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「ゆるやかな革命」~東京事典公開録画イベント第4回目を聴いて~

 現在、豊島区雑司が谷の「Miracle Waterをつくる」というお仕事をご一緒にさせていただいている関係で訪れた、アーティスト藤浩志さんの東京事典公開録画イベント。会場となった代官山のとあるマンションの一室は、まるで東京の先鋭的な人々が集った個人映画観賞会のような極めてユニークな雰囲気を持っていた。東京事典画像

最近、アート関係のイベントで名前を見かける、ヴィヴィアン佐藤さん、『疾走するアジア』という本を読んで以来、西洋には偏らないアートへの情熱に共感を覚えた森美術館館長の南條史生さん。藤さんだけでなく、興味深いメンバーが揃ったプレゼン会場に、特例として土足で上がってきたヴィヴィアン佐藤さん。銀髪の上に、ギリシャ神話に登場するメデューサをイメージしたぬいぐるみのヘビと、花壇のついたかぶり物をかぶって登場。

ドラッグクイーンというテレビでは見たことはあっても、実際に目にしたことのなかった世界の人が目の前にいる。そんな空間は部屋の雰囲気と相まって、日常と非日常が混じり合った独特の味わいを持っていた。人々がそんな佐藤さんの登場にようやく慣れた頃に始まったプレゼンは、今個人的に最も興味を持っている「場と空間」について、佐藤さん自身の存在を例にして語ったものだった。公開録画画像1

以前は建築を学びながら、現在はアーティストであると共に、非建築家という肩書も持つヴィヴィアン佐藤さん。その話を要約すると、硬直した場を開くための存在として必要なものは、ハードとしての建築ではなく、極限のソフトとしての人間であり、それが最も有効なのは、ドラッグクイーンのような枠組みを超越した存在ではないかというものだった。

その考えは、前日、横浜で行われた藤さんと中村政人さんのトークイベントでも語られた「個人から始まる衝動を大事にすべきじゃないか」といった言葉や、「自分たちで自分たちの場所をつくり、自分たちの文化を生み出す」というアーツ千代田3331の理念にも共通するものを感じさせた。従来の枠組みを変容させ、新たな価値観を生み出すアーティストもまた、ドラッグクイーンと同じような役割を持つのだろう。藤さん画像2

そんな存在である藤さんが、2番目に行ったプレゼンは、雑司が谷のプロジェクトに深く関わった水についてのこと。これまで様々な地域アートの現場に関わってきた藤さんの説明によれば、風としてやって来ては去っていくアーティストや、土として存在する地域の人々が、種としてのアイデアや創造力を植え付けるだけでは、新たな可能性の芽のようなものは育たないという。

そこにはその種に光を当てるメディアや個人といった情報発信者。さらにその種や芽となる存在に興味関心という「不思議な水」を注ぎ込み、成長を促す水的な人々の存在が欠かせないのだという。そして、その4つの要素の中で、これまで語られることのなかった水的な存在に注目していくことで、地域内に新たな芽が育ち、成長していく過程をより明快にしていこうという話らしい。MW募集

佐藤さんが焦点を当てるプライベートな空間よりも、より社会に開いたパブリックな状況の中で、そこにある問題と向き合ってきた藤さん。そんな藤さんが今注目する「不思議な感情の水」というものには、今現在、様々な地域や空間の中で、異なる価値観や立場の違いといったものにはばまれ、孤立化している人々を、ゆるやかにつなげるための重要な要素が含まれているのかもしれない。

もう一人、国境を超える規模で、アートの魅力を伝えてきた南條さんのプレゼンは、都市や国家の進化の過程には、生物に例えるならば遺伝子的な歴史的必然だけでなく、そのものや場所や人に宿った意志のようなものも重要ではないかという問題定義がなされた。現在、森美術館で行われているメタボリズム展を例にして話された話の最後には、法律や国自体の制度にまで話が及び、「安全に安全にやっていこうというのが今の日本の悪いところ。新しいことをやるために、制約を外す。法律や管理する側にルーズな面を生み出していくような政治の力も高めないといけない」と大きな枠組み内での「意志」の力の重要性を強調した。疾走するアジア

佐藤さんが語ったプレイベートな空間のあり方や、藤さんの語った地域的側面での人々をつなぐための活動。そして南條さんが語った法律やこの国の制度という枠組みにまで踏み込んだ動き。これらは今、資本主義や民主主義といった社会の根底を支えてきたものさえも揺らぐ時代の中で、個人や地域、国といったそれぞれの集合体にある人々の内面を変革させ、新たな価値観へと向かわせる「ゆるやかな革命」を生み出すための時代的動きのように思えてならない。

3.11以降、「このままでは日本は衰退していく」という考えだけが、立場や境遇は異なる人々の中で唯一共有できるものとして存在しだした今、個人に近い空間から国家や法律といった社会制度に至るまでのそれぞれ空間で、より自由度の高い場を生み出そうとする人々がゆるやかにつながり、それぞれの現場で「ゆるやかな革命」を起こし続けることができれば、経済成長という指標では測りきれない、真の豊かさを持った魅力的な国家が、極東の日本という島国に成立するのかもしれない。

東京事典のウェブサイト
藤浩志さんの活動を紹介したブログ
ウィキペディア ヴィヴィアン佐藤
ウィキペディア 南條史生

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Author:阿部和璧
現代アートを中心とした美術関係について書くライターをやっています。2011年8月より東京に拠点を移し、現在は都内の地域アートプロジェクトのリサーチの仕事などをさせていただいてます。世の中にある凄いもの、面白いものに興味があり、そんなものたちについてみなさんと話し合ってみたいと思います。
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