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フリートーク

『何故わたしは恋人のCD棚を端から聴き、レビュするようになったのか漫画』を読みました

先日、初めて同人誌というものを買いました。


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買ったのはこれ。
『何故わたしは恋人のCD棚を端から聴き、レビュするようになったのか漫画』


この漫画の作者は、少し前に音楽好き界隈を中心にちょっとしたバズを巻き起こしていたのでご存知の方も多いかと思いますが、『うんいち ~運命の一枚を探せ』というブログをやっているとあるアラ子さん(「とあるアラサー女子」からきている名前とのこと)。


まずこのブログから説明すると、音楽について大して興味も知識もないアラ子さんが、音楽フリークである交際相手(フリーのライターさんだそう)のCD棚の端から1枚ずつ聴き、その感想を綴っていくというもの。


その発想自体の斬新さに加え、世間的に高く評価されている作品であろうと、無知であるが故の実直さで単刀直入に「つまらない」「飽きた」などとバッサリ辛辣にレビューすることで話題となりました。


例えばPixiesは…

『歌い方がむかつく』

『トリビュートの解説で知ったけど
ボーカルの人はハゲでデブらしい

ハゲでデブなうえに歌い方がこれって…

よく売れたな・・・』
(※原文ママ)


ひどいwww


そんな感じのブログ(注:別に全部が全部文句ばかり書いているわけではないですよ)であるがゆえ、中には読者から「名盤なのに何言ってるんだ」「何もわかってない素人が」「そんな一言で片付けるなんて知性のカケラもない」みたいな声も(多分)あったようですが、僕は逆にそんなところが面白いと思いました。本人も、そんな周りの反応を楽しんでいる様子(漫画に書いてありました)。


自分も音楽についてまだまだ詳しいと言えるレベルではないけど、それでもこれまで培ってきた知識はそれなりにあって、時としてその知識や固定概念のようなものが足枷になり、正しい評価の判断を鈍らせたり、凝り固まったイメージでしか語れなくなったりしてしまうことも常々感じていました。


僕はこのブログで毎月初めて聴いたアルバムの感想を書いてますが、世間的な評価は高いけど自分には全く理解できなかった場合、「世間的に高評価だし、仲のいいTwitterのフォロワーさんが好きな作品だし、なんとなく悪く書きづらい…。自分の耳の悪さを露呈させることにもなるし」という思いが、以前は頭の片隅のどこかにありました(あったけど、一応気にせずにそのまま書いてはいました)。


でもこのブログはそんな僕にインスピレーションを与えてくれたんですよね。一つは「率直に書く」ということ。もう一つは「シンプルに書く」ということ。シンプルに書くという点に関しては、まだまだ自分が苦手としている部分で全然達成できていないけど、「率直に書く」っていうのは、これまでは先述のような複雑な感情を抱きつつも努めて率直に書いていたのが、最近は何も気にせずに率直に書くようになりました。


このブログの面白いのは、バックグラウンドに関する知識を全く知らないはずのアラ子さんでもたまに的確なことを言ったり、普通の音楽好きの感覚だとあまり思い浮かばない音楽を引き合いに出したりすること。「知らない人からするとこれとこれが似てると感じるのかー」とか、「なるほどそういう見方もできるのね」という感じで自分にとって新しい発見があったりして、そこが魅力でもあります。


ブログ内容を一部紹介すると…。

new order『substance1987』
"はじめは 音こもりすぎ joy divisionみたいって思ったけど

後半バカ明るい曲が増えてノリノリで聴いた"


この2バンドの関係を知らないはずなのに、New OrderでJoy Divisionを引き合いに出してる…!


number girl『NUM-HEAVYMETALLIC』
"やっぱり語尾を変にのばすとこにブッチャーズ感かんじる"

予備知識なくナンバーガールとブッチャーズに共通点を見出してるのもなかなか。


my bloody valentine『Loveless』
"これはとても良かった!

チャプターハウスの時もシューゲの良さは感じたのだが
あれはどちらかというと 珍しくて面白いという気持ちが強かったのだけど
今回は聴いてるときに雑音だとも思わず おおー心地よいぞー!と本当に思った"


僕が最初全くわからなかった『Loveless』の良さに最初から気が付いている!


Pavement『Slanted and Enchanted』
"ブラー+ダイナソージュニアに
フガジの楽しい感じをプラスしたみたいな・・

聴きやすいけどちょっと物足りないな・・"


引き合いに出してるバンド、なかなかいい線行ってる!(と思う)


oasis『ビィ・ヒア・ナウ』
"スガシカオの歌みたいなのあったよ

飽きてきただけかもしれないけど"


えっ…どれ?


My Bloody Valentine『mbv』
"はじめの方は聴きづらいし
途中には宇多田ヒカルみたいな曲入るし"


どの曲だ!?


NIRVANA『Nevermind』
"シークレットトラックあり(1点減点)"

あーわかる(笑)

…などなど。


あと、アーティスト名とかをよく知らないのでジャケットに書いてある文字から判断しているらしいんだけどFranz Ferdinandのファースト『Franz Ferdinand』はFranzの『Ferdinand』と表記されていて(注:既に訂正されています)あー確かにこのジャケだとそう思っちゃうよね…と思ったり。こういう、狙っていないボケがあるのも音楽好きがツッコミを入れて楽しめるポイントなのです。


確かにこのジャケは…。


さて、漫画の話に戻ります。


ブログを読んでる時に気になったのは、この人はどうして音楽に興味があるわけでもないのにCDをたくさん聴いてブログに感想を綴っているんだろう?ということ。そこにはちゃんとしたいきさつがあって、そんないろいろがこの漫画には描かれています。


1ページを8等分したシンプルなコマ割り。決して画力があるとは言えないし、すべて手書きのセリフの文字も汚い。オマケに「お別かれしました」みたいな送り仮名の間違い…。そもそもタイトルも「レビュー」が「レビュ」になってしまっているし(笑)。


しかしそんな細かいところは置いといて。


内容は、グイグイ引き込まれてイッキに読んでしまうほど面白い。下手なわりに、表現力はやたらと高いというか。自分も漫画の描き方テクニックについて詳しいことはわからないんだけど、例えばFB仲間のリア充アピールにビビッて布団でブルブルしてるのとか、自信満々にディスりツイートをする際に思わず力が入ってキーボードを「ッターン!」って打つのとか、アラ子さんが発明したという「笑ってるけど本当は笑ってない時に使う目の書き方」とか、細かいところで小ネタが効いててとても表現力がある。ちなみにこれが処女作だそう。作中には岡村靖幸や映画『モテキ』、ももクロ、ロフトプラスワンなんかのネタも出てきます。岡村ちゃんは笑えないネタだけど。


多少ネタバレになりますが内容をさわりだけ紹介。



作者であり主人公であるアラ子さんは、ふとした偶然からサブカル界隈の人たちと親しくなるが、初めのうちは「クリエイティブな仕事してる人たちって好きなものも個性的なんだと思っていたけど意外とみんなミーハーなんだな」と思う。


やがてその中の一人と交際することになったものの、別に音楽の趣味が合うわけでもない。しかしその交際相手との付き合いで漫画や映画界隈のイベントに行ったり、打ち上げに行ったりするうちに、サブカル気取りで業界人に媚を売りまくる、とある女性に嫌悪感と敵意を抱くようになる。


女性ならではの嫉妬心や対抗意識からか、自分ももっと映画・漫画に詳しくなってもっと優位に立ちたいと思うようになる。しかしそうこうするうちに、次第に自分が忌み嫌っていたタイプの人間に近付いていることに気付き…。



とまあ、こんな感じ。そして劣等感だったり自己嫌悪だったり嫉妬だったり様々な葛藤の末に「うんいち」のブログが誕生したということ。


まず作者の、負のエネルギーを正に変える行動力とコミュニケーション能力の高さに驚かされました。そして何より、音楽好きではない作者ならではの客観的視点の鋭さ。自分もこの漫画に描かれているような、ツウ気取りの知識ひけらかし人間になっていないだろうか?無意識のうちに仲間と趣味を合わせて、目的が「そのコミュニティに属すること」になっていないだろうか?そもそも自分は音楽が本当に好きなのか、音楽好きな自分が好きなのか?全ての音楽/映画/漫画ファンに対してそんな自問自答をさせるような内容で、音楽好きもそうでない人も楽しめるし、48ページしかない中にいくつもの「名言」が織り込まれています。

"趣味が合わないくらいならいいんだよ 何かあの「みんなと同じものを好き」な空間に組み込まれるのが嫌なんだよね~"

"みんな本当に映画とか音楽とか漫画とか好きなのかな?ほんとうは他に目的があるんじゃないの…?"

"ディスってディスってヤツらより優位に立ちたいようっ"

"いやだった ギャフンといわせてやりたかった でもそうこうしてるうちに 同じような人間になってたんだ…"

"もう何かについて詳しいフリしたり わかってるフリして誰かと競いあうようなことはしたくないな"

"どうしても「賢く見られたい」という雑念が湧いてしまうのです こんなこと書いたら頭悪いと思われるかも"


これらの作中のセリフは、音楽/映画/漫画が好きな人は特に、共感したり反感を覚えたり、いい意味でも悪い意味でもついつい反応してしまうようなものばかり。販売ルートは限られているけど、機会があればぜひ手に取ってみてください。


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※作者の許可を得て掲載しています


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ブログ『うんいち ~運命の一枚をさがせ~』
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