Albums of the Month |
今週末はサマソニのYouTube配信をずっとリピートして観てた。2000年の第一回目の映像も結構あって、場内のどこに行っても暑かったこと(インドア・ステージが全く冷房効いてなかった)、日陰も休憩所もなくて大変だったことを思い出した。
ライブの配信と言えば先日、B'zの有料配信ライブ『B'z SHOWCASE 2020 -5 ERAS 8820-』のDAY1を視聴した。これは彼らの32年間の歩みを5つの時代に分け、5週にわたってそれぞれ全く異なるセトリで演奏するというもの。自分にとって最も思い入れの深い時代(88年~92年)であるDAY1はデビュー曲「だからその手を離して」から始まり、「BLOWIN'」「BE THERE」「太陽のKomachi Angel」「EASY Come, Easy Go!」「ALONE」「ZERO」「裸足の女神」など全17曲を披露。もちろん全曲が我が青春を彩った思い出の曲なワケで、とにかく感涙モノだった。
しかし何よりも感銘を受けたのは稲葉浩志(御年56歳)のかっこよさ。2018年の味スタ公演を観たときにも感じたことではあるけど、締まった体でステージを動き回り、あの頃と全く変わらない色気のある歌声で熱唱する姿には痺れた。しかも5週にわたって100曲近く演奏するのだから本当にエネルギッシュだ。
そういえばB'zもBUCK-TICKも、メンバー構成こそ大きく異なるものの同世代かつデビュー時期も近く、30年以上ずっと止まることなく活動しているアーティストであり、そのうえルックスも衰え知らずなので本当に尊敬する。しかし長く第一線で活躍し続けるアーティストがいる一方で、例えばt.A.T.u.のように大ブレイクしても短命に終わってしまう時代の徒花的なアーティストも世の中にはゴマンといる。前者は時代とともに変遷していく音楽性を楽しめるし、後者はその時代そのものをピンポイントで切り取った存在としてノスタルジーを感じさせ、どちらも異なる魅力があって…と、無理やりt.A.T.u.に話を繋げたところで今月聴いた作品のまとめです。
t.A.T.u. / Dangerous and Moving (2005)
★★★★★
t.A.T.u. / Vesyolye Ulybki (Happy Smiles) (2008)
★★★★★
t.A.T.u.と言えば2000年代前半に一世を風靡したロシアの女性デュオだが、Mステドタキャン事件(その際の代打ミッシェル・ガン・エレファントの伝説的パフォーマンスは語り草になっている)や東京ドームでの来日公演ガラガラ事件などにより今ではほとんどネタ扱いされるような存在。世界的に見てもそのブームは世界デビュー盤『200 km/h in the Wrong Lane』の頃がピークで、その後急激に失速したことでも知られる。ウィキによると、『200 km/h~』が全米最高13位で83万枚、日本では最高1位で180万枚だったのに対し、2nd『Dangerous and Moving』は全米最高131位の9.3万枚、日本では最高10位の3.8万枚。3rd『Waste Management』に至っては各国でチャート圏外、全米でのセールスは1,000枚らしい。ん、1,000枚って!?
そんなt.A.T.u.だが自分の中では2015年に『200 km/h in the Wrong Lane』の新品CDをワゴンセールで100円で購入したのをきっかけに再評価の波があり、アルバムをかなり気に入ってヘビロテしていた。2015年下半期の旧譜ベストアルバムでは5位にランクインしているし、このアルバムに収録されている「30 Minutes」をCrystal Castles風にリミックスしたこともあったりする。
【過去記事】2015年下半期 旧譜ベストアルバム40
そして今、第二次再評価の波が来ている。そのきっかけとなったのが今年6月に公開された、アメリカのシンガーPoppyによる「All The Things She Said」のカバーだ。これがPoppyのアイデンティティとも言えるKawaii×ゴシック×メタルな感じにかなりハマっていてかっこいい。
Poppy - "All The Things She Said"
ここ数年、メランコリックなメロディやヘヴィでダークなサウンドに惹かれることが多かったので、このカバーもどストライクだった(今年リリースされたアルバム『I Disagree』に収録してほしかった…)。そして『200 km/h in the Wrong Lane』を再びヘビロテしていたのだけど、それだけでは飽き足らず他のアルバムも購入するに至った。
あらためて調べてみるとt.A.T.u.のアルバムは6枚リリースされており、収録曲や曲順やアレンジが異なってはいるものの基本的に3作×2種(ロシア盤とワールドワイド盤)となっていて、今回購入した『Dangerous and Moving』は2ndのワールドワイド盤(ロシア盤は『Lyudi Invalidy』)、『Vesyolye Ulybki (Happy Smiles)』は3rdのロシア盤(ワールドワイド盤は『Waste Management』)となる。2ndは収録曲の関係でワールドワイド盤を選んだが、ロシア語の発音や響きが好きなので3rdはロシア盤にした。
これがまたどちらもめちゃくちゃ良くて名曲揃い。ビートこそまだEDMもダブステップも主流でない時代なので一昔前のポップスという感じはするものの、前述のPoppy、そしてGrimesやBillie Eilish、The Weekndのようにダークな面を持ったアーティストが多く活躍する現代の方がむしろ時代に合っている気がするし、この2作は特に今こそ正当に評価されるべき作品のように思う。
t.A.T.u. - "Beliy Plaschik"
『Vesyolye Ulybki (Happy Smiles)』収録。メランコリックな旋律や重厚な80年代風シンセによって醸し出されるデカダンなムードはDepeche ModeやNew Order、さらにはBUCK-TICKなども彷彿させる。このむき出しのニューウェイヴ・サウンド、リリース当時よりも今の方がジャストなのでは。
t.A.T.u. - "Loves Me Not"
『Dangerous and Moving』収録。グランジのような静→動アレンジ、ヘヴィなディストーション・ギターとドラムがかっこいい。哀愁メロディも相まってLinkin Parkにも通じるものがあるし、t.A.T.u.の真骨頂といえるツインヴォーカルの掛け合いによるサビもエモい。
ブーム終焉の主な要因は意図的な炎上マーケティングや疑似レズビアン設定などによりリスナーから総スカン食らったことだったが、それを仕掛けたのはプロデューサーのシャポヴァロフ氏であり、彼に振り回されてしまったがためにこれらの作品が正当に評価されなかったのは本当に気の毒に思う。ちなみに『Dangerous and Moving』のジャケは日本のどこかのトンネル内の写真が使われていて、これまでのt.A.T.u.のイメージからするといささか地味だ。これはシャポヴァロフ氏と袂を分かって、これまでとは違う路線でやっていくというメンバーの意向だったのかもしれないが、皮肉なことにこれも日本であまり売れなかった要因の一つかもしれない。ロシア盤『Lyudi Invalidy』のジャケはハシエンダっぽくてかっこいいんだけど。
▲ロシア盤『Lyudi Invalidy』アートワーク
先ほどロシア語の発音や響きが好きと書いたけど、以前ロシアのレイヴやゴス、インダストリアルなどのシーンやカルチャーに興味がありいろいろ調べている中で出会ったのがロシアのエレクトロ・デュオ、IC3PEAK。
IC3PEAK / До Свидания (2020)
★★★★★
こちらは4月にリリースされたアルバムをBandcampにて購入。ちなみに本作購入がt.A.T.u.購入の後押しにもなった。
まず全編ロシア語で歌われているところが好きなのだけど、ダークウェイヴやウィッチハウスなサウンド、GrimesやAlice Glass(ex. Crystal Castles)にも通じるダークでパンキッシュでチャイルディッシュな女性ヴォーカルというところも最高。また、ヴィジュアル面でゴシック/ホラー要素や演劇チックな要素を取り入れているところも素晴らしい。
IC3PEAK - "Плак-Плак"
沖縄電子少女彩 / NEO SAYA (2020)
★★★★★
BUCK-TICKの「memento mori」のカバーや、非常階段とのコラボでも知られる沖縄出身のアーティスト。凄いアルバムだったため別記事「沖縄電子少女彩のアルバム『NEO SAYA』がすごい」にて記載。ちなみに本作収録の「IC3」という曲は前述のIC3PEAKに捧げられた曲だという。ロシアのカルチャーを調べる中で出会ったIC3PEAKとBUCK-TICK経由で知った沖縄電子少女彩が、同じタイミングで繋がったのは凄い偶然で驚いた。
沖縄電子少女彩 feat uami - "IC3"
坂本龍一 / NEO GEO (1987)
★★★★☆
沖縄電子少女彩『NEO SAYA』のヒントにもなっているアルバム。これは沖縄電子少女彩インタビュー記事を読んで興味が湧き購入。Iggy PopやBill Laswellが参加している。
というわけでt.A.T.u.からIC3PEAK、沖縄電子少女彩、坂本龍一という一連の流れでした。
他、今年リリースのアルバムがいくつか。まずは邦楽。
銀杏BOYZ / ねえみんな大好きだよ (2020)
★★★★☆
銀杏BOYZ - "エンジェルベイビー"
藤井風 / HELP EVER HURT NEVER [2枚組初回盤] (2020)
★★★★☆
藤井風 - "何なんw"
高井息吹 / kaleidoscope (2020)
★★★☆☆
高井息吹 - "幻のように"
前作『光のなかに立っていてね』が2014年の年間ベスト1位だった銀杏BOYZの6年ぶりの新作は、前作ほどの衝撃はないけど佳曲揃い。特に「GOD SAVE THE わーるど」がめちゃくちゃいい曲。ラストの「アレックス」は亡くなってしまった愛犬についての曲のようだけど、「長い針の進みかたに みじかい僕は追いつけない」という表現が巧い。犬と人間の歳を取るスピードの違いを時計の短針と長針に例えてるっていう。
【過去記事】2014年 年間ベストアルバムBEST40+MORE
藤井風は、僕の友人やBUCK-TICKの櫻井敦司が最近ハマっているというので借りてみた。既に話題になっているアーティストだけどスゲー天才が現れたなと思う。Jamie Cullumを思い出したりもした。ときおり方言を交えたユニークな歌詞は、不思議とリズムにピタリとハマっていて聴いてて心地よい。初回盤は2枚組で、YouTubeで話題となった洋楽のカバー集が付属。
高井息吹は君島大空やKing Gnuのドラマー新井和輝が参加したEP。
続いて今年リリース作の洋楽編。
Sufjan Stevens / The Ascension (2020)
★★★★★
Sufjan Stevens - "Video Game"
Mina Tindle / SISTER (2020)
★★★★★
Mina Tindle - "Give A Little Love feat. Sufjan Stevens"
Hannah Georgas / All That Emotion (2020)
★★★★☆
Hannah Georgas - "That Emotion"
Beabadoobee / Fake It Flowers (2020)
★★★★☆
Beabadoobee - "Care"
Lianne La Havas / Lianne La Havas (2020)
★★★★☆
Lianne La Havas - "Can't Fight"
IDLES / Ultra Mono (2020)
★★★★☆
IDLES - "War"
The Flaming Lips / American Head (2020)
★★★★☆
The Flaming Lips - "Mother Please Don't Be Sad"
The Killers / Imploding The Mirage (2020)
★★★★☆
The Killers - "My Own Soul's Warning"
The Flaming Lipsは2009年の『Embryonic』以来、久々に新作を買った。最近は実験的でダーク・サイケな作風が目立っていたけど、今回は99年の名盤『The Soft Bulletin』にも通じる美しいサウンドとポップなメロディがあり、かつ全体的にゆったりしたテンポで統一されている。
The Killersは近作で見られた渋さが減り、金太郎飴のようにどこを切ってもキラキラなポップ・アルバム。ただ、自分としてはラスベガス出身の彼ららしく、キラキラ感と渋さ両方の要素があってこそThe Killersだと思う。もっと広大な荒野が似合う感じが欲しかったというか(↑のMVでは表されているけど)。
Oneohtrix Point Never / Magic Oneohtrix Point Never (2020)
★★★☆☆
Arca / KiCk I (2020)
★★★☆☆
OPNとArcaはどちらもエクスペリメンタルなところからスタートしたけど徐々にポップ化して、OPNの前作『Age of』、Arcaの前作『Arca』はともに素晴らしい作品だった。2組とも前作における「ポップとエクスペリメンタルのバランス」がちょうど良かったのだけど、どちらも今回はポップに寄り過ぎてやや刺激に欠けるかなという感じ。
Ela Minus / acts of rebellion (2020)
★★★★☆
Ela Minus - "Dominique"
Kelly Lee Owens / Inner Song (2020)
★★★★★
Kelly Lee Owens - "Melt!"
ディープなテクノを中心に据えつつ、ウィスパー・ヴォーカルとソングライティング・センスを用いてポップスに昇華させるのが上手い女性アーティスト2組。2人とももともと電子音楽畑ではなく、Ela Minusはハードコア・バンドのドラマー、Kelly Lee Owensはドリーム・ポップ・バンドThe History of Apple Pieのベーシストという出自も、メロディやポップさに重きを置いている所以だろう。Ela Minusはやっていることはモダンだけど音がヴィンテージ感を感じさせるのでどういう機材を使っているのか気になった。
ここ数年で、音楽との出会い方や情報の拾い方がだいぶ変わった。以前は主にTwitterで情報を拾っていたが、今では洋楽はMetacritic、邦楽はOriconの新譜リリース情報ページに載っている全アーティストの新曲をチェックするという方法を取っている。なので、サプライズ・リリースされたアルバムなどは結構情報を拾えていなかったりする。
そんな感じで漏れていたのが、Nine Inch Nailsがステイホームの一環として今年3月にフリーDLで発表した2作品。ただ、どちらもアンビエント/ドローン色の強い長尺インスト作品で、何度も繰り返し聴くものではないかな。NINの新作という感じはしないので、できればNIN名義でないほうが良かったと思う。
Nine Inch Nails / Ghosts VI: Locusts (2020)
★★☆☆☆
Nine Inch Nails / Ghosts V: Together (2020)
★★☆☆☆
その他、邦楽旧譜。
SOFT BALLET / INCUBATE (1993)
★★★★★
去年SOFT BALLETのCDをだいぶ集めたりしたけど、途中でBUCK-TICKに浮気したら本気になってしまい本作以降のアルバムを追えていなかった。先日、95年7月の解散ライブの映像を観たときにかっこいい知らない曲がいくつもあったので音源集め再開。
1曲目「PARADE」は平沢進みたいなファンタジー系RPGっぽい曲。そしてフジマキさんがこれまで以上にフジマキしてる曲が多いところが良い。
篠原涼子 / Lady Generation ~淑女の世代~ (1995)
★★★★☆
小室サウンド大好きなんだけど、小室哲哉がプロデュースした女性シンガーの中では篠原涼子が一番声質が好きかな。わりとハイトーン系の多い小室ファミリーの中では低めで、凛とした力強さがある。1曲目の「Sanctuary ~淋しいだけじゃない~ (R.Version)」はH Jungle With tの「WOW WAR TONIGHT~時には起こせよムーヴメント」とTRFの「WORLD GROOVE 3rd. chapter」をパクったようなメロディでいかにもTKっぽいし、同時代の安室奈美恵やTRFとは違ってしっとりした曲や緩やかなグラウンド・ビートが中心。10代や20代で本作を聴いていたら少し物足りなく感じたかもしれないけど、大人になってからはこういうサウンドや声の方がしっくりくる。
久保田利伸 / THE BADDEST -HIT PARADE- (2011)
★★★★☆
B'zもBUCK-TICKも、50代を過ぎてもかっこいい。そして久保田利伸も現在58歳だけど昔からずっとかっこいいままだなー。以前から聴きたいと思ってはいたものの、アルバムを聴いたことはなかったので最新ベストをチョイス。
その他、厳密には初聴きでないもの。★評価は割愛。
the brilliant green / the brilliant green (1998)
リリース当時友人から借りてMDで持っていた音源。ラブリーサマーちゃんの影響でブリグリがあらためて聴きたくなり、本作は唯一CDやデータで音源を持っていなかったので。
BUCK-TICK / Six/Nine [初回プレス盤] (1995)
2002年リマスター盤はすでに持っているけど、こちらは95年当時にリリースされた初回プレス盤。とあるサンプリングに対して宗教関係の団体からクレームが入り自主回収されたものだ。その後流通したものは当然その音が削除されているのだけど、やっぱりその音ありの音源も聴いてみたくなるのがファン心理ってもの。幸いプレ値化していなかったので中古で購入。
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