メルクマール

奉太郎は青春真っ只中の高校1年生なのに、『省エネ』をポリシーとしていて、周囲の青春な雰囲気からは距離を置いています。　青春な連中をバカにしているさけではなく、自分には合わないと諦めているだけなので、できれば青春したいという気持ちは心の奥にあるのでしょう。

この作品は、そんな奉太郎がえると出会ったことで、変わっていく物語なのでしょう。　今回はその発端でした。　えると出会って、彼女の存在が空疎だった彼の心に沁み込んでいく様子が、印象的な演出と共に描かれていました。

でも、これをキッカケに青春するぜ！とはならないのですよね。　『省エネ』は奉太郎のポリシーなので、そう簡単には変えられない。　でも、変われるかもしれないキッカケは失いたくない。　「女郎蜘蛛の会」のトリックは、そんな彼の妥協の産物であり、里志の言葉で言えば「保留」の手段として編み出したものでした。

つまり、えるは「音楽室の幽霊」の話を必ず持ち出すはずで、となると一緒に音楽室に行って謎解きをするか、「知らんがな」と言って拒否するかの二拓になります。　わざわざ音楽室まで行くとなると、えるに付き合って部活をする、つまり青春することになってしまい、ポリシーに反することになるでしょう。　かといって、「知らんがな」と拒否するのは、何かが変わるキッカケを失うことになります。

なので奉太郎は第三の選択肢を作りました。　自分で「女郎蜘蛛の会」の話を創作し、里志と口裏を合わせ、ネタを仕込んだのですね。　そして、えるが音楽室の話を持ち出す前にその話をぶつけて、自分のペースに引き込むことに成功します。

でもこのために、奉太郎はずいぶんエネルギーを費やして準備しているわけで、省エネとは言いがたい気も。　歩く距離が少なくて済んだだけですが、それが言い訳になったからいいのでしょう。　「自分はまだえるの青春に巻き込まれていない」という、自分に対しての言い訳です。　このあたりの心の機微が、とてもいいなと思ったのでした。

最初の数分間は、イマイチかなと思っていたのですよね。　特に奉太郎と里志の喋り方がウザくて。　でも考えてみれば、自分も高校生の頃はあんな喋り方だった気がして、過去の痛々しい自分を思い出すから、嫌悪感を持ってしまうのかもしれません。　そう考えると、これはこれでいい気がします。

けいおんもそうでしたが、京アニ作品の鬼のような描き込みは、とても有効なのですよね。　高校時代と言えば、人生で一番多感な時期ですが、このリアルかつ象徴的な描き込みによって、その時代を追体験した気持ちになれるからです。　けいおんは、苦労の無い楽しいだけの高校生活を追体験させるものでしたが、この作品は、痛々しかった高校時代を追体験させてくれるものになるのでしょう。　でも痛々しいからこそ、ヒロインとのちょっとしたことが輝かしいわけで、そんな初々しさも思いださせてくれる作品になりそうです。

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