[FEATURE] Great Albums You Might Have Missed in 2024



今年も残りあとわずか! 数々の傑作、話題作が登場しましたが、その反面で特定のアルバムに評価が集中しがちで、「内容や参加メンバーのわりには、あまり話題になっていないんじゃないか?」という作品があったのも事実。というわけで今回は、そんな隠れた名作の中からいくつかピックアップして、紹介したいと思います!


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[FEATURE] Mt. Egyptを探して〜消えたシンガー・ソングライター、Travis Graves



そのレコードの7番目の曲は、僕をいつも泣かせる
僕らがお互いに視線を交わしてから7年になるね
君は僕の人生で7つめの真実の愛
そして僕が花嫁にするたったひとりの人

僕らが結ばれることに反対する人たちもいる
それでもいいさ、言いたいことを言わせておけば
この会話では何も変わらない
愛はなるようになるし、したいことをするのだから

Blake Millsが2014年のアルバム『Heigh Ho』でFiona Appleとデュエットしている「Seven」という曲。そのオリジナルが収録されているのが、Mt. EgyptことTravis Gravesが2009年に発表した、『III』というアルバムだ。
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[FEATURE] Fievel Is GlauqueのZach Phillipsが語るマヘル・シャラル・ハシュ・バズ



ニューヨークの鍵盤奏者Zach Phillipsと、ブリュッセルのシンガーMa ClémentのコラボレーションであるFievel Is Glauqueが、Fat Possum移籍第1弾となるアルバム『Rong Weicknes』をリリースする。

Blake Millsとの共作で知られるChris Weismanや、Shabason & Krgovichの作品で知られ、昨年のKNOWERの来日ツアーでも話題となったギタリストのThom Gillらが参加した本作は、ニューヨーク北部の農場兼スタジオThe Outlier Innで、最初に基礎トラック、次に複製トラック、最後に相反する即興演奏を録音し、その3つをミックスする“ライヴ・イン・トリプリケート”という手法を用いて完成した。彼らのジャジーでポップなサウンド、英語とフランス語のバイリンガルによるヴォーカルは、2022年にオープニング・アクトを務めたStereolabと比較されることも多いが、意外にも中心人物のZach Phillipsがよく影響に挙げているのは、日本のマヘル・シャラル・ハシュ・バズだ。

長年マヘルのファンで、当時はBlanche Blanche Blancheというプロジェクトで活動していたZach Phillipsは、2014年にライヴのためニューヨークを訪れた彼らをスタジオに招いて録音し、2016年に自身のレーベルOSR Tapesからアルバム『Hello New York』としてリリース。その後マヘルの日本、およびヨーロッパ・ツアーに帯同し、中心人物の工藤冬里と一緒に時間を過ごしたという。その経緯についてZachに質問してみたところ、とても長く興味深い回答が返ってきたので、本人の許可を得て、ここに公開することにしよう。

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[INTERVIEW] Kate Bollinger


photo by Juliana and Nicola Giraffe

2019年にリリースしたEP『I Don't Wanna Lose』に収録されていた「Candy」を、Kanye Westが2021年のアルバム『Donda』のタイトル曲でサンプリングしたことでも話題となった、ヴァージニア出身のシンガー・ソングライターKate Bollinger。その後Real EstateやFaye Websterのオープニング・アクトに抜擢され、LAに拠点を移すことになった彼女が、待望のファースト・アルバムとなる『Songs From a Thousand Frames of Mind』を、Ghostly Internationalからリリースした。

アルバムの制作にあたってKateが向かったのは、Big Thiefが『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』をレコーディングしたことでも知られる、ニューヨーク北部のスタジオFlying Cloud Recordings。Cassandra JenkinsやBuck Meek作品でも知られるギタリストのAdam Brisbinが参加し、同郷バージニア出身のMatthew E. Whiteと6曲を共作したこのアルバムは、Of MontrealやApples In StereoといったElephant 6周辺バンドから影響を受けたという、ノスタルジックなサイケデリック・ポップに仕上がっている。

大学時代は映像製作を学んでいたこともあり、Jessica Prattらのミュージック・ビデオも監督するKateが、アルバムのインスピレーションについて答えてくれた。


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[INTERVIEW] Tanukichan


photo by Alex Manriquez

Toro Y MoiことChaz Bearのプロデュースしたアルバムでデビューし話題となったTanukichanことHannah van Loonが、最新EPとなる『Circles』をCarparkからリリースする。

HalseyやRyan Adamsのツアー・ドラマーだったというFranco Reidをプロデューサーに迎え、デビュー曲「Your Face」がSpotifyで7000万回再生されているZ世代シューゲイザー、Wispとのコラボ曲を収録するなど、新たな展開を見せる本作。

昨年行われたAlvvaysとAlex Gのカップリング・ツアーでもフロント・アクトを務めるなど注目を集めるHannahが、EPの制作背景や、日本との繋がりについて語ってくれた。


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[INTERVIEW] MJ Lenderman


photo by Karly Hartzman

「笑わないでほしい、僕の言ったことの半分だけがジョークだから」

リード・シングルだった「Joker Lips」でそう歌っているように、ノース・カロライナ州アッシュヴィルのバンドWednesdayのギタリストでもあるMJ Lendermanは、Anti-移籍第1弾スタジオ・アルバムとなる『Manning Fireworks』で過去の作品に顕著だったバスケットボールやプロレスについてのジョークを控え、(“ジョン・トラボルタの禿げ頭”に気を逸らしながらも)幼い頃に目指していたという聖職者への疑念や、自身の失恋について切実に歌っている。

レコーディングは前作同様地元のスタジオDrop of Sunで行われてはいるものの、アップライト・ベースやフィドルを導入し洗練されたカントリー・サウンドからはローファイさは薄れ、過去にコンピレーションに提供した楽曲を再録した「You Don't Know The Shape」ではクラリネットを使い、レーベルメイトのAndy Shaufを思わせるアレンジに生まれ変わっているのも印象的だ。

2022年の前作『Boat Songs』が絶賛され、一躍新世代のギター・ヒーローと持て囃されるようになったLendermanだが、新作のラストの「Bark At The Moon」ではそんな彼がビデオ・ゲームの『Guitar Hero』でOzzy Osborneの曲を演奏しながら恋人に「ニューヨークに行かないで、君の服の着こなしが変わってしまうから」と懇願し、数分間に及ぶドローン・サウンドで締めくくられる。その最後の瞬間からは、悲惨な状況ほど笑い話にしてしまいがちな彼の、言葉にならない叫びが聞こえてくるようだ。

今回のインタビューは新作のリリースが発表される前、今年3月のWednesdayの来日公演時に行われたものだが、そんな彼の愛すべきキャラクターは伝わってくるのではないかと思う。先日公開された『Gurdian』のインタビューでは「誰かの最低の瞬間を観察すると、ある真実が浮かび上がってくる」と語っていたが、『Manning Fireworks』で描かれているのも誰かの最低の瞬間であり、紛れもない真実だ。



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[REVIEW] Beachwood Sparks - Across the River of Stars

評価:
Curation Records (2024-7-19)
星の河を渡って

ロサンゼルスのサイケデリック・カントリー・バンド、Beachwood Sparksの12年ぶりのアルバムは、星になってしまった人たち――2017年にALS(筋萎縮性側索硬化症)の闘病の末この世を去ったオリジナル・メンバーのJosh Schwartzや、2019年に命を絶ったサポート・ギタリストのNeal Casalといった、ミュージシャンの友人たちに捧げられた作品だ。

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[INTERVIEW] Aaron Frazer


photo by Rosie Cohe

「僕はよく旅してるから、時々違う床屋に行かなくちゃならないんだ。いつもミッドフェードにして、トップを長く残すように頼んでる。最近の発見はヘアーラップで、夜に髪をラップしてから寝ると、朝起きても髪が立ってるんだ。型をキープするためにはポマードを少し使うんだけど、夜にシャンプーで油を落とした後は、髪を柔らかくするために保湿剤を使うのを忘れずね」

いつもどうやって髪型をセットしているのかというこちらの質問に、笑いながらそう答えてくれたAaron Frazer。胸元まではだけた開襟シャツをスタイリッシュに着こなす彼は、まるで50年代のバーバーショップのヘアカタログから飛び出してきたかのようだ。

インディアナ州ブルーミントン出身のヴィンテージ・ソウル・バンド、Durand Jones & the Indicationsのドラマー兼シンガーでもあるAaronは、2020年にリリースしたソロ・デビュー作『Introducing...』を坂本慎太郎がフェイヴァリットに挙げ、来日公演でもステージで共演するなど大きな話題となった。

そんな彼が、実に4年ぶりとなる待望のセカンド・アルバム『Into the Blue』をリリースする。前作のリリース後に経験したつらい失恋をモチーフにしたという本作では、彼を励ますかのようにUKのJungleやLAのNick Waterhouseといった世界中のソウル・ラヴァーたちが集結。ヒップホップやハウスの要素を取り入れ、レトロなだけではない、モダンなサウンドを作り上げている。

好きな曲の歌詞について話す時、ついつい歌い出してしまうほど音楽好きなのが伝わってくるAaronが、アルバムの制作背景や、ドラマーとしての哲学について語ってくれた。


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[INTERVIEW] Goat Girl


photo by Holly Whitaker

盛り上がるサウス・ロンドンの音楽シーンで頭角を現したGoat Girlが、新作『Below The Waste』をリリースした。暗闇の中、水に沈んだ車の上に化け物が佇んでいる。その奥には赤い光に照らされて、不気味な怪物たちが潜んでいる。このアートワークは人間の醜悪な部分や、世界で起きている理不尽=“不要なもの”を表しているようだ。

前作から4年経っても、彼女たちの社会への皮肉のこもった辛辣な物言いは変わらない。しかし、パンデミック禍中での孤独や社会の変化、メンバーであるRosyの依存症などの闘いを乗り越えて出来上がったこの作品は、この不条理な俗世界への怒りだけでなく、その中でもがく人間たちへの優しさも感じる。

木管楽器などの多様な楽器の採用だけでなく、納屋での環境音も取り込み、自分たちの身近な家族や友人の合唱団も集めて収録されたこの作品は、音楽的にもより深みがあり、実験的なものとなった。ダークでありながら温かみと多幸感も感じるサウンドは、不気味なアートワークに反して、不要なものの奥底にあるもの──絶望の中での光を祝福しているようだ。

前作リリース時のインタビュー以来オンラインで彼女たちと顔を合わせ、今作について語ってもらった。


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[INTERVIEW] Finom


photo by Anna Claire Barlow

先日行われたWilcoの来日公演でオープニング・アクトを務め、アクロバティックなギターとコーラス・ワークで観客の度肝を抜いたMacie StewartとSima Cunninghamによるシカゴのデュオ、Finom

ソロとしても様々なアーティストとコラボレートしている彼女たちがWilcoのJeff Tweedyをプロデューサーに迎え、ライブでもサポートを務めるJeffの息子Spencer Tweedyがドラムを叩いたサード・アルバム『Not God』をリリースした。

日本滞在中も友人の力を借りて自力でライブや宿泊先をブッキングするなど、シカゴのインディー・シーンで鍛えられたDIY精神を発揮していたMacieとSimaのふたりに、バンド結成の経緯やアルバム制作の背景、そして神という概念について話を聞いてきた。


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