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第6話「私の翼を継ぐ者へ・後編」

アバンタイトル


病室




楓(幸穂に向かって) 「!そのような事は・・・私には出来ません!」

周防院院長 「!?楓さん」

楓 「瑞穂様の母親は・・・幸穂様だけです!
   他の誰にも・・・誰にも・・・」

幸穂(窓の方を向く) 「・・・出来ないと決め付けて努力しなかったら、一生出来ない・・・」

楓 「・・・!?」

幸穂 「そう言って努力する楓ちゃんは、私の自慢の妹です・・・。」(笑顔で楓の方を見る)

楓 「そっ・・・それとこれとは・・・」

周防院院長 「楓さん、なにも、あなたが全てを背負う必要は無いのですよ。
         あなたが子供たちにしてきたことだけを、
         瑞穂さんにもして差し上げれば良いのですよ。

         ・・・そうですよね?幸穂さん。」

楓 「院長先生・・・」(幸穂のほうを見る)

(幸穂、微笑みながら頷く)

楓(首を横に振りながら) 「例えそれでも・・・今、
                今返事をしてしまったら・・・幸穂様は・・・。」

幸穂 「まあ・・・仕方の無い人・・・。(にこやかに) 
    一子の言う通り、本当に・・・いけずさんですね。」

楓 「・・・。」

幸穂 「・・・楓・・・さん。」(以降、小声になる)

楓 「?はい。」

幸穂 (眠っている瑞穂の頭を撫でながら) 
   「私の命は・・・この子が・・・受け継ぎます・・・。
    ですから・・・?・・・あら・・・。」

(瑞穂が目を覚まし顔をもたげる)

瑞穂 「ん・・・む?・・・あ・・・かあさま・・・おねむですか?」(寝ぼけ眼)

幸穂 「フフッ・・・はい。
     瑞穂は・・・もう・・・おっきですか?」

瑞穂 「ボクもおねむですぅ」(満面の笑み) 

幸穂 「ウフッ、それでは・・・一緒に・・・おやすみしましょうね。」

瑞穂 「は~い。おやすみなさい、かあさま」

幸穂 「おやすみ・・・なさい・・・瑞穂・・・。」(瑞穂の頭を撫でる)

瑞穂 「ハハッ・・・ん~・・・む~・・・」(寝付く)

幸穂 「フフッ・・・   

     ・・・おやすみ・・・なさい・・・瑞穂・・・」
    (幸穂、瑞穂の頭を撫でつつ、ゆっくりと目を閉じる)

一同 「・・・。」

(幸穂の手が瑞穂の頭から滑り落ちる)

楓 「・・・!幸穂様!?」

OP

Aパートその1

Aパート


ダイニング

一子 「うわああああああ~ん!!ざ じ お お で え ざ ば ああああ~!!」
    (目が滝)

楓 「お・・・お泣きにならないって
   約束されたではありませんか!」(半ベソ)

一子 「どあって どあってぇ~え~!!」

楓 「もうっ・・・ですから・・・お話したくなかったんです・・・。」

一子 「グスッ・・・だって・・・お姉さまがご病気で亡くなられたって聞いた時から、
    ずぅ~っと気になってたんだもん。
    ああ・・・さぞや苦しかったのではないでしょーかとか さぞや痛かったのではないでしょーかとか
    ひょっとしたら激痛に悶え苦しみながら死んでいったのではないでしょーかとか
    こんな事を瑞穂お姉さまにも伺う訳にも行かないし ましてやご本人に直接お伺いするなど以ての外
    そんなことを考えると居ても立ってもいられないやら 眠れない日々がどれだけ続いたことやら。 」

楓 「・・・あ・・・そ・・・そうでしたね。申し訳ありませんでした。」(生きたぬいぐるみの刑)

一子 「ンフッ・・・私のほうこそ、ゴメンね。思い出させちゃって。
    でも・・・良かった。笑顔だったんだ・・・幸穂お姉さまは・・・。」

楓 「ええ・・・私たちも、あの笑顔にどれだけ救われる思いをしたか、計り知れませんわ・・・。
   きっと、病の苦痛も有ったでしょうに・・・本当に優しくて、強い方でした。 」

一子 「・・・そして、幸穂お姉さまの命は、瑞穂お姉さまに受け継がれたのね。」 

楓 「!・・・お姉さまも・・・そう思われますか?」

一子 「はぁい」(笑顔)


映画館前

圭 「・・・謀りましたね・・・まりやさん・・・」

まりや 「べ・・・別に、謀ってなんかいませんわよ。人聞きの悪い言い方をしないで頂けませんかしら?」

瑞穂 「ハハ・・・いや、でも、まりやさん、そのペアチケットの束は・・・。」
    (まりやの手には数十枚のチケットの束)

美智子 「ウフフッ。漏れなく全員にプレゼント、ですね。」

まりや 「仕方がないでしょ。圭のチケットをお父様からもらおうとしたら、
      『折角だから他のお友達にも分けて上げなさい』っ・・・て、
      お得意さまから頂いたチケットを有りっ丈渡すんだから。

      ま、お陰でこの映画鑑賞会の企画ができたんだけどね。」

圭 「これでは勝負に勝った意味がありませんね。」

まりや 「はいはいはいはい!圭にはもう一枚差し上げます、はいどうぞっ!」(チケットを差し出す)

圭(束の方を注視して) 「・・・ひい・・・ふう・・・みい・・・まだ余りそうね。」

まりや 「あ~っ!もう、分かったわよ! 後で残ったら好きなだけあげるわよ!
     それで良いでしょっ!」

瑞穂 「で・・・では~・・・皆さん、どの映画にいたしましょうか・・・。」

美智子 「あら?まだ決めていなかったのですか?」

まりや 「皆で多数決で決めればいいと思っていましたから。」

圭 「出たとこ任せですか。流石、まりやさんらしい企画ですね。」

まりや 「・・・。」 (ムッとする。)

奏 「え~と・・・ウェービングストーリー、呪縛、
   ストレイライト・ラン、或る愛の詩、クリムゾン・・・色々あるのですよ~。」

由佳里 「どれにしようか迷っちゃうなぁ。
      あっ!でも、この呪縛って怖いのですよね。
      私これパスですぅ。」

奏 「瑞穂お姉さまは、どれがいいと思いますのですか?」

瑞穂 「私は・・・映画は久しぶりで、どれにしようかなんて考えて居なかったから、
     みんなと楽しめるのならどれでもいいわ。

美智子 「私も、何を観ようなんて考えても居ませんでしたわ。
圭さんにお任せします。」

由佳里 「んじゃあ、困った時の阿弥陀くじぃ!」(元気よく手を挙げる)

まりや 「ほほ~う・・・それは名案ねぇ~」(ニヤリ)

由佳里 「あっ!い・・・今の取り消しですっ!!」

まりや 「チッ・・・気付いたか・・・
      ん、じゃあ、
      ペアチケットだから、2人1組で別々の作品を観て、
      お昼休みにそれぞれの感想を話し合って、
      2回目に別の作品を観るってのはどう?」

瑞穂 「なるほど・・・。」

美智子 「面白そうですね。」

まりや 「それじゃ、行っきましょう!」

(入館)


美智子 「それにしても紫苑様、残念ですわ。ご病気だなんて。
      そんな様子に見えませんでしたけど。」

まりや 「私も全く気が付きませんでしたわ。奏ちゃんすごいわぁ。」

奏 「か・・・奏は、紫苑お姉さまが、いつもより熱っぽいと感じただけなのですよ。」

(学園内、廊下。紫苑に抱きしめられる奏の回想シーン)
奏 『紫苑お姉さま!お熱があるのですよ~!』


圭 「奏は、紫苑様専用のヘルスチェッカーですから。」

まりや 「健康器具かいっ!」

奏 「ふえ?・・・奏は、健康器具なのですか?」

圭 「と言うより、携帯暖房器具かしら?」

奏 「ええっ!?そ・・・そうなのですか?」

まりや 「この間はぬいぐるみとか言っていませんでしたっけ?」

美智子 「そういえば、ぬいぐるみの形をした湯たんぽを見たことがありますわ。」  

圭 「あるときはぬいぐるみ、またあるときは健康器具、だがその実体は・・・
   ・・・フッ・・・いけそうね。」

奏 「はう~・・・。奏は一体何なのですか~?」

瑞穂 「ウフフ・・・。昨晩、電話で様子を伺ってみましたが、大したことはないそうです。
    でも、無理をして、体を悪くされては大変ですからね。」

まりや 「もし倒れても、瑞穂ちゃんにまた抱っこしてもらえるから
     紫苑様としては役得なんじゃないかしら~?」

瑞穂 「もう、不謹慎よ、まりやさん。」

まりや 「そ・・・それじゃあ由佳里!どれにしようか?」

由佳里 「え?まりやお姉さまとですか?」

まりや 「ん?なによ。そのあからさまに嫌そうな返事は」

由佳里 「い・・・いぇ・・・その・・・まりやお姉さまがご覧になりたい映画って・・・」

瑞穂 「・・・それじゃ奏ちゃん、私たちはどれにしましょうか?」

奏 「あ・・・はいっ。えっとですね・・・呪・・・?」(圭たちの方を見る)

美智子 「圭さん。私たちはどれにします?」

圭 「ウェービング・ストーリー」

美智子 「ウフッ。迷いが無いですね。
      でも、なんだか地味そうな映画じゃないですか?」

圭 「これは観ておきたいと思ったのよ。」

美智子 「フフッ、いいですわよ。圭さんが観たいというのなら。」

(奏、圭たちのやり取りを見て)

奏 「瑞穂お姉さま。奏、ウェービング・ストーリーにするのですよ。」

瑞穂 「まあっ、奏ちゃん張り切ってるわね?」

奏 「部長さんが興味を持った作品は、後学の為にも是非とも観ておきたいのですよ!」

瑞穂 「ウフフッ。では、行きましょうか。」

まりや 「さあ~って、あたしたちはどれにしようかなあ」

由佳里 「わ・・・私も、ウェービング・ストーリーが・・・いいかな・・・って」

まりや 「なによぉ、みんな同じじゃつまんないでしょ。
      それに、折角大画面で観るなら、
      スリル、サスペンス、アクションに尽きるわよっ!」

由佳里 「そ・・・それってやっぱり怖い・・・」

まりや 「そーんなアンフェアなことはしないわよ。
      ・・・そうねぇ・・・。
      よしっ、このサスペンスっぽいストレイライト・ランでストーリー当てをするのよ。
      で、当たった方が次の映画の選択権を得るって事で、どう?」

由佳里 「それで・・・もしまりやお姉さまが当たったら・・・」

まりや 「フフ~ン・・・(ニヤリ)
      請う、ご期待!!」

由佳里 「ええ~!」

まりや 「負けたときの事なんて考えないのっ!勝負は時の運よ~!」 

      (由佳里、まりやに引きずられていく)

瑞穂 「・・・ふう・・・。まりやったら・・・。」
   (まりやたちの様子を見て苦笑)

Aパートその2

昼・学生寮屋根の上
(一子が物思いにふけっている)


  一子の回想  
寮玄関

一子 「おかえりなさ~い」

(瑞穂とまりやが帰ってくる。前回ラストの続き)
瑞穂 「ただいま、一子ちゃん
   (靴を脱ぎながら)  
   ・・・なら、まりやの悩みをまず解決しなくちゃいけないんじゃないのかなあ。」

一子 「?」

まりや 「は~い、そのつもりですよ~だ。
     でも・・・考えれば考えるほど、なんか焦ってきちゃうのよネェ・・・。」

一子 「あのぉ~、失礼ですが、まりやさんは一体何を悩んでいらっしゃるのですかぁ?」

まりや 「うん?・・・うん、あたしね・・・

     自分の未来が・・・見えなくなっちゃったの。」

一子 「自分の・・・未来・・・。」

瑞穂の部屋

一子 「瑞穂お姉さまの未来は、お父様の跡を継ぐことなんですよね?」

瑞穂 「ええ・・・。でも、その前に、進学したいの。」

一子 「?進学・・・したい?それは、跡継ぎのためにってことですよね?」

瑞穂 「そうね・・・でも、それだけじゃないの。今は・・・。」

    私は、ただ、お爺さまの遺言でこの学校に来た。
    でも・・・素敵なみんなと出会って、いろいろな事があって、
    それまで教えてもらえなかったことをたくさん教えてくれた。

    学校という所は、こんなに素敵な所なんだ・・・って、
    そう思ったら、今度は自分の意志で大学という学校に進学したいと思うようになったの。

    同じ行き先に向かって敷かれたレールの上を進むのにしても、
    漫然と座席に座っているだけなのと、周りの景色を見て楽しみながら座っているのとでは
    意味合いが違うと思うの。ウフッ・・・なんだか屁理屈みたいですけどね?」

一子 「瑞穂・・・お姉さま・・・。」

  回想終了  

一子 「そっかぁ・・・未来・・・かぁ・・・。

     ・・・?(空を見上げる)

     ・・・幸穂・・・お姉さま・・・。」

楓 「一子お姉さまぁ~。始まりますよぉ~。」(下から声)

一子 「あっ!はぁ~い!」

ダイニング

    (食い入るようにテレビを観て、喜怒哀楽の表情を次々と変える一子。
     昼食を摂りながらその様子を愛しく見詰める楓)





映画館フードコート

美智子 「ちょっと切ない物語でしたね。」

奏 「夢を追うためにあんなに思い切ったことが出来るなんて
   奏、とってもすごいと思ったのですよ。」

瑞穂 「そうね。現実だったら後先を考えない無謀な事だって言われて諦めてしまうかもね。」
    『・・・?あれ?だけど、なんだかすごく身近な感じがしたなあ・・・。』

(まりや、由佳里がやってくる)

まりや 「さあ・・・由佳里ィ、外れたらどうするんだったかなあ~?」

由佳里 「うう~・・・」

まりや 「フッフッフ、勝負は時の運と思って諦めなさぁい。」

(瑞穂と奏、美智子、二人の様子を見て笑う)

瑞穂 「・・・!そうか!!まりやだ!!」

まりや 「な・・・何がよ?」


学生寮・ダイニング

(一子、カレンダーの印に気が付く)

一子 「ん?あれぇ~?2月のこの印はなんですかぁ~?」

楓 「あ・・・それは・・・私の此処のお仕事の終了日です。
   でも・・・できれば、瑞穂様のご卒業まで皆さんと居られたら・・・などと思っていますが。」

一子 「卒業・・・ん・・・そっか、そうだよね。
    ・・・せっかく会えたのに、もうすぐ・・・お別れだね。」

楓 「あ・・・。
   瑞穂様がご卒業しても、私は毎月此処へ来ますから、どうかご安心ください。」

一子 「ううん・・・。私も・・・ もうすぐ、
     幽霊を卒業できると思うから・・・。」

楓 「・・・え?」

アイキャッチ

Bパートその1

Bパート


学生寮のダイニング

一子 「これが噂に聞いた大霊界。黄金に輝く巨大な門をくぐり抜ければ 私も昇天がかなうのです~。
    すると その入り口の前には神々しい輝きを放つ女神様が立っているではありませんか。
    うわ~・・・なんてお美しいのでしょう。幸穂お姉さまに負けず劣らずの美しさですね~
    ・・・などと見とれていると

幸穂 「一子・・・」

    ありゃ? さすが神様。こちらから名乗らなくても私のことはご存知だったんですね~・・・って、
    お顔をよく見ると 立っていたのは ななななーんと!幸穂お姉さまではあーりませんかー。
    感動の再会!お姉さまは私を迎えにわざわざ霊界の門まで来ていてくださったのですぅ~。

一子 「お姉さま~!!」

幸穂 「お久しぶりですね。一子」

   おねーさまー・・・と
   獲物に飛び掛る野獣の如く今まさにお姉さまに抱き付こうとしたところなのですが~・・・

一子 「あら?あらあららら?」

   不思議なことに 私の体はそこから先に進むことが出来なくなっていたのです!!
   これぞまさに神秘の霊界パゥワ~!

一子 「ええ~~ん!どうしてなんですかぁ~!お姉さまあ~!!」

幸穂 「一子・・・もしかしたら、まだ、思い残していることがあるんじゃないかしら?」

一子 「思い残していること・・・?」

幸穂 「それが何かは私にも分かりません。
     些細なことかもしれませんし、とても大切なことなのかもしれません。
     でも、一子にそれがある限り、こちらの世界に来ることは出来ないわ。」

一子 「そんなあ~・・・どうすればいいんですかぁ~!」

幸穂 「・・・もうしばらく、瑞穂の傍に居てはどうかしら?」

一子 「え?瑞穂お姉さま・・・?」

幸穂 「瑞穂はこれから、人としてとても大切なことを学んでいくことになるでしょう。
   大勢の人から認められ、選ばれる事は、それに伴う責任がある事。
    他人を思いやる事、他人を助ける事。
    そして自分自身も、周囲から支えられている事・・・。」

一子 「・・・」

幸穂 「そうして瑞穂が多くの人と関わる中から、
    きっと一子もヒントを得られると思うの。
    それまで、一子には、瑞穂を傍で見守っていて居て欲しいの。

    私は下界に降りても、あの子に何も伝えることが出来ません。
    保護者が傍に居たのではあの子の為になりませんからね。
    ですから、どうしても一子にお願いしたいの。どうかしら?」

一子 「はいっ!了解しました!幸穂お姉さま!」(ビシッと敬礼ポーズ)

幸穂 「・・・一子、辛い思いをさせてしまって、ごめんなさい。・・・謝っても謝り切れないわね。」

一子 「いえいえ、私は幸穂お姉さまと一緒に居られるなら、たとえ火の中水の中、
    地獄極楽どこまでも付いていく所存でしたから・・・って、ここは天国でしたっけ? テヘ」

幸穂 「ウフフ・・・ありがとう、一子。」


    ・・・こうして私、高島一子は霊界からのエージェント、
     瑞穂お姉さまのガーディアンとして 再び下界にやってきたのでした~。」

楓 「そうだったのですか・・・。
   光久様の遺言を知ったときは、正直驚きましたが・・・。

   今、こうして振り返ってみると、そうですね・・・

   聖應に行かれてから、瑞穂様はとてもお優しくなられました。

   瑞穂様には、鏑木の後継者として相応しい人間になるために、様々なことを学んで頂きました。
   瑞穂様は懸命な努力で、それに応えて来られました。
   私も、出来る限りの事をお手伝いさせていただきました。
   でも・・・それだけでは足りないことを、光久様は分かっていらしたのですね。」

一子 「楓ちゃん・・・」(憂い顔)

楓 「あ・・・いいえ、私の力不足を悔やんでいるのではありませんから。

   ただ・・・
   瑞穂様のご成長を喜ばなければならないのに・・・ 

   お姉さまとのお別れを惜しんでいる自分が・・・情けないんです。」

一子 「・・・。

    ん?!・・・あ!そうそう、そーでした。幸穂お姉さまからぁ、楓ちゃんに会ったら、
    是非伝えておいて欲しいって言われていた事があったのですよぉ~」

楓 「え?」

一子 「危うく霊界メッセンジャーとしての任務を果たさないまま帰還するところでしたよまったく~。
     楓ちゃん、幸穂お姉さまからのお言葉ですから、心して聞きなさい。」

楓 「・・・」
  (クスッと笑いながら姿勢を正す)
  「はい」

一子 「あーあー、コホン。え~、
    (幸穂の口調で)楓さん。いつも瑞穂や旦那様のこと、ありがとうございます。」

楓 「いえいえ、もったいないお言葉、ありがとうございます。」

一子 「これからも・・・と言いたいところですが~・・・」(一子眉をひそめる)

楓 「・・・?」

一子(ニコッとする) 「あなたは私の前で瑞穂の母親になることを宣言しましたが、
        どうも私が期待していたことと違っているようで少々残念です。」

楓 「え・・・」

一子 「よろしいですか?
     せめて瑞穂が結婚するまでには、あなたも決心をなさってくださいね?
       ・・・以上!」

楓 「・・・?決心?」

一子 「ンも~分かってるくせにィ・・・このこの~。」

楓  「け?・・・け・・・決心・・・って、まさか・・・ええっ!?」(顔を赤らめる)

一子 「フフ~ン・・・」

楓 「そんな、急に言われましても・・・。
   まだ、決まった方がいる訳でもありませんし・・・。」

一子 「?・・・ん~?
    どうやら楓ちゃんはぁ、一つ重大な勘違いをしていますねぇ~。」

楓 「何をですか?」

一子 「急にもまだも決まったも何も、
     瑞穂お姉さまのお母さまになるって事は、
     瑞穂お姉さまのお父様の奥方さまになる事だと
     フツーなら思うはずなのですがねぇ~?」

楓 「・・・  え   ・・・?

   お・・・ おくがた・・・ さま  ・・・?

   だ・・・だんな・・・様・・・の

   おくっ!!・・・・・・・・・」(顔が真っ赤)

一子 「楓ちゃん・・・?」(楓の様子をしばらく眺めて)

楓 「・・・。」(顔を真っ赤にしてうつむいたまま)

一子 「・・・うわあ~・・・楓ちゃんの照れてるところ初めて見たぁ。
    可愛いですう~。

    その反応はまさしく脈アリ?
    ああ・・・使用人と主人の禁断の愛。燃えるシチュエーションですぅ! 素敵ですぅ!
    ヒューヒュ~」
  
楓 「じょっ・・・冗談はやめて下さいっ!私は、使用人なのですよ?
   使用人の分際で・・・だ・・・旦那様と・・・だ・・・だ・・・なんて!」

一子 「そぉでしょうかぁ・・・旦那様はまんざらでもないと思いますがねぇ~」

楓 「何を・・・根拠に、そのようなお戯れ事を・・・」

一子 「ん~・・・楓ちゃんを単なる使用人としか思っていないならぁ
     ご自分の休暇に南の島まで一緒に来いなんて誘ったりしないと思いますがねぇ~」

楓 「!?・・・おっ!お姉さまっ!どっ・・・どうしてその事をっ!?」

一子 「エヘッ
    瑞穂お姉さまにぃ、楓ちゃんってどんな方ですかぁ~?
    ・・・ってお聞きした時に話して下さったんですよ~。
    他にも政財界のディナーショーで
    酔った勢いで警備員さんたちを次々と一本背負いで投げ飛ばしちゃったとかぁ・・・

楓 「あ・・・あ・・・」(顔が青ざめていく)

一子 「社長秘書の初仕事で産油国の大企業の会長さんを会社案内していたら
    会長さんから熱烈プロポーズされちゃってぇ、
    楓ちゃんが苦し紛れに『私は社長の妻ですから』って断ったら
    会長さんが『女房自慢とは不愉快だ!』な~んて激怒しちゃって
    取引の交渉決裂寸前の大騒ぎになったとかぁ~。」

楓 「な・・・ああ・・・」

一子 「楓ちゃんの楽しい武勇伝をいっぱい い~っぱい聞かせて頂きましたよ~・・・って・・・ありゃ?」

楓 「み・・・みぃ~ずぅ~ほ~さぁ~ん~・・・」(憎悪の揺らめき)

一子 「あは・・・はは・・・」(苦笑)
    『うわぁぁ・・・怖ひぃ・・・』(汗)

映画館内
(扉に呪縛のポスター)

瑞穂 「!?・・・うわあっ!!」(ビクッと立ち上がる)

奏 「!瑞穂お姉さま?」

瑞穂 「あ・・・ご・・・ごめんなさいね・・・。」

奏 「ホラー映画なのですから驚かれるのも当然なのですよ。
   ・・・でも、このシーンはそんなに怖いところでもないのですよ?」

瑞穂 「あ・・・はは・・・そういうわけじゃ・・・無いんだけど・・・」(苦笑)
    『なんだろう・・・今の背筋を走ったのは・・・』


別室
(扉にウェービング・ストーリーのポスター)
(スクリーンをじっと見詰めるまりや)

   まりやの回想   
(ハンカチーフの展覧会場)
まりや 『・・・何よ・・・これ・・・』

     こんなものなのかな・・・

     あたしは・・・何を・・・?』

   回想終わり   
 
まりや 『・・・ミナ!ショウコ!あなたたちなら、どうするのよ?』


学生寮・ダイニング

楓 「・・・酔った時の事は・・・覚えておりませんが・・・

   わ・・・私は『社長の妻です』などと言ってはおりません!
   相手の方にそう問い詰められて・・・つい・・・。」

一子 「うう~ん?つい~?」(ニヤリ)

楓 「頷いてしまって・・・。」  

一子 「うんうん・・・えてして事実は自分の都合の悪いように受け取られるものなのですねぇ~。」

楓 「本当ですっ!あまりに突然で、どうして良いか返事が思い付かなくって・・・。
   ・・・第一、秘書に成ったばかりで、
   そんな恐れ多い事を言えるはずがないではありませんか!」

一子 「う~ん・・・それもそうですねぇ・・・
    でも、まあ、鏑木のメイド史にはそのように記されているってことですねぇ。」

楓 「メイド史って・・・そんな・・・。」

一子 「まあまあ、お陰で幸穂お姉さまにはとってもいいお土産話が出来たと言うものですよ~。
    メイドだけに冥土の土産?なんちゃって~テヘ」

Bパートその2

楓 「もうっ・・・。お好きになさって下さいっ!
   そのようなこと、わざわざお話にならなくても幸穂様ならとっくに・・・
   ・・・?
   ちょっと待ってください。

お姉さまは、此処で私とお会いするまで、
   私が鏑木のメイドであることをご存知なかったのですよね?」

一子 「はあい。もうインド人もビックリ仰天でしたよぉ。」

楓 「それでは?幸穂様から伝言をお預かりになったときには気付かれなかったのですか?」

一子 「・・・あ・・・」

楓 「お姉さま?」

一子 「え・・・っと・・・」

楓 (ため息)「・・・お姉さま。お心遣いは大変嬉しいのですが、
        亡くなられた方を騙っての作り話は、どうかと思いますよ。」

一子 「ええ~作り話じゃありませんよ~」

楓 「私、迂闊にもすっかり乗せられてしまいましたが、
   幸穂様は、旦那様のことを名前でお呼びします。
   お姉さまは、旦那様のお名前をご存知ですか?」    
 
一子 「あ・・・あう~・・・聞いたけど~
    ど忘れしちゃったぁ~・・・なんて・・・ね

    (呆れ顔で一子を見つめる楓)
 
    う~ん・・・でもでもぉ・・・、
    楓ちゃんは、旦那様のことをお慕いしているのでしょ?
    幸穂お姉さまだって、きっと楓ちゃんの幸せを・・・」

楓 「私は・・・使用人としての立場をわきまえております。
   瑞穂様と旦那様に仕えていることで、私は十分幸せですから。」

一子 「楓ちゃん・・・」

楓 「・・・」


   楓の回想   
(アバンタイトルの続き)


楓 「・・・さ・・・幸穂様?・・・
   幸穂様・・・
   幸穂様っ! (声を荒げる)

   まだ・・・美倉様が・・・先生が・・・まだお越しになっていません!
   幸穂様っ?

   まだ私は、返事をしていませんよ。

   あ・・・や・・・ 

   さ・・・ッ !?」
 
 (慶行、楓の肩をがっしりと掴む。素早く引き寄せ楓をグルリと自分の方に向け、抱きしめる。)  

楓 「!」 (目を見開き、驚きの表情)

慶行 「折角眠った瑞穂が・・・起きるじゃないか・・・。」

  一瞬の事で、声が出せなくなってしまいました。

  旦那様はそれまで始終無言で、表情も崩されませんでした。
  流石は鏑木を背負って行かれるお方・・・。
  こんなときにも冷静で居られる強い方なのだと思っていました。

  ですが・・・今まで聞いた事が無い、とても重々しいその言葉で、大事な事に気付きました。

  そうなんだ。
  瑞穂様が母親を失っただけではなく・・・旦那様も奥様を失ったんだ・・・。
 
  誰よりも声に出して泣きたいのは、この方なのに・・・

  私は・・・この御二方の・・・支えにならなければならないのに・・・

  いいえ・・・支えに・・・なりたい・・・。

  そう・・・支えになりたい。

楓(小声で) 「かしこまりました・・・幸穂様・・・。」

   回想終わり   

楓 「・・・私は、御二方の支えになることを誓いました。
   ですが・・・御二方と幸穂様との絆の間に割って入るようなことは・・・
   決してするつもりはありません。」


一子 「楓ちゃん・・・

    ・・・?」(何かに気付き、上を見上げる)

楓 「・・・」(うつむいたまま)

幸穂(エコーで声だけ) 「楓さん・・・」

楓 「!?幸穂様?」(声がした一子のほうを振り向く)

幸穂 「楓さん」(一子が幸穂の姿に変わっていく)   

楓 「幸穂様っ!!」


 


幸穂 「瑞穂たちが前に進むのを見て・・・

    一子も前に進むことを決めました。

    ですから、楓さんも、前に進んでください。」

楓 「で・・・ですが・・・それでは幸穂様の・・・」

幸穂 「・・・ごめんなさいね。あの時、言おうとしたのですが・・・。」

楓 「あの時・・・?」

幸穂 「私の命は・・・瑞穂が受け継ぎました。

     ですから・・・私の翼は・・・あなたが受け継いでください。」

楓 「幸穂様の・・・翼・・・?」

幸穂(頷く) 「瑞穂の母としての、
        そして、慶行さんの妻としての、

        “絆”という名の翼です。

        二人と私の絆は、あなたがこの翼を受け継ぐ事で
        いつまでも大切に守られるのです。       

       どうか、慶行さんを幸せにしてあげてください。」(幸穂の姿が薄れる)

楓 「幸穂さまっ!」

一子 「・・・楓ちゃん・・・。」

楓 「…お姉さま。」

一子 「・・・幸穂お姉さまの翼、受け取って・・・ね?」

楓「・・・・・・はい。ありがとうございます。幸穂様、一子お姉さま。」
  (一子を抱きしめる)


映画館

(ウェービングストーリー終幕)

由佳里 「はああ・・・」(ため息、涙目で笑みと拍手)

(照明が明るくなる)

まりや 「・・・っ!」(脇目も振らず席を立って駆け出て行く)

由佳里 「!?ま・・・まりやお姉さま!?」


お手洗い(洗面所)

まりや 「うっ・・・くっ・・・ (鏡の前でうつむいて嗚咽)
     う・・・  !
     (顔を上げて鏡の自分を見詰める)
   
     ・・・うん・・・決めた・・・。」(涙を流しながらも笑みを表す)

    (水を出し、激しく顔を洗い出す)

お手洗い入り口

パアン! (軽快な平手打ちの音)

(中から声だけ)
まりや 「よおっしっ!決めたッ!!」


入場門

由佳里 「ご気分を悪くされたみたいで・・・突然席を立たれて・・・。」

瑞穂 「私、様子を見てきます。」

美智子 「あ・・・」

一同 「え?」

まりや 「待たせてごめ~ん。」

瑞穂 「まりや・・・。大丈夫?どうかしたの?」

まりや 「何よ?そんなに心配そうな顔をしてぇ。
      どうもしないわよぉ。ちょっと化粧直しして来ただ~け。」

由佳里 「でも・・・。」

(圭、瑞穂の横に来る)
圭 「観る前に用を済ませておくのは映画鑑賞の基本ですよ。
   全く、マナーがなっていませんね。」

瑞穂、由佳里 「・・・え?」

まりや 「・・・圭・・・。
      いっや~っ、ゴメンゴメン。うっかりしててさあ。」


帰路(夕方)

(道中、会話を交わす一行。由佳里、周囲にまりやが居ないことに気が付く。
 振り返ると20メートルくらい後方で
 まりやは一人立ち止まって夕日を見詰めている)

由佳里 「まりやお姉さま・・・?」

瑞穂 「?」(由佳里の声に気付く。一同も足を止める。)

由佳里 「まりやお姉さま~」(まりやに駆け寄る)

由佳里 「まりや・・・?あ・・・」
     (夕日に映えたまりやの自信に満ちた様な表情を見る)
     「・・・うわぁ・・・・・・」(小声で感嘆する)

     (まりや、由佳里の存在に気付く)
まりや 「?な・・・なに?あたしの顔に何か付いてる?」

由佳里 「まりやお姉さま、すごくカッコ良くて素敵です。」

まりや 「へ?きゅ・・・急に何を言い出すのよ。照れるじゃない。」

由佳里 「なんだかとっても自信に溢れているみたいで・・・。
      私、まりやお姉さまの今の顔、絶対に忘れません!」

まりや 「顔くらいで大げさ・・・

     ・・・!(何かに気付く)
     
     ・・・ふ~ん・・・。 (悪戯っぽい顔)
     じゃあ、由佳里。」

由佳里 「はい?」

まりや 「今のあたしの顔、真似て見せてよ。」

由佳里 「え?あの・・・えと・・・

      こ・・・こうですか?」



まりや 「プッ・・・
     クスッ
     あははははは~」

由佳里 「あ~っ!笑うなんて酷いですぅ~っ!!」

まりや 「アハッ・・・あたしって・・・ヒッ
      そんなに引きつった顔してたんだ~」 

由佳里 「違いますぅっ!こんな顔、したことがなかったから
      どうやったら出来るか・・・」

まりや 「フフッ・・・どうやったら・・・か・・・。
     フ・・・なにも今見せろ、なんて言っていないじゃない。」

由佳里 「え?」

まりや 「由佳里は今、自分がやりたいと思うことを、
      やりたいようにやっているんでしょ?」

由佳里 「ええ・・・っと、やりたいと言うか、好きだから・・・」

まりや 「それで良いのよ。

      あたしも、やりたいと思うことをやり続けて来た。
      無茶も色々やってきたわ。失敗もいっぱいやった。
      でも、結果としてその全部が自信に繋がった。
      だから由佳里も、
      好きでやれると言うのだから、やり続ければいい。 

      その先に・・・」

由佳里 「?」

まりや 「この顔が待っているのよ。」

由佳里 「・・・まりや・・・お姉さま・・・。
      はっ・・・はいっっ!!」

まりや 「さ、行こっ」(待っていた瑞穂たちと合流する)

瑞穂 「まりや・・・見つかったみたいだね。」
    (由佳里は奏と会話を始める)

まりや 「まあね。
      でも・・・、あたしも単純よねぇ~。
      映画を観て自分の未来を決めちゃうなんてさ。」

瑞穂 「そうかしら?私はもっとも まりやらしい決め方だと思うけど?」

まりや(腐った表情で) 「そりゃあ、あたしの人生は (圭を睨みながら)
          出たとこ任せのギャンブルそのものですよ~だ。」 

圭 「映画や小説の影響を受けて、自分の生き方が左右されることは、別に単純なことでもないわ。
   作者が何かを訴えようとして、受け手が何かを感じ取ることが出来たのなら、
   それは受け手にとっては価値のあるものであることは間違いないわ。」

まりや 「・・・圭・・・。」

瑞穂 「圭さん・・・。」

圭 「・・・フッ・・・作者にとっては“してやったり”・・・ね。」

まりや 「!?ちょっ・・・圭っ!それってやっぱあたしが・・・!」

(一同の笑い声)


学生寮

(一子、バルコニーから瑞穂たちの帰りを眺めている。)

一子 「あ~、皆さんお帰りですね~
     ?あ・・・まりやさんの顔・・・

     ・・・そっか・・・(微笑みながらつぶやく)
     ・・・まりやさんの未来・・・、見つかったんですね。」

ED

プロフィール

ガルダンガンガル

Author:ガルダンガンガル
歳を重ねる毎に忘れてしまう幼少のころに手にした、あるいは目にした、おもちゃ(プラモもオマケも“おもちゃ”に含む)に関する記憶を残しておく事から始めたブログも、気が付けば干支が一回り。
今では可動フィギュアに魅せられてイロイロ改造を施してイロイロポーズを取らせたり、二次創作をしてみたり。

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