レベルアッパーを作ってばら撒いた、木山の目的は何なのか。とある科学の超電磁砲 第10話 『サイレント・マジョリティ』 の感想です。
脳を互いに接続して思考力を向上させるというネタは、SFではしばしば見られます。たいてい、コンピュータネットワークとも接続してて、さらに強化を図るのですが。アレステア・レナルズの未来史に出てくる『連接脳派』などがそうですね。
この作品では、脳を接続して『超能力』を強化すると。コンピュータやナノマシンなどの助けは借りず、人体にそもそもある『AIM拡散力場』がネットワークの物理層なのか。
ネットワークに接続された多数のパソコンなどを使って、大規模な計算をやらせる仕組みを『グリッドコンピューティング』と言います。1台はたいしたことがなくても、何万台も集まることによってスーパーコンピュータ並みの能力になるわけです。でも、”レベルアッパー”のネットワークは、どちらかといえば”Winny”のような『ファイル共有ネットワーク』に近いな。
Winnyでは、各コンピュータが網の目のように相互につながって、ネットワークを形成します。直接接続しているのは数台~十数台ですが、バケツリレーによって、間接的にネットワークのすべてのコンピュータと接続していることになります。それによって、各自の持っているファイルは少しだけれど、ネットワーク全体の膨大なファイルが、自分のものになるわけです。Winnyネットワークの力で、個々のPCの能力(記憶容量)が増大したと言えます。
Winnyネットワークはギブ&テイクで成り立っていて、みんながファイルをダウンロードするだけでは機能せず、ファイルをアップロードする人も必要です。なのでWinnyでは、たくさんのアップロード帯域を提供した人(中継でも可)が、たくさんダウンロードする権利を得られるようになっています。
しかし、ここに”神”の存在があります。Winnyを開発した金子氏ですね。彼は”ギブ&テイク”の掟に縛られる必要はありません。実際、彼が逮捕されたときに、”ダウンロードし放題”の自分用のソフトを使っていたことが明らかにされています。彼は神様なので、Winnyネットワークのパワーを無制限に自分のものにすることができたのですね。
長々とWinnyの仕組みを説明したのは、木山も、『レベルアッパーネットワーク』の神になろうとしているのでは、と言いたかったからです。レベルアッパーもWinnyと同様にギブ&テイクであって、能力レベルが上がる代わりに、自分の脳を他人にも使われます。”昏睡”はその”ギブ”の結果でしょう。
個々の使用者にとっては、いまいちワリの合わない話だと思えますが、”神”である木山には関係ありません。彼女は自分用の”特製レベルアッパー”を使っていて、それはレベルアッパーネットワークのパワーだけを受け取れるものなのでしょう。それによって最強の”能力者”になることが、木山の目的だと思えます。
佐天がレベルアッパーを使ってしまいましたが、それに対して仲間たちは非難する空気は無く、むしろ自分達を責めていました。「使ってしまうほど追い込まれていたことに、なぜ気づいてあげられなかったんだろう」と。レベルによって”差別”される学園都市のシステムに、疑問を感じている部分もあるのでしょう。
前回、サブタイトルの”マジョリティ・リポート”の意味について考察しましたが、今回のサブタイトルはそれと対になっていてシャレています。『サイレント・マジョリティ』は、昏睡状態になった人々を指していますが、本来は「もの言わぬ多数派」という意味で、政治家がよく使う言葉ですね。反対者の声は大きくて目立つけれど、賛成者は静かなだけで沢山いるはずだという。 これは、学園都市のシステムに対する疑問が、静かに広がりつつあることも表しているのかもしれません。レベルアッパーは、それが表面化するキッカケになるのでしょうか。
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サブタイトルが、意味深で気になるところです。とある科学の超電磁砲 第9話 『マジョリティ・リポート』 の感想。
直訳すると「多数派意見」ですが、映画の『マイノリティ・リポート』をもじっていると思えます。スピルバーグ監督によるSF映画で、犯罪予知システムにより、「犯罪が発生する前に逮捕できる」という未来世界が舞台。 主人公はその犯罪予防局の局員で、自分の仕事に誇りを持っていたのだけれど、あるとき、自分が犯罪者になると予知されたことを知り、仲間から逃げ回ることになる、というストーリーです。
この手の、「一見すると秩序正しい理想的な社会だが、徹底的な管理・統制により自由が奪われた社会」を舞台にしたSFは、『ディストピアもの』と呼ばれます。 この物語の舞台である学園都市も、ある種、ディストピアだよなと思っていて、『禁書目録』の感想で何度か書きました。「ツリーダイアグラム」なる巨大コンピュータで管理されていて、風紀委員(ジャッジメント)や警備用ロボットによって治安が守られています。
「マイノリティ・リポート」は「少数派意見」の意味で、少数派が黙殺される、管理社会への批判も表していると思えます。 で、今回のサブタイトルである「マジョリティ・リポート(多数派意見)」ですが、これは「低レベル者の意見」、のことじゃないかなと。
能力者がピラミッド構成だとすると、高レベル者は少なくて(レベル5は7人でしたっけ?)、低レベル者ほど多いことになります。学園都市で軽んじられている多数派(低レベル者)の逆襲、という意味があるのでしょう。
さらに、映画の「マイノリティ・リポート」をもじることで、ここがディストピアであることを示唆しています。ということは、『レベルアッパー』事件も、実は管理された実験であることを暗示しているのかも。学園都市の管理者は、ミサカ妹の件を見ても相当にえげつないですし。脱ぎ女さんも胡散臭い。
『ディストピアもの』では、主人公が最初は管理者側なのだけれど、何かをキッカケに管理者と対立する立場になる、というプロットが定番です。黒子や初春は管理者側なわけですが…
佐天がレベルアッパーに手を出すのか、どうなのか、というサスペンスにもなっていますね。ここが主題では無いと思うのですが、「レベルアッパーに手を出してしまう一般人の視点」を与えています。今回、他のメンバーは制服なのに、彼女だけ私服で、”管理者側”と”はみ出し者” を象徴しているように見えました。
感想はここまでですが、「アニメとブログを考える掲示板」さんの「レールガン感想対決」企画にエントリーしています。気が向かれたら投票に参加して頂けると嬉しいです。
いくつかのキーワードが出てきましたが、今後ストーリーに関わってくるのでしょうか。とある科学の超電磁砲 第8話 『幻想御手(レベルアッパー)』 の感想です。
まず『パーソナル・リアリティ』ですね。超能力の仕組みを説明するキーワードのようです。”ハイゼンベルグの不確定性原理”については、”禁書目録”でも小萌先生が言及していました。
すべての物質やエネルギーは”量子”から成り立っていますが、量子の世界では常識とは違うことがいろいろ起こります。”シュレディンガーの猫”が、それを説明するのによく使われるたとえ話ですね。
量子力学では、「誰かが観測するまでは、量子の状態は決定しない」という考え方(コペンハーゲン解釈)があります。であれば、箱の中に猫を入れて、「量子が崩壊したら猫が死ぬ仕組み」と一緒に閉じ込めたとしたら、どうなるでしょうか。量子力学的には、観測されるまでは量子は”崩壊した”とも、”崩壊していない”とも言えない、2重の状態だとされます。ということは、箱の中の猫も”死んでいる”と”生きている”の2重の状態にあり、誰かが箱を開けて見た瞬間に、生か死かが確定する、という奇妙なことになります。
しかし、”観測する”というのは人間の主観であり、主観で物理現象が左右されるというのは常識的には変な話です。でも量子の世界でそれがアリだとすれば、箱を開けて中を見たときに、本来なら猫は生きていたとしても、「猫は死んでいる(量子は崩壊する)」と強くイメージして、それが自分の観測だと思い込めば、それが物理現象に影響を与えて、猫は死ぬかもしれません。これがつまり「パーソナル・リアリティ」でしょう。
「手のひらから電撃が出る」と強烈にイメージして、それが自分の観測だと思い込めば、量子の状態がそこで決定して、電撃が実際に出る、というわけです。
さらに「共感覚性」という言葉も出てきました。ある感覚が別の感覚を呼び起こす、という現象で、カキ氷のシロップの話が出ていましたが、これは良いたとえですね。色によって”イチゴ味”と感じている部分もあるのですが、さらに匂いも味に影響を与えています。実際のところ、シロップは果物の匂いがついているだけで、味はどれもほとんど同じなのでした。でも、ちゃんとイチゴやメロンの味がするわけです。
これは突き詰めて考えると、「そもそも感覚ってなんなんだっけ」という問題に行きつきます。五感からの入力によって感覚は生まれるわけですが、明らかにそれだけではなく、経験や本能などさまざまなものの影響を受けています。これは意識のハードプロブレムと言われ、まだ科学的にもよくわかっていない領域です。わかっていないだけに、”超能力に関わっている”というSFネタになるのでしょう。
レベルアッパーは音声ファイルのようですが、聴覚の刺激から、共感覚性によって超能力が高められる、というような原理なのかもしれません。面白いと思います。
佐天が気がかりですね。無能力者であることのコンプレックスが語られていて、レベルアッパーに手を出しかねない伏線が張られています。彼女は”一般人代表”ですが、”被害者代表”にはなって欲しくないな。
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階級社会である学園都市のひずみが生んだ事件、なのでしょう。とある科学の超電磁砲 第7話 『能力とちから』 の感想。
能力によって厳密にレベル分けされた社会であり、レベルの低い人は高い人にタイマンで敵わないわけで、卑屈になっても無理ありません。佐天でさえ、美琴に対してはきっちり敬語を使っていて(先輩だからというのもあるだろうけど)、遠慮している雰囲気があります。
犯人の男は、そもそもいじめられ体質なのに加えて、レベルが低いことで卑屈になり、ますますいじめられるのでしょうね。ジャッジメントをターゲットにしたのは、レベルの高い能力者に対する嫉(そね)みという面もあるはず。
美琴は、学園都市の頂点であるレベル5なので、嫉まれることは多いはずで、それを苦手にしているようです。佐天が能力の話をしたときに、微妙な顔をしたのは、それを警戒したからでしょう。
でも、佐天にはそういう気持ちはなく、美琴に憧れているだけで、それは美琴にも伝わりました。レベルアッパーがあればーとか言っていたけれど、彼女は使わないでしょうね。
でも犯人は使いました。レベルアッパーには何らかの代償があるはずだけれど、それよりも嫉みの気持ちが強かったのでしょう。上条さんであれば、そんな犯人に小一時間説教したはずですが、美琴は殴っただけでした。かつては美琴もレベル1だったので、高レベル者を嫉む気持ちも分かるはずで、だからこそ腹が立つのでしょう。
買い物のシーン。女の子同士でせっかく楽しくやっているところに、上条さんが現れたときは邪魔だなと思いましたが、美琴たちの危機を右手で救ったのはカッコ良かった。やはり男は、不言実行がいいですね。「その幻想をぶち壊す!」とか、わざわざ言わなくていいのです。
今回の事件は解決したけれど、レベルアッパーは根が深そう。犯人の男が「新しい世界が来る」とか言っていたので、やばい宗教的な感じもします。あのヘッドフォンで、オウム真理教の”ヘッドギア”を連想しました。
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美琴回でしたが、今回も黒子が印象的でした。とある科学の超電磁砲 第6話 『こういうことにはみんな積極的なんですよ』 の感想。
美琴は、見たまんまの単純素直な性格で、主人公的であるとも言えるのですが、黒子は複雑ですね。美琴に心酔しているけれど、言いたいことはズバズバ言う。荒っぽい仕事をするけれど、地味な仕事もまじめにやっている。二面性があるので、見ていておもしろいし、ストーリーを回してくれます。
美琴の目を通して、ジャッジメントの平時の仕事を描いていましたが、前回もやっていたので、よほど描きたいんでしょうね。今後のために必要なのだと思われますが、前回よりもさらに地味で、掃除や迷子の相手でした。でも『ジャッジメント』は漢字では『風紀委員』と書くそうなので、それが当然といえば当然なのでしょう。
美琴ラブの黒子としては、美琴がジャッジメントの仕事を手伝うのは喜んでいいと思えるのですが、キツイことまで言って遠ざけようとしています。美琴には合わないことがわかっているし、危険な目にあわせたくない、という気持ちがあるのでしょうね。一方で、ジャッジメントに興味をもってくれるのは嬉しいようで、事件のことなど内部情報をペラペラしゃべってしまっていますが。
初春が「学園都市の子は、基本、親元を離れて暮らしている」と言っていて、そうなのかと今さら思いました。なかなか大変な境遇だな。みんな年齢のわりにしっかりしているのは、そのせいなんでしょう。
佐天は今回もチョイ役でしたが、初春をからかうシーンは良いスパイスになっています。「で、いつ花が生えてくるの?」は笑った。そろそろ佐天がメインのエピソードを見たいですが。
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ストーリーにやや難があるものの、黒子と初春の違う面が見られてよかったなと。とある科学の超電磁砲 第5話 『とある二人の新人研修』 の感想です。
黒子と初春がペアを組むことになったキッカケ、を描くエピソードだと思うのですが、そのわりには、郵便局のシーンで初春は活躍していないので、ペアを組む理由としては弱いなと思ってしまいます。
喧嘩のキッカケは、表向きは、黒子が無茶をして、失敗したにもかかわらず初春に文句を言ったからですが、黒子が「支部で私のバックアップをしていればいい」と言ったのは、初春が倒されたことに肝を冷やし、初春を案じての言葉だと思えます。
初春のほうも、めずらしくキレていましたが、それは自分のことを言われたからというよりも、反省せずに無茶をする黒子を案じてのことでしょう。つまり、お互いのために怒っていると思うのですが、そのあたりの心理が伝わりにくいシーンだったかもしれません。
普段は初春のことは子分扱いで、歯牙にもかけていないように見える黒子が、仲たがいして悶々とするのは可愛いところです。初春も、意外な芯の強さを見せました。
風紀委員(ジャッジメント)について説明するエピソードでもありました。中学生に逮捕権限を持たせて、危険な犯罪者に当たらせるというのは不思議だったのですが、本来、ジャッジメントはそういう任務ではないのでしょうね。固法先輩がやっていたように、街をパトロールして、危険なことを見つけたら警備員(アンチスキル)に連絡する、というのが普通のやりかたなのでしょう。黒子は、いざとなればテレポートで逃げられるので、多少危険なことを独断でやっても許されているのかもしれません。
「己の信念に従い、正しいと感じた行動を取るべし」というのがジャッジメントの心得だそうですが、これが行動規則だとしたら、変わっていると言えます。警察は普通、捜査や武器使用について厳格な規範に縛られていて、なんでもやっていいわけではありません。特権があるので、それを縛ることも必要なわけですね。
でもジャッジメントの心得は、「自分が正しいと思うならばやってよい」と言っているように見えます。おそらく、超能力者や魔術師がウヨウヨしている都市なので、「こういうケースではこうしろ」という細かい規範を作るのが不可能なのでしょう。自分と相手の能力の組み合わせだけでも膨大ですから。なので、臨機応変に「正しいことをやれ」という大雑把な規則になっていると思えます。
初春の頭の花は、この頃は少なかったんですね。あれは、もしかしたら撃墜マークのようなものだったりして。事件を解決したら1個増える、とか。
今回は、黒子と初春の絡みが多く見られてよかったのですが、次は美琴と佐天の組み合わせも見てみたいですね。あの二人がどういう会話をするのか興味があります。
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