Albums of the Month |
今年も年間ベスト・アルバムを考える時期がやってきた。とは言うものの、自分にとっての理想的なタイミングは年が明けて2月くらいだと思っている。12月もこうして新しい音源をいくつか買っているわけだし、入手したばかりの音源というのは新鮮に聞こえ、半年以上も前に買った音源よりも良く思えるものだ。なので12月に買った音源でも最低1ヶ月は聴き込まないと、他の作品とのフェアな比較はできないと思う。
とはいえ、自分もブログというパブリックな場所で年間ベストを公開している以上、世の中のタイミングに合わせなくてはという気持ちもある。なので年内には年間ベスト・アルバムやベスト・トラックを公開するつもりだが、その関係でこの「Albums of the Month」も通常よりも少し早いタイミングとなった。一応年内リリースの目ぼしい音源は一通り入手したので、まあいいかと。というわけで12月に初聴きした音源まとめ。
今年は邦楽CDを例年よりたくさん買った。特に12月は「新譜リリース情報(2020年12月)」の記事でも書いたように、3週連続で注目作のリリースがあったのですべて予約で購入。まずはその3枚から。
青葉市子 / アダンの風 (2020)
★★★★★
羊文学 / POWERS (2020)
★★★★★
THE PINBALLS / millions of oblivion (2020)
★★★★☆
青葉市子の7作目となる『アダンの風』は、「架空の映画のためのサウンドトラック」をテーマに、今年1月に長期滞在した沖縄で着想を得て制作されたという。今から遡ること28年、B'zの『FRIENDS』を聴いて以来、自分はこの「架空のサントラ」というコンセプトに弱いのだった…。また、2017年のフジロックがきっかけで沖縄出身であるCoccoにハマったり、その後ハマったSOFT BALLETやBUCK-TICKに沖縄音階を使った曲があったり(前者は「TEXTURE」、後者は「memento mori」)、今年に入ってからも中学の時以来のTHE BOOM再ブームが来たり、沖縄出身のエクスペリメンタル・アーティスト沖縄電子少女彩にハマったりと、とにかく最近「沖縄」というワードが個人的にアツいこともあり期待せずにはいられなかった。
美しいアートワーク、そしてフィールド・レコーディングと思しき曲の存在や最後に聞こえる波の音など、本作を聴くと沖縄の美しい風景が思い浮かぶほどに叙情的で情景豊か。そして聴き終えたあとには最高の映画を観た後のような余韻に浸ることができる。
青葉市子 - "Porcelain"
羊文学『POWERS』はメジャーデビュー・アルバム。2016年のフジロックのROOKIE A GO-GOで観ようと思っていたのに電気グルーヴで踊り狂った後、OASISエリアで鶏小屋の濃厚鶏そばをうんめーうんめー言いながら食べてたら観逃してしまって、大変惜しいことをした。きのこ帝国に近いものを感じるがサウンド面でというよりは「儚さ」「かよわさ」「力強さ」といったエモーショナルな部分で共通点があるといった感じ。歌詞も非常に良い。
羊文学 - "砂漠のきみへ"
THE PINBALLSはメジャー2ndフル・アルバム。BELONGというフリーペーパー(当時)の創刊号に寄稿したことがあるのだが、その時の表紙がTHE PINBALLSだったのでバンド名だけはその頃から知っていたけど、本作収録のシングル「ブロードウェイ (Broadway)」で初めてちゃんと聴いた。これはBUCK-TICKの「凍える」がエンディング・テーマとなっていたテレ東のドラマ「闇芝居(生)」を毎週観ていて、「ブロードウェイ」がそのオープニング・テーマだったのがきっかけ。
この曲は初期のArctic MonkeysがEGO-WRAPPIN'をカバーしたかのようなスウィンギンなバースト・ロック・チューンだが、歌詞の世界観や曲調からはTHEE MICHELLE GUN ELEPHANTやBLANKEY JET CITYからの影響を強く感じさせる。特に「葬儀屋がのさばる都/たやすくお城はつくれても/王様はつくれはしない/まるで行き交う動物のパズル/楽屋の薔薇が枯れる時」という一節が最高にかっこいいなと思う。「ブロードウェイ」に続くシングル「ニードルノット (Needle Knot)」もギターの音がかっこいいし、ミドルテンポの四つ打ちロックというところも評価したい(最近はやたらとBPMを上げたがる四つ打ち曲が多いので)。
THE PINBALLS - "ブロードウェイ (Broadway)"
続いて洋楽の新作。
Svalbard / When I Die, Will I Get Better? (2020)
★★★★☆
ハードコアやブラックメタルに括られる音楽でありながら、MewやSigur Rós、Eskju Divineにも通じる叙情性を持ったバンド。Deafheavenにも近いけど、女性ヴォーカルが入っている分さらにポップさと聴きやすさが加わっている。
Svalbard - "Open Wound"
The Smashing Pumpkins / CYR (2020)
★★★★★
スマパンについては、以前こんな記事を書いた。
【過去記事】スマパンの来る新作『Cyr』がBUCK-TICK『ABRACADABRA』と共通項ありそうで期待大な件
アルバムを通して聴いてみると思ったほど『ABRACADABRA』でもなかったものの、全20曲収録ということで散漫なアルバムになることなく、全編にわたってニューウェイヴ・サウンドで統一されているところは素晴らしい。ニューウェイヴ特有のヒンヤリした質感はあるものの比較的ポップでシンプルなので、もう少しダークさや重さが欲しかった気持ちもなくはないが、『Adore』の亜流を作ってもしょうがないのでこれで良かったと思う。
The Smashing Pumpkins - "Wyttch"
Miley Cyrus / Plastic Hearts (2020)
★★★★☆
9月に行われたMTVのVideo Music Awardsのパフォーマンスがかっこよかったので新譜出たら買おうと決めていたMiley Cyrusの7作目。ハンナ・モンタナや「Party in the U.S.A.」の頃の初々しさはすっかりなくなったが、それらをブックレット内のアートワークでコラージュの素材にするセンスはさすが(笑)。歌声がどんどんハスキーになってきているけど、女性のハスキー・ヴォーカルは好きだし今回のロックでダーク寄りなエレクトロにもマッチしている。声はこのままBonnie Tylerや松尾レミ(GLIM SPANKY)、最終的には伊東妙子(T字路s)の域に到達してほしい。
Miley Cyrus - "Midnight Sky (2020 Video Music Awards)"
続いて旧譜。
Тату / 200 По Встречной (2002)
t.A.T.u. / 200 Po Vstrechnoy [Re-release Ver.]
★★★★☆
第二次t.A.T.u.再評価の波が来ていることは先月のAlbums of the Monthでも書いた通り。
【過去記事】Albums of the Month (2020年11月)
その熱冷めやらずもう1枚購入。本作はやや複雑な立ち位置ではあるけど、まず2001年5月に全編ロシア語で歌われたデビュー・アルバム『200 Po Vstrechnoy』がロシア、ウクライナ、ポーランドで発売。2002年2月にジャケットと曲順に変更が加えられ、数曲追加されたこの再発盤がリリース。2002年12月には英語詞を中心に再編されたワールドワイド・デビュー作として『200 km/h in the Wrong Lane』(The Smithsのカバーも追加収録されている)がリリース。さらに2003年には再発ではない方のロシア語詞アルバム『200 Po Vstrechnoy』がワールドワイド向けに再発(日本盤もリリースされている)。なのでおそらくこの再発盤は全4種類ある「t.A.T.u.のファースト・アルバム」の中で最もマイナーなヴァージョンと思われる(パッケージ内の表記などもロシア語がメイン)。本作は1曲目に「Klouny」(ワールドワイド盤の「Clowns」のロシア語ヴァージョンにあたる)が追加されたほか曲順が変更され、ボーナス・トラックのリミックスが別のものに差し替えられている。
当時のロシアにおけるポップ・ミュージックのクオリティは不明ながら、本作におけるトラックメイキングのクオリティは正直あまり高くはない。90年代前半の量産型ユーロ・ダンス色が強くて陳腐ですらあるし、メンバーはまだ14歳や15歳だったはずで歌唱力も今一歩といったところ。それでもやはりメロディの良さ(哀愁メロの応酬がヤバい)や、粗削りだが美しいリェーナとユーリャの声はまさにダイヤの原石と言えそうな魅力が感じられる。
ところで数年前に購入した『200 km/h in the Wrong Lane』は、ボーナス・トラック的な曲を除けば全8曲と曲数が少ないのが以前から不思議だった。が、ワールドワイド盤で外された本作収録の3曲「Doschitay Do Sta」、「Robot」、「Ya Tvog Vrag」を聴くと何となくその答えがわかった。いずれもコテコテの90年代的ユーロ・ダンスのアレンジで、2000年代初頭において世界ではMe & MyやSMiLE.dkのようなサウンドは通じないし、t.A.T.u.自体もそのような方向性のグループではないことを提示したかったのだろう。四つ打ちの曲は意図的に外された感があるが、そのタイプのアレンジでありながらワールドワイド盤にも収録された「Malchik Gay」が、ハイハットの裏打ちをなくしアコギを加えることでユーロ・ダンス風ではないアレンジに変更されていることからも明らかだ。
ただ、ワールドワイド盤に収録されなかった曲もこれはこれでアジがある(まあ、僕自身がコテコテの90年代ユーロで育ったというのもあるが)。例えば「Robot」における「ローボトローボトローボト」みたいにクセが強く、やたらと耳に残る不思議な魅力があるのは、「ロボット」の発音が日本語風でも英語風でもない、普段聞きなれないロシア語風の発音だからかもしれない。思えば90年代のユーロ・ダンスってみんな「アイヤイヤー」とか「ビーバッパパラッポ」とか「ドゥッビドゥッビドゥビドゥッブッブ」とかそんなんばっかで、「ローボト」も同様にいわゆる「キャッチーなフック」として機能しているのだろう。
t.A.T.u. - "Robot"
BUCK-TICKのシングルもだいぶ揃ってきた。今月は2000年代初頭のシングルを3枚購入。★評価は割愛。
BUCK-TICK / 21st Cherry Boy (2001)
BUCK-TICK / 極東より愛を込めて (2002)
BUCK-TICK / 残骸 (2003)
いずれもA面曲はアルバム収録バージョンとは若干ミックスやイントロが異なる程度。 「21st Cherry Boy」B面の「薔薇色の日々」はアルバム未収録には惜し過ぎる、星野さんらしい美メロ曲。「極東より愛を込めて」B面の「王国 Kingdom come -moon set-」はエレクトロなアレンジで、アルバムに収録されたシューゲイザー風とはだいぶ印象が異なる。「女神 (Designed by oval)」はあのマーカス・ポップのovalによるバージョンで原曲の面影ゼロ(笑)。 「残骸」B面の「GIRL」はアルバム収録バージョンとイントロとヴォーカルのエフェクトが若干違うのかなという印象。
ほか、CD棚にあった未聴CD(奥さん所有物)より。今月は1枚のみ。
ACO / NUDE (1997)
★★★☆☆
2作目。このアルバム、日本語版Wikiページは作成されてないのに英語版がなぜか存在する。4作目『absolute ego』やそのリミックス『the other side of absolute ego』が海外ウケするサウンドだったからだろうか。
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