文化ブログ
阿部和璧(あべかへき)が世の中の良いもの、凄いものを紹介する。
「枠組みが決める場の思考」~建築的視点で見るBIWAKOビエンナーレシンポジウム~
今回のシンポジウムに、ある種、記録係的な立場で関わっていた自分にとって、個人的な感想を正直に言って良いのかという思いもある。しかし、率直な意見が結果的には、自分を含む全ての参加者にとって、何らかのプラスになるのではと思い、正直に感想を述べると、2時間半を費やした今回のシンポジウムはそれほど面白くなかった。
では一体何が面白くなかったかというと、まず最初に、シンポジウムで話し合われた「近江八幡でBIWAKOビエンナーレをする必要があるのか?」というテーマ設定に問題があったように思う。司会兼コーディネーター役の松尾寛さんが切り出したテーマは、すでに近江八幡市で3回も行っているビエンナーレが、町に根付いてないという面での問題提議としては理解できた。しかし、アートの側面から考えると、古い日本家屋と現代アートの融合というBIWAKOビエンナーレの独自性は、近江八幡という町以外で成立し得ないのではという疑問があった。
またそのテーマは、今回のパネリストだったBIWAKOビエンナーレや近江八幡市の関係者、さらには市内からの参加者にとっては重要なことだったかもしれない。けれど、それ以外の地域から来た聴衆にとっては、それほど重要なことではなかったように思う。そういう意味では、今回のシンポジウムの構造が、来場者全体に向けた枠組みというよりも、パネリストや地元の人々に向けたものとなっており、一般聴衆的立ち位置にいた自分にとっては、参加しにくい話し合いの場になっていた。
そういった大枠としてのシンポジウムのあり方は、実際に始まりだした論議の流れにも影響していたように思う。6人の登壇者が、並び順で発言を繰り返した進行形式は、公平な発言機会与えるという意味では良かったかもしれない。しかし、一人の発言から話が展開し、互いが触発されるような論議の場を生み出せていなかったように思う。このことは、今回のパネリスト全員に、話し合いの共通基盤が少なかったことも含め、シンポジウムでの論議の柔軟性を阻害していたように思う。
大枠、内部構造かこのような形をしていた今回のシンポジウム。その枠内で話された内容は、最初の話し手だったビエンナーレ総合ディレクターの中田洋子さんの話が、日本とヨーロッパのアートや文化に対する姿勢の違いという面に偏っていたため、その後の流れも、どちらかと言うと抽象的で極私的なアートや文化に関する話に多くの時間が費やされた。
個人的感覚としてはパネリストと聴衆の間に微妙な温度差を感じた話し合いの場。それは、そこに作られた枠組みからだけでなく、会場だった建物の構造からも大きな影響を受けてたように思う。築180年を越す近江商人の邸宅だった日本家屋は、パネリストたちが並んだ場所だけ、一段高い「上座」となっており、聴衆が座る「下座」とは、10センチほどの段差で分断されていた。
交流会で話した一級建築士の方に、「日本人建築家の特徴ってあるんですか?」と質問した答えとして、「少し前までは、家の中の畳的なものを拒否するような素材を使っている人が多かったけれど、畳的なものに座ったり足を伸ばしたりといったことを繰り返してきた日本人にとって、畳的な存在が人と人とのあり方を身体的に規定してしまうことがある」と返された言葉は、わずか10センチではあったけれども、「上座」と「下座」の違いのあった建築空間によるパネリストと聴衆の微妙な乖離を示唆していたように思えた。
ウィキペディア BIWAKOビエンナーレ
BIWAKOビエンナーレを主催するエナジーフィールドのホームページ
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