたこの動画。少し前から日本に外国人観光客を呼び込もうと始められたビジット・ジャパン・キャンペーン。その一環として作られたこの動画。一切の言葉をはぶいた映像と音楽だけで構成された作りだが、四季の風景や人々の姿は、日本に住む者にとっても美しい。
しっとりとした風情や、花鳥風月といったこの国の人々の中にに綿々と続いて来た自然と情感が一つとなった世界。日々の忙しさの中で忘れてしまいがちなその美しさを再確認させてくれる映像美。春や秋の花や木々に思う儚さ。人々の動きや音の中に残る余韻。そういった日頃の生活の中にひっそりと佇む美しさをこの映像は教えてくれる。
多くの人々が生きて、様々な歴史や文化を生み出してきたこの世界。その一つのありようが、日本という自然豊かな環境で独自の発達を遂げて今の私たちがある。一つの花の花びらに、燃えるような紅葉の一枝にそんな思いを感じることができるのも、過去を生きた人々の美意識が私たちの中にあるからだ。
YouTube YOKOSO!JAPAN動画
ウィキペディア ビジット・ジャパン・キャンペーン
凄い動画7 『小山登美夫「クールジャパンの行方」』
美術に対する愛情なら、そこらの人には負けないと自負している。しかし現代美術は、村上隆さんまでしか美術史的理解ができていない。その先に広がったまだ海のものとも山のものともつかない世代の美術については、好き嫌いはあるが正確な評価をできないでいる。
小山登美夫ギャラリーを運営する小山さんは、村上さんや奈良さんがまだ海のものとも山のものともつかなかった時代に、彼らの作品を紹介してきた、言わば現代美術の「目利き」だ。そんな彼が語る「クールジャパンの行方」は、自身の見る目を養う必要性を説く。
他人の意見に頼ることなく、自身の目や価値観で物事を見極める。そんな経験の積み重ねが過去の歴史や価値を理解し、その先に新しい価値観を作り出す。それは決して美術分野に限ったことでなく、我々一人ひとりが達成しなければならない課題である。未来をより良いものにするためには必要不可欠なスキルなのだ。
(写真は小山さんの著書『現代アートビジネス 』)
YouTube 視点・論点『クールジャパンの行方』
蜷川実花×ギャラリータグボート・小山登美夫プロフィール
アマゾン 『現代アートビジネス 』(アスキー新書 61)
【関連記事】
報告1 『押井守監督参加セミナー』
凄い動画6 『フリー・ハグズ キャンペーン(Free Hugs Campaign )』
この動画を見るまでは「ハグ」という言葉にどこか胡散臭さを感じていた。日本では全く馴染みの無い習慣だし、それを口にする人々の多くが、ただの流行好きに思えたからだ。
しかし、どうやらオーストラリア人らしいPeaceOnEarth123 さんが2年前にアップしたこの動画を見ていると、お互いが知らない者同士だからこそ、無条件に抱き合って感じるぬくもりがあるように思える。
人々は『Free Hugs』というメッセージに対して様々な反応を示す。それは積極的な反応から否定的な反応まで色々だが、そうあることこそが、世界の多様性を、人々の個性が豊かであることを証明しているのではと思える。
世界が多様であること。そしてそれが世界をより豊かにしていること。そんな否定ではなく肯定として無条件で他者とつながれる行為が『Free Hugs』という言葉の真髄なのだと思う。
ウィキペディア フリー・ハグズ
FREE HUGS in JAPAN(フリーハグズinジャパン)
凄い音楽4 手嶌葵『The Rose(ザ・ローズ)』
この歌は、ジャニス・ジョプリンをモデルにした映画『ローズ』で歌われたものだという。曲自体は何度も耳にしていたけれど、こんな歌詞がつけられていたとは全く知らなかった。
ぜひ歌詞の意味を知って、曲を聴いてもらいたいので、自分なりの訳をここに掲載しておきます。
『The Rose』 作詞/作曲:Amanda McBroom
Some say love it is a river
that drowns the tender reed
Some say love it is a razor
that leaves your soul to bleed
ある人は愛を川だと言う。柔らかな葦を溺れさせるから。
ある人は愛を剃刀だと言う。魂に出血を残すから。
Some say love it is a hunger
an endless aching need
I say love it is a flower
and you it's only seed
ある人は愛を飢えだと言う。求め続ける痛みから。
私は愛を花だと言う。それはあなたがその種たから。
It's the heart afraid of breaking
that never learns to dance
It's the dream afraid of waking
that never takes the chance
It's the one who won't be taken
who cannot seem to give
and the soul afraid of dying
that never learns to live
傷つくことを恐れては、決してダンスは学べない。
目覚めることを恐れては、決して夢などかなわない。
奪われまいとする人は、与えることなどできないでしょう。
そして死を恐れる魂に、生きることなど学べない。
When the night has been too lonely
and the road has been too long
and you think that love is only
for the lucky and the strong
Just remember in the winter
far beneath the bitter snows
lies the seed
that with the sun's love
in the spring
becomes the rose
とても寂しい夜、道が長すぎて、
愛は運と強さのある人だけのものに思えた時、
思い出して、冬、身を切るような雪の下深くにある種が、
太陽の愛を浴びて、春には薔薇になることを。
この歌を歌う手嶌葵さんは、中学時代、対人関係から登校拒否に近い状態になったという。そしてその時、心の支えになったのがこの歌だった。また彼女が無名の新人だった頃、彼女が歌うこの歌を『ゲド戦記』の監督が聴いて、挿入歌でのデビューが決まったという。
YouTube 手嶌葵
ウィキペデア 手嶌葵
手嶌葵公式サイト
アマゾン 『The Rose~I Love Cinemas~』
【関連記事】
凄い音楽1 平原綾香х岩崎ひろみ『Jupiter』(ジュピター)
凄い音楽2 ナターシャ・グジーが歌う『いつも何度でも』
凄い動画5 『まったり動画』1、2
ちなみに今回の動画はコメントの書き込みがあった方が面白いのでニコニコ形式で埋め込みました。
2つ目もニコニコ動画で有名な春原ロビンソンさんの動画。春原さんの手書きマンガの優れたものだけを厳選した『春原つめあわせ【総集編+α】』。懐かしいマンガや昔話のパロディーが最初にあって、本編は終盤の「ジャイアン」と「マリー・アントワネット」。そこには確かに「めでたしに限りなく近いなにか」がある。
いかがでしたか?少しはまったりできましたか?ではまた良い動画を探してきます。
【関連記事】
凄いアニメ6 『化物語第12話ラスト5分』
凄い動画4 『謎の動画』その1、2
最初に紹介するのは、近畿圏のご当地キャラとして全国的知名度を持つ「ひこにゃん」と「せんとくん」が、3Dプロレスゲームで対戦するという架空試合の入場シーン。2頭身のゆるキャラ設定の「ひこにゃん」が、中年体型のキモキャラに変身している点や、もとからキモキャラの「せんとくん」がそのキモさを十二分に発揮した動きを見せるのが面白い。細部まで作りこまれており、面白さだけでなくカッコ良さも感じてしまう作品。製作者はニコニコ動画のekiproholicさん。
次はこれもニコニコ動画から生まれ、現在絶大な人気を誇る動画。まだアップから3日とたっていない動画が、30万回再生され、再生やマイリストランクでぶっちぎりの1位となっている。アニメ『頭文字D』やマッチョ男たちのネタ、さらには「鏡音リン」というボーカロイド音源を利用するなどニコニコ動画ならではのコラボレーションに、斬新な発想を盛り込んだ秀作。製作者はあしトコ さんで『【3DCG歪音エナ】ぶっちぎりにしてあげる♪【腹筋ローラー最強♂伝説】』という作品。
いかがでしたか?どちらも意味不明な作品ですが、作者に宿ったエネルギーには凄いものを感じますよね。最初は深入りする気も無かったニコニコ動画ですが、You Tubeとは違い、2次、3次製作から簡単に作り手側になれる点や、作品に対する反応の速さなどが受け、創作欲求を持った人々の作品発表の場となっている。そんな熱気が漲るニコニコ動画は今一番熱いサイトだろう。