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『切られお富』だより

薩埵峠に行こう

『切られお富』の稽古が始まって数日、
街道めぐりを趣味とする私寺田昌樹はフト
「あ、さった峠に行こう」と思い立ち
ある休日峠の麓、興津の宿場街へ出かけました。
ご存じの通り、東海道さった峠はお芝居にも登場する場所であり、
標高は294メートル。
高い場所を通る「上道」、中腹の「中道」、
そして波打ち際を通る「下道」の三つがありましたが、
「上道」は東名高速開通で寸断され通れず、
「下道」は国道一号線となっており、
今は「中道」が一般的な道となっております。
興津口から登って行くとなんと両側にはお墓が幾つも建っており、
その間を通って上がって行く。
しかしなんでこんな所にお墓が?
写真1

しばらく登ると眼下に海や富士山が見えてくるのだが、
そこは断崖絶壁手摺りもない。
目もくらむ思いで恐ろる恐ろる崖っぷちを登って行く。
昔は「親不知子不知」と言われた東海道でも難所の一つであり、
「下道」では荒波にさらわれ命を落とすこともあったそうです。
写真2 写真3

その崖を越えると一転なだらかな道へ。
現在はハイキングコースとして整備され、
美しい風景と道行く人々と「こんにちわ」と
あいさつを交わし会うふれあいとで疲れはまったく感じない。
中腹のポイントに行くと右側には壮大な駿河の海が広がり、
正面には富士山の絶景が目の前に姿にあらす。
これはまさに
歌川広重『東海道五十三次・由井さった峠』と同じ風景。
「いや~、やっぱり来てよかったぁ」、
広重の見た世界を体感しながらしばしたたずむ。
写真4 写真5 写真6

峠の木々は新緑がきれいで、
その中でみかんの実が彩りを添えていました。
みかんは無人販売所で売られています。
ビワの実も成っていましたが、まだ白い紙に包まれていました。
写真7

寄り道をしながら2時間半、無事に峠を越えました。
今はハイキングコースとして楽しく越えられますが、
その昔は整備もされずゴロゴロした山道を富士山を望み見る事も、
駿河湾ののどかな潮風を感じる余裕もなく
まさに命掛けで峠を越えていた事でしょう。
与三郎はそんな難所をそれも夜、
提灯一つで越えようとします。
無謀とも言えますが、
お家再興の為という切迫した事情がそうさせたのでしょう。
せめてこの時代にも今のようになだらかに整備された道であったら…
その人達に思いをはせ、由比口の坂道を降りきると、
休日のお父さんが子供と自転車で峠を登る
ほのぼのとした光景が眼に入りました。
写真8


記・寺田昌樹
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