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BUCK-TICK23枚目のオリジナル・アルバム『異空 -IZORA-』感想

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BUCK-TICK(以下B-T)の勢いが止まらない。3月にシングル2作を連続リリースし、4月には23枚目のオリジナル・アルバム『異空 -IZORA-』をリリース。その前週にはMステに28年ぶりの出演を果たし、他の出演者とは明らかに異質な存在感を放ち話題となった。そして新作アルバムはオリコン邦楽週間チャート初登場2位を記録。これは彼らにとって、最後に1位を獲得した1995年リリース作『Six/Nine』以降のアルバムでは最高順位となる。


もちろん、オリコンの順位なんて同一週にリリースされた他作品に左右されるものだが、彼らの場合は確かに、近年で新たなファン(出戻り含め)を着実に増やしていると思う。4月16日まで11週にわたり、週替わりで公式配信された過去のライブ映像の視聴者数は、コロナ禍直後に行われた配信時よりも2,000人ほど増えていたし、Mステ出演後にはさらにそこから2,000人くらい増えていた。そしてかくいう私もファン歴4年の新参者である。

[過去記事]BUCK-TICKにどハマりしたのでそのきっかけや魅力などいろいろ語ってみた<前編>
[過去記事]BUCK-TICKにどハマりしたのでそのきっかけや魅力などいろいろ語ってみた<後編>


一体彼らはなぜ、メジャーデビュー35年目を迎えても既存のファンを魅了し続け、新たなファンを獲得し続けられるのか。ニューアルバム『異空 -IZORA-』を聴くと、その答えが朧気ながら見えてくる。






まず、B-Tの何がスゴイのかを私なりにあらためて力説したい。


【継続力がスゴイ】
1985年に現在のメンバーとなり、1987年にメジャーデビュー。すでに還暦を迎えているメンバーもいる中、メンバーチェンジや脱退なしで37年活動し続けているのが単純にスゴイ。加えて、メンバー全員ルックスレベルを維持、というかさらにカッコよくなっていて、何というかもはや尊い。


【活動内容の濃さがスゴイ】
ただキャリアが長くても、活動内容がスカスカだったら意味がない。しかしB-Tのアルバムリリース間隔は最長でも2年10ヶ月と常に精力的。もちろんそれに伴ってシングルもリリースするし、アルバムに収録されないシングル(最近では2021年リリースの「Go-Go B-T TRAIN」など)もあったりする。ラルクが11年以上アルバムをリリースしない間、B-Tは6枚もアルバム出してしまったよ…(小声)。

作品だけでなく、毎年のように全国ツアーを行い、ファンクラブ限定ライブを行い、2000年以降は年末の武道館公演が恒例になるなどライブ活動も非常に活発。活動内容の密度が濃いので、ファンを飽きさせないのだ。


【作品のクオリティがスゴイ】
長いキャリアでたくさんアルバムを出していたって、同じようなことばかりしていたらどうしたって飽きられるし、奇を衒ったことばかりやってもファンは付いていけなくなる。というか並みのバンドだと、アレンジやメロディのアイデアが枯渇して予定調和なサウンドになりがちだし、ライブで古い曲しか盛り上がらないなんてこともあるだろう。しかし彼らはブレイン的存在であるギター・今井寿によるパンク/ニューウェーヴ仕込みのフリーキーさによって、新しいもの、面白いものを貪欲に取り込んで次々とバンドに落とし込んでいく。他のメンバーもそれにしっかり呼応して、さらにスゴイものを作り上げていく。普通、一人ぐらいは「いやーこういうのは俺はちょっと…」とかなるでしょ。そうならないのは、メンバーが大人しいジェントルマンだからではなく、強固な信頼関係があるからに他ならない。

いろんなことを無節操にやるだけでは、そのバンドの本質というのは見えなくなりがちだが、彼らの場合はデビュー時から常に一貫した美学を持っている。耽美でダークな世界観を築き、生と死、夢と現(うつつ)、祈りと嘆き、信仰と背徳、そして愛──エロス、ルダス、アガペー、フィラウティア、ストルゲー、マニアなどさまざまな形の──について、35年間変わらずに表現し続けてきた。ドラムンベースをやろうとダブをやろうとファンクをやろうと、そこにはブレないB-Tらしさが常にあり、だからこそリスナーを魅了し続け、驚きと新鮮さを与え続けているのだと思う。





さて、件の『異空 -IZORA-』だが、今回も新しいことをたくさんやっていて、楽曲もヴァラエティに富んでいるのに非常に均整の取れた作品になったと思う。ファンの間でもよく「最新が最高」(*)と言われたりしているが、まさにそんな言葉がぴったりだ。

(*補足)「最新作がこれまでで一番好きなアルバム」という文字通りの意味ではなく、あくまで「常に進化し続けていて、バンドのクリエイティビティやモチベーションが過去最高の状態」みたいなニュアンス。私個人にとっては『狂った太陽』(1991年リリース)と『十三階は月光』(2005年リリース)の2作品が至高なので、そう簡単には超えられないし、最新作と単純比較はできない



全体的に浮遊感のあるシンセの音が特徴的で、戦争について書かれた歌詞が多いためか、どちらかというと暗め・重めのアルバムということになると思う。とはいってもそこはB-Tなので、とてもキャッチーでポップだし、絶望や悲壮というよりはむしろ祈りや救済といった面が浮き彫りになっている印象を受ける。例えば若いバンドが社会情勢を反映してメッセージ性の高い作品を作ると「戦争反対!」みたいにポリティカルになりがちだけど、彼らの場合は「愛し合いましょう(そうすればきっと、戦争はなくなるから)」みたいな、より根源的なメッセージが感じられる。だからアルバム通して聴くと心が浄化されるというか、純粋に美しいな、みたいな気持ちの方が強い。そんな作品だ。





せっかくなので全曲の簡単な感想を書いていきたい。

1. QUANTUM I
B-Tのアルバムはいつもコンセプトやテーマのようなものがあって、「1曲目から最終曲までを通して聴く」ということを強く意識して作られている。その役割を果たすものとして1曲目にオープナー的な短めのインストがくることも多いが、本作でもそれを採用。不穏なムードのエレクトロニカを展開しており、工場の排気音を連想させるノイズが印象的。


2. SCARECROW
めちゃくちゃ意外だった。オープニング曲の後はバーンと勢いのある曲が続く傾向があるが、ここでこんなに抑えの効いたイントロの、シンプルなコード進行の曲を持ってくるとは。本作の特異性はこの曲のイントロに集約されていると言っても過言ではない。まるで、このアルバムはこういう内省的なムードを纏った作品ですと宣言をしているかのようだ。サビで倍テン(ドラムが倍のテンポに聞こえるリズムに変わる)しているのもカッコいい。


3. ワルキューレの騎行
従来のアルバムなら2曲目、オープナーの次に来そうな曲であり、2010年代以降のB-Tサウンドを象徴するようなインダストリアル曲。ちょっとNine Inch Nailsの「Heresy」なんかを連想させる。櫻井敦司の巻き舌ヴォーカルが冴えわたり、鬼気迫る感じが非常にB-Tらしさがあるが、1、2曲目で「このアルバム、どうなってしまうの…?」とハラハラしていたところに「これぞB-T!」な曲が来るのでむしろ安心感を覚えた。


4. さよならシェルター destroy and regenerate-Mix
35周年記念の5枚組コンセプト・ベストに収録された新曲のアルバム・ヴァージョン。おさかなさんたちの間ではすでにお馴染みのユニット、「黒色すみれ」のさちが全編にわたってヴァイオリンを添えている。これが本当に素晴らしい。もともと好きな曲だったが、断然こちらのヴァージョンが好き。"あなたを抱き締めていたいけど 私は誰かを殺しに行くの 狂っている 狂っているよ"という歌詞が鋭く突き刺さるメッセージ性の高い曲だが、政治的イデオロギーを排除し、ただ普遍的な平和への願いをしたためられるのが櫻井敦司の器用さだと思う。こんなメッセージを込めつつ、美しさと優しさと儚さで包み込んでしまうという意味では、「世界は闇で満ちている」(2014年作『或いはアナーキー』収録)にも通じるものがある。ただ個人的には、もっとアルバムの終盤で聴きたかったかな。


5. 愛のハレム
これも「ワルキューレの騎行」とは違った側面の、いかにもB-Tらしさのある憂いに満ちた楽曲。星野英彦は本当にこういう哀愁メロディを書くのが巧い。ここ最近の彼らのミキシングの主流になっていた、クリアでドンシャリの効いたドラムとは一線を画す控えめなビートになっているのが新鮮。ホワーンというアンビエント感のあるシンセ音が印象的だが、なるほど確かにドラムの鳴りを抑えることでシンセの美しさや浮遊感が一層際立つようになっていて、こういう音の引き算も見事だなあ…。


6. Campanella 花束を君に
ここでいきなりとてつもなくキャッチーなメロディが!?「セレナーデ -愛しのアンブレラ-」以来のかわいらしい曲…と思ったのも束の間、歌詞ヤベエな。兵隊として戦地に旅立つ父に対し、子供の視点で"パパ 行かないで ダメだよ 殺されちゃう"だもんなあ…。大人と子供で戦争の見え方って全然違うわけで。この曲では無邪気な子供の視点で「戦争=こわい」を描いているけど、じゃあ何が怖いかっていうと人がたくさん死ぬことではなくて「お父さんが死ぬこと」なんだよね。こんな詞が書ける櫻井敦司って本当に作詞家としても素晴らしいと思う。ちなみに空襲を「雨」と表現しているけど、そういえば「Brilliant」(2002年作『極東 I LOVE YOU』収録)でも同じ表現をしていたっけ。


7. THE FALLING DOWN
シャッフルリズムがカッコいいヘヴィなロックンロール曲。そして今井寿がAメロ部分のメインヴォーカルを務める曲は、もはやアルバムにはなくてはならない存在だ。リズムなど表面的なサウンド面だけで言えば「TRIGGER」(2002年作『極東 I LOVE YOU』収録)辺りが一番近いけど、比較的珍しいタイプの曲調。


8. 太陽とイカロス
第一弾先行シングル。タイトルが発表されたときはギリシャ神話をモチーフにした曲なのかなと思ったが、戦闘機で戦地に向かう姿を神話になぞらえるとは…。この曲と「さよならシェルター」「Campanella 花束を君に」だけでもかなり平和への願いが込められた作品ということが言えると思うし、そういう意味では『極東 I LOVE YOU』に一番感触の近い作品かも。"悲シイケド コレデ自由ダ"というのも、先ほど触れた「Brilliant」の歌詞の"残酷な雨も終わった 優しい人になれたんだね"に近いものが感じられる。戦地にいる兵士にとって、「死ぬ」ということはもう人を殺さなくていいことでもあり、人殺しを命じられることからも解放されるわけだから。




9. Boogie Woogie
戦後の日本を象徴する曲として有名な笠木シヅ子「東京ブギウギ」みたいな曲調かと思ったらゴリゴリなハードロックとは。ツェッペリンの良さがわからないという今井寿がこんな曲を作るんかいなと思ったし、本作で一番驚かされたかもしれない。でも35周年ツアーのライブの時には場内でMåneskinが流れたりしていたし、それが今井寿のセレクトによるものだったとすれば、もしかしたらそこからインスパイアされているのかも。「横浜」や「伊勢佐木」というワードが飛び込んできて一瞬エッとなるが、活動初期にオンボロの車でツアーを回っていた時代を回顧した曲らしい。「Stray Cat's」や「Diamond Dog's」というワードも登場するが、前者はヤガミトールが好きなバンドのStray Cats、後者は櫻井敦司が敬愛するDavid Bowieのアルバムタイトルからの引用だろうか?もしくは当時ツアー中に寄った思い出のお店の名前なのかも。そういう想像も楽しい。


10. 無限 LOOP -IZORA-
第二弾先行シングル。スピッツ感のあるシンコペーションの効いたドラムがB-Tの中では結構珍しい。「太陽とイカロス」に続いて、シングル2曲とも爽やかで美しい曲調なので今作は明るくキャッチーなアルバムになると思っていた時期が私にもありました…。ちなみにシングルVer.とはイントロやミックスが異なり、こちらはシンセのリフがやや小さくなっている。シングルは「ちょっとこの音大きすぎるかも」と思っていたのでちょうど良くなった感じ。




11. 野良猫ブルー
収録曲のタイトルが発表されてから、個人的に一番楽しみにしていた曲。路地裏の怪しげなムードを感じさせる曲調で、ジャズやブルーズ的なアプローチを盛り込んでいた「誘惑」(1993年作『darker than darkness -style 93-』収録)と雰囲気自体は近いが、サウンドアプローチとしては全く異なっていて非常にユニーク。


12. ヒズミ
「野良猫ブルー」からの流れが秀逸な、子門真人「およげ!たいやきくん」を思い出させる曲。タイトル公開時にもともと予想していた「野良猫ブルー」の曲調はむしろこっちに近かったかな。「DIABOLO」(2005年作『十三階は月光』収録)と同様に、アップライトベースを用いた見世物小屋っぽい雰囲気のある曲だが、心と身体の性が異なる者の苦悩が歌われているようで、本作中で最もヘヴィな歌詞と言える。


13. 名も無きわたし
シングル「太陽とイカロス」のカップリングとして収録された「名も無きわたし -花鳥風月REMIX-」は和のテイストが散りばめられたりオートチューンが使われていて、そこから和っぽい装飾やリミキサーのYOW-LOWっぽいエレクトロな要素を除いたら「忘却」(2020年作『ABRACADABRA』収録)っぽい感じになりそうだなと想像していたけど、遠からずな感じに。ただ、和っぽい装飾を取ったことで、よりメロディの和っぽさが引き立つ形になったと思う。


14. QUANTUM II
ほとんどドローン音楽みたいなインスト。こちらはNine Inch Nails『The Downward Spiral』のタイトルトラックっぽいような雰囲気。「Quanum」とは量子とかの意味らしいけどこれが意味するものは?もしかして次のアルバムも既に控えていて、この曲がそのヒントになっていたりするのだろうか。





【おまけ】
『異空 -IZORA-』と合わせて聴きたい洋楽アルバム5選


Nine Inch Nails / The Downward Spiral (1994)
nin the downward spiral

各曲の感想でも複数回触れたこの作品はやはり挙げないわけにはいかない。もちろん『異空 -IZORA-』はここまで静と動の差が激しくないが、B-Tのインダストリアルな要素はやはりNINからの影響が強いのではと思われる。

Nine Inch Nails - "Heresy"




The Horrors / Primary Colours (2009)
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耽美なイケメン5人組、ノイズ系から空間系までトリッキーな音を出すギタリスト、バンドサウンドとエレクトロの融合、時期によって変わる音楽性etc.、BUCK-TICKとの共通点は非常に多い。B-Tの「無限LOOP」は、シンセのリフがずっと鳴っている中で展開する曲をやりたくて生まれたらしいが、この曲のシンセリフもとても印象的。

The Horrors - "Who Can Say"




Blonde Redhead / 23 (2007)
ダークで耽美、それでいて空間系のノイズが美しく抒情的、そして何よりポップという点で共通項が感じられる。もともとはアートロック・バンドとしてアヴァンギャルドなことをやっていた彼女らだが、本作ではキャリア史上最もポップでメロディアスな作風に。

Blonde Redhead - "23"




Depeche Mode / Spirit (2017)
Depeche Mode Spirit

本来なら今年リリースされた彼らの最新作『Memento Mori』を推したいところだが、まだ手元に届いていないので前作を。昨年亡くなったAndy Fletcher含め、アラ還男によるオトナの色気溢れるルックスや、ロック+エレクトロによる耽美で重厚感のあるサウンドなど、B-Tの影響源を語る上で最も外せないバンド。

Depeche Mode - "Where's the Revolution"




Ioanna Gika / Thalassa (2019)
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『異空 -IZORA-』は空間系のノイズやシンセ音が多いのが特徴的で、そうした音の広がりの中でエレクトロニックな重低音、激しくノイジーな音、そしてアコースティック楽器の柔らかく美しい響きとが調和した作品という印象を受けた。そんな中で比較対象としてパッと思い浮かんだのが、ディオールのコレクションでの音楽も手掛けるIoanna Gikaの「Roseate」という曲だった。エンジェリックな声とダークなサウンドという組み合わせの妙が魅力の彼女だが、B-Tも天使や悪魔、神話といったモチーフとは切っても切れない関係なわけで、近しいものを感じるなと。ちなみにアルバムタイトルのThalassa(タラッサ)はギリシャ神話で海に関連した女神の名前。

Ioanna Gika - "Roseate"







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