初聴きディスクレポート |
9月に買った&借りたアルバムの、「一番最初に聴いたとき」の感想を紹介します。今月もいっぱい買った!いっぱい借りた!
で、今月は「あれ?今までと音のイメージが違う!」っていう驚きを与えるような作品が多かったですね。大概そういう作品は最初は戸惑いがあるので、「第一印象での評価を書く」というコンセプトのこの記事では星の数もちょっと少なめになってしまってますが、これらのほとんどは聴きこむにつれて、今では星がイッコ以上増えてます。変化を受け入れ、先入観を取っ払って聴くことで、純粋にその作品が楽しめるようになっていくんですよね。そんな心境変化も楽しんでる今日この頃。
<★の解説>----------------------
★★★★★今年の名盤上位20位以内確実!
★★★★☆すばらしい
★★★☆☆普通に良作
★★☆☆☆若干気になる部分もあり。もう少し聴きこみたい
★☆☆☆☆期待ハズレ
☆☆☆☆☆全然ダメでした
---------------------------
では今月も、さっそく「Album of The Month」からご紹介します。
【Album of The Month - Apparat / The Devil's Walk】
★★★★★
9月終了間際に届けられたこのアルバム、本当はこの枠にPepper Rabbitを載せるつもりでしたが、土壇場でこの作品がAlbum of The Monthに。
トム・ヨークもフェイバリットに挙げてたりするドイツ出身のテクノ・エレクトロニカ系アーティスト。ポスト・ダブステップ、チルウェイヴ、アンビエント、エレクトロニカ、シューゲイザーなどの要素を取り入れてるんだけども、それらのどの型にもハマっておらず、独特の音世界を構築しています。複雑なビートだったり粒子の細かいヒンヤリした電子音が鳴ってるんだけど、意外にもこのアルバムの中で一番大きな部分を占めてるのは温もりを感じさせる「うた」。エレクトリックな作品にも拘らずほぼ全編ヴォーカル曲で、ブックレットには歌詞も全部載ってるし、いかに彼が「うた」を大事にしているかがわかります。彼自身の、囁きともつぶやきとも取れる繊細なヴォーカルはジェイムス・ブレイクやジャスティン・ヴァーノン(Bon Iver)にも通じるものがあって、エレクトリックなサウンドも決してヴォーカルを邪魔しないように絶妙なバランスで鳴っています。
反復するメロディの高揚感はSigur Rosのそれにも近い感触。しかしサウンド的に一番近いのはトム・ヨークのソロ作「The Eraser」で、語弊があるかもしれないけどあの作品をよりキャッチーでメロディアスにした感じ。
アートワークは17世紀の宗教的な洋書の挿絵みたいだし、「The Devil's Walk」というタイトルも含めて何かしらの神聖なコンセプトも感じさせるので、今後各媒体でのインタビューやらレビューやらで読み解いていきたいと思います。
Pepper Rabbit / Beauregard
★★★★★
8月にセカンド「Red Velvet Snowball」を出したばかりのLA出身のサイケ・オーケストラル・ポップ・デュオによるデビューアルバム。ファーストとセカンドを同時に買いどちらも素晴らしかったものの、このファーストの方がわずかによかった。Local NativesやMGMTにも通じるサイケ感と、The Flaming LipsやMercury Revのようなドリーミーで優雅な管弦楽器の音、そしてキラキラしつつも時折切ないメロディが一体となって、これがデビュー作とは思えないほど完成度が高い作品。ウクレレが先導する曲や、柔らかいオルガンやメロトロンの音が入っている曲もあって、寝る前のひとときにちょうどいい一枚。
Pepper Rabbit / Red Velvet Snowball
★★★★★
そしてこちらが最新作。1曲目のイントロからして若干エレクトリックな要素も増え、ファーストからの成長も大いに窺えるのだけど、メロディの面でわずかに軍配を譲りました。とは言ってもこの作品も非常にメロディアスで、ピアノや電子音たちのキラキラしたフレーズが心を落ち着かせてくれたり、ウキウキと高揚させてくれたり。
キモかわいいジャケットが若干気になりますが。
Girls / Father, Son, Holy Ghost
★★★★☆
昨年のEP「Broken Dreams Club」を挟んでの注目のセカンド。そのEPと同様に今回もスタジオ録音をしているだけあって、ファーストとは異なるクリアな音質で、グリッターなロックンロールを鳴らしています。EPの時にその片鱗を見せた、トロピカル感とグラムロック感がさらに強化されて、仰々しくて泥臭いギターソロが飛び出したりするのも何だかうれしい。ファーストの時のような甘酸っぱくてキラキラとしたロウファイ・サーフ・ポップな感じはここにはなくて、キラキラというよりむしろギラギラしてさえいる。
「Vomit」は歌を取り除いたらまるでMogwaiのようだし、ボートラとして収録されている最終曲「Martina Martinez」はこのバンドの懐の深さというか音楽性の広さを如実に表していると言えるでしょう。特に前半はいろんな音楽の歴史の縮図みたいに曲ごとにくるくると音楽性が変わり、飽きさせない展開。1曲目からラストに至るまで、そのめまぐるしい展開はまるで映画を観ているような気分にさせます。しかも、後半はなんだか傷心モード全開な曲調(歌詞は読んでませんが。ジャケットに歌詞が書かれていますが、細かすぎて読む気がしません)。
ファーストと比べてどちらがいいかという点については、まだ判断に迷うところ。どちらも異なる魅力があります。
Bombay Bicycle Club / Different Kind of Fix
★★★★☆
Cajun Dance Partyの仲良しバンドということで2009年にデビューしたイギリスのバンドの3枚目。本国では初登場6位をマーク。実は1枚目と2枚目は聴いたことがないのですが、先行シングルの軽快なピアノがリズミックに跳ねる「Shuffle」にヤラレました。しかしアルバム全体としてはこの曲に匹敵する軽快さはなく、どのブームにもあてはまらないような普遍的な曲が詰まっています。The SmithsとかAztec Cameraのような、80年代~90年代初期のイギリスのネオアコ/ギターポップっぽい「湿っぽさ」を持っていて、いかにも英国っぽいと言えそう。
The Rapture / In The Grace of Your Love
★★★☆☆
古巣DFA復帰作となる5年ぶりの新作。すでに賛否両論巻き起こっています。変化ぶりに驚いて「最初に聴いた印象」では星3つとなってしまいましたが、これは聴くほどに評価が上がるアルバム。これまでの彼らからは想像できなかったほどにメロディアスで、空間を活かしたスカスカな音も「イマ」のDFAらしさが感じられます。特に1曲目「Sail Away」における高揚感あるメロディとニューウェーヴなシンセはこれまでの彼らには決してなかったし、今まで以上に伸びやかでセクシーなルーク・ジェナーの声からも、かつて脱退劇や、すわ解散という辛酸を舐めたバンドとの決別の意思表明のように聞こえます。
過去のスタイルを繰り返すことなく、ただただ前進する姿勢も見え、「2011年型のDFAサウンド」を定義する、何ともクレイジーでセクシーでクールなダンスアルバム。
Red Hot Chili Peppers / I'm With You
★★★☆☆
ここ十数年、サウンドの要だったジョン・フルシアンテを失ってどうなるかと思われたレッチリですが、僕はこの変化を大歓迎します。ラプチャーと同様にこちらも、「最初に聴いた印象」ではその変化ぶりに星3つに留まったものの、これは個人的には「Californication」に続く2番目のフェイバリット・アルバムになりそう。
普通30年もやってるバンドだと、スタイルが固定化されてつまらなくなってくものだし、実際にここ10年のレッチリはそうだった。でも新加入のジョシュ(WarpaintのドラマーやPJ Harveyのツアーギタリストとしても有名)が、非常にいい効果をもたらしてくれたと思うし、おそらく他のメンバーも「もうジョンはいない。これまでのレッチリサウンドに縛られず、自由にやろう」という気概を持って制作したのであろう各曲から伝わってくる、新しいレッチリスタイルの数々に、ほんとにうれし涙が出ます。
そんな中でも最も曲をリードしているのはフリーのうねるベースで、近作よりもファンキーさを増していますが、どれもいわゆるファンクナンバーにはなっておらず、純粋にかっこいいロックを目指しているところが大いに評価できます。
Dum Dum Girls / Only In Dreams
★★★☆☆
一本調子な感じも否めなかった昨年のファースト「I Will Be」から大いなる進化を遂げたセカンド。何と言っても音がグリッターになり、ヴォーカルが飛躍的に上手くなってます。Best Coastが西海岸を離れてNYに移り住んだような(ただし彼女らもカリフォルニア出身なのですが)雰囲気。「Coming Down」のようにミディアムな曲などバリエーションは増えてメロディも洗練され、特にこの曲における高音で伸ばす部分の歌声がとってもエモーショナル。
しかしほとんどの曲のドラムが「ドンタタドドタ」で若干ワンパターンなのと、4~6曲目に至る同じテンポ・似た曲調が続くのにはちょっと苦笑。
The Kooks / Junk of The Heart
★★★☆☆
3枚目のアルバム。過去2作は試聴でしか聴いたことがないのだけど、少しイメージが変わったかなという印象。アコースティックな曲やニューウェーヴ風な曲が大部分を占め、パンキッシュに疾走する曲はほとんど見当たらない。シンセのほんのり感やピアノの使い方はSmith Westernsの「Dye It Blonde」やThe Viewの「Bread And Circuses」にも通じるものがあるものの、それらと比べてしまうとやや印象が薄い気も。アルバムとしてはもう少し、前作収録の「Always Where I Need To Be」みたいな疾走感のある曲が欲しかったところ。
The Drums / Portomento
★★☆☆☆
サーフロックブームを牽引したバンドのセカンド。どの曲もとてつもなくキャッチーだしメロディがすごくいいんだけど、いかんせんどの曲も似てる…。テンポだったりリズムパターンが同じ曲が続くので、あまりノリ切れなかった。曲単位では全部いいので、曲順が違っていたら違う印象だったのかも。EPやファーストでは、例えば「Down By The Water」みたいなスローな曲がいいアクセントになっていて、作品全体の流れを作っていたしバラエティ感としてもいい効果も出していたけど、今回はそういう曲が1曲2曲でもあれば違ったのかも。
でも「I Don't Know How To Love」を筆頭に口ずさみやすくてライブでも盛り上がりそうな曲は多いし、「Searching For Heaven」のようなエレクトリックな異色ナンバー(この曲はまるでクラフトワークのようだ)もあり、聴きこむにつれて今後どう印象が変わるか楽しみでもあります。
Architecture In Helsinki / Moment Bends
★★☆☆☆
あまりよく知らずに借りたんだけど、ちょっと想像とは違ってました(笑)。RoyksoppやThe Whitest Boy Aliveのような、哀愁漂うシネマティックなダンスミュージックかと思っていたら、わりとベタな80'sオマージュなエレポップ。男性ヴォーカルメインですが、女性がヴォーカルの曲も数曲あって、こっちの方が好き。ダサさスレスレの80'sサウンドを敢えてダサいものとして忠実に再現していて、クラフトワークやニューオーダーというよりもWham!やCulture Clubみたいに聞こえる曲も。やりすぎてホントにダサい音もあるのが難点。
Lenny Kravitz / Black & White America
★★☆☆☆
60年代、70年代のソウルへの憧憬が漂うアルバム。全体的にメロウで、かつてのロックンロールな感じよりもLove & Peaceな感じの曲調が目立ちます。そう言えばこの人モータウンとか大好きだもんね。2曲目「Come On Get It」ではJBばりのシャウトもしているし、Jay-Zが参加した曲もあってなかなか多彩。
しかし残念なのはプロダクション。せっかくこういうソウルフルな曲調をやるのであれば、例えばデンジャー・マウス(ナールズ・バークレイ、べック)やマーク・ロンソン(エイミー・ワインハウス)などの、ヴィンテージ感をうまく表現するプロデューサーを使ったらすごくいい雰囲気のあるアルバムになったのに、と思います。
Puro Instinct / Headbangers In Ecstacy
★★☆☆☆
美人姉妹2人組によるサイケ・ソフトロック。サマソニにも来てました(観ていませんが)。フワフワとした酩酊サウンドをシュガーコーティング、それも綿菓子でコーティングしたかのような激甘サイケデリアな音世界に、一聴した後もなんだか夢でも見ていたかのような気分にさせられました。それだけにあまり印象が残らなかったのも事実で、アルバム全体の世界観が徹底的に統一されているせいで各曲のディテールが目立たず、どれも似たような印象も受けたのが残念。
しかしジャケットやタイトルなどから近親相姦レズビアンな背徳的イメージも連想させられたり、キュートなポップ感とサイケでビザールな雰囲気のミスマッチな違和感もこのアルバムの魅力の一つとなっています。ところどころに挿入される小曲「KDOD」シリーズはちょっと意味不明ですが(笑)。
神聖かまってちゃん / 8月32日へ
★★☆☆☆
夏休みの宿題的に、まず最初にリリース日が決められたアルバム。結論からすると、これまでの作品の中では一番好きではない。もちろんライブで聴いた曲や彼らのオフィシャルサイトで聴いたの子のデモバージョンで知ってる曲はそれなりにいいんだけれども、個人的に好きな「友達を殺してまで」の収録曲を再録する意味はなかったと思う。本人はあの作品はプロダクションが気に食わなかったので録り直した、というけど、再録バージョンは「友達を~」の劣化コピー版という感じ。ギターの音は何重も重ねすぎだし、各音も頑張って作り込みましたって感じがする。その割に、音のバランスやイコライジングがヘタクソで結果、普通の邦楽ロックバンドと同じ匂いがしてしまっています。もっと粗削りでレベル振り切れてるくらいなのが彼らの神髄だと思うのだけど。特にひどいのは「バグったのーみそ」で、これはデモバージョンと比べるとカッコよさはデモバージョンの1%にも満たないと思います。
Sloan / Select Singles 1992-2011
★☆☆☆☆
こちらのサイトでフリー(募金も可)配信されているシングル集。実は今までしっかり聴いたことがなくて、グッドメロディな普遍的ギターポップを書くことで定評のある彼らだけに、そのシングル集であればとてつもない良作であること間違いないんだろうと思って聴いたけど、なぜか自分には響かなかった。期待が高すぎたのかも?オーセンティックな音すぎて、もっと多彩な音が鳴っていてストレンジな感じがしないと、今の自分のモードには物足りないのかも。再び聴き返した時に、良さがわかることを期待したい。
■過去アーカイヴ
8月のアルバム感想
7月のアルバム感想
6月のアルバム感想
5月のアルバム感想
4月のアルバム感想
3月のアルバム感想
2月のアルバム感想
1月のアルバム感想
で、今月は「あれ?今までと音のイメージが違う!」っていう驚きを与えるような作品が多かったですね。大概そういう作品は最初は戸惑いがあるので、「第一印象での評価を書く」というコンセプトのこの記事では星の数もちょっと少なめになってしまってますが、これらのほとんどは聴きこむにつれて、今では星がイッコ以上増えてます。変化を受け入れ、先入観を取っ払って聴くことで、純粋にその作品が楽しめるようになっていくんですよね。そんな心境変化も楽しんでる今日この頃。
<★の解説>----------------------
★★★★★今年の名盤上位20位以内確実!
★★★★☆すばらしい
★★★☆☆普通に良作
★★☆☆☆若干気になる部分もあり。もう少し聴きこみたい
★☆☆☆☆期待ハズレ
☆☆☆☆☆全然ダメでした
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では今月も、さっそく「Album of The Month」からご紹介します。
【Album of The Month - Apparat / The Devil's Walk】
★★★★★
9月終了間際に届けられたこのアルバム、本当はこの枠にPepper Rabbitを載せるつもりでしたが、土壇場でこの作品がAlbum of The Monthに。
トム・ヨークもフェイバリットに挙げてたりするドイツ出身のテクノ・エレクトロニカ系アーティスト。ポスト・ダブステップ、チルウェイヴ、アンビエント、エレクトロニカ、シューゲイザーなどの要素を取り入れてるんだけども、それらのどの型にもハマっておらず、独特の音世界を構築しています。複雑なビートだったり粒子の細かいヒンヤリした電子音が鳴ってるんだけど、意外にもこのアルバムの中で一番大きな部分を占めてるのは温もりを感じさせる「うた」。エレクトリックな作品にも拘らずほぼ全編ヴォーカル曲で、ブックレットには歌詞も全部載ってるし、いかに彼が「うた」を大事にしているかがわかります。彼自身の、囁きともつぶやきとも取れる繊細なヴォーカルはジェイムス・ブレイクやジャスティン・ヴァーノン(Bon Iver)にも通じるものがあって、エレクトリックなサウンドも決してヴォーカルを邪魔しないように絶妙なバランスで鳴っています。
反復するメロディの高揚感はSigur Rosのそれにも近い感触。しかしサウンド的に一番近いのはトム・ヨークのソロ作「The Eraser」で、語弊があるかもしれないけどあの作品をよりキャッチーでメロディアスにした感じ。
アートワークは17世紀の宗教的な洋書の挿絵みたいだし、「The Devil's Walk」というタイトルも含めて何かしらの神聖なコンセプトも感じさせるので、今後各媒体でのインタビューやらレビューやらで読み解いていきたいと思います。
Pepper Rabbit / Beauregard
★★★★★
8月にセカンド「Red Velvet Snowball」を出したばかりのLA出身のサイケ・オーケストラル・ポップ・デュオによるデビューアルバム。ファーストとセカンドを同時に買いどちらも素晴らしかったものの、このファーストの方がわずかによかった。Local NativesやMGMTにも通じるサイケ感と、The Flaming LipsやMercury Revのようなドリーミーで優雅な管弦楽器の音、そしてキラキラしつつも時折切ないメロディが一体となって、これがデビュー作とは思えないほど完成度が高い作品。ウクレレが先導する曲や、柔らかいオルガンやメロトロンの音が入っている曲もあって、寝る前のひとときにちょうどいい一枚。
Pepper Rabbit / Red Velvet Snowball
★★★★★
そしてこちらが最新作。1曲目のイントロからして若干エレクトリックな要素も増え、ファーストからの成長も大いに窺えるのだけど、メロディの面でわずかに軍配を譲りました。とは言ってもこの作品も非常にメロディアスで、ピアノや電子音たちのキラキラしたフレーズが心を落ち着かせてくれたり、ウキウキと高揚させてくれたり。
キモかわいいジャケットが若干気になりますが。
Girls / Father, Son, Holy Ghost
★★★★☆
昨年のEP「Broken Dreams Club」を挟んでの注目のセカンド。そのEPと同様に今回もスタジオ録音をしているだけあって、ファーストとは異なるクリアな音質で、グリッターなロックンロールを鳴らしています。EPの時にその片鱗を見せた、トロピカル感とグラムロック感がさらに強化されて、仰々しくて泥臭いギターソロが飛び出したりするのも何だかうれしい。ファーストの時のような甘酸っぱくてキラキラとしたロウファイ・サーフ・ポップな感じはここにはなくて、キラキラというよりむしろギラギラしてさえいる。
「Vomit」は歌を取り除いたらまるでMogwaiのようだし、ボートラとして収録されている最終曲「Martina Martinez」はこのバンドの懐の深さというか音楽性の広さを如実に表していると言えるでしょう。特に前半はいろんな音楽の歴史の縮図みたいに曲ごとにくるくると音楽性が変わり、飽きさせない展開。1曲目からラストに至るまで、そのめまぐるしい展開はまるで映画を観ているような気分にさせます。しかも、後半はなんだか傷心モード全開な曲調(歌詞は読んでませんが。ジャケットに歌詞が書かれていますが、細かすぎて読む気がしません)。
ファーストと比べてどちらがいいかという点については、まだ判断に迷うところ。どちらも異なる魅力があります。
Bombay Bicycle Club / Different Kind of Fix
★★★★☆
Cajun Dance Partyの仲良しバンドということで2009年にデビューしたイギリスのバンドの3枚目。本国では初登場6位をマーク。実は1枚目と2枚目は聴いたことがないのですが、先行シングルの軽快なピアノがリズミックに跳ねる「Shuffle」にヤラレました。しかしアルバム全体としてはこの曲に匹敵する軽快さはなく、どのブームにもあてはまらないような普遍的な曲が詰まっています。The SmithsとかAztec Cameraのような、80年代~90年代初期のイギリスのネオアコ/ギターポップっぽい「湿っぽさ」を持っていて、いかにも英国っぽいと言えそう。
The Rapture / In The Grace of Your Love
★★★☆☆
古巣DFA復帰作となる5年ぶりの新作。すでに賛否両論巻き起こっています。変化ぶりに驚いて「最初に聴いた印象」では星3つとなってしまいましたが、これは聴くほどに評価が上がるアルバム。これまでの彼らからは想像できなかったほどにメロディアスで、空間を活かしたスカスカな音も「イマ」のDFAらしさが感じられます。特に1曲目「Sail Away」における高揚感あるメロディとニューウェーヴなシンセはこれまでの彼らには決してなかったし、今まで以上に伸びやかでセクシーなルーク・ジェナーの声からも、かつて脱退劇や、すわ解散という辛酸を舐めたバンドとの決別の意思表明のように聞こえます。
過去のスタイルを繰り返すことなく、ただただ前進する姿勢も見え、「2011年型のDFAサウンド」を定義する、何ともクレイジーでセクシーでクールなダンスアルバム。
Red Hot Chili Peppers / I'm With You
★★★☆☆
ここ十数年、サウンドの要だったジョン・フルシアンテを失ってどうなるかと思われたレッチリですが、僕はこの変化を大歓迎します。ラプチャーと同様にこちらも、「最初に聴いた印象」ではその変化ぶりに星3つに留まったものの、これは個人的には「Californication」に続く2番目のフェイバリット・アルバムになりそう。
普通30年もやってるバンドだと、スタイルが固定化されてつまらなくなってくものだし、実際にここ10年のレッチリはそうだった。でも新加入のジョシュ(WarpaintのドラマーやPJ Harveyのツアーギタリストとしても有名)が、非常にいい効果をもたらしてくれたと思うし、おそらく他のメンバーも「もうジョンはいない。これまでのレッチリサウンドに縛られず、自由にやろう」という気概を持って制作したのであろう各曲から伝わってくる、新しいレッチリスタイルの数々に、ほんとにうれし涙が出ます。
そんな中でも最も曲をリードしているのはフリーのうねるベースで、近作よりもファンキーさを増していますが、どれもいわゆるファンクナンバーにはなっておらず、純粋にかっこいいロックを目指しているところが大いに評価できます。
Dum Dum Girls / Only In Dreams
★★★☆☆
一本調子な感じも否めなかった昨年のファースト「I Will Be」から大いなる進化を遂げたセカンド。何と言っても音がグリッターになり、ヴォーカルが飛躍的に上手くなってます。Best Coastが西海岸を離れてNYに移り住んだような(ただし彼女らもカリフォルニア出身なのですが)雰囲気。「Coming Down」のようにミディアムな曲などバリエーションは増えてメロディも洗練され、特にこの曲における高音で伸ばす部分の歌声がとってもエモーショナル。
しかしほとんどの曲のドラムが「ドンタタドドタ」で若干ワンパターンなのと、4~6曲目に至る同じテンポ・似た曲調が続くのにはちょっと苦笑。
The Kooks / Junk of The Heart
★★★☆☆
3枚目のアルバム。過去2作は試聴でしか聴いたことがないのだけど、少しイメージが変わったかなという印象。アコースティックな曲やニューウェーヴ風な曲が大部分を占め、パンキッシュに疾走する曲はほとんど見当たらない。シンセのほんのり感やピアノの使い方はSmith Westernsの「Dye It Blonde」やThe Viewの「Bread And Circuses」にも通じるものがあるものの、それらと比べてしまうとやや印象が薄い気も。アルバムとしてはもう少し、前作収録の「Always Where I Need To Be」みたいな疾走感のある曲が欲しかったところ。
The Drums / Portomento
★★☆☆☆
サーフロックブームを牽引したバンドのセカンド。どの曲もとてつもなくキャッチーだしメロディがすごくいいんだけど、いかんせんどの曲も似てる…。テンポだったりリズムパターンが同じ曲が続くので、あまりノリ切れなかった。曲単位では全部いいので、曲順が違っていたら違う印象だったのかも。EPやファーストでは、例えば「Down By The Water」みたいなスローな曲がいいアクセントになっていて、作品全体の流れを作っていたしバラエティ感としてもいい効果も出していたけど、今回はそういう曲が1曲2曲でもあれば違ったのかも。
でも「I Don't Know How To Love」を筆頭に口ずさみやすくてライブでも盛り上がりそうな曲は多いし、「Searching For Heaven」のようなエレクトリックな異色ナンバー(この曲はまるでクラフトワークのようだ)もあり、聴きこむにつれて今後どう印象が変わるか楽しみでもあります。
Architecture In Helsinki / Moment Bends
★★☆☆☆
あまりよく知らずに借りたんだけど、ちょっと想像とは違ってました(笑)。RoyksoppやThe Whitest Boy Aliveのような、哀愁漂うシネマティックなダンスミュージックかと思っていたら、わりとベタな80'sオマージュなエレポップ。男性ヴォーカルメインですが、女性がヴォーカルの曲も数曲あって、こっちの方が好き。ダサさスレスレの80'sサウンドを敢えてダサいものとして忠実に再現していて、クラフトワークやニューオーダーというよりもWham!やCulture Clubみたいに聞こえる曲も。やりすぎてホントにダサい音もあるのが難点。
Lenny Kravitz / Black & White America
★★☆☆☆
60年代、70年代のソウルへの憧憬が漂うアルバム。全体的にメロウで、かつてのロックンロールな感じよりもLove & Peaceな感じの曲調が目立ちます。そう言えばこの人モータウンとか大好きだもんね。2曲目「Come On Get It」ではJBばりのシャウトもしているし、Jay-Zが参加した曲もあってなかなか多彩。
しかし残念なのはプロダクション。せっかくこういうソウルフルな曲調をやるのであれば、例えばデンジャー・マウス(ナールズ・バークレイ、べック)やマーク・ロンソン(エイミー・ワインハウス)などの、ヴィンテージ感をうまく表現するプロデューサーを使ったらすごくいい雰囲気のあるアルバムになったのに、と思います。
Puro Instinct / Headbangers In Ecstacy
★★☆☆☆
美人姉妹2人組によるサイケ・ソフトロック。サマソニにも来てました(観ていませんが)。フワフワとした酩酊サウンドをシュガーコーティング、それも綿菓子でコーティングしたかのような激甘サイケデリアな音世界に、一聴した後もなんだか夢でも見ていたかのような気分にさせられました。それだけにあまり印象が残らなかったのも事実で、アルバム全体の世界観が徹底的に統一されているせいで各曲のディテールが目立たず、どれも似たような印象も受けたのが残念。
しかしジャケットやタイトルなどから近親相姦レズビアンな背徳的イメージも連想させられたり、キュートなポップ感とサイケでビザールな雰囲気のミスマッチな違和感もこのアルバムの魅力の一つとなっています。ところどころに挿入される小曲「KDOD」シリーズはちょっと意味不明ですが(笑)。
神聖かまってちゃん / 8月32日へ
★★☆☆☆
夏休みの宿題的に、まず最初にリリース日が決められたアルバム。結論からすると、これまでの作品の中では一番好きではない。もちろんライブで聴いた曲や彼らのオフィシャルサイトで聴いたの子のデモバージョンで知ってる曲はそれなりにいいんだけれども、個人的に好きな「友達を殺してまで」の収録曲を再録する意味はなかったと思う。本人はあの作品はプロダクションが気に食わなかったので録り直した、というけど、再録バージョンは「友達を~」の劣化コピー版という感じ。ギターの音は何重も重ねすぎだし、各音も頑張って作り込みましたって感じがする。その割に、音のバランスやイコライジングがヘタクソで結果、普通の邦楽ロックバンドと同じ匂いがしてしまっています。もっと粗削りでレベル振り切れてるくらいなのが彼らの神髄だと思うのだけど。特にひどいのは「バグったのーみそ」で、これはデモバージョンと比べるとカッコよさはデモバージョンの1%にも満たないと思います。
Sloan / Select Singles 1992-2011
★☆☆☆☆
こちらのサイトでフリー(募金も可)配信されているシングル集。実は今までしっかり聴いたことがなくて、グッドメロディな普遍的ギターポップを書くことで定評のある彼らだけに、そのシングル集であればとてつもない良作であること間違いないんだろうと思って聴いたけど、なぜか自分には響かなかった。期待が高すぎたのかも?オーセンティックな音すぎて、もっと多彩な音が鳴っていてストレンジな感じがしないと、今の自分のモードには物足りないのかも。再び聴き返した時に、良さがわかることを期待したい。
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