BUCK-TICK |
5年ほど前、このブログで『ラルク・アン・シエルに突然ハマった人の話』という記事を書いた。書いた当時はまだ全てのアルバムを聴けていない時期だったけど、その後も空前のラルク・ブームは続き、アルバムを買い揃えたり、ライブも現在までに計5公演(※)に足を運ぶほどになった。
※2015年以降に関東で行われたライブは全6公演
そんな自分が、今度は
BUCK-TICKにどハマりしている。
【一応、BUCK-TICKについて説明】
群馬出身の男性5人組バンド。1985年より現メンバーで活動。87年4月にインディーズデビュー、同年9月にメジャーデビュー。80年代に諸事情による半年の活動休止期間はあるものの、それ以降は1~2年ちょいのペースでアルバムをリリースするなどコンスタントに活動。メンバー脱退もなく、全員が50歳を過ぎた現在も精力的に活動を継続中。
▲2019年のアー写
実はBUCK-TICKにハマってからはすでに1年近くが経とうとしていて、オリジナル・アルバム全22作品をコンプリートしたほか、昨年末にはライブにも(ゴシックアイメイクして)初参加、今年2月には期間限定コラボカフェ「BUCK-TICK×TOWER RECORDS CAFÉ」を訪問。また、GWに4日間に渡って配信されたニコニコ生放送「BUCK-TICK LIVE STREAMING WEEK ON ニコ生」や、5月から7週連続で毎週土曜日にYouTubeで配信された「BUCK-TICK SATURDAY LIVE STREAMING」、そしてファンクラブ/モバイル会員限定で毎週日曜に配信されている過去のライブ映像の配信は、現時点で”全通”(もちろんフル尺で)するほどののめり込み様である。
そのため、iTunesのライブラリを再生回数順にソートすると、上位40曲まですべてBUCK-TICKで、TOP100曲のうち96曲がBUCK-TICKだったりする(ちなみにTOP3は「DOLL」「変身 [REBORN]」「夢魔 - The Nightmare」という並び)。しかも夫婦揃って夢中になっており、ハマったのは自分が先だったが、今ではどちらかというと奥さんの方が熱量が高く、モバイル会員になって会員限定ブログを毎日チェックしていたり、インタビューが載っている雑誌を買ってきたり、「うめこ」(※)を買ってきたりしている。
※三島食品から発売されている混ぜご飯の素。ギター・今井寿のインスタグラムに登場
自分はもともと特定のアーティストに極端に入れ込まない、要は「ファン」や「ヲタ」になったことがないタイプで、誰かの地方公演に行ってみたいと思ったことすらなかった。しかし今はBUCK-TICKの全国ツアーが始まったら地方にも遠征したい気持ちでいっぱいだ。早く彼らのライブを観たい、もっと観たい、ガマンできないよう、ケダモノだもん!!というわけで、ここでは自分がBUCK-TICKにハマるまでの経緯を振り返りつつ、一体彼らの何がすごいのかというところを掘り下げてみたいと思う。
(…の前に一言)
自分はまだファン歴1年未満の稚魚ですので、もしおさかなさん(※ファンクラブ名「FISH TANK」になぞらえた、ファンの通称)たちが当記事を発見してしまい、誤った内容やお気に召さない表記があった場合は、どうかユータスマイルでスルーしていただければと思います。
-CONTENTS-
■自分にとっての「それまでのBUCK-TICK」
■どハマりしたきっかけ
■これまでに聴いた作品
■BUCK-TICKの魅力とは
■各作品のレビュー
■ぼくのかんがえたさいきょうのBUCK-TICKセットリスト
■自分にとっての「それまでのBUCK-TICK」
まずは、どハマりする以前の話から。僕がBUCK-TICK(以下B-T)と出会ったのは1990年、シングル「惡の華」がリリースされたときだ。ラジオから流れるアップテンポでソリッドなバンド・サウンド、そしてメジャー・コードとマイナー・コードを激しく行き来する不思議なメロディ、さらに「息の根止めて」「狂ったピエロ」「燃える血」「ナイフ胸に抱きしめ」といった厨二心をくすぐりまくる歌詞!当時小学校高学年だったガキ(自分)がイメージする「ザ・不良(※)っぽいロック」にピタリとハマった雰囲気に、単純に「かっこいい曲!」と思ったものだ。
※所謂「不良」とは縁遠い、おとなしめの子供ではありましたが。
▲「惡の華」ミュージック・ビデオ。邦楽において、30年前の楽曲が公式でYouTubeにアップされているのは結構珍しい方だ
翌91年にリリースされた次のシングル「スピード」は一転して「おんなのこ~♪おとこのこ~♪」と歌われるどキャッチーな曲で、享楽的な曲調はblurの「Girls & Boys」にも通じるものがある。そのため、この曲をラジオで最初に聴いたときはあの「惡の華」と同じバンドの曲だとは気付かず、4つ上の兄に教えられて驚いた記憶がある。
▲「スピード」ミュージック・ビデオ。現在のお姿ももちろんかっこいいのだけど、なにこれ異次元的イケメン過ぎる
しかし自分にとって「リアルタイムでB-Tを聴いた記憶」というのはここまで。続くシングル「JUPITER」はリアタイで聴いたような記憶があったような、なかったような。かなり朧気だ。
なぜここで終わってしまったのか。それは「スピード」が、当時僕が抱いていた「ヴィジュアル系ロックバンド」のイメージから大きく外れた曲調だったからだと思う。この当時に「ヴィジュアル系」という言葉がどれくらい世間に浸透し、自分も正しく認識できていたかはハッキリと覚えていないので、ここでいう「ヴィジュアル系ロックバンド」とは「世間一般の人とは違う尖った音楽が聴きたい厨二向けのロックバンド」くらいに思ってくれていいです。「スピード」と同年にリリースされたX(現X JAPAN)の 「Silent Jealousy」の方が、前述の「ザ・不良っぽいロック」のイメージにより近く、Xが極端なまでの退廃美と攻撃性、徹底した破滅的美学を持っていたのに対し、B-Tは歌謡曲やJ-POP的なノリが感じられ、どちらかと言えばすかんちに立ち位置の近いバンド(すかんちも当時大好きだったが)という間違った印象を抱くこととなり、より刺激の強いXの方に気持ちが流れていったのだった。
▲Xとすかんち。どちらもヴィジュアルは派手だが、方向性は真逆であることがお判りいただけると思う
余談:
そのため、僕は今までB-Tを「ヴィジュアル系」として捉えたことはなかった。なので彼らにハマってからCDショップやレンタル店でJ-POPやJ-ROCKのコーナーを探してもなかなか見つけられず、ヴィジュアル系コーナーでようやく見つけ、「なんでB-Tがヴィジュアル系の棚にあるんだよ」と思ったものだった(B-Tはヴィジュアル系か否かの話になると自分は答えを持っていないし話が別方向に行くのでやめます)。
その後LUNA SEAを好きになってSUGIZOのラジオ(※)を聴くうちに洋楽好きになり、洋楽のオルタナやインディ、クラブミュージックをメインにいろいろと聴きながらこんな音楽ブログを10年以上続けたりしてきたワケだけど、「スピード」以降の四半世紀以上、B-Tにはカスリもしてこなかった。どこかで名前を目にすることはあったが「まだやってるんだなあ」くらいにしか思わなかった。それが今や、B-Tの作品を聴かない日はないくらいにどハマりしているのだから人生の巡りあわせとは不思議なものだ。
※UKのテクノ、ドラムンベース、アブストラクト・ヒップホップなどに造詣の深いSUGIZOのラジオでは、BjörkやMassive Attackなどの楽曲が毎回オンエアされていた
■どハマりしたきっかけ
きっかけはひとつではなくて、「2013年ごろからバラ撒かれていた伏線がようやく2019年に回収された」みたいなところがある。それまで無意識のうちに、ハマるための下地が丁寧に整えられていたようだ。B-Tにハマるまでに至る要因をどんどん遡っていくと、2013年に辿り着く。時を戻そう。
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例年参加しているフジロックの2013年のヘッドライナーにThe Cureの出演が決まった。それを機に、これまでベスト盤しか聴いたことがなかったThe Cureのオリジナル・アルバムをすべて集めてみることにした。初期から1枚ずつ聴いていって、最初の数枚こそ「ふーん、なるほど」という感じだったけど、『Pornography』と『Disintegration』がとにかく刺さった。それで、The Cureに比較的近い存在であるSiouxsie and the Banshees、Cocteau Twins、Bauhausといったバンドも全アルバムを集め始めてみた。
▲The Cure『Pornography』収録の「Hanging Garden」ミュージック・ビデオ。リズム隊の感じが少しB-Tの「HYPER LOVE」に似ている。また、リリース時の邦題は「首吊りの庭」だが、B-Tの「リザードスキンの少女」の歌詞にも同様のワードが登場する
▲Siouxsie and the Banshees「Face To Face」ミュージック・ビデオ。92年リリースだが、この頃のB-Tのサウンドに非常に近い感触
その流れの中で2015年にL'Arc~en~Cielにハマったのだけど(詳しくは前述の記事にて)、ラルクの「get out from the shell」を聴いたときに「これは昔、兄がよく聴いていたSOFT BALLETにそっくりだな」と思ったところからSOFT BALLETもちゃんと聴いてみたくなった(B-Tファンの方ならばここで「リーチやん!」と思っていることだろう)。余談だが、この曲を作曲したyukihiroはラジオにて自ら「SOFT BALLETのパクリ」と語っている。
SOFT BALLETは、当時TM NETWORKやB'zのようなデジタル・サウンドが好きだった自分にとって「好きな系統のはずなのになんか違う…」という不思議な存在だった。それもそのはずで、TMはどちらかというとニューロマやユーロ・ビート、シンセ・ポップの類だが、SOFT BALLETはニューウェイヴやゴス、インダストリアルに括られる音だ。しかしそんな音楽的知識もない10代前半の自分にとってはどちらも同じ「ダンサブルな打ち込みの音楽」に過ぎず、それなのにTMと違って享楽性や万人受けするポップさが感じられないSOFT BALLETには全くハマれなかった。でも、The CureやDepeche Mode、Suicide、Nine Inch Nailsなんかを通過したうえであらためて聴いてみると「この時代の日本にもこんなかっこいいバンドがいたとか奇跡かよ…!」とようやく気付くのである。
▲SOFT BALLET。当時からB-Tとは相思相愛だった
SOFT BALLET自体はヴィジュアル系ではないけど、彼らにハマってからは退廃美や耽美主義という共通項から、LUNA SEAや黒夢といった「中高生の頃にちょっと好きだったヴィジュアル系」のCDをあらためて買い直したりするようになった。「ヴィジュアル系」って、ラルクをはじめいくつかのバンドがそう呼ばれることを拒んだように揶揄のニュアンスも含んでいたり、実際見た目のインパクト先行で音楽は当たり障りのないようなバンドも多かったのでそこまでガッツリ通ってこなかったんだけど、その源流となっている80年代のポスト・パンクやニューウェイヴなんかを通過した耳であらためて聴くとめちゃくちゃかっこよくて。ラルクいいなLUNA SEAいいなSOFT BALLETもいいなとなってる時に、94年に行われたフェスイベントLSBの存在を知ったのだった。
LSBは、LUNA SEA、SOFT BALLET、BUCK-TICKの頭文字を冠した、3バンドをメインにしたフェスで、ゲストとしてL'Arc~en~Ciel、DIE IN CRIES、 THE MAD CAPSULE MARKETS、THE YELLOW MONKEYが参加。それで「その界隈」みたいなものを意識しはじめ、漠然と「次はB-Tあたりをちゃんと聴いてみようかな」と思い始めた。でもすでにB-Tは結成30年以上、アルバムは20作以上…。いったいどれから聴けばいいのかわからず、なかなか手が出せずに思いを燻らせ続けていた。
ところで、実は2016年1月の時点で、僕はB-Tのアルバムを初めてちゃんと聴いている。奥さんが93年作『darker than darkness -style 93-』を持っていたのだ。その月はCDを1枚も購入しなかったので、自宅にある未聴のCDを聴いてみようという経緯だったのだけど、正直その時は大して刺さらず、「ドレス」が少し気に入った程度だった。まだこの時はB-Tの魅力を十分に理解しうるための下地が整っていなかったと言えるかな…。
話を戻して。BUCK-TICK聴いてみたいという思いを燻らせていた、そんな2019年の4月某日。知人からDMで、こんなブログ記事をシェアされた。
『BUCK-TICKに突然ハマった人の話 - WITHOUT SOUNDS』
シェアされた理由としては、記事の末尾で件の『ラルク・アン・シエルに突然ハマった人の話』について触れられていたからなのだけど、よく見てみると記事を書いたのは僕がまだTwitterをやっていた頃に相互にフォローしていた方だった。記事は簡潔にわかりやすくB-Tの魅力がまとめられており、読み終えると俄然B-Tに興味が湧いてきた。その数日後YouTubeで公開された新曲「獣たちの夜/RONDO」のトレーラーをチェックしてみると、未だ衰えぬルックスの5人、妖しくも艶やかな様式美、そして何より攻めの姿勢を感じさせるサウンドがブッ刺さり「今ってこんな感じなのか!かっこええ!!」と驚嘆した。
▲「獣たちの夜」ミュージック・ビデオ。特に2:43~あたりからのノイズ(ギターで出してるんだよな…?)は凄まじいまでにアヴァンギャルド
5月にはヴォーカル・櫻井敦司(「様」を付けなくていいのか、いやそれ以前に「あっちゃん」とか呼んでいいのか未だに悩んでしまう)が椎名林檎のコラボ楽曲で24年ぶりにMステ出演し、放送自体は見逃してしまったのだけど「『1番美人、椎名林檎の隣の人イケメン』Mステ BUCK-TICK櫻井敦司さん全国に見つかる #Mステ」というNAVERまとめがバズったりと、身の回りで何かとB-Tの話題が目に入ってくるようになったことで、この6年ほどの間に摂取し体のあちこちにあった成分が急激に化学反応を起こし始め、ブクブクと肉になったりダラダラと骨になっていくような感じがした。先ほども「伏線回収」と書いたけど、まさにそんな、後半に伏線回収する映画を観ているような爽快感があり、興奮もあった。
ダメ押しの一撃となったのは、令和になったことを記念して2019年6月に取り組んだブログ記事「【1989年1月~2019年4月】J-POPベスト・ソング100」という企画だった。「平成時代にリリースされたシングル曲で自分が所有している音源」を対象に選んだのだけど、リストアップする段階で「ドレス」を候補に入れ、ランク決めのために何度か聴き込んだところジワジワとこの曲の凄さがわかってきて、あらためてめちゃくちゃ美しい曲だと感じた。この時点ではまだランク内の他楽曲に比べると思い入れが少なかったため最終的には75位に落ち着いたけど、同じ企画を今やったら上位はB-Tの曲だらけになりそうだ。
▲「ドレス」ミュージック・ビデオ。90年代初頭における耽美なポスト・パンク/ニューウェイヴ期のB-Tの真骨頂とも言える楽曲。
「B-T聴き始めるなら今しかねえ!」と悟った僕は、まずは手ごろなベスト盤を聴いて、好みの時期のアルバムから入手することにした。2019年7月、最初に手に入れた音源は『CATALOGUE 2005』。2枚組全33曲で、入門編としては多すぎず少なすぎず最適なヴォリュームだ。
かくしてツンドラ教(※)の門を叩いたわけだが、久々にちゃんと聴く「惡の華」「スピード」には新たな発見もたくさんあり、また初めて聴く曲でもとりわけ「さくら」「キャンディ」「ミウ」「GLAMOROUS」「夢魔 -The Nightmare」「ROMANCE」といった楽曲には即座に心奪われた。そこからは、あっという間。フジロックの直前で、出演アーティストの予習にいそしむ時期なのに「もうどうでもいい(ランランラン)、それよりもBUCK-TICKが聴きてえ…」と悶絶してしまうほどだった。「沼にハマる」とはつまりこういうことなのか。
※B-Tファンを指す用語。「夢魔 -The Nightmare」の歌詞とライブ中の光景から
■これまでに聴いた作品
便利な時代になったもので、すでにディスコグラフィ豊富なアーティストに新たに触れる際、Spotifyのようなストリーミングは非常にありがたい。B-Tのように20枚以上アルバムを出していても1、2日あればサクッと聴くことも可能だ。とはいえ自分は、音源をただ聴ければ良いのではなくフィジカルを所有してじっくり聴き込みたいタイプなので、1年ほどかけて少しずつ音源を集めていくことにした(The Cureやラルクの全アルバムを集めたときも同様)。
リリース当時のエピソードなどネットや雑誌で調べながら、月に1~3枚くらいのペースで聴き進める。メロディだけでなく歌詞や当時のバンド・ヴィジュアルとともに少しずつ海馬に刻み込み、同時代に流行っていた音楽とも照らし合わせながら「B-Tがどんなバンドなのか、シーンの中でどんな存在だったか」を考察する。そのお陰でバンドの歴史をより深く知ることができた一方で、記事を書き上げるまでに1年近くが経ってしまった。
まずは『惡の華』(1990)~『ONE LIFE,ONE DEATH』(2000)の90年代を中心にアルバムを購入しリリース順に1枚ずつ聴いていたが、『狂った太陽』(91年)ですでに完全ノックアウト状態に。追加で他の時代の作品も買い足していき、気付けば全オリジナル・アルバムに留まらずメンバー本人からさえも物議(?)を醸したリミックス盤のほか、オーケストラ・アレンジ盤、コンピレーションにも手が出て、現在までに29作品を入手している。とはいえアルバム未収録曲(※)を含むシングルやライブ盤、トリビュート盤にはまだ手が出せていないので、今後の楽しみとして追い追い集めていくつもりだ。
※「蜉蝣-かげろう-」「空蝉-うつせみ-」「LOVE PARADE」など名曲多し
現時点での入手済みタイトル一覧(○枚目表記は公式サイトに準拠)。
1st 『SEXUAL×××××!』 (1987)
Mini 『ROMANESQUE』 (1988)
2nd 『SEVENTH HEAVEN』 (1988)
3rd 『TABOO』 (1989)
4th 『惡の華』 (1990)
インディーズ1st復刻版 『HURRY UP MODE (1990MIX) 』 (1990)
オーケストラアレンジ 『Symphonic Buck-Tick in Berlin』 (1990)
5th 『狂った太陽』(1991)
6th 『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』 (1992)
7th 『darker than darkness -style 93-』 (1993)
リミックスアルバム『シェイプレス』 (1994)
8th 『Six/Nine』 (1995)
9th 『COSMOS』 (1996)
10th 『SEXY STREAM LINER』 (1997)
ベストアルバム 『BT』 (1999)
コンピレーションアルバム 『97BT99』 (2000)
11th 『ONE LIFE,ONE DEATH』 (2000)
12th 『極東 I LOVE YOU』 (2002)
13th 『Mona Lisa OVERDRIVE』 (2003)
14th 『十三階は月光』 (2005)
ベストアルバム 『CATALOGUE 2005』 (2005)
15th 『天使のリボルバー』 (2007)
16th 『memento mori』 (2009)
17th 『RAZZLE DAZZLE』 (2010)
18th 『夢見る宇宙』 (2012)
19th 『或いはアナーキー』 (2014)
リミックスアルバム『惡の華 (2015年ミックス版) 』 (2015)
20th 『アトム 未来派 No.9』 (2016)
21st 『No.0』 (2018)
その他、メンバーのソロや別プロジェクトといった関連作も少々。
SCHWEIN 『SCHWEINSTEIN』 (2001)
SCHWEIN 『SON OF SCHWEINSTEIN』 (2001)
THE MORTAL 『I AM MORTAL』 (2015)
SCHAFT 『ULTRA』 (2016)
SCHWEINは櫻井敦司と今井寿がPIGやKMFDMのメンバーと組んだインダストリアル・バンド、THE MORTALは櫻井敦司のソロ、SCHAFTは今井寿と藤井麻輝(SOFT BALLETなど)によるプロジェクト。っていうか、B-Tの活動を止めずに別プロジェクトやるってすごい…。
■BUCK-TICKの魅力とは
ではいよいよ、B-Tの何がそんなに素晴らしいのか?という核心に迫ってみたいと思う。もちろんこれはあくまで個人の主観によるものなので、異論もあると思いますが。
1.溢れ出るアイデア、尽きない創作意欲
上に書いたリストを見ても、彼らはデビュー以来ほとんど足を止めていないことがわかる。オリジナル・アルバムをリリースしていない年でも、企画ものの作品など何かしら出しているのだ。オリジナル・アルバムのインターバルは最長でも『SEXY STREAM LINER』(97年12月)から『ONE LIFE,ONE DEATH』(00年9月)までの2年9ヶ月程度だし、デビュー当初なんてインディーズの『HURRY UP MODE』(1987)やミニアルバムを含めれば最初の14ヶ月で4作もリリースしている。しかも2000年代以降は13曲~18曲くらい収録されている作品も多く、なかなかのヴォリュームだ。様々な音楽から刺激を受け、常に新たな音を探求しているので、アイデアやクリエイティヴィティが止まらないという証左だろう。
なので、アルバムごとにガラッと作風を変えるなんてザラ。過去の焼き直し的な作品や予定調和な作品がないことは、メンバー全員が50を過ぎたバンドではなかなかできることではない。バンド自体に刺激を与え原動力に変えているのは間違いなく、バンドの絶対的ブレインである今井寿だ。根っからのパンクスである彼は、ギターの演奏や作曲や作詞においてもあらゆるセオリーを無視し、殻を破り続けている。そして、「常に最新が最高」なのだ。
特にエレクトロニックな部分においては今井寿の趣向が大いに反映されていて、「ナカユビ」におけるガバ・テクノ、「SEXY STREAM LINER」におけるドラムンベース、「GUSTAVE」におけるブロステップなど様々な要素が取り込まれているが、彼は決してそのままの形でパクったりはしない。必ず「その界隈でまだ誰もやっていないような音」としてB-Tらしく仕上げてくる。もちろん、あっちゃんの唯一無二のヴォーカルが乗っているからというのも大きいのだろうけど。
▲Atari Teenage Riot「Get Up While You Can !」。ガバ・テクノとハードコア・パンクの融合という点で「ナカユビ」と共通するものがある
▲Skrillex「Scary Monsters And Nice Sprites」。「GUSTAVE」の冒頭はブロステップの祖たるSkrillexなしでは生まれなかったと思う
▲「GUSTAVE」ライブ映像("ロクス・ソルスの獣たち" Live at 幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホール 2019/5/26)
2. 我が道を行く孤高のスタイル
B-Tのことを知らない人に説明するのは難しい。「80年代から続いてるかっこいい人たちのバンド…LUNA SEAみたいな…」と言ってしまったりする。でもLUNA SEAより知名度が圧倒的に低いのはなぜだろう。あまりTVに出ないから?天一のCMとかに出ないから?おそらくメンバーも陽のあたる場所を好まないというか、雨が大好きで夜が大好きそうなキャラなところも関係しているのかもしれない。他人が決めたフォーマットを持たない彼らは「ヴィジュアル系」にも「ロキノン系」にも属さないし、フジロックに出そうな系統でもないが、それゆえ「元は別のバンドのファンだったが似た系統なのでB-Tに流れてきた」的なことが少ないように思う。それでも新たなファンを獲得し続けているのは、特に近年THE NOVEMBERSや椎名林檎、さらにはお笑い芸人の永野までもがB-Tへのリスペクトを公言していることも少なからず関係していそうだ。B-T自身は広くファンを獲得するために媚びを売ったりはせず、「引くな、怯むな」と我が道を突き進む孤高の存在であり、その姿が最高にかっこいいのである。
3. インディーズ・デビュー以来の不動のメンバー
インディーズでの最初のシングルは1986年10月。その時にはすでに現体制だから、すでに33年以上メンバーチェンジなく続けていることになる。一般的に、バンドというのは歳を重ねるごとに安定を求めるようになり、変化を求め続けるメンバーがいたりすると「方向性の違い」が生じやすい。また、新しいものを生み出すアイデアも枯渇し、過去の焼き直しになったりすることで限界を感じ、モチベーションも徐々に落ち着いてきてしまうものだ。
B-Tには今井寿というブレインが存在するが、様々なインタビューを読むと各メンバーが彼に絶大な信頼を抱いているようすが伝わってくる。とはいえ他のメンバーも、絶対的アイコンのヴォーカル・櫻井敦司(魔王様)、2、3割ほどの作曲を手掛け、スパイスだけでなくメインディッシュにもなり得る自然体キャラのギター・星野英彦、あざとかわいいスポークスマンのベース・樋口豊、バンドをしっかり支える兄貴分ゆえに姿勢もよく、髪の毛もずーっとおっ立て続けている(時には帽子も突き破る)アニィことドラムス・ヤガミトールと、強力な個性が揃っている。樋口豊とヤガミトールは実の兄弟で、バンド仲の良い要因のひとつにもなっている(※)と思うけど、これだけの個性の集まりながらずっと続けていられるのは、全員が新しいことに対して貪欲で、そしてバンドそのものを心から楽しんでいるからに他ならない。バンドを楽しむとはつまり、互いの信頼が非常に強固であることだと思う。
※某ギャラガー兄弟「」
4. 歌詞の深さ
B-Tの歌詞は、数曲の例外を除き櫻井敦司と今井寿の二人が担っている。B-Tの歌詞において、切っても切れない永遠のテーマは「生と死」(※)だ。これが例えば「いや、"死"ってなんかかっこいいじゃん」とかだとただのイタイ人なのだけど、実際櫻井敦司という人は幼い頃に父親からDVを受け、その父を早くに亡くし、また夫からDVを受けながらも我が子を愛し続けた母も亡くし(それもB-Tとしてのブレイク直後の狂騒の最中に)、そういった経験によって常に「いつか自分も死ぬ」ということを意識し、父に呼ばれているような気配に苛まれながら生きている。母への愛、母との別れを歌った曲はいくつもあり、あまりにパーソナルがゆえに「無題」としか名付けられなかった「無題」という曲もある。その曲には、こんな一節がある。
「ねえママ くちづけ下さい なぜだか 寂しい」
「ねえパパ 赦して下さい なぜなの 苦しい」
…うん、ヘヴィー過ぎる。こんな歌詞はフィクションで書けるものではない。生と死、エロスとタナトス、そういったものをテーマにしながら、時にはそこにファンタジーも加わるものの、奥にあるテーマ自体は非常に「リアル」。だからこそ、心に鋭く突き刺さる。
※アルバム『COSMOS』の歌詞カードには、横から見ると「生」「死」という文字が浮かび上がる細工が施されている
5. 見た目
いや、なんだかんだ言ってもミュージシャンは見た目が重要だ。B-Tを語る上で絶対に避けて通れないのがルックスレベルの高さだと思う。前述の椎名林檎とのコラボでMステに登場した際のNAVERまとめでまとめられているように、櫻井敦司の美しさと53歳(オンエア当時)という年齢に多くの人が驚愕したという。
だが待て。あっちゃんの浮世離れした美しさにどうしても目が行きがちだが、他メンバーも全員めちゃくちゃかっこいいのだ。彼らはデビュー時の、まだ全員髪がおっ立っていた時代からバリバリにかっこよかったけど、歳を重ねてキレはそのままに、渋さや妖艶さといったオトナの魅力が加わって近年ますますかっこよくなっている。年代ごとのアー写を並べてみた。
▲1980年代
▲1990年代
▲2000年代
▲2010年代
▲2020年代。先日公開されたばかりの最新アー写
個人的には、ミュージシャン、アーティストというのは憧れるべき存在だと思っているので、音楽がかっこいいのはもちろんだけど見た目もかっこよくあるべきだと思ってて。何をもってかっこいいとするかは人それぞれの価値観だし、人によっては「かっこつけているのはかっこ悪い」なんて意見もあるだろうけど、僕は50を過ぎた人たちが高い美意識をもって常にかっこよくあろうとする姿勢はとてもかっこいいと思う。インタビューであっちゃんも語っていたけど「いつまでもかっこつけていたい」らしい。そういうところに憧れてしまう。
6. 神セトリだらけのライブ
活動的なのは作品づくりだけではない。どのアーティストにも言えることだけど、リリースペースが落ちたり、作品の質が落ちたり(マンネリ化とか)、ライブの本数が減ったり、昔のヒット曲しか演奏しなくなったり、要は活動内容が薄れるとファンの心は離れやすい。ただでさえ、B-Tのように80年代から活動しているとファン層は40代以上が中心。子育てや仕事、体力の衰えなどによりライブに参加することも難しくなってくる。それでも、B-Tは19年連続で年末に武道館公演を行ったり、それ以外でもアルバムリリースに伴うツアーや、アルバムがなくても去年の幕張メッセ2DAYS「ロクス・ソルスの獣たち」といったライブイベントを精力的に行い、毎回動員数も多い。実際、僕にとってB-Tライブ初体験となった昨年末の代々木第一体育館(キャパ約13,000人)での「THE DAY IN QUESTION 2019」は、一般発売初日に数秒で即完売。自分は完売後もしばらくリロードを試みた結果、奇跡的にキャンセル流れ分をゲットできた恰好だ。終演後、スクリーン上で5月からの会員限定ライブハウスツアー、秋からの全国ホールツアー、年末の日本武道館公演、夏にアルバムリリースという怒涛の情報解禁(※)があり、手綱を緩めない姿勢に驚嘆しつつ歓喜させられた。
※残念ながら、コロナの影響で一部延期がすでにアナウンスされている
初のライブ体験後に過去のセットリストを調べたり、ライブ映像を観たりして気付いたのは、基本的に彼らのライブはほとんど「神セトリ」だということだ。彼らにはあまり、「ライブ定番曲」や「代表曲」と呼べるものがない。もちろん、ライブで演奏する頻度の高い曲は存在するのだけど、「この曲は演らないとファンは納得しないだろう」みたいな曲がなく、毎回これまでのディスコグラフィから幅広く選曲されている。つまり、これまでに発表された曲はほとんど、ライブでいつか聴ける可能性があるとも言えるだろう。30年前の曲をやっても「ファンサービス」とか「過去の曲にすがってる」みたいなところが全くなく、古さを感じないのでどの年代の曲を混ぜても違和感がほとんどない。それは彼らが幾多の変化を遂げてきても、過去の自分たちを一切否定していないからだと思う。だからこそ、我々も何度でもライブに足を運びたくなってしまう。
▲「Moon さよならを教えて」ライブ映像("ロクス・ソルスの獣たち" Live at 幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホール 2019/5/26)
7. 新旧のファンをどちらも大切にする姿勢
B-Tファンになって気付いたのだけど、自分と同様にここ数年でファンになったという人がやたらと多いように感じる。先日も、5月にライブのアーカイブ配信でハマったという人がいて漫画にされていたのだけど、酒とつまみを用意して配信開始時間にスタンバるなど共感するところが多々あり、また漫画としても大変面白いのでぜひ見てみてほしい(表情がとてもかわいい)。
ライブの客層はやはり自分と同じように40代以上が大半を占めていたけど、夫婦や親子で来ている感じの人も多かったし、20代くらいの女の子も結構いた。40代以上の人でも、「最近の曲は知らないけど、昔好きだったなあ。90年代の曲たくさんやってよ」なんて懐古的な人はほとんどいなかったのではないだろうか。90年代にB-Tファンでその後しばらく離れていた人でも、どこかのタイミングで近年の作品も聴いて再燃し、あの場にいたように感じた。ライブのストリーミング配信で流れるコメントを見ても、「中学の時衝撃を受けて以来のファン歴30年」「常に最新が最高なのがB-Tの凄いところ」といった声が目立った。
B-TはSpotifyでの全アルバム解禁も比較的早かったし、公式YouTubeに80年代や90年代のものを含むフルMV(ショートVer.とかケチ臭いことはしない)をたくさんアップしていて、最近知ったという若い世代、あるいは出戻りの人たちも容易に新旧の音に触れられるようになっている。5月から6月にかけては毎週のように過去のライブ映像のストリーミングを行ったりと、いわゆる古典的な日本のレコード会社の上層部にありがちな「ネット上にあげたらCD売れなくなるじゃん」みたいな保守的思考はない。というのも、バンカーという事務所を自ら設立し運営したり、Lingua Soundaという独自のレーベルを持ち、自主性をもってインディペンデントな活動をしているからだろう。デビューから30年以上を経ても未だに若い世代の新規ファンを取り込み続けているのは、もちろん楽曲やルックスの魅力も大きいが、こういった柔軟な姿勢やフットワークの軽さも大きな要素だと思う。
彼らがデビューから30年を経ても、武道館や代々木第一体育館を即完で埋められる理由。それは、今ここに列挙したような要因からだと思っている。常に新しい音を提示し、ブレない部分による程よい安心感と、次はどう来るのか?というワクワク感の両方があって、メンバー間に、「次はこんな音をやろうと思っているけど、ファンはちゃんとついてきてくれるのだろうか?」みたいな余計な心配は存在せず、絶対的な信頼感がバンドとファンの間に存在している。僕自身も、今年リリースが予定されているアルバムや、それに伴うツアーが楽しみでならない。そしてこれは一過性のブームではなく、今後も長きにわたってB-Tに魅了されていくのだろうなという予感がしている。
B-T語り出したら止まらなくなった…。長くなりましたので、残りのお題
■各作品のレビュー
■ぼくのかんがえたさいきょうのBUCK-TICKセットリスト
は<後編>にて。
※2015年以降に関東で行われたライブは全6公演
そんな自分が、今度は
BUCK-TICKにどハマりしている。
【一応、BUCK-TICKについて説明】
群馬出身の男性5人組バンド。1985年より現メンバーで活動。87年4月にインディーズデビュー、同年9月にメジャーデビュー。80年代に諸事情による半年の活動休止期間はあるものの、それ以降は1~2年ちょいのペースでアルバムをリリースするなどコンスタントに活動。メンバー脱退もなく、全員が50歳を過ぎた現在も精力的に活動を継続中。
▲2019年のアー写
実はBUCK-TICKにハマってからはすでに1年近くが経とうとしていて、オリジナル・アルバム全22作品をコンプリートしたほか、昨年末にはライブにも(ゴシックアイメイクして)初参加、今年2月には期間限定コラボカフェ「BUCK-TICK×TOWER RECORDS CAFÉ」を訪問。また、GWに4日間に渡って配信されたニコニコ生放送「BUCK-TICK LIVE STREAMING WEEK ON ニコ生」や、5月から7週連続で毎週土曜日にYouTubeで配信された「BUCK-TICK SATURDAY LIVE STREAMING」、そしてファンクラブ/モバイル会員限定で毎週日曜に配信されている過去のライブ映像の配信は、現時点で”全通”(もちろんフル尺で)するほどののめり込み様である。
そのため、iTunesのライブラリを再生回数順にソートすると、上位40曲まですべてBUCK-TICKで、TOP100曲のうち96曲がBUCK-TICKだったりする(ちなみにTOP3は「DOLL」「変身 [REBORN]」「夢魔 - The Nightmare」という並び)。しかも夫婦揃って夢中になっており、ハマったのは自分が先だったが、今ではどちらかというと奥さんの方が熱量が高く、モバイル会員になって会員限定ブログを毎日チェックしていたり、インタビューが載っている雑誌を買ってきたり、「うめこ」(※)を買ってきたりしている。
※三島食品から発売されている混ぜご飯の素。ギター・今井寿のインスタグラムに登場
自分はもともと特定のアーティストに極端に入れ込まない、要は「ファン」や「ヲタ」になったことがないタイプで、誰かの地方公演に行ってみたいと思ったことすらなかった。しかし今はBUCK-TICKの全国ツアーが始まったら地方にも遠征したい気持ちでいっぱいだ。早く彼らのライブを観たい、もっと観たい、ガマンできないよう、ケダモノだもん!!というわけで、ここでは自分がBUCK-TICKにハマるまでの経緯を振り返りつつ、一体彼らの何がすごいのかというところを掘り下げてみたいと思う。
(…の前に一言)
自分はまだファン歴1年未満の稚魚ですので、もしおさかなさん(※ファンクラブ名「FISH TANK」になぞらえた、ファンの通称)たちが当記事を発見してしまい、誤った内容やお気に召さない表記があった場合は、どうかユータスマイルでスルーしていただければと思います。
-CONTENTS-
■自分にとっての「それまでのBUCK-TICK」
■どハマりしたきっかけ
■これまでに聴いた作品
■BUCK-TICKの魅力とは
■各作品のレビュー
■ぼくのかんがえたさいきょうのBUCK-TICKセットリスト
■自分にとっての「それまでのBUCK-TICK」
まずは、どハマりする以前の話から。僕がBUCK-TICK(以下B-T)と出会ったのは1990年、シングル「惡の華」がリリースされたときだ。ラジオから流れるアップテンポでソリッドなバンド・サウンド、そしてメジャー・コードとマイナー・コードを激しく行き来する不思議なメロディ、さらに「息の根止めて」「狂ったピエロ」「燃える血」「ナイフ胸に抱きしめ」といった厨二心をくすぐりまくる歌詞!当時小学校高学年だったガキ(自分)がイメージする「ザ・不良(※)っぽいロック」にピタリとハマった雰囲気に、単純に「かっこいい曲!」と思ったものだ。
※所謂「不良」とは縁遠い、おとなしめの子供ではありましたが。
▲「惡の華」ミュージック・ビデオ。邦楽において、30年前の楽曲が公式でYouTubeにアップされているのは結構珍しい方だ
翌91年にリリースされた次のシングル「スピード」は一転して「おんなのこ~♪おとこのこ~♪」と歌われるどキャッチーな曲で、享楽的な曲調はblurの「Girls & Boys」にも通じるものがある。そのため、この曲をラジオで最初に聴いたときはあの「惡の華」と同じバンドの曲だとは気付かず、4つ上の兄に教えられて驚いた記憶がある。
▲「スピード」ミュージック・ビデオ。現在のお姿ももちろんかっこいいのだけど、なにこれ異次元的イケメン過ぎる
しかし自分にとって「リアルタイムでB-Tを聴いた記憶」というのはここまで。続くシングル「JUPITER」はリアタイで聴いたような記憶があったような、なかったような。かなり朧気だ。
なぜここで終わってしまったのか。それは「スピード」が、当時僕が抱いていた「ヴィジュアル系ロックバンド」のイメージから大きく外れた曲調だったからだと思う。この当時に「ヴィジュアル系」という言葉がどれくらい世間に浸透し、自分も正しく認識できていたかはハッキリと覚えていないので、ここでいう「ヴィジュアル系ロックバンド」とは「世間一般の人とは違う尖った音楽が聴きたい厨二向けのロックバンド」くらいに思ってくれていいです。「スピード」と同年にリリースされたX(現X JAPAN)の 「Silent Jealousy」の方が、前述の「ザ・不良っぽいロック」のイメージにより近く、Xが極端なまでの退廃美と攻撃性、徹底した破滅的美学を持っていたのに対し、B-Tは歌謡曲やJ-POP的なノリが感じられ、どちらかと言えばすかんちに立ち位置の近いバンド(すかんちも当時大好きだったが)という間違った印象を抱くこととなり、より刺激の強いXの方に気持ちが流れていったのだった。
▲Xとすかんち。どちらもヴィジュアルは派手だが、方向性は真逆であることがお判りいただけると思う
余談:
そのため、僕は今までB-Tを「ヴィジュアル系」として捉えたことはなかった。なので彼らにハマってからCDショップやレンタル店でJ-POPやJ-ROCKのコーナーを探してもなかなか見つけられず、ヴィジュアル系コーナーでようやく見つけ、「なんでB-Tがヴィジュアル系の棚にあるんだよ」と思ったものだった(B-Tはヴィジュアル系か否かの話になると自分は答えを持っていないし話が別方向に行くのでやめます)。
その後LUNA SEAを好きになってSUGIZOのラジオ(※)を聴くうちに洋楽好きになり、洋楽のオルタナやインディ、クラブミュージックをメインにいろいろと聴きながらこんな音楽ブログを10年以上続けたりしてきたワケだけど、「スピード」以降の四半世紀以上、B-Tにはカスリもしてこなかった。どこかで名前を目にすることはあったが「まだやってるんだなあ」くらいにしか思わなかった。それが今や、B-Tの作品を聴かない日はないくらいにどハマりしているのだから人生の巡りあわせとは不思議なものだ。
※UKのテクノ、ドラムンベース、アブストラクト・ヒップホップなどに造詣の深いSUGIZOのラジオでは、BjörkやMassive Attackなどの楽曲が毎回オンエアされていた
■どハマりしたきっかけ
きっかけはひとつではなくて、「2013年ごろからバラ撒かれていた伏線がようやく2019年に回収された」みたいなところがある。それまで無意識のうちに、ハマるための下地が丁寧に整えられていたようだ。B-Tにハマるまでに至る要因をどんどん遡っていくと、2013年に辿り着く。時を戻そう。
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例年参加しているフジロックの2013年のヘッドライナーにThe Cureの出演が決まった。それを機に、これまでベスト盤しか聴いたことがなかったThe Cureのオリジナル・アルバムをすべて集めてみることにした。初期から1枚ずつ聴いていって、最初の数枚こそ「ふーん、なるほど」という感じだったけど、『Pornography』と『Disintegration』がとにかく刺さった。それで、The Cureに比較的近い存在であるSiouxsie and the Banshees、Cocteau Twins、Bauhausといったバンドも全アルバムを集め始めてみた。
▲The Cure『Pornography』収録の「Hanging Garden」ミュージック・ビデオ。リズム隊の感じが少しB-Tの「HYPER LOVE」に似ている。また、リリース時の邦題は「首吊りの庭」だが、B-Tの「リザードスキンの少女」の歌詞にも同様のワードが登場する
▲Siouxsie and the Banshees「Face To Face」ミュージック・ビデオ。92年リリースだが、この頃のB-Tのサウンドに非常に近い感触
その流れの中で2015年にL'Arc~en~Cielにハマったのだけど(詳しくは前述の記事にて)、ラルクの「get out from the shell」を聴いたときに「これは昔、兄がよく聴いていたSOFT BALLETにそっくりだな」と思ったところからSOFT BALLETもちゃんと聴いてみたくなった(B-Tファンの方ならばここで「リーチやん!」と思っていることだろう)。余談だが、この曲を作曲したyukihiroはラジオにて自ら「SOFT BALLETのパクリ」と語っている。
SOFT BALLETは、当時TM NETWORKやB'zのようなデジタル・サウンドが好きだった自分にとって「好きな系統のはずなのになんか違う…」という不思議な存在だった。それもそのはずで、TMはどちらかというとニューロマやユーロ・ビート、シンセ・ポップの類だが、SOFT BALLETはニューウェイヴやゴス、インダストリアルに括られる音だ。しかしそんな音楽的知識もない10代前半の自分にとってはどちらも同じ「ダンサブルな打ち込みの音楽」に過ぎず、それなのにTMと違って享楽性や万人受けするポップさが感じられないSOFT BALLETには全くハマれなかった。でも、The CureやDepeche Mode、Suicide、Nine Inch Nailsなんかを通過したうえであらためて聴いてみると「この時代の日本にもこんなかっこいいバンドがいたとか奇跡かよ…!」とようやく気付くのである。
▲SOFT BALLET。当時からB-Tとは相思相愛だった
SOFT BALLET自体はヴィジュアル系ではないけど、彼らにハマってからは退廃美や耽美主義という共通項から、LUNA SEAや黒夢といった「中高生の頃にちょっと好きだったヴィジュアル系」のCDをあらためて買い直したりするようになった。「ヴィジュアル系」って、ラルクをはじめいくつかのバンドがそう呼ばれることを拒んだように揶揄のニュアンスも含んでいたり、実際見た目のインパクト先行で音楽は当たり障りのないようなバンドも多かったのでそこまでガッツリ通ってこなかったんだけど、その源流となっている80年代のポスト・パンクやニューウェイヴなんかを通過した耳であらためて聴くとめちゃくちゃかっこよくて。ラルクいいなLUNA SEAいいなSOFT BALLETもいいなとなってる時に、94年に行われたフェスイベントLSBの存在を知ったのだった。
LSBは、LUNA SEA、SOFT BALLET、BUCK-TICKの頭文字を冠した、3バンドをメインにしたフェスで、ゲストとしてL'Arc~en~Ciel、DIE IN CRIES、 THE MAD CAPSULE MARKETS、THE YELLOW MONKEYが参加。それで「その界隈」みたいなものを意識しはじめ、漠然と「次はB-Tあたりをちゃんと聴いてみようかな」と思い始めた。でもすでにB-Tは結成30年以上、アルバムは20作以上…。いったいどれから聴けばいいのかわからず、なかなか手が出せずに思いを燻らせ続けていた。
ところで、実は2016年1月の時点で、僕はB-Tのアルバムを初めてちゃんと聴いている。奥さんが93年作『darker than darkness -style 93-』を持っていたのだ。その月はCDを1枚も購入しなかったので、自宅にある未聴のCDを聴いてみようという経緯だったのだけど、正直その時は大して刺さらず、「ドレス」が少し気に入った程度だった。まだこの時はB-Tの魅力を十分に理解しうるための下地が整っていなかったと言えるかな…。
話を戻して。BUCK-TICK聴いてみたいという思いを燻らせていた、そんな2019年の4月某日。知人からDMで、こんなブログ記事をシェアされた。
『BUCK-TICKに突然ハマった人の話 - WITHOUT SOUNDS』
シェアされた理由としては、記事の末尾で件の『ラルク・アン・シエルに突然ハマった人の話』について触れられていたからなのだけど、よく見てみると記事を書いたのは僕がまだTwitterをやっていた頃に相互にフォローしていた方だった。記事は簡潔にわかりやすくB-Tの魅力がまとめられており、読み終えると俄然B-Tに興味が湧いてきた。その数日後YouTubeで公開された新曲「獣たちの夜/RONDO」のトレーラーをチェックしてみると、未だ衰えぬルックスの5人、妖しくも艶やかな様式美、そして何より攻めの姿勢を感じさせるサウンドがブッ刺さり「今ってこんな感じなのか!かっこええ!!」と驚嘆した。
▲「獣たちの夜」ミュージック・ビデオ。特に2:43~あたりからのノイズ(ギターで出してるんだよな…?)は凄まじいまでにアヴァンギャルド
5月にはヴォーカル・櫻井敦司(「様」を付けなくていいのか、いやそれ以前に「あっちゃん」とか呼んでいいのか未だに悩んでしまう)が椎名林檎のコラボ楽曲で24年ぶりにMステ出演し、放送自体は見逃してしまったのだけど「『1番美人、椎名林檎の隣の人イケメン』Mステ BUCK-TICK櫻井敦司さん全国に見つかる #Mステ」というNAVERまとめがバズったりと、身の回りで何かとB-Tの話題が目に入ってくるようになったことで、この6年ほどの間に摂取し体のあちこちにあった成分が急激に化学反応を起こし始め、ブクブクと肉になったりダラダラと骨になっていくような感じがした。先ほども「伏線回収」と書いたけど、まさにそんな、後半に伏線回収する映画を観ているような爽快感があり、興奮もあった。
ダメ押しの一撃となったのは、令和になったことを記念して2019年6月に取り組んだブログ記事「【1989年1月~2019年4月】J-POPベスト・ソング100」という企画だった。「平成時代にリリースされたシングル曲で自分が所有している音源」を対象に選んだのだけど、リストアップする段階で「ドレス」を候補に入れ、ランク決めのために何度か聴き込んだところジワジワとこの曲の凄さがわかってきて、あらためてめちゃくちゃ美しい曲だと感じた。この時点ではまだランク内の他楽曲に比べると思い入れが少なかったため最終的には75位に落ち着いたけど、同じ企画を今やったら上位はB-Tの曲だらけになりそうだ。
▲「ドレス」ミュージック・ビデオ。90年代初頭における耽美なポスト・パンク/ニューウェイヴ期のB-Tの真骨頂とも言える楽曲。
「B-T聴き始めるなら今しかねえ!」と悟った僕は、まずは手ごろなベスト盤を聴いて、好みの時期のアルバムから入手することにした。2019年7月、最初に手に入れた音源は『CATALOGUE 2005』。2枚組全33曲で、入門編としては多すぎず少なすぎず最適なヴォリュームだ。
かくしてツンドラ教(※)の門を叩いたわけだが、久々にちゃんと聴く「惡の華」「スピード」には新たな発見もたくさんあり、また初めて聴く曲でもとりわけ「さくら」「キャンディ」「ミウ」「GLAMOROUS」「夢魔 -The Nightmare」「ROMANCE」といった楽曲には即座に心奪われた。そこからは、あっという間。フジロックの直前で、出演アーティストの予習にいそしむ時期なのに「もうどうでもいい(ランランラン)、それよりもBUCK-TICKが聴きてえ…」と悶絶してしまうほどだった。「沼にハマる」とはつまりこういうことなのか。
※B-Tファンを指す用語。「夢魔 -The Nightmare」の歌詞とライブ中の光景から
■これまでに聴いた作品
便利な時代になったもので、すでにディスコグラフィ豊富なアーティストに新たに触れる際、Spotifyのようなストリーミングは非常にありがたい。B-Tのように20枚以上アルバムを出していても1、2日あればサクッと聴くことも可能だ。とはいえ自分は、音源をただ聴ければ良いのではなくフィジカルを所有してじっくり聴き込みたいタイプなので、1年ほどかけて少しずつ音源を集めていくことにした(The Cureやラルクの全アルバムを集めたときも同様)。
リリース当時のエピソードなどネットや雑誌で調べながら、月に1~3枚くらいのペースで聴き進める。メロディだけでなく歌詞や当時のバンド・ヴィジュアルとともに少しずつ海馬に刻み込み、同時代に流行っていた音楽とも照らし合わせながら「B-Tがどんなバンドなのか、シーンの中でどんな存在だったか」を考察する。そのお陰でバンドの歴史をより深く知ることができた一方で、記事を書き上げるまでに1年近くが経ってしまった。
まずは『惡の華』(1990)~『ONE LIFE,ONE DEATH』(2000)の90年代を中心にアルバムを購入しリリース順に1枚ずつ聴いていたが、『狂った太陽』(91年)ですでに完全ノックアウト状態に。追加で他の時代の作品も買い足していき、気付けば全オリジナル・アルバムに留まらずメンバー本人からさえも物議(?)を醸したリミックス盤のほか、オーケストラ・アレンジ盤、コンピレーションにも手が出て、現在までに29作品を入手している。とはいえアルバム未収録曲(※)を含むシングルやライブ盤、トリビュート盤にはまだ手が出せていないので、今後の楽しみとして追い追い集めていくつもりだ。
※「蜉蝣-かげろう-」「空蝉-うつせみ-」「LOVE PARADE」など名曲多し
現時点での入手済みタイトル一覧(○枚目表記は公式サイトに準拠)。
1st 『SEXUAL×××××!』 (1987)
Mini 『ROMANESQUE』 (1988)
2nd 『SEVENTH HEAVEN』 (1988)
3rd 『TABOO』 (1989)
4th 『惡の華』 (1990)
インディーズ1st復刻版 『HURRY UP MODE (1990MIX) 』 (1990)
オーケストラアレンジ 『Symphonic Buck-Tick in Berlin』 (1990)
5th 『狂った太陽』(1991)
6th 『殺シノ調べ This is NOT Greatest Hits』 (1992)
7th 『darker than darkness -style 93-』 (1993)
リミックスアルバム『シェイプレス』 (1994)
8th 『Six/Nine』 (1995)
9th 『COSMOS』 (1996)
10th 『SEXY STREAM LINER』 (1997)
ベストアルバム 『BT』 (1999)
コンピレーションアルバム 『97BT99』 (2000)
11th 『ONE LIFE,ONE DEATH』 (2000)
12th 『極東 I LOVE YOU』 (2002)
13th 『Mona Lisa OVERDRIVE』 (2003)
14th 『十三階は月光』 (2005)
ベストアルバム 『CATALOGUE 2005』 (2005)
15th 『天使のリボルバー』 (2007)
16th 『memento mori』 (2009)
17th 『RAZZLE DAZZLE』 (2010)
18th 『夢見る宇宙』 (2012)
19th 『或いはアナーキー』 (2014)
リミックスアルバム『惡の華 (2015年ミックス版) 』 (2015)
20th 『アトム 未来派 No.9』 (2016)
21st 『No.0』 (2018)
その他、メンバーのソロや別プロジェクトといった関連作も少々。
SCHWEIN 『SCHWEINSTEIN』 (2001)
SCHWEIN 『SON OF SCHWEINSTEIN』 (2001)
THE MORTAL 『I AM MORTAL』 (2015)
SCHAFT 『ULTRA』 (2016)
SCHWEINは櫻井敦司と今井寿がPIGやKMFDMのメンバーと組んだインダストリアル・バンド、THE MORTALは櫻井敦司のソロ、SCHAFTは今井寿と藤井麻輝(SOFT BALLETなど)によるプロジェクト。っていうか、B-Tの活動を止めずに別プロジェクトやるってすごい…。
■BUCK-TICKの魅力とは
ではいよいよ、B-Tの何がそんなに素晴らしいのか?という核心に迫ってみたいと思う。もちろんこれはあくまで個人の主観によるものなので、異論もあると思いますが。
1.溢れ出るアイデア、尽きない創作意欲
上に書いたリストを見ても、彼らはデビュー以来ほとんど足を止めていないことがわかる。オリジナル・アルバムをリリースしていない年でも、企画ものの作品など何かしら出しているのだ。オリジナル・アルバムのインターバルは最長でも『SEXY STREAM LINER』(97年12月)から『ONE LIFE,ONE DEATH』(00年9月)までの2年9ヶ月程度だし、デビュー当初なんてインディーズの『HURRY UP MODE』(1987)やミニアルバムを含めれば最初の14ヶ月で4作もリリースしている。しかも2000年代以降は13曲~18曲くらい収録されている作品も多く、なかなかのヴォリュームだ。様々な音楽から刺激を受け、常に新たな音を探求しているので、アイデアやクリエイティヴィティが止まらないという証左だろう。
なので、アルバムごとにガラッと作風を変えるなんてザラ。過去の焼き直し的な作品や予定調和な作品がないことは、メンバー全員が50を過ぎたバンドではなかなかできることではない。バンド自体に刺激を与え原動力に変えているのは間違いなく、バンドの絶対的ブレインである今井寿だ。根っからのパンクスである彼は、ギターの演奏や作曲や作詞においてもあらゆるセオリーを無視し、殻を破り続けている。そして、「常に最新が最高」なのだ。
特にエレクトロニックな部分においては今井寿の趣向が大いに反映されていて、「ナカユビ」におけるガバ・テクノ、「SEXY STREAM LINER」におけるドラムンベース、「GUSTAVE」におけるブロステップなど様々な要素が取り込まれているが、彼は決してそのままの形でパクったりはしない。必ず「その界隈でまだ誰もやっていないような音」としてB-Tらしく仕上げてくる。もちろん、あっちゃんの唯一無二のヴォーカルが乗っているからというのも大きいのだろうけど。
▲Atari Teenage Riot「Get Up While You Can !」。ガバ・テクノとハードコア・パンクの融合という点で「ナカユビ」と共通するものがある
▲Skrillex「Scary Monsters And Nice Sprites」。「GUSTAVE」の冒頭はブロステップの祖たるSkrillexなしでは生まれなかったと思う
▲「GUSTAVE」ライブ映像("ロクス・ソルスの獣たち" Live at 幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホール 2019/5/26)
2. 我が道を行く孤高のスタイル
B-Tのことを知らない人に説明するのは難しい。「80年代から続いてるかっこいい人たちのバンド…LUNA SEAみたいな…」と言ってしまったりする。でもLUNA SEAより知名度が圧倒的に低いのはなぜだろう。あまりTVに出ないから?天一のCMとかに出ないから?おそらくメンバーも陽のあたる場所を好まないというか、雨が大好きで夜が大好きそうなキャラなところも関係しているのかもしれない。他人が決めたフォーマットを持たない彼らは「ヴィジュアル系」にも「ロキノン系」にも属さないし、フジロックに出そうな系統でもないが、それゆえ「元は別のバンドのファンだったが似た系統なのでB-Tに流れてきた」的なことが少ないように思う。それでも新たなファンを獲得し続けているのは、特に近年THE NOVEMBERSや椎名林檎、さらにはお笑い芸人の永野までもがB-Tへのリスペクトを公言していることも少なからず関係していそうだ。B-T自身は広くファンを獲得するために媚びを売ったりはせず、「引くな、怯むな」と我が道を突き進む孤高の存在であり、その姿が最高にかっこいいのである。
3. インディーズ・デビュー以来の不動のメンバー
インディーズでの最初のシングルは1986年10月。その時にはすでに現体制だから、すでに33年以上メンバーチェンジなく続けていることになる。一般的に、バンドというのは歳を重ねるごとに安定を求めるようになり、変化を求め続けるメンバーがいたりすると「方向性の違い」が生じやすい。また、新しいものを生み出すアイデアも枯渇し、過去の焼き直しになったりすることで限界を感じ、モチベーションも徐々に落ち着いてきてしまうものだ。
B-Tには今井寿というブレインが存在するが、様々なインタビューを読むと各メンバーが彼に絶大な信頼を抱いているようすが伝わってくる。とはいえ他のメンバーも、絶対的アイコンのヴォーカル・櫻井敦司(魔王様)、2、3割ほどの作曲を手掛け、スパイスだけでなくメインディッシュにもなり得る自然体キャラのギター・星野英彦、あざとかわいいスポークスマンのベース・樋口豊、バンドをしっかり支える兄貴分ゆえに姿勢もよく、髪の毛もずーっとおっ立て続けている(時には帽子も突き破る)アニィことドラムス・ヤガミトールと、強力な個性が揃っている。樋口豊とヤガミトールは実の兄弟で、バンド仲の良い要因のひとつにもなっている(※)と思うけど、これだけの個性の集まりながらずっと続けていられるのは、全員が新しいことに対して貪欲で、そしてバンドそのものを心から楽しんでいるからに他ならない。バンドを楽しむとはつまり、互いの信頼が非常に強固であることだと思う。
※某ギャラガー兄弟「」
4. 歌詞の深さ
B-Tの歌詞は、数曲の例外を除き櫻井敦司と今井寿の二人が担っている。B-Tの歌詞において、切っても切れない永遠のテーマは「生と死」(※)だ。これが例えば「いや、"死"ってなんかかっこいいじゃん」とかだとただのイタイ人なのだけど、実際櫻井敦司という人は幼い頃に父親からDVを受け、その父を早くに亡くし、また夫からDVを受けながらも我が子を愛し続けた母も亡くし(それもB-Tとしてのブレイク直後の狂騒の最中に)、そういった経験によって常に「いつか自分も死ぬ」ということを意識し、父に呼ばれているような気配に苛まれながら生きている。母への愛、母との別れを歌った曲はいくつもあり、あまりにパーソナルがゆえに「無題」としか名付けられなかった「無題」という曲もある。その曲には、こんな一節がある。
「ねえママ くちづけ下さい なぜだか 寂しい」
「ねえパパ 赦して下さい なぜなの 苦しい」
…うん、ヘヴィー過ぎる。こんな歌詞はフィクションで書けるものではない。生と死、エロスとタナトス、そういったものをテーマにしながら、時にはそこにファンタジーも加わるものの、奥にあるテーマ自体は非常に「リアル」。だからこそ、心に鋭く突き刺さる。
※アルバム『COSMOS』の歌詞カードには、横から見ると「生」「死」という文字が浮かび上がる細工が施されている
5. 見た目
いや、なんだかんだ言ってもミュージシャンは見た目が重要だ。B-Tを語る上で絶対に避けて通れないのがルックスレベルの高さだと思う。前述の椎名林檎とのコラボでMステに登場した際のNAVERまとめでまとめられているように、櫻井敦司の美しさと53歳(オンエア当時)という年齢に多くの人が驚愕したという。
だが待て。あっちゃんの浮世離れした美しさにどうしても目が行きがちだが、他メンバーも全員めちゃくちゃかっこいいのだ。彼らはデビュー時の、まだ全員髪がおっ立っていた時代からバリバリにかっこよかったけど、歳を重ねてキレはそのままに、渋さや妖艶さといったオトナの魅力が加わって近年ますますかっこよくなっている。年代ごとのアー写を並べてみた。
▲1980年代
▲1990年代
▲2000年代
▲2010年代
▲2020年代。先日公開されたばかりの最新アー写
個人的には、ミュージシャン、アーティストというのは憧れるべき存在だと思っているので、音楽がかっこいいのはもちろんだけど見た目もかっこよくあるべきだと思ってて。何をもってかっこいいとするかは人それぞれの価値観だし、人によっては「かっこつけているのはかっこ悪い」なんて意見もあるだろうけど、僕は50を過ぎた人たちが高い美意識をもって常にかっこよくあろうとする姿勢はとてもかっこいいと思う。インタビューであっちゃんも語っていたけど「いつまでもかっこつけていたい」らしい。そういうところに憧れてしまう。
6. 神セトリだらけのライブ
活動的なのは作品づくりだけではない。どのアーティストにも言えることだけど、リリースペースが落ちたり、作品の質が落ちたり(マンネリ化とか)、ライブの本数が減ったり、昔のヒット曲しか演奏しなくなったり、要は活動内容が薄れるとファンの心は離れやすい。ただでさえ、B-Tのように80年代から活動しているとファン層は40代以上が中心。子育てや仕事、体力の衰えなどによりライブに参加することも難しくなってくる。それでも、B-Tは19年連続で年末に武道館公演を行ったり、それ以外でもアルバムリリースに伴うツアーや、アルバムがなくても去年の幕張メッセ2DAYS「ロクス・ソルスの獣たち」といったライブイベントを精力的に行い、毎回動員数も多い。実際、僕にとってB-Tライブ初体験となった昨年末の代々木第一体育館(キャパ約13,000人)での「THE DAY IN QUESTION 2019」は、一般発売初日に数秒で即完売。自分は完売後もしばらくリロードを試みた結果、奇跡的にキャンセル流れ分をゲットできた恰好だ。終演後、スクリーン上で5月からの会員限定ライブハウスツアー、秋からの全国ホールツアー、年末の日本武道館公演、夏にアルバムリリースという怒涛の情報解禁(※)があり、手綱を緩めない姿勢に驚嘆しつつ歓喜させられた。
※残念ながら、コロナの影響で一部延期がすでにアナウンスされている
初のライブ体験後に過去のセットリストを調べたり、ライブ映像を観たりして気付いたのは、基本的に彼らのライブはほとんど「神セトリ」だということだ。彼らにはあまり、「ライブ定番曲」や「代表曲」と呼べるものがない。もちろん、ライブで演奏する頻度の高い曲は存在するのだけど、「この曲は演らないとファンは納得しないだろう」みたいな曲がなく、毎回これまでのディスコグラフィから幅広く選曲されている。つまり、これまでに発表された曲はほとんど、ライブでいつか聴ける可能性があるとも言えるだろう。30年前の曲をやっても「ファンサービス」とか「過去の曲にすがってる」みたいなところが全くなく、古さを感じないのでどの年代の曲を混ぜても違和感がほとんどない。それは彼らが幾多の変化を遂げてきても、過去の自分たちを一切否定していないからだと思う。だからこそ、我々も何度でもライブに足を運びたくなってしまう。
▲「Moon さよならを教えて」ライブ映像("ロクス・ソルスの獣たち" Live at 幕張メッセ 国際展示場9・10・11ホール 2019/5/26)
7. 新旧のファンをどちらも大切にする姿勢
B-Tファンになって気付いたのだけど、自分と同様にここ数年でファンになったという人がやたらと多いように感じる。先日も、5月にライブのアーカイブ配信でハマったという人がいて漫画にされていたのだけど、酒とつまみを用意して配信開始時間にスタンバるなど共感するところが多々あり、また漫画としても大変面白いのでぜひ見てみてほしい(表情がとてもかわいい)。
※掲載許諾済みですBUCK-TICKというバンドのライブ配信を観たら凄かったので漫画にしました。今日もYouTubeで配信がありますが、今日で最後です!興味がわいたらぜひみてみてください。 https://t.co/2jC0F5DK59#BUCKTICK pic.twitter.com/pwuk1fD2s0
— 山咲みどり (@tokumorimix) June 13, 2020
ライブの客層はやはり自分と同じように40代以上が大半を占めていたけど、夫婦や親子で来ている感じの人も多かったし、20代くらいの女の子も結構いた。40代以上の人でも、「最近の曲は知らないけど、昔好きだったなあ。90年代の曲たくさんやってよ」なんて懐古的な人はほとんどいなかったのではないだろうか。90年代にB-Tファンでその後しばらく離れていた人でも、どこかのタイミングで近年の作品も聴いて再燃し、あの場にいたように感じた。ライブのストリーミング配信で流れるコメントを見ても、「中学の時衝撃を受けて以来のファン歴30年」「常に最新が最高なのがB-Tの凄いところ」といった声が目立った。
B-TはSpotifyでの全アルバム解禁も比較的早かったし、公式YouTubeに80年代や90年代のものを含むフルMV(ショートVer.とかケチ臭いことはしない)をたくさんアップしていて、最近知ったという若い世代、あるいは出戻りの人たちも容易に新旧の音に触れられるようになっている。5月から6月にかけては毎週のように過去のライブ映像のストリーミングを行ったりと、いわゆる古典的な日本のレコード会社の上層部にありがちな「ネット上にあげたらCD売れなくなるじゃん」みたいな保守的思考はない。というのも、バンカーという事務所を自ら設立し運営したり、Lingua Soundaという独自のレーベルを持ち、自主性をもってインディペンデントな活動をしているからだろう。デビューから30年以上を経ても未だに若い世代の新規ファンを取り込み続けているのは、もちろん楽曲やルックスの魅力も大きいが、こういった柔軟な姿勢やフットワークの軽さも大きな要素だと思う。
彼らがデビューから30年を経ても、武道館や代々木第一体育館を即完で埋められる理由。それは、今ここに列挙したような要因からだと思っている。常に新しい音を提示し、ブレない部分による程よい安心感と、次はどう来るのか?というワクワク感の両方があって、メンバー間に、「次はこんな音をやろうと思っているけど、ファンはちゃんとついてきてくれるのだろうか?」みたいな余計な心配は存在せず、絶対的な信頼感がバンドとファンの間に存在している。僕自身も、今年リリースが予定されているアルバムや、それに伴うツアーが楽しみでならない。そしてこれは一過性のブームではなく、今後も長きにわたってB-Tに魅了されていくのだろうなという予感がしている。
B-T語り出したら止まらなくなった…。長くなりましたので、残りのお題
■各作品のレビュー
■ぼくのかんがえたさいきょうのBUCK-TICKセットリスト
は<後編>にて。
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Exclusive Interview with moë - English Trans.
新譜リリース情報(2025年1月)
2024年 年間ベスト・アルバムTOP40
2024年 年間ベスト・ソングTOP100
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2024年旧譜ベスト・アルバムTOP5
Interview : moë
Albums of the Month (2024年12月)
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