沖縄電子少女彩 |
今年4月にリリースされた沖縄電子少女彩(おきなわでんししょうじょさや、ワールドワイド表記:Okinawa Electric Girl Saya)のアルバム『NEO SAYA』を遅ればせながら聴いたのだが、シンセポップ/ダークウェイヴ/沖縄民謡/アンビエントetc.を繋ぐ作品としてとんでもなく素晴らしい。年内でこれから届く予定のアルバムや購入予定のアルバムがまだ15枚近く控えているが、今年の年間ベスト・アルバムはもうこれで決定でいいのではないかと思えるほどだ。自分はその月に購入した音源を「Albums of the Month」というタイトルで毎月ブログにまとめているが、本作については少し長くなりそうだったので単独記事としてこの作品について書くことにした。
沖縄電子少女彩という風変わりな、そしてどことなくサブカル臭のするアーティスト名を知るきっかけとなったのは、先月末に公開された日刊サイゾーのインタビュー記事だった。そこで彼女が以前BUCK-TICKの「memento mori」をカバーしたことや、BUCK-TICKから影響を受けた「黒い花」という曲があることを知り、それらの音源を聴いたことで沖縄電子少女彩というアーティストに興味を抱くことになった。
【日刊サイゾー】沖縄電子少女彩が語る「アイドルとミュージシャン」の狭間と非常階段ら大物バンドとのコラボ
SpotifyやYouTube上で聴くことができた彼女のディスコグラフィーはどれも個性豊かでバラエティに富んでおり、一口にこれというジャンルで括れないのも魅力のひとつだが、その中でも殊にアジア展開を見据えて制作された2020年作『NEO SAYA』に強く惹かれた。上記のインタビュー記事内ではノイズやアヴァンギャルドといった側面が強調して書かれてはいるが、『NEO SAYA』はそのような面も確かにあるものの、これまでの作品とはまた異なる印象を受けた。MVが公開されている「リズム」は浮遊感のある美麗なシンセ・ポップに仕上がっていて、他の曲(彼女のBandcampで聴くことができる)も全体的にはやはりエクスペリメンタル寄りの楽曲が多いのだが、民謡っぽさ、島唄っぽさが加わることでポップとエクスペリメンタルの絶妙なバランス感(Björkくらいと言ったらわかりやすいかも)がちょうど良いのだ。ちなみにデジタル・リリースとの記載もあるがCDも自主制作されており、自分はボーナス・トラック2曲が追加されたCD版を購入することにした。
沖縄電子少女彩 - "リズム"
沖縄電子少女彩 - "IC3" feat. uami
▲沖縄電子少女彩『NEO SAYA』アートワーク
上の写真でお気づきの方もいるかもしれないが、ジャケットとアルバム・タイトルは坂本龍一『NEO GEO』のオマージュになっている。自分はこれまで『NEO GEO』を聴いたことがなかったが、より深く『NEO SAYA』を理解したくて『NEO GEO』も購入してしまった。それほど『NEO SAYA』は、自分にとって興味深いサウンドに満ちているということだ。またインタビュー記事内にもあるように、坂本龍一のタイトル曲「NEO GEO」は沖縄民謡の「耳切坊主」を下敷きにした曲だそうだが、『NEO SAYA』にもまた、坂本龍一オマージュなアレンジが施された「耳切坊主」が収録されているなど、この2つの作品は密接な関係にあると言っていい。
▲坂本龍一『NEO GEO』アートワーク
ここで軽く、沖縄電子少女彩のこれまでの経歴についても触れておきたい。
【2000年】
沖縄にて誕生
【2012年~2013年】
沖縄のとあるアイドルグループ(詳細不明)に所属
【2013年~2015年頃?】
中学時代にドビュッシーにハマり、そこからアンビエント系に興味を抱く
【2016年】
RYUKYU DISKOの廣山哲史が音楽プロデュースをする沖縄アヴァンギャルドテクノアイドル「Tincy」に加入
【2017年】
沖縄電子少女彩名義でソロ活動をスタート。ノイズ・ミュージックに興味を抱く
DOMMUNEのノイズ番組に出演
【2018年】
1stソロ『サンジェルマン伯爵からの招待状』リリース、活動拠点を沖縄から東京に移す
【2019年】
京都のインダストリアル・アーティストAXとコラボしたノイズ・アルバム『Chastity』リリース
2ndソロとしてコンセプト・アルバム『黒の天使』リリース
【2020年】
非常階段とのコラボ「彩階段」名義で『沖縄階段~彩の夢は夜ひらく』リリース
アジアツアーとヨーロッパツアー(新型コロナの影響により延期もしくは中止)
アジア展開アルバム『NEO SAYA』リリース
ソーシャルディスタンスをテーマにした楽曲「Dancing in the distance」MVを公開
バーチャル・YouTuber・ポエムコア、ミソシタとのコラボ曲「Sleepless night」MVを公開
SOZESAYA名義でのコラボ作品『恐怖電子人間~Horror electronic human~』を発表
その後もBandcampなどで次々と新曲を発表
【2021年】
中野ブロードウェイの公式テーマソングを発表予定
現在20歳の沖縄電子少女彩だが、経歴がユニークだしとにかくクリエイティビティに満ちたアーティストであることがわかる。基本的に作詞作曲は彼女自身が行い、大半の編曲も手掛けているが、「電子音楽」を基本としながらもその曲調はさまざま。その中でも核となっているのはノイズやアヴァンギャルドといったエクスペリメンタルな音楽だが、例えばアイドルが他との差別化のためのギミックとしてそれらをコンセプトに据えることはすでに・・・・・・・・・(ドッツ)やBiS(BiS階段)らも行ってきたことだ。しかし沖縄電子少女彩の場合はコンセプトとしてではなく、あくまで彼女自身が自由に創作をした結果としてエクスペリメンタルなサウンドがにじみ出てしまっているといった方が正しいだろう。恐らく世の中的には「アイドルなのにこんなマニアックな音を」とか、あるいは「アイドルだから個性を出すためにこういうのやってるのね」なんて穿った見方もされそうだが、本人はハナからそんなことは意識しておらず、「好きなことをやっているだけなので、アイドルとか(特定ジャンルの)ミュージシャンとかどっちでもいい」などとあっけらかんとしている。
『NEO SAYA』の話に戻そう。ある程度テーマが決まっているコラボ作品はさておき、彼女のこれまでのソロ作品は「思いついたアイデアを全部やってみました」的なゴッタ煮感がありつつ、それでいて全面的にダークで歪な(BUCK-TICKっぽく言うと逸脱した)ポップソングに溢れている。それはそれでよいのだけど、その中でも『NEO SAYA』は、アイドルグループTincyの楽曲(つまりは彼女が作詞作曲を行っていない曲)のセルフカバーも複数収めながら、非常に統一感のある、そして聴きやすい作品に仕上がっている。
「聴きやすい」とはいっても、一般的なアイドル楽曲のようなキャッチーさは微塵もない。本作を形容するワードとしては、「ドープ、ノイズ、トライバル、ダーク、エクスペリメンタル、スピリチュアル、シャーマニック、オリエンタル、ゴシック、EBM、ミニマル、アブストラクト」…と、こんなところだ。いずれも「よし、じゃあそういう音楽をやりたいから、既存のそういう曲を真似てやってみよう」ではなく、身体の内にあるものをそのまま吐き出したらこうなりましたというような、型にはまらない自由さが感じられてそこがとてもかっこいい。
沖縄電子少女彩 - "幼い日の記憶"
『NEO SAYA』に収録された各楽曲についても少し触れておきたい。アルバムは、祖母が語った戦争体験について歌われる、ストリングスやピアノ、ハープをメインとした「幼い日の記憶」で壮大に幕を開ける。続いての前述のシンセ・ポップ「リズム」は本作随一のポップ・ナンバーだが、続く「NEO SAYA」は呪術的なメロディと無機質なビートが合わさった曲で、Portisheadが新作を出したらこうなるのかなといった感じ。民族音楽×エレクトロな「Love in crazy world」、ロシアのダークウェイヴ・デュオIC3PEAK(今年出たアルバム『 До Свидания / Goodbye』がとても良かった)のオマージュ「IC3」、バリ島の合唱舞踊芸能であるケチャと沖縄民謡を融合させた「耳切坊主」、ひんやりとしたエレクトロ・ボッサ「とある星の物語2020」、ミニマルなシンセ音と幾重にも重ねたコーラスがBjörkっぽさもある「よすみ」、鉄琴のような音をメインにした「Moon Light」、Tincy時代の楽曲のセルフカバー「真夜中のアンネフランク」、コーラスや合いの手をミックスした不協和音のミニマル・ポップス「2000」(こういった曲でも、彼女の場合は不思議とポップさが感じられる)と続いたのち、中国民謡のカバーでどこか懐かしい響きのある「茉莉花」で本編は一度幕を閉じる。CD版のみに収められたボーナストラック2曲のうち、「tarara」はBrian Eno的アンビエントに東洋的な旋律を加えた美しい曲で、ラストの「Ryukyu Noise」はその名の通り強烈なノイズ曲だ。これがまためちゃくちゃかっこいい。CD版を選んで良かった。
『NEO SAYA』の素晴らしいところはサウンド以外にも、彼女自身の歌声にもある。本作では民謡的なファルセットとコブシが多用されており、以前の作品と比べると見違えるほどに歌唱力、表現力がアップしていると感じた。
先ほど形容されるワードとして「シャーマニック」と書いたが、これは彼女の歌声や歌い回しによるところが大きい。そもそも沖縄電子少女彩には、故郷である沖縄の土着的音楽、つまりは琉球音階や沖縄民謡的なフレーズがごく自然な感覚として備わっている。そこから醸し出される民族的な香りと、無機質なエレクトロ・ビートや不穏なノイズが融合することで呪術的な要素が感じられるのだろう。これは「トライバル(民族的)」や「オリエンタル(東洋的)」といった要素でも同じことが言える。そういった出自があるからこそ、琉球音階が用いられたBUCK-TICKの「memento mori」をカバーしているのもごく自然だし、とてもしっくりくるカバーに仕上がっていると思う。
沖縄電子少女彩の音楽を他のアーティストに例えるのは非常に難しいが、この『NEO SAYA』に限って強いて挙げるならば、スウェーデンのThe Knifeや、Linea Asperaのメンバーとしても知られるZaniasが最も近い存在と言えるかもしれない。
The Knife - "A Tooth For An Eye"
Zanias - "Syzygy"
沖縄電子少女彩は海外からのウケも良いらしく、それだけに新型コロナの影響でアジアツアーやヨーロッパツアーのほとんどが中止となってしまったのは非常に残念だ。しかしその分、曲作りに没頭しているようで新曲が続々と発表されている。溢れんばかりのクリエイティビティを持った彼女であれば、次のアルバムが発表される日もそう遠くはないだろう。今からとても楽しみだ。
最後は、SNSでときおり見せるアイドルらしい姿で締めたいと思う。
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